鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

部分的な数値だけで財務分析はできない

[要旨]

9月末に、日本銀行が、所有する国債について、8,749億円の含み損が発生したことについて、日本経済新聞は、「市場の厳しい目が注がれる可能性がある」と指摘しました。しかし、この含み損は実現するものではなく、また、日本銀行が所有する国債の価格の0.16%の割合に過ぎないことから、その発生を防ぐことは不可能であり、同紙の指摘は誤っています。


[本文]

先日、日本経済新聞が、日本銀行保有する国債の含み損が、8,749億円になったと報道していました。この記事によれば、「日本銀行が11月28日発表した4~9月期決算で、保有国債時価評価が、2013年の異次元緩和導入後で、初めて、簿価を下回り、含み損に転落した。米欧の利上げをきっかけに、日本でも金利上昇(債券価格は下落)が進んだためだ。満期保有が前提のため、直ちに経営を揺るがすわけではないが、政府が発行する大量の国債を、日銀が、事実上、無制限に引き受ける構図に、市場の厳しい目が注がれる可能性がある」と報じています。

この部分の指摘は、意図的に誤った印象を読者に与えようとしていると、私は考えています。まず、日本銀行の発表した資料を見てみたいと思います。2022年3月末時点では、日本銀行保有する国債には、4兆3,734億円の含み益がありましたが、9月末は、前述の記事のとおり、8,749億円の含み損を持つまでになりました。しかし、この含み損を抱えたことに、どのような意味があるのでしょうか?

それは、記事に書いてあるように、日本銀行保有する国債は、「満期保有が前提」なので、この含み損が実現することがありません。そして、3月の時点の4兆3,734億円の含み損も、同様に、実現することはありません。含み益や含み損は、会計的な観点で、会計期間の末日の時価を計算するためだけの、参考程度の数値であり、そのような利益や損失が実現するものではないので、それを問題にすることは無意味です。

また、日本銀行に限らず、一般の会社も、資産を持てば、その資産について、実勢価格が上昇したり下降したりすることは、当然に起こります。したがって、日本銀行国債保有する時点で、含み益や含み損が発生することは、当然に起こり得ることが分かっていることであり、9月に含み損が発生したとしても、それは意図されていなかったということではありません。

その次に、日本銀行が9月末に所有する債の額は、簿価で545.5兆円です。そして、この簿価に対する9月末の含み損の割合は、0.16%です。含み損の8,749億円は、金額としては多額ですが、日本銀行が所有する国債の額から見れば、極めてわずかな額です。このわずかな割合の含み損について、コントロールすることの方が不可能です。それなのに、その含み損だけで、「市場の厳しい目が注がれる可能性がある」という日本経済新聞の指摘は本当でしょうか?

もし、0.16%の含み損も発生させてはならないというのであれば、国債を所有することは、事実上、不可能ということになるでしょう。さらに付け加えれば、日本銀行は、4月から9月までの6か月間だけで、6,003億円の国債利息を得ています。この数値は、仮定の利益ではなく、実際に日本銀行が得た、実現している利益です。実現した利益を勘案すれば、含み損を批判すること、ますます、意味は見出すことはできないでしょう。

ここまで書けば、日本経済新聞の指摘は、極めて不適切ということが理解できると思います。とはいえ、この記事の主旨は、日本経済新聞への批判ではありません。財務分析は、部分的なことにとらわれて判断してはならないということです。事業活動は、常に、リスクを抱えながら営まれているわけですから、ひとつのリスクだけを捉えて否定的に解釈することは、極めて無意味です。

2022/12/1 No.2178

 

事業拡大には勘に頼らない経営が必要

[要旨]

串カツ田中ホールディングスは、今年の6月に、代表取締役が、創業者の貫さんから、公認会計士の資格を持ち、CFOだった、坂本さんに交代しました。これは、貫さんが、事業を拡大するには、勘に頼ることなく、根拠を持って判断することが重要という考えによるものであり、今後、このような人事判断が適切であったかどうかが注目されます。


[本文]

