鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

採点ではなく満点を

[要旨]

部下の人事評価については、できるだけ、ファクトベース、つまり、事実や数字を持ち出して議論することが大切です。すなわち、「採点ではなく満点を」であり、全員が目標達成できる方向で話し合うことが大切です。こうすることで、部下は、会社のミッションに基づいた活動ができるよう能力を高めることができるので、会社の効率的な事業活動に資することになります。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、優れたリーダーは、ミッションに紐づいた目標設定を行い、各部門、各従業員に、(1)責任範囲、(2)求められるパフォーマンス、(3)業績の評価基準を理解してもらいますが、こうすることで、事業活動が効率的になり、業績が向上することにつながるということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、部下の成績評価は、できるだけファクトベースで行うことが大切ということについて述べておられます。「成績評価については、まず、部下自身で自己評価をしてもらいます。リーダーは、部下が、自分の自己評価を話すのを聞いて、上司の理解と合っているかを確認します。部下がそれに合意したら、次は、リーダーが、部下に責任領域におけるそれぞれの評価を告げ、部下が自分の評価をきちんと理解しているかを確認します。

お互いの診断結果を確認できたら、その共通点と相違点について話し合い、意見を一致させる必要があります。できるだけ、評価についてはファクトベース、つまり、事実や数字を持ち出して議論することが大切です。基本的な考え方は、『採点ではなく満点を』全員が目標達成できる方向で話し合うことが大切です。決して、選別するための成績評価ではないことを意識することが必要です。評価の時に、どうすれば満点を取れるのかを中心に話し合うのです。この診断結果をもとに、リーダーは、その部下に対してどのようなリーダーシップのスタイルを使うか、判断する必要があります。

例えば、ある分野について、よくできている部下に対しては、できるだけ邪魔をしないように、『委任』、つまり、『任せる』ことが大切です。もし、別の分野で評価内容が低い場合については、こまめに報告や相談をするように指示し、コーチングをする『指示型のリーダーシップ』を使う必要があります。1人の部下に対しても、分野によって、使うリーダーシップのスタイルが違ってくることを、リーダーは、きちんと理解しなくてはなりません。私自身の経験上、特に、日本企業は、この一連の目標設定・診断(フォローアップ)・評価について、部下と真剣にやっていない企業がほとんどだと感じています。

私が日産自動車に勤務している13年間で一度も実施されませんでした。多くの日本の大企業は、毎年、同じような目標設定を掲げ、その後のフォローアップもなく、他者とあまり差をつけないような査定をする。ひどい場合は、何もフィードバックを部下にしていないケースも、多く見受けられます。私自身、日産時代、最低の評価をつけられていたにもかかわらず、一切知らされず、その理由の説明もありませんでした。昇格試験の時に、初めて自分が同期より1年以上遅れていることに気がつきました。いつから何が原因で悪い評価をされたのか、今もってまったくわかりません」(305ページ)

本旨からずれますが、「日本企業は、一連の目標設定・診断・評価について、部下と真剣に実施していない」という岩田さんのご指摘については、私も同様に感じています。その理由の1つ目は、人材をコストの側面でしか見ていないからだと思います。かつて、成果主義人事制度(成果主義賃金制度)を、多くの会社が採用しましたが、それは、表面的には公平性を高めるものとしていたものの、実際は、人件費総額を減らすことにあったことからもわかります。2つ目の理由は、自社で人材を育成しようとする会社側の認識が薄く、また、その結果、会社の管理職も人材育成スキルが低いということがあげられます。

これは、バブル期までは、大企業の多くは従業員の大量採用ができていたので、人材を育成しなくても、ある程度は優秀な人材を採用できる環境にあったからだと思います。そこで、自己申告制度は導入されていても、岩田さんが会社勤務時代にご経験されていたように、フィードバックがないなど、まったく活用されることがなかったのだと思います。そして、人材育成を軽視してきた大企業では、適切な評価が行われず、上司に従順なイエスマンばかりが昇格しやすくなってしまったのではないかと思います。その結果、現場の状況がトップに届きにくくなるなど、不祥事が起きやすい環境がつくられてきたのではないかと、私は分析しています。

