鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

成功の復讐

[要旨]

組織文化は、成功体験によって形成されるものの、経営環境が変化すると、かつての成功体験が経営環境への対応の妨げになることがあります。そこで、組織文化は、それを形成することを目的とするのではなく、競争優位を維持することを目的とする観点を持ち、適宜、経営環境へ適合するよう、改善を行わなければなりません。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、組織風土とは、会社が危機的な状況に陥らず、安定した経営を行なうためには不可欠な、「心理的基礎」であるのに対し、組織文化とは、競争力を高めるための「心理的エンジン」であるため、経営者の方は、組織風土だけでなく、組織文化の涵養にも注力することで、事業の競争力を、より高めることができるようになるということを説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、成功体験が組織文化の形成に大きく影響するものの、会社の成功体験は、それによって自滅することもあるということをご指摘しておられます。「(組織文化の研究の第一人者で、マサチューセッツ工科大学教授の)シャインが指摘するように、組織文化は、それぞれの組織の歴史における、『成功が残していったもの』である。つまり、どの組織文化も、その時点においては、極めて合理的なものと言うことができる。組織文化は、企業経営において、『目に見えない資産』である。

『強い組織文化』は、それ自体が競争優位たり得る。しかし、シャインが指摘する、『組織文化は成功が残していったもの』という指摘は、組織文化がない方する弱点にもつながる。『成功の復讐』という言葉がある。成功を収めた企業は、その成功要因によって自滅するという意味である。環境が変化しているにもかかわらず、過去の成功体験から脱却できずに、新たな環境に適合できずに衰退していく。これは、組織文化にも当てはまる。早稲田大学ラグビー蹴球部監督として、2年連続で全国大学選手権優勝を果たした、中竹竜二氏は、著書の中で、こう述べている。

『組織文化は、数年後、十年後の自分たちを助けてくれると信じて目を配り、違和感を覚えたら、こまめにメンテナンスし、時代や環境の変化に合わせて進化させていきましょう。組織がうまく回っている余力があるときに、メンテナンスをしていなければ、土壌は、年々、痩せていきます。5年後、10年後に、みすぼらしい果実しか実らなくなって、初めて、組織文化のメンテナンスを怠っていたと気づき、そこから変革をしても、回復するには何年もの歳月がかかります。それでは遅いのです』

安定した環境の中で、着実、かつ、堅実に仕事を進めていくことを得意にしていた会社が、劇的な環境変化についていけずに没落する事例は数知れない。(中略)組織文化は、強みでもあれば、弱みにもなる。自社の組織文化を、『競争優位』という観点で見ることが重要なのである」(108ページ)

この遠藤さんのご指摘は、端的に述べれば、「勝って兜の緒を締めよ」ということでしょう。でも、人は、どうしても慢心してしまう面があるので、「成功の復讐」に遭うことを完全に避けることができないのでしょう。ちなみに、私がこれまで中小企業の事業の改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、業績のよい会社ほど、常に改善すべき点を探究し、その改善に取り組むことに熱心な傾向にあると感じています。

逆に、「もっと改善活動に熱心に取り組むべきでは?」と思う会社、すなわち、業績があまりよくない会社ほど、改善活動にはあまり熱心ではありません。これらの経験から、私は、業績は改善活動に正比例するという仮説を持っています。もちろん、それはあくまでも仮説なので、まだ、客観的な証明はできない状態です。

話しを戻すと、遠藤さんは、「自社の組織文化を、『競争優位』という観点で見ることが重要なのである」とご指摘しておられます。すなわち、組織文化は強みにも弱みにもなるので、組織文化を形成することを目指すだけでは足りず、「競争優位」の観点から、常にメンテナンスを行い、「強み」となるようにしていかなければならないということです。繰り返しになりますが、成功したから自社は競争力があると考えてしまうと、「成功の復讐」に遭ってしまうので、「競争優位」の観点を忘れないようにすることが大切です。

2023/9/27 No.2478

 

組織文化は心理的エンジン

[要旨]

経営コンサルタント遠藤功さんによれば、組織風土とは、企業が危機的な状況に陥らず、安定した経営を行なうためには不可欠な、『心理的基礎』であるのに対し、組織文化とは、競争力を高めるための『心理的エンジン』だそうです。したがって、経営者の方は、組織風土だけでなく、組織文化の涵養にも注力しなければ、会社の事業の競争力が高くならないことに注意が必要です。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、赤城乳業では、『何でも自由に言える会社』を目指し、自由闊達な組織風土を醸成して業績を高めているということを説明しました。これに続いて、遠藤さんは、会社が発展するためには、組織風土だけでなく、組織文化も重要であると説明しておられます。