先日、ジャーナリストの千葉哲幸さんが、千葉さんの配信しておられるメールマガジンに、串カツ田中ホールディングスの社長交代について書いておられました。串カツ田中ホールディングスの社歴について簡単に説明すると、1998年に、貫啓二さんが個人事業として飲食店を開業し、2002年に法人化して有限会社を設立、2006年に株式会社に組織変更、2008年に東京都世田谷区に串カツ田中1号店をオープン、2015年に商号を串カツ田中(旧)に変更、2016年に株式を東証マザーズに上場、2018年に持株会社体制に移行するために、商号を串カツ田中ホールディングスに変更し、同時に、会社分割により飲食事業を新設した串カツ田中(新)へ継承、2019年に東証1部(現在は東証スタンダード)に市場変更し、現在に至っています。創業者の貫さんは、創業時から串カツ田中ホールディングスの社長を務めていましたが、今年の6月に、坂本壽男さんに社長を譲り、ご自身は、代表権のない取締役会長に就きました。

千葉さんのメールマガジンによれば、「坂本氏は、慶應義塾大学経済学部を卒業、化学メーカーに勤めていたが、公認会計士の資格を取って大手監査法人に入社。ここで飲食のチェーン企業を担当、またIPOを目指す企業の営業を担当したことから、串カツ田中の貫社長(当時)との知己を得た。そして誘いを受けて2015年2月、同社に入社した。串カツ田中のCFOとなった坂本氏は、株式公開に向けて精力的に仕事に励んだ」そうです。また、貫会長は、社長交代にあたり、坂本社長に対し、「これまで『串カツ田中』を300店舗までやってきたが、勘に頼っていたところもある。これから1,000店舗を目指して日本を代表する食文化にしたい。

そのためには金融の知識、細かい数字の分析、再現性のある根拠とか、しっかりとした経営が必要なんだ」と話したそうです。私は、事業を拡大するためには、管理業務が重要になっていると、貫さんが判断したことに注目しています。事業が拡大しても、創業者がずっと代表取締役に就いているままの会社は少なくありませんが、そうであっても、マネジメント層は、管理業務の比重が高くなっていることは事実でしょう。そうであれば、同じ代表取締役であっても、黎明期のときの役割と、事業規模が大きくなってからの役割は、大きく異なります。

したがって、事業規模が拡大しても、黎明期から代表取締役に就いたままの人がいたとしても、代表取締役として担うべき管理業務は、別の役員が代わりに担っているということもあるでしょう。しかし、貫さんの場合、同社の現在の事業規模で求められている代表取締役の役割は、自分よりも坂本さんの方が適任と考えたことから、実態に合わせて、代表取締役を坂本さんに譲ったのだと思います。とはいえ、貫さんは代表権を返上したとはいえ、創業者であり、また、大株主でもあることから、会社への影響力は持ち続けることに違いはないでしょう。

でも、現在、坂本さんが唯一の代表取締役であるということは、貫さんが、現在の同社では、管理業務が重要であるということを、明確に意思表示したことになると思います。だからといって、事業規模が拡大しても、創業者が代表取締役に就いたままでいることが誤っているということにはならないと思いますが、串カツ田中ホールディングスのような経営スタイルは、現在の時代により適合したものだと、私は考えています。この貫さんの決断が正しいのかどうか、引き続き同社の動向に注目して行きたいと思います。

2022/11/30 No.2177

 

無借金経営は銀行支援を受けられない

[要旨]

航空会社のスカイマークは、無借金経営であったにもかからわず、2015年に民事再生法の適用を申請しました。もし、同社が銀行から融資を受けていれば、メインバンク制度によって主力銀行が同社を支え、民事再生法適用申請に至らなかったと考えることができます。したがって、資金が潤沢な会社であっても、あえて銀行から融資を受けておくことは、リスク管理の観点から有用と言えます。


[本文]

中京大学国際学部の矢部謙介教授が、ダイヤモンドオンラインに、航空会社のスカイマークが、2015年に民事再生法の適用を申請するに至った原因について寄稿しておられました。スカイマークは、エイチ・アイ・エス創業者の澤田秀雄さんらによって、1996年に設立され、2000年に、東証マザーズに上場しました。その後、業績が低迷する中、2004年に、インターネットサービスプロバイダ会社のゼロの創業者だった西久保愼一さんが社長に就任し、経営の立て直しに着手しました。

その後、スカイマークの業績は回復し、国際線の定期便に参入するため、エアバス社の大型航空機のA380の調達を決定します。しかし、円安の進行によって、燃料費が高騰したり、米国通貨建てであった機材リース料が増加し、業績が再び悪化します。「スカイマークの(2014年の)貸借対照表を見ると、スカイマークは無借金経営だったことがわかる。一般的に、無借金経営は財務的な安全性の観点では良いとされているが、当時のスカイマークではそれが裏目に出た。スカイマークはメインバンクを持たなかったために、金融機関からの借り入れによる資金調達を行うことが難しかったのだ。

