鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

過去の栄光が変化の障害になる

[要旨]

経営者の方は、過去に成功した事例を持っていると、それを維持しようとしてしまうために、経営環境の変化に応じて変化することに躊躇してしまいがちです。しかし、それにとらわれ過ぎていると、顧客を失い、事業活動を継続できなくなるので、経営環境に応じて上手に変化することは避けることはできません。


[本文]

今回も、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、売上計画を前年並みとしたりするなど、現状維持をしようとすることは、経営者の方が変化を嫌うことの現れであり、その方針で事業活動に臨んでいると、事業は安定的に発展しないので、避けなければならないということを説明しました。これに続いて、渡辺先生は、変化できない会社の要因として、過去の栄光が重荷になっていることがあるということをご指摘しておられます。

「過去の栄光には、3つのタイプがあります。1つ目は、新しいこと自体が、過去に自分が成功してきたことへの否定であることです。例えば、ラーメン屋の券売機があります。出始めのころ、その導入には、かなりの抵抗もありました。ラーメン屋では、オーダーを受けるとき、配膳の時、お客様からお金をいただくときに、お客様と接点を持ちます。その接点でちょっとした会話をしたり、心意気を伝えたりすることで、心遣い、常連客を作ってきたという店主さんもいらっしゃいます。そうした人に券売機をお勧めしても、納得できるはずがありません。(中略)

2つ目は、業界の文化が新しいことを拒絶してしまうパターンです。例えば、寿司業界には、日本の文化を伝えるという重要な役割があります。箸を使う場合は箸置きを使用し、醤油は専用のお皿を利用し、ネタの端に少しだけ醤油をつけ、新鮮なネタを味わいます。(中略)しかし、最近の回転寿司では、受付はロボットやスマホのアプリで行い、席に案内も番号札の自動化、席に着けば、箸置きもなければ、醤油は直接かけ、お吸い物はレーンから運ばれ、お茶もセルフ、自動化により機械で注文し、お会計も無人レジでキャッシュレス決済という、かつての寿司の業界では考えれないことが当たり前になりました。(中略)

3つ目には、自社の存在感を分かってもらえないことへの怒りの感情です。例えば、学習塾の経営者には、勉強だけでなく、子供への人間教育を担ってきたという自負をお持ちの人もいらっしゃいます。(中略)しかし、最近の学習塾は、合格率やテストの点数など、親御さんの求めているものが『結果そのもの』になりつつあります。(中略)時代に合わせ、結果志向にならなくてはいけないのはわかっているけれど、変わりたくないという感情が芽生えることは正直なことなのかもしれません」(37ページ)

私は、人間は、心の深いところで変わりたくないと考えるものなので、ある程度の強い意識を持たないと、変化することが難しいと思っています。ただ、それだけでなく、渡辺先生のご指摘するように、過去のやり方にそれなりの根拠があると、さらに、変化に応じることができなくなると思います。それが、文化や慣習となると、なかなか動くことができないことも理解できます。

ところで、50年以上続く、アニメ番組のサザエさんには、三河屋という酒屋さんの住み込みの従業員の三郎さんというキャラクターが登場していますが、ときどき、磯野家を訪れて、勝手口を開けて、サザエさんに御用聞きをします。この三河屋さんのように、かつての酒屋さんといえば、近所に御用聞きをしながら、お酒を配達するというスタイルが主流だったようです。これはこれでよいスタイルだと思うのですが、いまは、核家族化が進み、共働き世帯が増えているので、御用聞きスタイルの酒屋さんを利用したいと望む顧客は極めて少なくなっているでしょう。

この酒屋さんの例は極端な例ですが、事業活動は、顧客(自社の直接の顧客だけでなく、顧客の顧客である最終顧客を含む)のライフスタイルの変化に合わせて、変えざるを得ないのだと思います。私も古い人間なので、渡辺先生の示しておられる事例にもあるように、回転寿司店の利用者が増えることで、日本の食文化が変わってしまうのではないかという残念さも残っているのですが、それはそれとして、事業活動は、常に変化しなければならないと考えなければならないようです。

2023/3/30 No.2297

 

現状維持は衰退の始まり

[要旨]