岩田さんは、ご著書の中で、「ミッションは、トップを含めた全社員の意思決定の拠り所であり、ミッションは社長より上位にあるもの」と述べておられます。しかし、人事評価で話し合いがなければ、結局、部下の評価は、ミッションではなく、上司の恣意的判断で行われてしまうことになるでしょう。そのような会社では、MVVに基づく経営が、ますます実践できなくなり、閉塞感が生まれることになるでしょう。現在、VUCAと言われる経営環境の中で、業績が好調な会社と不調な会社に分かれつつありますが、それは、きちんとしたプロセスで従業員を評価し、ミッションに基づいた活動ができる従業員を育成しようとすることに取り組んできたかどうかによる結果だと、私は考えています。

2024/4/27 No.2691

 

KPIはミッションに紐づいた目標

[要旨]

優れたリーダーは、まず、ミッションにヒモづいた明確な目標設定を行い、各部門、各従業員に、(1)責任範囲、(2)求められるパフォーマンス、(3)業績の評価基準を理解してもらいます。こうすることで、事業活動が効率的になり、業績が向上することにつながります。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、一般的に、組織は悪いニュースを隠ぺいするためなら、時には社会倫理さえ犯す危険性があるので、リーダーは、意識的に声を上げることが、とても大切であることを、組織に徹底すべきであり、何でも言える風通しの良い組織を作っていくことが求められるということについて書きました。

これい続いて、岩田さんは、目標設定の大切さについて述べておられます。「優れたリーダーは、まず、ミッションにヒモづいた明確な目標設定(ビジョン)から始めます。チームメンバーに対して、目標をはっきりさせるためには、次の3つを理解してもらう必要があります。(1)自分が何を求められているのか?(責任範囲)(2)良いパフォーマンスとはどのようなものか?(3)業績の評価基準は何か?個々の目標設定をうまくするためには、リーダーと部下がミーティングを行い、その部下にふさわしい目標をじっくり話し合う必要があります。

お互いに自分の考える目標を伝えることで、合意に達しやすくなります。時間をかけて合意する努力は必要です。もちろん、環境変化や予想外のことが起こります。途中で何度でも軌道修正を行う前提で、ある程度のところで見切り発車することも大切です。また、それぞれの責任範囲を、しっかり決めることも大切です。企業でよくあるのは、損益の責任は誰が負っているのかと、営業部門に聞くと、『それは、値段を決めているマーケティング部門と、原価を管理している製造部門の責任だ』と答えます。

マーケティング部門に聞くと、『利益は販売数量と原価でほぼ決まるので、営業部門と製造部門だ』と答えます。あるいは、店舗レベルで販売員に何をしているのかと聞くと、『我々は、商品を来たお客様に販売しているだけで、売上や損益に責任を持つのは、店長や本社の仕事だ』と答えます。このように、責任の所在が明確ではない場合、各事業部が無責任になり、当事者意識がなくなり、他の事業部に責任を転嫁するようになります。(中略)

目標を決めて、責任範囲が明確になれば、今度は、それを数値化するために、KPI(Key Performance Indicator)指標を決めないといけません。何を以てよいパフォーマンスができたのか、合意しておかなくてはなりません。途中の進捗度合いが分からなければ、修正のしようもありません。このKPIは、ひとつとは限りません。なかなか数値化がしにくい目標もあります。それを代替的に補完できる指標で管理するべきです」(299ページ)

事業活動において、数値目標を与えることに否定的な人もいます。例えば、従業員が5人の会社が、1年間で1億円の売上目標を立てたとき、それを単純に5で割って、1人あたり2,000万円の売上目標を割り当てたとすれば、あまり評価できる目標設定とは言えないでしょう。しかし、目安となる数値がなければ、日々の活動が締まりのないものとなることも事実でしょう。

岩田さんが述べておられる事例にもあるように、もし、目標数値が明確でなければ、自社の利益の責任は誰が負っているのかが曖昧になり、自社の利益目標はなかなか達成されなくなってしまうでしょう。そして、KPIは、達成目標という側面もありますが、各部門(または、各従業員)の役割を明確にするという役割や、会社の利益達成に、各部門(または、各従業員)が、どのように関わるのかを明確にするという役割もあります。すなわち、KPIは目的ではなく、ツールと考えるべきものです。