しかも、ボーイング737などの機材をすべてリースで調達していたため、航空機材を担保として借り入れを行うこともできなかった。また、投資その他の資産も航空機整備に向けた預け金が中心で、換金性のある資産はほとんど保有していなかった。その結果、2012年3月期に約306億4,800万円と潤沢だった現金残高は、2014年3月期には約70億6,500万円まで目減りすることとなる。このようにして資金繰りに行き詰まったスカイマークは、2014年4月に支払う予定だったA380の前払金約8億円を支払うことができなかった。

その結果、2014年7月にエアバス社がスカイマークに対して契約解除を通告し、併せてスカイマークは約7億ドル(当時のレートで約710億円)の違約金を請求される事態に陥ってしまう。この通告があった直後の2015年3月期の第2四半期報告書には、『継続企業の前提に関する事項の注記」(GC注記、ゴーイングコンサーン注記とも呼ばれる)が付された。西久保氏は後に、『(2015年3月期の第2四半期決算において)ゴーイングコンサーンの注記を付けられてしまった。そうなると増資もできないし融資も受けられない。そこからはあっという間でした』と語っている」

ゴーイングコンサーン注記とは、詳細な説明は割愛しますが、その注記がある会社は、事業の継続に疑義があるということを意味します。その後、スカイマークは、2015年に民事再生法の適用を申請するに至るわけですが、今回、この矢部教授の記事をご紹介した理由は、記事の中に、「一般的に、無借金経営は財務的な安全性の観点では良いとされているが、当時のスカイマークではそれが裏目に出た」と書かれていたからです。結果的に失敗したものの、A380を導入するという果敢な意思決定ができるのは、無借金経営の利点とも言えます。しかし、日本の銀行の慣行では、メインバンク制度というものがあり、業績不振に陥った会社は、メインバンクが他の取引銀行と利害調整をしながら、その会社を支えるという不文律の制度があります。

私は、このメインバンク制度を、100%支持するわけではないのですが、やはり、会社の突然の経営破たんを防ぐためには、メインバンク制度は、現在の日本では、依然として大きな役割を果たしていると思います。これは仮定の話ですが、スカイマークが無借金経営ではなく、銀行から融資を受けていれば、銀行が資金繰支援や営業支援を行い、民事再生法の適用を申請するまでに至らなかったと思います。私は、資金繰が良好で、資金調達が当面は不要な会社であっても、いざというときに支援を受けるために、お付き合い程度でも複数の銀行から融資を受けておくことは、リスク管理の観点から大切だと考えています。

2022/11/29 No.2176

 

手許現金の原資は利益だけではない

[要旨]

手許現金が多い会社に対して、それは利益の多さでもあると誤認し、手許現金に課税すべきと考える方もいるようです。しかし、手許現金は、必ずしも、利益の多さではなく、銀行からの融資などで調達したものも含まれています。こういった、会計実務をあまり理解していないと、誤った前提で批判をしてしまうことになるので、注意が必要です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、作家の冷泉彰彦さんが、11月1日に配信したメールマガジンで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、「利益の額=現金の額」と勘違いされることが多いものの、「利益の額≠現金の額」ではないので、手許の現金で設備投資を行い、手許現金残高を減らしても、納税額が減るわけではないということを説明しました。冷泉さんは、さらに、手許現金残高が多いことが、その会社の支払い能力が高いことと勘違いをされる例について述べておられます。

「(内部留保が設備投資に充てられているというのであれば)企業が貯め込んでいる銀行預金に課税するという話もあります。これも誤解があって、企業の貯めているキャッシュは、ビジネスを行って儲かった余計なカネだという決めつけは出来ないのです。例えば、企業の銀行口座を調べていって、毎月、売上を回収して現金が入ってくる一方で、ビジネスのコストや人件費を払っているとします。そして、預金残高の最低ラインを追っていっても、例えば100億円の売上の企業で、50億円はコンスタントに口座に残っていたとします。

そうすると、この50億円は『余ったカネ』と思いがちです。ですが、例えば長期のレンジで考えると、この50億円は、万が一、別のパンデミックが起きた際に、ビジネスが止まっても給与の支払いができるように準備しているカネかもしれません。また、数年後に新しい工場を建設する資金かもしれないのです。そもそもこの50億円が、銀行口座に残高としてあったとしても、そのカネは、株や債券を発行して集めたカネであったり、あるいは、銀行から借りたカネかもしれないのです。