最近は、経営環境が厳しいことから、売上を増加させることは難しくなりつつありますが、前年並みを目指してしまうと、現状維持志向が高まってしまいます。そして、それは「現状維持は衰退の始まり」でもあるので、マンネリではなく、新しいことを展開し、新しい価値を作り続けることが重要です。さらに、これを遂行するために、経営者は、変化への恐怖を取り払わなければなりません。


[本文]

今回も、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、仕事が忙しいときに、さらに顧客から発注があり、無理してそれを受けてしまうと、新しい仕事への「種まき」ができなくなるなど、自立的な経営の妨げになるので、無理な受注は避けることが望ましいということを説明しました。

これに続いて、渡辺先生は、売上目標を前年並みとすることも避けなければならないとご説明しておられます。「私が19歳で事業を承継したとき、税理士事務所から必ず言われたのは、『前年に対して○○%です』ということでした。そのときは、前年よりも落ちているんだな、ということくらいしか感じていませんでした。税理士事務所の担当の方からも、『景気も悪くなってきているので、仕方ありませんよ』と言われているように感じました。(中略)

しかし、前年は前年です。比較することで、安心感は得られるかもしれませんが、将来のありたい姿に対し、どんな進捗がなされているかが見えません。将来の目標と、現在地を比較するようにしていくべきです。さらに問題なのが、前年並みを目指してしまうと、現状維持志向が高まってしまうことです。私は、『現状維持は衰退の始まり』と言っています。マンネリではなく、新しいことを展開し、新しい価値を作り続けることが、成長の第一歩になります。過去を見るのは、変化への恐怖心かもしれません」(35ページ)

渡辺先生のご指摘しておられる、「現状維持は衰退の始まり」という言葉は、私もその通りと感じるし、多くの方も同じように感じていると思います。さらに、渡辺先生は、「過去を見るのは、変化への恐怖心」と述べておられますが、私も、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から、同様のことを感じています。ほとんどの経営者の方は、現状維持ではよくない、常に改善し、進歩しようとすることが大切だということは、頭では理解しておられるようです。しかし、私が、コンサルタントとして、改善策を提案しても、直接的に反対はしなくても、改善策の実践にはあまり乗り気にならない経営者の方は、決して少なくありません。

その改善策については、奇抜なものであれば、乗り気がしないと思われても仕方がないのですが、例えば、毎月、前月の月次決算を基に、計画通りに事業が進行しているか、確認することから改善活動を始めましょうという、極めて基本的なことでさえ、乗り気になってもらえないこともあります。これは、経営者の方が、心の深いところで、いまの仕事のやり方を変えたくないと考えているからだと思います。(そういう私も、身体を健康的にしなければならないと考えつつ、なかなか食生活を変えることができないでいるので、偉そうなことは言えません)

ところで、セブンイレブン元社長の鈴木敏文さんは、同社のプレイベートブランド商品に関し、次のように述べておられます。「金の食パンは、際だっておいしい。ただ、おいしいものにはもう1つ裏の意味があって、それは“飽きる”ということです。おいしいものほど続けて食べれば飽きる。だから、飽きられる前に、より味をよくしたものを投入する。顧客は味が変わったことに気づかないかもしません。飽きずにおいしいと感じてもらえればそれでいいのです」このように、同じ品質の製品を提供するだけでは、顧客が離れると、鈴木さんは考えていたようです。これは、経営者の方にとっては厳しい課題だと思いますが、常に改善に取り組まなければならないという考え方を表すひとつの例だと思います。

2023/3/29 No.2296

 

忙しいときほど次の仕事の種を撒く

[要旨]

季節変動が激しい業界では、受注が多い時期を乗り越えると、今度は、逆に、まったく受注がなくなってしまうということが起こります。忙しいことを理由に、発注する相手に仕事を断りにくいという面もありますが、自立的な事業活動ができなくなってしまうと、自社の事業が健全に発展できなくなってしまうということにも注意が必要です。


[本文]

今回も、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、中小企業経営者の方は、売上が減ってしまうという恐怖から、採算が少ない仕事を受注してしまうことがありますが、そのような仕事は、かえって、受注しなかったときよりも会社に損失を与えてしまうので、採算が得られない仕事は断る勇気を持つことが大切ということについて説明しました。これに続いて、渡辺先生は、逆に、仕事が増えすぎるときも注意が必要ということをご著書の中で述べておられます。

