鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

マーケティングはすべての部署で行う

[要旨]

中小企業診断士の佐藤義典さんによれば、顧客が自社製品を購入する決断をするのは、顧客が得られる価値が、顧客が払う対価より大きいと感じるときなので、会社はベネフィットを大きくしなければなりませんが、顧客が支払う対価には、製品やサービスの金額はもちろん、製品についての情報収集の手間や時間、お店に行く時間や交通費、使い方を覚える時間など、価値を得るための金額、時間、手間などのすベてが含まれるので、マーケティング活動を行うのは、マーケティング担当部署だけではないということを認識しなければならないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の佐藤義典さんのご著書、「ドリルを売るには穴を売れ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、佐藤さんによれば、「ドリルを購入した顧客はドリルが欲しいのではなく、壁の穴、すなわち、ベネフィットを購入しているのであり、このベネフィットが価値である、そして、マーケティングとは、この価値のやりとりを指すということを説明しました。

これに続いて、佐藤さんは、マーケティングは、マーケティングの担当部署だけで行う活動ではないということについて述べておられます。「顧客が『買う』という決断をするのは、顧客が得られる価値が、顧客が払う対価より大きいと感じるときである。顧客が得る価値が、『ベネフィット』であり、それは欲求に基づいているのだ。

そして顧客が支払う対価には、製品やサービスの金額はもちろん、製品についての情報収集の手間や時間、お店に行く時間や交通費、使い方を覚える時間など、『価値を得る』ための金額、時間、手間などのすベてが含まれる。下の図の不等号を維持する方法はふたつしかない。左辺を大きくする、すなわち顧客が得る価値をさらに高めるか、右辺を小さくする、つまり顧客が払う対価を下げるかである。通常は左辺を上げる、すなわち提供する価値を高めることを考える。

また、右辺の顧客が払う対価には、金額だけでなく買う手間や時間、エネルギーなどが含まれるので、もっと買いやすくする、買うという決断をするために必要な情報をわかりやすく提供する、などにより右辺を小さくすることも行うベきだ。右辺の『金額』を下げる、すなわち値下げする必要がある場合ももちろんあるが、売上げを確保するだけのために行うことはすすめられない。値下げしてかつ利益を確保するためには、費用のどこか、たとえば人件費などを削らなければならず、会社全体にとってあまり幸せな方向に向かわないととが多いからだ。

ごく単純に考えると、マーケティングとは以下の通りになる。『顧客にとっての価値』を高める。顧客が買うための手間、時間、工ネルギーを減らす。値下げをするための努力をする。したがって、企業の『マーケティング部』だけが、ここでいうマーケティングを担っているわけでは全くない。営業・販売部などの直接に『売る』ととを担当している部署はもちろん、宣伝部、営業部、販売企画部、製造部など『売る』ことに関するすベての社員がマーケティングを担っているのだ。また、経理部門だから関係ないということもない。

たとえば、わたしが以前仕事を発注していた会社が請求書を予定通りに送ってこなかったため、こちらで請求書が来ているかどうかを確認し、来ていなければ督促の電話をかけるなどの手間がかかって大変だったことがある。経理部が期日通りにキチンと請求書を送ることも、顧客の手間を削減する、すなわち顧客にマイナスの価値を与えないという意味で重要なマーケティングなのだ。マーケティングとは、顧客にとっての価値に関連するすベてのことであり、作る人、売る人すベてを含んだ全社員の仕事なのだ」(45ページ)

佐藤さんは、直接は言及していませんが、ベネフィットを提供するという考え方は、「マーケティング志向のマーケティングコンセプト」と考えられます。ちなみに、高度経済成長期のように、「生産すれば売れる」という考え方を、「生産志向のマーケティングコンセプト」といいます。つぎに、「よい製品をつくれば売れる」という考え方を、「製品志向のマーケティングコンセプト」といいます。そして、「上手な方法で販売をすれば売れる」という考え方を、「販売志向のマーケティングコンセプト」といいます。

もちろん、経営環境が成熟した21世紀のいまは、マーケティング志向のマーケティングコンセプトに基づく事業活動を行わなければ、競争に勝つことはできないということは、ほとんどの方がご理解されるでしょう。そして、佐藤さんもご指摘しておられるように、経理部の方もベネフィットを提供することができるわけですから、間接部門の方もマーケティング活動に積極的に関わらなければ、競争力を高めることができません。

ただ、日本の多くの会社では、「マーケティングを担うのは、マーケティング部だけではない」という考え方を浸透させていたり、そのような体制をとっていたりする会社は、割合としては低いと思います。だからといって、直ちに、会社総力でマーケティングに取り組むということも難しいですが、まず、このような考え方を会社内に浸透させていくことが、会社の競争力を高めて行くために重要だと、私は考えています。

2025/7/31 No.3151