数年後に使う目的があって、そのために株主に増資に応じてもらったり、銀行から借りたカネだとしたら、それを『50億円もあるから、一部を税金として払え』などというのはメチャクチャです。とにかく、会計の初歩知識をすっ飛ばして、『カネがあるなら税金を取ってやれ』とか、『儲かった残りが帳簿にあるなら税金がもっと取れる』というのは、無茶苦茶ですし、企業経営の基礎を無視した暴論だと思います」

冷泉さんがご指摘しておられるように、会社が銀行口座に預金をしていたとしてもそれは、利益の積み重ねで得た資金だけでなく、株主から出資してもらったり、銀行から融資してもらったりして得られた資金も加わっているわけです。したがって、「現金の額=利益の額」と考えてしまうと、融資などによって資金を調達して、手許資金を確保している会社に対して、その会社は儲かっているという、誤った印象を持つことになるのでしょう。また、これも冷泉さんがご指摘しておられますが、現金(預金を含む)を手許に置いておくのは、リスク管理の観点によるものです。

しかし、そういった、会社経営の実務経験がない人は、現金(預金)の額を確保しておく意味を理解していないことから、手許現金(預金)の多い会社に対して、従業員などに還元せずに利益をため込んでいると考えてしまうのでしょう。さらに、冷泉さんのご指摘について説明を加えると、多くの日本の会社は、月末日を決算日にしています。そして、この月末日は、売上金が銀行口座に入金されることが多いので、決算書に示される預金残高は、月末日以外の日と比較して、多めになる傾向があります。

したがって、このような事情を認識せず、単純に、決算書の数値が、その会社の通常の状態と考えてしまうことも、誤った認識を持つことになります。実際には、会社の当座預金口座や普通預金口座など、いわゆる決済用口座は、事業活動にともなって、頻繁に入出金が繰り返されています。したがって、決算書に示されている預金残高も、決算日の翌日以降、数日も経たないうちに、仕入代金支払いや融資の返済などで、大きく減少してしまうことは珍しくありません。

繰り返しになりますが、多くの方は、月末日は、会社の預金口座にたくさんの売上金が入るということは知っていると思いますが、会社の貸借対照表は、会社の通常の状態を示しているのではなく、月末日という特殊な時点の状態を示しているということまで意識してい見ている人は少ないと思います。とはいえ、冷泉さんのこれらのご指摘について理解することは、決して難しいことではありません。ただ、会計的な知識を持たないまま、印象だけで批判をするだけでは、よい結論を得ることができません。ちょっとかっこいい言葉ですが、会計リテラシーを持つ人が増えてもらえれば、不毛な議論はなくなっていくものと、冷泉さんのメールマガジンを読んで感じました。

2022/11/28 No.2175

 

機械を買っても利益は減らない

[要旨]

京セラの稲盛さんは、かつて、ビジネスに成功したとき、多額の税金を納めることになったことから、翌年は、機械を購入し、手許の現金を減らしました。しかし、手元の現金を減らしたからといって、利益が減ったことにはならず、引き続き、多額の税金を納めることになりました。このように、「利益の額=現金の額」と勘違いする方も少なくありませんが、機械を購入して現金を減らすことは、利益を減らすことにはならないということに注意が必要です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、作家の冷泉彰彦さんが、11月1日に配信したメールマガジンで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、内部留保に課税することは、法人税率を引き上げることと意味が同じでありながら、内部留保に課税すべきという主張が行われるのは、そのような主張をする人たちは、会計に関する知識が浅く、内部留保の意味をよく理解していないからだということを説明しました。これに関し、冷泉さんは、京セラが黎明期の稲盛和夫さんのご経験について書いておられました。

「故人となった今は、まるで、『経営の神様』のように思われている稲盛和夫氏ですが、比較的若い時の自伝で面白いエピソードを述べていました。稲森氏が最初にビジネスに成功した際、税務署がやって来て、利益の多くを法人税として持っていったので、驚いたのだそうです。そこで、2年目には、製造用の機械を多く買って、カネが残らないようにして、利益をゼロに近い数字で申告したそうです。そうしたら、再び税務署がやってきて、1年目よりももっと厳しい口調で怒られたそうです。どういうことかというと、10億円のカネを出して機械を買った場合に、10億円のカネが消えるわけではないのです。