「仕事がたくさんあると嬉しいのですが、増えすぎてしまうとネガティブな感情が芽生えてきます。『あ~、いくらやっても終わらない』、『納期が迫っている、間に合わせるしかないけれど、どうしよう』、『まだお仕事をいただいてしまった、ありがたいはずなのに、こなすのか不安』(中略)など、ありがたいはずの受注も、時期が集中したり、増えすぎてしまうと、疲労困憊して、ちょっと嫌な感情になってしまいます。さらに、この忙しすぎる状況が、数か月先になると、バタッと止まってしまうこともあります。(中略)種撒きを怠っていると、新しい仕事は入ってきません。忙しすぎるときの数か月後は注意が必要なのです」(32ページ)

中小企業では、自社でイニシアティブをとることができない、すなわち、生産計画を立てることができないほど、他社に依存してしまうという会社は珍しくありません。そのような会社は、実質的に、販売先の単なる一部門と同じ状態になっているといえるでしょう。そうであれば、自立的な経営もできず、しかも、もし、経営環境が変わって仕事が減ったときも、継続して別の仕事を発注してくれるという保証もありません。

そうであれば、取引先は1社~数社に集中させず、もっと広げていくことが、リスク管理の観点から欠かすことができません。当然、仕事を断ることは勇気のいることですが、自社が自立的に活動できるようにすることの方が重要です。ちなみに、黎明期のマブチモーターも、季節変動する受注に苦心していましたが、製品を標準化するという手法でこれを解決したそうです。以下は、同社のホームページに記載されている、同社の戦略です。

「創業初期の主力市場であった玩具業界においては、お客様ごとに異なる要望に合わせて受注生産を行っていました。モーターが個別仕様のため、多品種少量生産となり、コスト高に陥る結果となっていました。また、その当時の玩具用モーターの大半は、欧米のクリスマス商戦向けの製品に組込まれるため、生産量の季節変動が激しく、年間を通して安定した雇用や品質の確保が困難でした。これらの問題が、モーター生産数量が急増するにつれ顕在化してきたため、根本原因である個別対応から脱却し、同時に季節変動を緩和する必要性があったのです。

上記の問題に対して当社は、お客様のニーズを集約し、最大公約数的な標準モーターを作ることにしました。機種を絞り込むことで大量生産や生産の平準化が可能となり、雇用と品質が安定し、個別対応時に比べコストが大幅に低減され、モーター価格を劇的に下げることが可能となったのです。モーターコストの低減は市場での価格競争力を持続・拡大させ、さらにモーターの性能を絶えず進化させることで用途の拡大にも効果を発揮しました。

こうして標準製品を購入するお客様が増加すれば、規模の経済効果により、さらにコストを削減できるという好循環が生まれ、持続的な競争優位の維持に成功したのです」同社の事例は、受注する側がイニシアティブを発揮して、発注者との間でWin-Winの解決を見た好事例だと思います。もちろん、こういう解決策は、一朝一夕に生み出せるわけではありませんが、少なくとも発注者のいいように使われるままでは、自社の発展はあまり期待できなくなってしまうということに注意が必要です。

2023/3/28 No.2295

 

自ら安くしてしまう暇なし貧乏マインド

[要旨]

中小企業経営者の方は、売上が減ってしまうという恐怖から、採算が少ない仕事を受注してしまうことがあります。しかし、そのような仕事をしていても、忙しいだけで、利益はあまり得られないことから、いつまでもその状態から抜け出すことができなくなります。したがって、事業を発展させるためには、経営者の方が、「仕事をライバルに奪われたらどうしよう」という恐怖心を払拭し、大局的な視点から事業活動に臨むことが大切です。


[本文]

今回も、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、決算書は会社の成績表といわれていますが、経営者が事業に不安を感じていると、どこかにひずみが現れて、儲かりにくい体質になってしまい、それが決算書に出てしまうということについてご説明しました。これに続いて、渡辺先生は、ご自身の経験をもとに、経営者の方は恐怖心を持つことは避けなければならないということをご説明しておられます。