一方で、岩田さんも述べておられるように、全員が納得できるようなKPIの設定には労力がかかるし、また、最初から完全なKPIを設定することは難しく、実践と検証の繰り返しも必要になります。しかし、より研ぎ澄まされたKPIを設定することができれば、事業活動も効率的になったり、従業員の士気を向上させたりすることが可能になります。したがたって、経営者の方は、時間や労力がかかってでも、より精緻なKPIを設定することを通して、効率的な組織活動を促し、業績を向上させることを目指すことが望ましいと言えます。

2024/4/26 No.2690

 

悪い報告に『ありがとう』と言える上司

[要旨]

一般的に、組織は悪いニュースを隠ぺいするためなら、時には社会倫理さえ犯す危険性が報告されています。しかし、本物のリーダーは、どんなに耳が痛いことでも、貴重な真実を話してくれる人物を歓迎します。そこで、リーダーは、意識的に声を上げることが、とても大切であることを、組織に徹底すべきであり、何でも言える風通しの良い組織を作っていくことが求められます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、岩田さんは、ビジネススクールなどで、わかったような、わからないような、定義がはっきりしない抽象的な言葉である、「ビッグワード」は使わないようお伝えしておられ、その理由は、定義が不明確であれば、当然、聞き手には話し手の伝えたいことが伝わらず、時間や労力が無駄になるからであるということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、風通しのよい組織作りが大切ということについて述べておられます。「1986年1月28日、スペースシャトルのチャレンジャー号が打ち上げ直後に爆発し、乗組員全員が死亡しました。これは、アメリカ史上、最悪の宇宙開発事故となりました。実は、この事故は、避けることができた、人為的ミスです。打ち上げの前日に、部品を納入している会社の技術者が、チャレンジャー号のOリングに、重大な欠陥があることを上司に報告していました。しかし、その警告が無視され、打ち上げは決行されました。その技術者は、勇気ある行動を取りましたが、それは、キャリアの終わりを意味しました。退職後、彼は、内部告発や倫理問題に関する講演で生計を立てているそうです。

どんなに立派な行為でも、異論を唱える人間が組織に受け入れられることは希です。(特に悪い)真実を上層部に伝えてくれる部下ほど、組織にとって価値ある者はいません。トヨタでは、部下から悪い報告が上がってきたら、真っ先に『ありがとう』と上司は答えるそうです。一般的に、組織は悪いニュースを隠ぺいするためなら、時には社会倫理さえ犯す危険性が報告されています。少し前に頻発した自動車業界や電機業界の不正検査は、その顕著な例です。これに対して、本物のリーダーは、どんなに耳が痛いことでも、貴重な真実を話してくれる人物を歓迎します。

無批判に追従する取り巻きほど、リーダーを堕落させる者はありません。反対派の指摘は、常に正しいわけではありませんが、リーダーに自分自身を見直し、これまでの過程を点検し、弱点を発見する機会を与えてくれます。よいアイディアは批判されることで、さらに磨かれます。上司に真実を伝えることは、勇気が必要なだけでなく、ネガティブな反応を受け取ることさえあるかもしれません。そのため、リーダーは、意識的に声を上げることが、とても大切であることを、組織に徹底すべきです。何でも言える風通しの良い組織を作っていくことが求められます」(236ページ)

誰でも、悪いニュースはありがたいということはご理解されると思います。また、後になってから不祥事が明らかになるよりも、事前に明らかになる方が、会社が受ける損害は小さいということも、間違いありません。しかし、岩田さんもご指摘しておられるように、最近は、自動車業界や電機業界をはじめとした不祥事が、事後的に明らかになる例が多発しています。このことは、経営者が、よほど注力しなければ、悪いニュースは経営者に届かないと考えなければならないと考えるべきだと思います。なお、不祥事には、いくつかの種類があると思います。

1つ目は、目標やノルマが課題で、達成できていないのに、達成できたと報告したり、または、顧客をあざむくなどして、見せかけの数値を計上したりするものです。2つ目は、故意ではないものの、何らかのトラブルが発生したときに、それを、個人、または、部署で秘匿したり、もみ消したりするものです。3つ目は、従業員が個人的な利益を得ようとして、不正を行い、それを秘匿するものです。1つ目のような例は、経営者の責任が重く、2つ目や3つ目は、経営者の責任が比較的軽いと言えます。しかし、経営者の責任が重くても軽くても、経営者は、会社で起きたことの責任から逃れることはできません。仮に、悪意のある従業員が不祥事を起こしても、経営者は早期にそれを明るみにしなければなりません。