10億のカネは、機械に化けたわけですが、その機械はちゃんと出したカネの分の価値はあるわけです。正確に言うと、10億の現金という財産が、10億の機械という財産に置き換わっただけです。勿論、機械の場合は摩耗したり、技術が時代遅れになったりします。ですから、耐用年数というものがあって、仮に、それが10年だとします。そうすると、10億円を10年で割って、毎年1億円ずつを、『帳簿から減らしていく』ということをします。

カネは最初の年に出ていったのですが、そのカネが置き換わった機械は、1年毎に価値が1億円ずつ減っていく、その分を、毎年、1億円のコストとして記録するし、その分は利益から引いて良いことになっています。帳簿上は、一種の分割払いです。ということで、非常に単純に申し上げるならば、企業が稼いだお金を『内部留保』しているという数字には、そのような機械を購入して、カネが機械に置き換わった後に、毎年価値を減らしているが、その瞬間には、まだ価値が残っている、つまり設備の価値というのも入っているわけです」

アメーバ会計を提唱した稲盛さんも、かつては、会計について部案内で、税務署と遣り合うことがあったというのは、いまとなっては驚きです。この例のように、勘違いされやすいのですが、「利益の額=手許現金の額」ではなく、会計の観点からは、「利益の額≠手許現金の額」です。ですから、かつての稲盛さんがご経験されたように、機械を購入して手許現金を減らしたからと言って、それは、利益が減ったことにはなりません。

また、逆に、「内部留保が過去最高」と聞くと、「日本の大企業は、たくさんの利益を得て、手許にたくさんの現金があるのに、それを出し渋って、従業員にはあまり還元していない」という印象を持ってしまうのでしょう。前回も説明しましたが、内部留保とは、単に、これまでの利益の合計額を示しているだけであって、その過去の利益の積み重ねは、現金として資産に計上されていることもありますが、かつての京セラのように、機械の購入に充てられて、より多くの利益を得るために投資されてれていることもあります。

とはいえ、これは、難解な論理ではなく、簿記を学んでいる方には容易に理解できることで、この記事のように、仰々しく説明するほどのことではありません。しかし、少なくない数の人が、「内部留保に課税すべき」という主張をするのは残念なことです。これは、裏を返せば、会計的な知識がないだけで、大きな勘違いをしてしまうという例のひとつと言えるでしょう。したがって、ビジネスパーソンにとって、会計について知識を深め、会計的なセンスを持つことは、とても重要であるということができます。

2022/11/27 No.2174

 

内部留保に課税することは矛盾がある

[要旨]

日本の会社の内部留保の額が、過去最高を更新し、約516兆円となったことなどから、内部留保に課税すべきという意見を聞くことがあります。しかし、それは、法人税率を引き上げることと同じであることから、内部留保に課税すべきと主張する人は、会計に関して深く理解していないことによる、誤った主張と言えます。


[本文]

作家の冷泉彰彦さんが、11月1日に配信したメールマガジンで、内部留保に関して解説しておられました。財務省が公表している法人企業統計調査によれば、2021年度の日本の企業(金融・保険業を除く)の内部留保は、約516兆円で過去最高となっていることから、しばしば、それに対して課税したり、従業員の賃金を増やすための原資にあてたりすべきという意見を耳にします。

でも、そのような意見には誤解があり、これについて冷泉さんは、次のように書いておられます。「1万円の商品を100万個販売して、100億円を売り上げた場合に、10億円が儲かったとします。この10億円をどうするかというと、一部は配当として株主に行きます。また、この利益の中から法人税も払わねばなりません。その後で、仮に4億円が残ったとします。

そのように100億円売り上げて4億円を残すということを、例えば5年続けたとすると、4かける5で20億円になります。これが内部留保です。つまり、儲かったカネを企業が溜め込んでいるとか、銀行に作った法人名義の口座にキャッシュがどんどん積み重なっている、そんなイメージです。こうしたイメージがあるために、『内部留保に課税しろ』という声が出てくるわけです」

実は、「内部留保に課税すべき」という主張には矛盾があります。ただ、そのような主張をする人は、当然、その矛盾に気づいていないから、内部留保に課税すべきと考えるのでしょう。では、その矛盾とはどのようなものかというと、まず、冷泉さんが前述の例で説明しておられるように、会社の利益の4億円が積み上がると内部留保になります。

その4億円とは、10億円の儲けから、配当金と税金を支払った残りです。さらに、その4億円に税金をかけるのであれば、10億円の儲けに対する税率を引き上げるのと同じことになります。この矛盾はとても単純なことなので、それに気づかない人は、そもそも、内部留保の意味を理解しておらず、「内部留保」という言葉のイメージだけで課税すべきと主張してしまっているのでしょう。