「組織風土は、企業が危機的な状況に陥らず、安定した経営を行なうためには不可欠な、『心理的基礎』とも言うべきものである。健全な組織風土がなければ、企業が成長、発展することは不可能である。しかし、良い組織風土、健全な組織風土が、それだけで企業の競争力に直結するわけではない。組織が成功を収めるための前提条件とも言うべきものである。ただし、組織風土が劣化すると、成功どころか、企業を倒産に追い込みかねない大きなリスクとなる。(中略)

一方、組織文化は、各企業の成功体験をもとに培われたものであり、組織文化を形成し、高めることによって、企業の競争力優位に直結する。エクセレントカンパニーほど、組織文化にこだわり、デフォルメされた『強い組織文化』が形成される傾向がある。つまり、組織文化とは競争力を高めるための『心理的エンジン』とも呼ぶべきものであると言うことができる。(中略)実は、世界中のエクセレントカンパニーの多くは、組織文化にこだわり、独自の組織文化を形成することに成功している。(中略)その中でも、とりわけ有名なのは、グーグルだろう。

創業者のひとりである、サーゲイ・ブリンは、『グーグルは、社内に好ましい文化をつくり、社員にしっかりとした忠誠心を持ってもらい、仕事に対して満足感を感じてもらえるようにする』と語っている。そして、その具体的な姿として、『僕たちは、グーグルを大学みたいに運営しているんだ』と語っている。(中略)つまり、それぞれの社員が自分のやりたいテーマを持ち、グーグルという舞台で自由に研究し、互いに交流し、切磋琢磨しながら、成果を上げて行く。これこそがグーグルが大切にしている組織文化である」(101ページ)

遠藤さんは、「組織風土は心理的基礎」であり、「組織文化は心理的エンジン」と述べておられます。確かに、よい組織風土ができあがれば、従業員の方たちは働きやすくなりますが、それだけでは、成長の速度が速くなるわけではありません。そこで、モチベーションなどを高める組織文化があれば、成長の速度が高まるわけです。その組織文化の事例が、グーグルの「大学みたいな運営」ということでしょう。

ちなみに、遠藤さんは、日本の会社の組織文化として、トヨタの「改善文化」、サントリーの「やってみなはれ」、リクルートの「個の尊重」を挙げておられます。今回は、やや抽象的な考え方の説明でしたが、組織風土を改善するだけでは競争力は十分に高くならないので、経営者の方は、組織文化も涵養することが大切ということを認識する必要があるということです。

2023/9/26 No.2477

 

組織は『言えない化』に陥るのが普通

[要旨]

赤城乳業は、『何でも自由に言える会社』を目指し、自由闊達な組織風土を醸成して業績を高めています。具体的には、(1)『言える化』を実践する『場』の設営、(2)『言える化』を加速する『仕組み』の構築を実践しています。そして、経営者は、組織というのは、『言えない化』、『言わない化』に陥るのが普通であると認識し、これらの取り組みを実践しなければ、組織の硬直化を避けられなくなります。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、良品計画がコオウンド経営、すなわち、「社員が所有する会社」とすることで、社員一人ひとりがオーナーシップを発揮することを狙っているということについて説明しました。これに続いて、遠藤さんは、赤城乳業の、「言える化」の取り組みについてご紹介しておられます。

「日本で一番売れているアイスキャンディ『ガリガリ君』で知られる赤城乳業は、20代、30代の若手社員が大活躍する会社としても有名だ。ユニークな商品開発だけでなく、営業、生産、管理部門など、あらゆる部署で若手社員がノビノビと仕事をし、成果を生み出している。その背景にあるのは、『言える化』と呼ぶ独自の組織風土である。赤城乳業は、『何でも自由に言える会社』を目指して、自由闊達な組織風土を醸成してきたのである。(中略)

組織というのは、『言えない化』、『言わない化』に陥るのが普通である。上下間や部門間の垣根やしがらみが幾重にも重なり、いつの間にか官僚化、硬直化してしまう。何か言いたいことがあっても、口をつぐむ。たとえ意見が異なっていても、上司の機嫌を損ねたり、水を差したりするようなことは一切言わない。そして、次第に組織は活力を失っていく。それが組織の摂理である。だからこそ、それに抗うように、『言える化』の土壌を育まなければならないと、赤城乳業は考えているのである。具体的には、同社は、次のような2つの工夫を行っている。