それは、道義的な側面もありますが、会社の損害を最小限にするためです。もし、経営者が、悪いニュースを得るために努力しなかったり、消極的であったりするとすれば、それは、経営者が、会社よりも、自分の評価を優先しているということになるでしょう。経営コンサルタント一倉定さんの有名な言葉に、「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任である」というものがありますが、これからの経営者は、いかにして、悪いニュースを迅速に把握できるようにするかが、会社を発展させる鍵になってきていると思います。

2024/4/25 No.2689

 

『ビッグワード』は使ってはいけない

[要旨]

経営コンサルタントの岩田松雄さんは、ビジネススクールなどで、わかったような、わからないような、定義がはっきりしない抽象的な言葉である、「ビッグワード」は使わないようお伝えしているそうです。なぜなら、定義が不明確であれば、当然、聞き手には話し手の伝えたいことが伝わらず、時間や労力が無駄になるからです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、相手に指示を出しても、相手が動かなかったら、それは「伝えた」だけで、「伝わっていない」ことと同じことであることから、きちんと相手が理解できる形でこちらの意図を伝え、行動を促し、実行されているかを確認して、きちんとフォローし、その案件が完了しなければ、経営者の方は、役割を果たしたとは言えないということを説明しました。

これに続いて、岩田さんは、「ビッグワード」は使わない方が良いということについて述べておられます。「私は、ビジネススクールの授業や企業研修などで、『ビッグワードを使わないように』と、よく言っています。ビッグワードとは、わかったような、わからないような定義がはっきりしない抽象的な言葉のことです。もし、そういった言葉を使うなら、定義をはっきりしてから使うべきです。例えば、『グローバル人材』。ある政府系の教育機関に、『グローバル人材』についての講演を依頼されました。そこで、『グローバル人材とは、どういう意味ですか?』と確認すると、『よくわかりません』という回答でした。定義もはっきりしないことについて、講演することはできません。

英語ができる人なのか、国際的に活躍する人のことなのか、『グローバル人材を目指せ!』と言われても、どんな人になればいいのか、よくわかりません。ちなみに、私のグローバル人材の定義は、『良き日本人であること』です。もっと身近な例で言うと、『赤』といっても、サンタクロースの服、郵便局のポスト、リンゴの色など、いろいろな『赤』があります。『郵便ポストの赤』と、具体的な言葉を示せば、相手との認識がブレることなく、同じ色をイメージできます。一番良いのは、『○○番の赤』というカラーコードを伝えるのが確かです。これがプロの仕事のやり方です」(231ページ)

岩田さんがご指摘しておられるように、言葉の定義が不明確なまま使われているということは、珍しくありません。ビジネスから離れたところで、雑談をしているのであれば、それほど言葉の定義を明確にする必要はありませんが、ビジネスの場で定義が不明確な言葉を使うことは、意味がないばかりか、時間を浪費するだけになると思います。なぜなら、言葉の定義が不明確であったり、話す側と聞く側で言葉の定義が異なっていると、話し手の意図が正確に聞き手に伝わらないからです。

とはいえ、『ビッグワード』が使われるときは、多くの場合、単に、雰囲気だけを伝えようとしていることが多いと思います。岩田さんのご経験にもあるように、「グローバル人材」の定義が明確にせず、岩田さんにグローバル人材について講演を依頼してきた人は、あまり深く考えていなかったのだと思います。でも、それは、裏を返せば、岩田さんに何か講演をしてもらうこと目的になっていて、講演を聴いた人に何かを伝えたいという観点では、真剣に考えられていなかったということでしょう。それでは、講演の開催にかかる費用や、参加者の時間は無駄になってしまいます。そういう無駄こそ、極力、排除しなければならないでしょう。

2024/4/24 No.2688

 

『伝える』ことと『伝わる』ことは違う

[要旨]

相手に指示を出しても、相手が動かなかったら、それは「伝えた」だけで、「伝わっていない」ことと同じことです。きちんと相手が理解できる形で、こちらの意図を伝えて、行動を促して、実行しているかを確認して、きちんとフォローして、その案件が完了しなければ、経営者の方は、役割を果たしたとはいえません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、ミッションを会社内に浸透させるためには、経営者が何度も繰り返してミッションを伝えることが大切ですが、それと同時に、ミッションを体現している部下を評価することも大切ということを説明しました。