渡辺先生は、大学生のときにご尊父様を亡くされ、19歳でご尊父さまが経営しておられた印刷会社の経営を引き継いだご経験があるそうです。「父から後を継いだ印刷屋時代、本当に恐怖心の毎日でした。ライバルは多く、お客様からは見積書を求められ、安くしてほしい、早くしてほしい、細かい要求にも応じてほしいなど、精神的に疲れる毎日でした。それでも、もし、受注が他社に行ってしまったら、売上が減ります。会社は維持できなくなります。恐怖心から、はじめから安く見積書を出して、できるだけ受注が他社に行かないようにします。『お願いだから、何とかうちの会社にお願いします』そんなことを言い続けていました。

そうすると、どうなるか、お読みいただいているあなたのお察しの通りです。まず、忙しくなります。お客様と詳細に打ち合わせをして、見積書を計算して、外注に出す協力会社さんとの打ち合わせをして、書面を作って、その後お客様のもとに伺います。これだけでかなりの労力がかかります。ちなみに、見積書を出すという行為は1円のお金にもなりません。受注できなかった場合は、労力だけがかかって、売上はゼロになります。

そして、お客様と接して気がするので、今回がダメでも次がある、などと意味のわからないプラス思考で自分を納得させてしまいます。仮に受注できたとしても、自ら安くしていますので、手元に残る額は少なくなります。それでも、不思議と忙しくしていると、他のことを忘れられて、何となく仕事が動いた気がして、安心するのです。でも、結局のところ、お金が残らない形を自ら招いてしまうのです。ここに気づくことが大切です。恐怖心があると、自ら単価を安くしてしまいます。忙しいことで安心している自分もいます。こうしたマインドを変えていく必要があります」(28ページ)

この渡辺先生ご自身の失敗は、ほとんどの方が頭では理解できると思うのですが、理屈でないところで体が動いてしまい、値段を下げて受注してしまうという人が多いと思います。そういう私も、フリーランスになったばかりのころは、同様の失敗をした経験があります。不採算ということは分かっていても、仕事を受注できることがうれしかったり、受注できないで仕事がないよりも、仕事を受注して動いていると安心できることから、採算よりも受注を優先してしまいました。でも、後になって、時間と労力がかかった上に、まったく儲からない(というより、赤字になる)のだったら、受注しない方がよかったと思えるようになりました。

さらに、最近は、相手が採算を取ることができないことを分かっているのに、あえて発注する人とは、取引を続けてもあまりメリットがない、というよりも、デメリットの方が多いと感じるようになりました。そこで、現在は、不採算の仕事は、ちょっとやせ我慢をしても受注しないようにしています。ところで、私が銀行に勤務しているとき、資金繰が忙しいのに、自らは銀行に行かなかったり、私が訪問しても会ってもらえなかったりする経営者の方が、少なからずいました。

また、現在も、私がコンサルタントとして事業改善をお手伝いしている会社さまの中にも、自ら能動的に動こうとせず、銀行との折衝を私に任せきりにしようとする経営者の方が、何人かおられます。そういう経営者の方たちは、現場が忙しいという理由で、銀行に来なかったり、コンサルタントに資金調達を任せようとしたりしているようです。経営者の方が、そのような受動的な姿勢でも、ある程度は資金繰はなんとかなりますが、根本的な解決にはなりません。

むしろ、経営者の方が能動的に資金繰安定化にも関わる方が、事業活動全体のバランスが改善し、業績の向上が加速すると、私は考えています。でも、「現場が忙しい」という理由を金科玉条にして、経営者の方が、本来、動かなければならないことから逃げているように、私には思えます。経営者の方は、目の前の仕事が重要と感じる気持ちは理解できるのですが、でも、経営者だからこそ、長期的、大局的な視点を持つことが重要だと、私は考えています。そして、そのように経営者の方が考えていれば、不採算な仕事を受注するということもなくなると思います。

2023/3/27 No.2294

 

決算書は会社の成績表

[要旨]