(1)『言える化』を実践する『場』の設営:『場』の設営とは、社員が自由闊達に何でも言える『場』をしつらえることである。委員会やプロジェクトが『場』であり、そのリーダーは若手が抜擢されることが多い。また、面白いアイデアを持ち、やる気のある若手社員には、思い切って仕事を任せ、自由にやらせている。『言い出しっぺ』が得をすることを見せることで、ほかの若手社員にも刺激を与えている。(2)『言える化』を加速する『仕組み』の構築:『仕組み』の構築とは、『言える化』の実践を側面からサポートし、加速させるシステムをつくり上げることである。

『何でも言え』と言っておきながら、言ったことがマイナスの評価につながるのでは、社員は何も言わない。言った者がプラスに評価される制度や、若手社員の活躍を社内で積極的に共有するなど、『言える化』をドライブする仕組みが不可欠である。こうした仕組みに加えて大事なのは、役員や管理職層が、『聴ける化』を実践することである。『言える化』は、相手の意見に耳を傾ける『聴ける化』があってこそ成立する。井上会長は、相手が誰であっても、途中で相手の言葉を遮ることをしない。そうした経営者の姿勢こそが、良質な組織風土を醸成するのである」(91ページ)

赤城乳業では、「言える化」を実践することで業績を高めることを実践しているのですが、一方で、遠藤さんは、「組織というのは、『言えない化』、『言わない化』に陥るのが普通」と述べておられます。ですから、私は、「言える化」は、業績を高めるための働きかけではなく、組織が硬直化しないための働きかけだと考えるべきだと思っています。そして、「言える化」によって組織の硬直化が進行しないため、赤城乳業は業績を高めているのでしょう。さらに、最近、起きている会社の不祥事では、経営者の方が、そろって、「現場で起きていることが伝わってこなかった」と弁明しています。

このような言葉を聞くと、私は、「大企業の経営者なのに、組織は、『言えない化』に陥るのが普通と考えていないのか、そうなることを前提に、末端の情報を集める役割が自分にあることを認識していないのか」という憤りを感じます。話しを戻すと、私は、実は、経営者の方が「言える化」や「聴ける化」を実践するためには、相当の労力が必要だと感じています。恐らく、多くの経営者の方は、「つべこべ言わず、オレの言った通りに動けばいいのだ」と、心の中で思うことがあるのではないでしょうか?

でも、その言葉を飲み込んで、部下の提案を一方的に聞いて、仮に、その内容が自分の考えと違っていてもそれに賛同し、さらに背中を押す役割を貫かなければならないのです。しかし、これこそが、経営者の真の役割であると受け止められなければ、赤城乳業のような経営は実践できないのでしょう。これについては、経営者としてはつらい面があるかもしれませんが、赤城乳業が実践して成功している以上、経営者の方が、それを受け止めるかどうかしかないのではないでしょうか?

2023/9/25 No.2476

 

コオウンド経営

[要旨]

良品計画は、2021年に打ち出した中長期計画の中で、コオウンド経営の実践を掲げました。コオウンドとは、「社員が所有する会社」という意味ですが、社員が大株主となることで、「自分たちの会社」という意識が高まり、社員一人ひとりがオーナーシップを発揮するようになることが期待されています。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、日本でパワハラがなくならない理由は、経営者がマネジメントに関して学んでいないから、すなわち、自分自身の実体験だけを根拠に、『素』のまま部下をマネジメントしようとしてしまうからであり、一方、マネジメント教育が進んでいる米国では、経営者やリーダーは、その「役割」を遂行するために、「演じる」ことを学んでいるということを説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、組織風土を改善している会社の事例として、良品計画の事例を紹介しています。「良品計画は、『感じ良い暮らしと社会』の実現を企業理念として掲げ、国内外で1,000を超える『無印良品』、『MUJI』の店舗を運営している。2021年に、新たな中長期計画を打ち出し、2030年に、売上高3兆円、営業利益4,500億円、店舗数2,500店舗などのアグレッシブな目標を掲げた。その中のひとつの柱として掲げたのが、『コオウンド経営の実践』である。

『コオウンド』(co-owned)という言葉は耳慣れない人も多いと思うが、わかりやすくいえば、『社員が所有する会社』という意味である。社員が大株主となることで、『自分たちの会社』という意識が高まり、社員一人ひとりがオーナーシップを発揮するようになることが期待されている。(中略)社員は『従業員』であり『経営者』であり『株主』であるという、3つの役割を担うことになる。(中略)従来のような『会社VS社員』という構図ではなく、『会社=社員』という『新しい共同体』を目指しているのである」(89ページ)