これに続いて、岩田さんは、会社内でのコミュニケーションの大切さについて述べておられます。「コミュニケーションにおいて、心しておかないといけないことは、『伝える』ことと、『伝わる』ことは同じではない、ということです。相手に『伝わる』ようにするためには、何度でも同じことを繰り返さないといけません。さまざまな角度の伝え方を工夫して、相手の心に響くように言い続けていくのです。メッセージを繰り返し発し続けることによって、本当に重要なことが伝わっていきます。しかし、それでも本当に伝わっているとは限りません。

例えば、指示を出すにせよ、メッセージを送るにせよ、ただ『伝える』だけでは意味がありません。相手の心に響かせ、何らかの影響を与え、相手の行動を変えて初めて、伝わったことになるのです。相手に指示を出しても、相手が動かなかったら、それは『伝えた』だけで、『伝わっていない』ことと同じことです。『伝える』だけでは意味がありません。では、相手に伝わったかどうかを確かめたいときには、どうしたらいいのか?軍隊のように、『自分の言葉で復唱』してもらうのが一番良いと思います。さらに軍隊で作戦を立案した参謀は、戦場まで出かけて、作戦がきちんと実行されているか、必ず見に行きます。こういったことは、実際の企業活動でもとても大切です。

だいたい、コミュニケーションのミスで、多くの無駄な時間を費やしたり、不具合が生じるものです。『伝えた』のに『伝わっていない』のは、相手の問題ではなく、こちらの問題です。いかにしてうまくメッセージを伝えるかは、とても大きな問題です。かつ、フォローをすることが大切です。きちんと相手が理解できる形で、こちらの意図を伝えて、行動を促して、実行しているかを確認して、きちんとフォローして、その案件が完了して、初めて仕事が終わったと言えるのです。さらに、その結果にねぎらいの言葉をかけたり、褒めてあげることができたら完璧です」(228ページ)

岩田さんが述べておられる、「伝える」ことと、「伝わる」ことは同じではないということは、どんな人でもご理解されると思います。ところが、「伝わる」ための努力をせず、「伝える」ことだけしかしないビジネスパーソンは意外と多いと、私は感じています。さらに、経営者や管理職の人ほど、部下に対して、「1を言うだけで、10を理解して欲しい」と考えている傾向が強いと思います。特に、オーナー経営者は、昨日と今日で、言っていることが変わってしまう、朝令暮改のような人も少なくありません。そうなると、部下たちは、経営者が何を言いたいのかわかりません。

その結果、頭が混乱してしまうだけでなく、「さっきはああ言われたけど、すぐに変更になるかもしれないから、今は着手しないでおこう」と考えるようになるかもしれません。すなわち、当然のことなのですが、経営者や管理職が出す指示は、一貫性がなければ、あまり意味がないものとなってしまいかねないのです。しかし、経営者や管理職の方たちが、すぐに指示を変えてしまったり、「1を言って10を理解して欲しい」と考える気持ちは、理解できなくもありません。なぜなら、現在は、経営環境はめまぐるしく変わるので、経営者の方も、迅速に環境変化に対応したいと考えるからです。

ところが、岩田さんもご指摘しているように、経営者の方の考えていることを、どれだけ言葉にしても、それが「伝わって」いなければ、意味がありません。そこで、経営者の方は、自分自身で環境対応をしようとするのではなく、ミッションを従業員の方に十分に理解してもらい、従業員の方に、ミッションに基づいた環境対応を実践してもらう方が、事業活動が効率的になります。すなわち、経営者の方は、経営環境への対応を伝えるのではなく、ミッションを伝えることに専念すべきなのだと、私は考えています。

2024/4/23 No.2687

 

ミッションを体現している人を評価する

[要旨]

ミッションを会社内に浸透させるためには、経営者が何度も繰り返してミッションを伝えることが大切ですが、それと同時に、ミッションを体現している部下を評価することも大切です。中には、顧客をあざむいて成績をあげる従業員もいますが、そのような部下よりも、ミッションに従って活動している従業員を評価し、昇格させなければ、ミッションは浸透しません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、ドラッカーは、著書の中で、「本質において一致、行動において自由、全てにおいて信頼」という、カトリック教会のスローガンを紹介していますが、これは、一般の事業活動にもあてはまり、会社内でミッションを共有していれば、細かなルールやマニュアルは不要となり、顧客に対して質の高い対応が可能となって、競争力が高まるということを説明しました。