決算書は会社の成績表といわれていますが、決算書を見ると、社長の経営方針などが伝わることがあります。そして、経営者が事業に不安を感じていると、どこかにひずみが現れて、儲かりにくい体質になってしまいます。したがって、経営者の事業方針を実践するために、どういった点を改善すればよいのか、適宜、専門家に分析してもらうことが大切です。そして、言うまでもなく、経営者自身も決算書に大きな関心を持って臨むことが欠かせません。


[本文]

今回も、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、中小企業の社長は、(1)従業員と家族の生活を背負っている、(2)営業、経理、総務、製造、仕入など、会社のすべてのことに関わらなければならない、(3)365日24時間、会社の代表という立場でいなければならないなど、「すごい存在」といえるということをご説明しました。

これに続いて、渡辺先生は、会社の決算書は社長の心の鏡といえると述べておられます。「決算書は、会社の成績表といわれています。1年に1回、数字になって、会社の業績が現れます。決算書は、過去の結果ではありますが、経営者の心情を表しているといえます。私は、年間、多い年で、300社以上の決算書を見ます。そすると、決算書を手に取った時点で、何が良いのか、悪いのか、何が問題であるのかがわかることがあります。決算書には経営者の想念が乗っているのかもしれません。

例えば、お客様との関係性が不安定で、いつか取引を切られるかもしれないという恐怖心がある場合、価格を引き下げて販売してしまい、売上総利益率が下がります。必要以上に在庫が増えます。売掛金の回収も不利な条件となり、現預金が減ります。そして、借入金が増えて、支払利息が増えます。結果として、儲かりにくい体質になります。不安を感じていると、どこかにひずみが出ることの典型例です。また、お金を失う恐怖心を持っていると、会社の経営とは関係のない資産を保有してしまったり、節税をしすぎることで、かえって短期的な資金繰りの悪化を招いているケースもあります」」(24ページ)

私が中小企業の事業改善のお手伝いをするときに、その会社の決算書を見るときは、最初に、貸借対照表の純資産の部をみて、その中の繰越利益(いわゆる、内部留保)を見ます。利益は、損益計算書で見ることもできますが、損益計算書の利益は、1会計期間だけの利益となるので、過去の決算期から当期までどれくらいの利益が累積しているのかを、繰越利益で把握することができます。ちなみに、当然ですが、赤字の事業期間が多いと、繰越利益はマイナスとなり、さらに、その額が大きいと、債務超過の会社になります。

その次は、総資産にしめる純資産の金額の割合、すなわち、自己資本比率がどれくらいあるかをみます。これによって、会社の安定性がどの程度かがわかります。さらにその次は、流動資産と流動負債の金額を比較します。一般的には、流動資産が多いと、経営は安定していると言えます。そして、流動資産の内訳をみます。流動資産が多くても、現預金が少なく、売掛金棚卸資産が多いと、その一部は資産性が低い(回収不能だったり、実際の処分価額が低い)かもしれないと考えます。そして、最後に、固定資産の部を見て、事業内容から見て多すぎないか、含み損はないかなどを見ます。

ただ、これは、私の見方であって、他の専門家の方は、別の見方をするかもしれません。とはいえ、私は、中小企業経営者の方は、コンサルタントのような専門家の目線で自社の財務諸表を見る必要はないと考えています。というのは、経営者の方は、財務目線よりも、自分の独自性を優先することが、結果的に長期的に自社の事業を発展させることになると、私は考えています。もちろん、財務諸表をまったく考慮しないでいると、赤字になってしまうかもしれないので、最低限、利益は継続して計上しなければなりません。

したがって、経営者の方は、適宜、顧問税理士や、その他の外部専門家の方に、自分の考える事業方針や、自社の財務状況について点検してもらい、必要に応じて事業方針や、改善を要する点について対応していくということが望ましいと思います。そして、渡辺先生も述べておられるように、決算書は会社の成績表です。前回、会社の社長はすごい存在であるということを説明しましたが、どれだけすごいのかが、決算書に現れるわけです。社長は、日々、会社のために尽くしているわけですから、その努力が報われるようにするためにも、日々、決算書に向き合うことも重要であると、私は考えています。

2023/3/26 No.2293

 

中小企業の社長は『すごい存在』

[要旨]