もし、儲けが多い会社にはたくさん課税すべきという考え方に基づいて、その通りにしようとするのであれば、わざわざ、「内部留保に課税すべき」と主張せず、「法人税率を引き上げるべき」と主張すればよいわけです。私は、会社にどのように課税すべきかということについては、様々な意見があってもよいと思うのですが、会計に関して深く理解せず、イメージだけで判断して意見を主張することは避けなければならないと思います。

2022/11/26 No.2173

 

努力しない会社は支援の対象外とすべき

[要旨]

コロナ禍にあって業績が悪化している会社が増えていますが、中には、業績を回復させるために懸命の努力を続けている会社があります。そのような会社は、政府の支援策の対象とするべきです。一方、経営者が公私混同をしたり、会計記録を不適切に行ったりする会社など、事業改善のための努力を怠っている会社は、政府の支援策の対象から外すべきでしょう。


[本文]

先日、共同通信編集委員橋本卓典さんが、ゾンビ会社に関する記事を、ダイヤモンドオンラインに寄稿しておられました。橋本さんは、記事の中で、広島銀行OBで、経営コンサルタントの上野英雄さんがご支援しておられる会社についてご紹介しておられます。「もともとは、居酒屋2店舗とテイクアウトの飲食店1店舗の、計3店舗を展開。居酒屋は午前3~4時まで営業して繁盛していたものの、コロナの感染拡大後に午後10時以降の客足が途絶え、業績が悪化した。

そこでゼロゼロ融資で資金を調達し、複数店のメニューを集中的に調理する、セントラルキッチン事業に打って出るため、用地を取得した。ところが、ロシアのウクライナ侵攻後、エネルギー価格の高騰などによって業績がさらに落ち込み、手元資金が逼迫。1店舗の居酒屋と、テイクアウト店舗の撤退に加え、セントラルキッチン事業のために取得した用地の売却まで決断することになってしまった。しかも、居酒屋の撤退でも追加支出を迫られることになる。

居抜きで居酒屋店舗を借りてくれる飲食店が現れず、店舗の原状回復費用として、800万円が必要になったのだ。結局、この想定外の費用によって、従業員の福利厚生のための保養所用に取得していた土地も手放すことになった。この企業の経営者は夏場に体調を崩し、人工透析の治療のために数カ月間、入院もしている。それでも、『自分が店に出て行けば、必ず挽回できる』と再建をあきらめていないという。(中略)こうした問題に直面している中小企業は、はたして全てゾンビ企業として数えるべきなのだろうか。

結論から言えば、問題に直面している企業でも、経営の合理化や、『キャッシュフロー経営』への転換など、業績を向上させようと動いているなら、決してゾンビ企業とはいえない。一部の中小企業には、もうかる仕事につながらないにもかかわらず、取引先に対して湯水のように交際費を使うという、バブル時代からの名残がある。ずさんな経費管理を行っている中小企業もしばしばある。領収書を紛失した経費や、知人に適切な理由もなしに貸した資金を、『社長貸付金』として帳簿に計上するケースが代表的だ。(中略)こうした企業こそが、ゾンビ企業だ」

私も、橋本さんと、ほぼ、同じ考えです。ただし、橋本さんの指すゾンビ企業と、一般的に言われているゾンビ企業では、定義が異なるようです。国際決済銀行(BIS)は、ゾンビ企業について、「設立10年以上で、3年以上にわたりインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)が1未満の企業」と定義しています。

ICR(=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷(支払利息+割引料))が1未満であるということは、その会社は、事業の継続が危うい状態にあるということを示しているので、BISの定義は、単に、財務指標から見て事業が長続きしそうにない会社という意味です。一方、橋本さんは、本来なら市場から退場するべき会社を指して、ゾンビ企業と述べておられるのでしょう。言葉の定義はいずれにしても、橋本さんのご指摘は正しいと、私も考えています。

もうひとつ、橋本さんのご指摘で注意が必要だと思うことは、事業改善に努力している会社であっても、何らかのことがきっかけで、倒産してしまう会社はあるということです。「ゾンビ会社」の生命維持装置のスイッチは、銀行だけが握っているわけではないということも注意が必要だと思います。私は、ポストコロナの時代は、公私混同をしている会社や、必要場経営管理を怠っている会社は、当然、市場から退場するべき会社であり、政府からの支援の対象外とすべきだと思います。

2022/11/25 No.2172