これに続いて、岩田さんは、ミッションをしっかり体現している従業員を評価することが大切ということについて述べておられます。「『ミッションの大切さ』について、講演やコンサルティングをしていると、よく受ける質問があります。それは、社長など、組織のリーダーからの『会社のミッションが、なかなか社員に浸透しません、どうしたらいいのでしょうか?』という質問です。私は、次のように答えます。

『まず、トップとして、ミッションについて、繰り返し言い続けて下さい』(中略)(岩田さんがスターバックスなどの社長をお務めの時)私は、社長として、どうしても伝えたいことは、何十回も話しました。『また岩田さんは同じ話をしている』と思われていたでしょう。しかし、大切なメッセージは、何十回、何百回、繰り返し言ってもいいと私は思います。ちなみに、ミッションを浸透させるために、もう一つ大切なことは、ミッションをしっかり体現している人を評価することです。

つまり、端的に言えば、誰を偉くするか、しないかです。究極は、誰を次の社長にするかです。会社のミッションや価値観を大切にしている人、体現している人をきちんと評価し、偉くしなければなりません。売上や利益などの定量的な部分でも、仕事ができることは大前提ですが、会社の価値観に合わない人を決して偉くしてはいけません。お客様を大切にするという価値観があるのに、お客様をだまして売上をあげる人がいます。

チームワークを重視しようという価値観なのに、仲間の足を引っ張る人もいます。いくら数字が良いからと言って、こういう人を決して偉くしてはいけないのです。もちろん、数字をあげ、会社に貢献してくれたことは事実ですから、ボーナスなどの金銭的な報酬で報いるべきです。西郷隆盛も言っているように、『功のあった人には禄(金銭)を与え、徳のある人には爵(地位)を与える』のです」(225ページ)

岩田さんがご指摘しておれらうように、「ミッションを体現している人を評価し、昇格させることが大切」ということは、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、これは、しばしば実践されないこともあると、私は感じています。最近の、大企業の不祥事を見ていると、実際は法令違反をしているにもかかわらず、よい成績をあげた人を昇格させ、後になって法令違反が明るみになるという例が、後を断ちません。

しかし、ここで私が伝えたいことは、大企業の経営者は、営業成績しか見ないで部下を評価しているということではなく(実際にそうなのかもしれませんが)、ミッションを体現している人を見分けることは難しいのではないかということです。もちろん、ミッションを体現している人の成績はよくなります。でも、法令違反や、法令違反とまではいかなくても、ミッションをないがしろにしている人の方が、見せかけの成績はよくなる傾向にあると思います。

そして、プロセスはあまり重視せずに、結果の成績に偏った評価をしていると、ミッションを体現している人が埋もれやすくなると思います。とはいえ、部下がミッションを体現しているか、そうでないかということを見分けることは難しいのも事実だと思います。しかし、ミッションが浸透しないと、現在の複雑な経営環境に対応した事業活動は、ますます実践しにくくなります。だからこそ、部下を適切に評価できるかどうかも、経営者の能力が問われるところだと、私は考えています。

2024/4/22 No.2686

 

本質において一致、行動において自由

[要旨]

ドラッカーは、著書の中で、「本質において一致、行動において自由、全てにおいて信頼」という、カトリック教会のスローガンを紹介しています。これは、一般の事業活動にもあてはまり、会社内でミッションを共有していれば、細かなルールやマニュアルは不要となり、顧客に対して質の高い対応が可能となって、競争力が高まると言えます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、ドラッカーは、著書の中で、ある看護師のエピソードを紹介しており、彼女は、病院が何か新しい施策や取り組みをしようとすると、「それは、患者さんにとっていちばんよいことでしょうか?」と質問し、これによって、彼女の同僚に、病院のMVVを意識させていたということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、ミッションの共有の重要性について述べておられます。「ドラッカーの本の中に、カトリック教会の、こんなスローガンが紹介されています。『本質において一致、行動において自由、全てにおいて信頼』私が、この言葉に出会ったのが、ちょうどスターバックスの社長になったばかりのころでした。『私はこの方針でやっていきたい』と全社員に向けての最初のマネジメントレターで紹介しました。本質、つまり、ミッションをきちんと共有していれば、細かなルールなど作らず、実際の行動は自由。みんな自分で考えてやれば大丈夫。ただし、その大前提として、互いに信頼し合うことが必要です。