中小企業の社長は、(1)従業員と家族の生活を背負っている、(2)営業、経理、総務、製造、仕入など、会社のすべてのことに関わらなければならない、(3)365日24時間、会社の代表という立場でいなければならないなど、「すごい存在」といえます。したがって、中小企業の社長はもっと評価されるべきであり、また、中小企業の社長になろうとする場合は、それなりの準備と覚悟が必要になります。


[本文]

今回は、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。渡辺先生は、社長というポジションに就いている人は、大企業だけでなく、中小企業でもすごい存在だということを述べておられます。

「社長がすごい存在である理由の1つ目は、自分の家族、社員、社員の家族、取引先を背負っていることです。万が一、倒産をしてしまったら、みんなが生活を失ってしまうこともあります。その責任を背負っている大切な存在なのです。2つ目に、営業、経理、総務、製造、仕入先との交渉、社員のこと、銀行との折衝、トラブル処理まで会社にかかる全部のことに対応していかなくてはならない立場だということです。会社の規模が大きければ、責任者に任せるということができますが、小さな会社の社長ほど、社長が全部やらないと回らない事実があります。(中略)

3つ目に、365日24時間、会社の代表という立場でいることです。寝ても覚めても、旅行中でも、冠婚葬祭でも、どんなときでも社長は社長の立場で、緊急時には駆けつけます。気が休まることはありません。逃げたくても逃げられない、正面から受け止めていくという仕事です。どんな困難でも受け止め、責任を果たし、世の中に貢献する立場です。とても誇らしいことです。私は、中小企業の社長が輝けば、日本はよくなると思っています」(22ページ)

私は、かつて、地方銀行で働いていましたが、融資相手の会社の社長さんたちを見て、渡辺先生と同様のことを考えていました。例えば、銀行職員は、あくまで銀行の従業員なので、故意に規則を破ったり、余程の大きなミスをしなければ、失敗をしても会社に守ってもらえます。また、終業時刻を過ぎて会社を出た後や休日のときは、「●●銀行職員」という肩書が外れて自由に行動できます。(とはいえ、もし、悪いことをして新聞に載ったりしたときは、「●●銀行の職員が…」などと新聞に書かれてしまいますが、それはレアケースです)

一方、中小企業であっても経営者の方は、自分だけでなく、従業員とその家族、場合によっては、仕入先の会社と、その従業員や家族の生活まで背負っています。そして、そのプレッシャーは、仕事をしているときだけでなく、休日のときでも外すことはできません。私だったら、そのプレッシャーに耐えることはできないと思っていました。事実、先日、鬼籍に入った、イトーヨーカドー創業者の伊藤雅敏さんは、同社が倒産する夢を見て夜中に目が覚めたことが何度もあったそうです。

また、昨年8月に亡くなった、京セラ創業者の稲盛和夫さんも、京セラの黎明期は、銀行から借りた融資金を返済できなくなって、会社が倒産してしまわないか、毎日、心労をしていたと言います。ただ、中小企業経営者の方の中には、このようなプレッシャーを、あまり苦痛と感じていないような感じの方もいましたが、やはり、多くの中小企業経営者の方は、ずっとプレッシャーに立ち向かいながら仕事をしていると思います。

では、今回、なぜ、中小企業経営者の方はすごい存在であるという、渡辺先生の考えをご紹介したのかというと、ひとつは、中小企業経営者の方は、もっと、社会的な評価を受けるべきだと考えているからです。もちろん、いまも評価を受けていないわけではありませんが、2022年版中小企業白書によれば、日本の会社員の約70%は中小企業勤務であり、また、中小企業が産み出している付加価値は、日本全体の53%を占めているということを考えると、もっと評価を受けてよいのではないかと思います。

そして、ふたつめの理由は、中小企業経営者は、渡辺先生もご指摘しておられるように、「会社にかかる全部のことに対応していかなくてはならない」ということです。実は、私が中小企業の事業の改善をお手伝いしてきた経験から感じることは、業績があまりよくない会社の特徴は、経営者の方が、「会社にかかる全部のことに対応」できない場合が大きいと感じているということです。これは当然のことと感じられると思いますが、社長は社長の仕事が中心になるので、例えば、工務店を始めた会社の社長は、家を建てる仕事よりも、販売先を探したり、銀行に融資の依頼をしたり、業績を管理したりする仕事を中心にしなければなりません。

ところが、事業現場の仕事を中心にしてしまう社長は、売上が思うように伸びなかったり、決算を過ぎてから事業が赤字になっていることに気づいたりするということがあります。ですから、社長は会社全般に関わらなければ、会社を設立しても事業がうまく行かないということを理解しないまま起業してしまうと、せっかく経営者になっても、それが無意味になってしまうことになりかねません。

2023/3/25 No.2292

 

人に貸すのではなく事業に貸す

[要旨]

令和4年12月に、金融庁は、「経営者保証改革プログラム」を公表し、「経営者保証に依存しない融資慣行の確立」を目指しています。しかし、これは、銀行だけの努力で実現するものではなく、中小企業も、公私混同をなくしたり、適切な情報開示を行なったりするなどの努力が必要です。


[本文]

先日、東京商工リサーチ情報部の増田和史さんが、経営者保証に関する記事を、ダイヤモンドオンラインに寄稿しておられました。記事の要旨は、東京商工リサーチが実施した破産企業の追跡調査(2020年度)では、破産会社の経営者の68.25%が個人破産に追い込まれているが、こうした現実が、起業や積極経営を躊躇せ、一方では事業再生や再チャレンジ、次の世代への事業承継の機会を奪い、傷が浅いうちの廃業も難しくしていた。

一方で、都内を中心に数店舗のカフェを展開していたA社が、コロナ禍で経営不振が続き、ついに2022年11月に破産を申請したが、A社が裁判所に提出した「破産申立書」の資産目録には、車輌運搬具として、簿価約2,000万円が計上されていた。その内訳は、海外の高級スポーツカーが1台で、保管場所は社長の自宅駐車場、鍵は社長が所持と記載されており、少なくとも破産を申請するまで、A社所有の高級車を社長が日常的に「自分のもの」として乗り回していたことは想像に難くない。

このように、経営者が公私混同することはしばしば見られるが、逆に、経営が苦しくなると、経営者が所有する資産(自宅不動産など)を担保に会社が融資を受けたり、会社が経営者から運転資金などを借りる「代表者借入金」などが存在したりする。したがって、今後、経営者保証を求めない取り組みが加速すると、企業は事業性や事業価値がよりシビアに問われることになり、経営者の会社に対する考え方や向き合い方も大きく変わらざるを得ない、というものです。私も、増田さんのご指摘は的確だと思います。

特に、認識を間違ってはならないことは、経営者保証を求めない融資というのは、銀行が中小企業に融資をするときに、従来の融資条件は変えずに、銀行が経営者からの保証を求めないようにするということではないということです。では、経営者保証を求めない融資というのはどういう融資かというと、経営者保証ガイドラインに則った融資のことです。この経営者保証ガイドラインに則った融資とは、中小企業が会社と経営者の資産の分離、財務基盤の強化、適切な情報開示を図ったときに、銀行は経営者保証を求めないというものです。

話を増田さんの記事に戻すと、今までの日本の銀行の融資慣行は、「事業に貸すのではなく、人(経営者)に貸す」というものであり、これからは、銀行も中小企業も、そのような認識を変えなければならないと増田さんはご指摘しておられます。このように書くと、「融資をするのは銀行なのだから、銀行が認識を変えればよい」と、中小企業経営者の方は考えるかもしれません。でも、現実には、「会社の利益はあまり多くない(または、会社の業績は赤字)かもしれないけれど、私の『顔』で融資をして欲しい」と、銀行に融資を依頼をする経営者の方は、決して少なくありません。

そこで、社長の顔(=社長の信用)で融資をすることになると、社長に保証人になってもらうということになります。ですから、社長の顔を使わずに融資を受けられるようにするには、融資を受けようとする会社は、「事業」で評価されるようにしなければなりません。そのためには、少なくとも、月次決算やセグメント情報など、会社の詳しい事業内容が分かるような財務データを銀行に提出する必要があります。少なくとも、経営者保証を条件としない融資は、融資を受ける側の努力なしには応じてもらうことはできないということです。

2023/3/24 No.2291