誰かの行動の背景や理由をすべて他の人に知ってもらうことは不可能です。お互いの信頼感がなければ、その行動に対して、『なんであんなことをしているんだ』と、不信感が募ってしまいます。しかし、信頼感があれば、『きっとその行動には何か理由があるのだろう』と、不信感を持たずに済みます。ルールや規則というのは、それを行う人への信頼がないからつくられていくものです。しかしながら、世の中や状況がどんどん変化して行き、すべてのケースに対応できる完璧なルールブックなどあり得ません。放っておくと、どんどん行動を制限するルールばかりが増えていってしまいます。

でも、裏を返せば、本質において一致するミッション(『何』をではなく、『なぜ』やるのか?)が共有できて、お互いに信頼し合えれば、細かなルールなんて必要ありません。その時々の状況に応じて、自分で判断して行動する自由が与えられます。会社が大きくなってくると、組織が官僚化していきます。一人が不祥事を起こせば、その再発防止が叫ばれ、あたかも皆が犯人かのようなルールやマニュアルがどんどん増えていきます。何センチもある分厚いマニュアルを、誰が覚えることができるのでしょうか?

私は、それよりも、自分達は何のために働いているのかという、『ミッション』さえきちんと共有化しておけば良いと思います。(中略)私が、著書でも、講演でも、よくご紹介するFさんのお話があります。スターバックスのお店のパートナーのFさんに憧れていた女子高生が、心臓病手術のためにアメリカに出発する早朝に、Fさんは、シナモンロールを駅に届けに行ってくれました。残念ながら、その女子高生は帰らぬ人となりましたが、お父様から感謝のお手紙をいただき、私は知りました。Fさんは、自分がルール違反をしているとわかっていたと思います。

しかし、クビになると思ったら、決してやらなかったと思います。でも、スターバックスのミッションに照らせばやるべきだと考え、行動してくれたのです。つまり、彼女は会社を信頼してくれたのです。私も、マネジメントレターで、この話を全店に伝え、Fさんを褒めました。これがスターバックスだと。でも、全店で、毎朝、シナモンロールをデリバリーすれば、人が足りなくなってしまいます。そんなバカなことをしないだろうという前提が、私の中にあります。

つまり、パートナー達を信頼しているから言えるのです。一般的に、企業では、一人が不祥事を起こせば、あたかもみんなが犯人かのように、ルールやマニュアルを作ろうとします。しかし、ミッションさえお互いが共有していれば、そんな細かなルールやマニュアルは要らないのです。スターバックスのように、ミッションが隅々まで浸透している企業では、数多くの感動的なエピソードが生まれます。そのエピソードを共有することで、さらに浸透していきます」(190ページ)

細かなルールを決めて、それに基づいて活動しようとすることを、細則主義と言いますが、それとは逆に、ミッションなどの理念や原則などだけが示され、実際の活動は、組織の構成員が原則に基づいて判断して行おうとすることを、原則主義といいます。原則主義は、岩田さんがご紹介しておられたFさんが働いているスターバックスだけでなく、「クレド」や「1日2,000ドルの決裁権」を活用している、リッツカールトンホテルも、原則主義で活動していると考えられます。

そして、岩田さんは、「ミッションが隅々まで浸透している企業では、数多くの感動的なエピソードが生まれます」とご指摘しておられますが、VUCAの時代において、業績を高めるためには、原則主義で活動している組織が望ましいと言えます。したがって、これからの会社は、何を製造するとか、何を販売するとかということの前に、原則主義で活動する組織づくりが求められているということです。

ただし、原則主義で活動する組織づくりは、時間を要し、また、労力も要します。単に、ミッションを浸透させるだけでなく、原則に基づいて自ら判断して活動する人材は、なかなか、育成できません。そこで、多くの経営者は、マニュアルに頼ろうとしてしまう面があると思います。しかし、それでは、質の高さでの競争はできず、VUCAの時代では、早晩、淘汰されていくでしょう。やはり、時間と労力がかかるとしても、原則主義に基づく活動ができる組織を、今からでも目指して行かなければならないと、私は考えています。

2024/4/21 No.2685