かつての日本の株式会社は、法律上は株主で構成される株主総会が最高意思決定機関でした。でも、実際には、従業員が多くの意思決定に関わり、また、経営者も従業員から昇格する例がほとんどでした。そのため、株主総会は、従業員から昇格した経営者の提案した方針を、ただ後から追認するというだけの、形式的な機関に過ぎませんでした。その一方で、従業員は会社に雇われているというよりも、自分が支えているという自負もある、すなわち、帰属意識が強かったため、それが会社の業績を支えていたという面もありました。

ところが、バブル崩壊後は、年功序列や終身雇用といった、従業員の帰属意識を維持する仕組みが崩れてきたため、それが、遠藤さんの指摘するような、組織風土も崩れる要因になっているのだと思います。しかし、コオウンド経営では、従業員が株主でもあるため、実際に事業に関わっている従業員が、株主として意思決定に関わることができるので、従業員の帰属意識が高まる仕組みだと思います。とはいえ、私は、コオウンド経営の仕組みを採り入れれば、組織風土に関する課題がすべて解決するとは考えていませんが、組織風土を維持することに大きく資することに間違いはないでしょう。

2023/9/24 No.2475

 

経営者は役割を遂行するために演じる

[要旨]

経営コンサルタントの遠藤功さんによれば、日本でパワハラがなくならない理由は、経営者がマネジメントに関して学んでいないからだと指摘しています。そこで、自分自身の実体験だけを根拠に、『素』のまま部下をマネジメントしようとしてしまうようです。一方、マネジメント教育が進んでいる米国では、経営者やリーダーは、その「役割」を遂行するために、「演じる」ことを学ぶそうです。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、組織風土が劣化する過程で、組織内のコミュニケーションが不足するが、それは、経営者が、「コミュニケーションとは、『伝える』ではなく、『伝わる』ことである」と認識できないでいるからであり、それを防ぐためにも、経営者はコミュニケーションの確保に注力しなければならないということについて説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、組織風土が劣化する原因について、コミュニケーションの不足の他に、パワハラを挙げておられます。しかし、日本では、パワハラがなかなか減らないとご指摘しておられます。「なぜ、日本企業からパワハラは根絶されないのか?そのひとつの理由は、組織マネジメントに携わるリーダーたちが、何の勉強もせず、合理的、科学的な組織マネジメントができないからである。自分自身の実体験だけを根拠に、『素』のまま部下をマネジメントしようとする。自分は怒鳴られて育ったのだからと、当然のように部下を怒鳴りつけ、平気で人の心を傷つける。

マネジメント教育が進んでいる米国では、経営者やリーダーは、その『役割』を遂行するために、『演じる』ことを学ぶ。『リーダーらしい態度とは何か』、『部下を鼓舞するコミュニケーションはどのように行うべきか』などを、組織行動論や組織心理学をもとに、体系的に学ぶ。上の立場に立つ人ほど、自分自身を捨て、リーダーとして組織を最適化するために演じなくてはならない。パワハラ研修などでお茶を濁すのではなく、合理的な組織マネジメントができるリーダー教育こそが求められているのだ。風土劣化の最大の原因は、社長をはじめとする経営幹部の不用意な言動にあると言っても過言ではない。経営者が襟を正し、自らを変える努力をしなければ、ほかの施策をいくら講じようと成果は上がらない」(86ページ)

かつての日本の会社では、従業員が論功行賞で出世し、管理職にることは珍しくありませんが、管理職になれば、当然に部下をマネジメントする役割を求められます。しかし、論功行賞だけで管理職に昇進した従業員は、マネジメントについて学ぶ機会もなく、また、マネジメントされた経験もないことから、遠藤さんも述べておられるように、「自分は怒鳴られて育ったのだからと、当然のように部下を怒鳴りつけ、平気で人の心を傷つける」しかできなくなってしまうのでしょう。本旨からそれますが、日本では、ビジネスパーソンが、せっかく起業したにもかかわらず、その後、事業がうまく行かなくなるという例が、しばしば、見られます。

私は、これも、事業そのものについては専門性を持っているものの、マネジメントについては勉強せずに、起業してしまうことが原因ではないかと分析しています。話しを戻すと、遠藤さんは、「マネジメント教育が進んでいる米国では、経営者やリーダーは、その『役割』を遂行するために、『演じる』ことを学ぶ」と述べておられます。すなわち、マネジメントを担うことになれば、その役割を演じなければならないくらい、行動も変えなければならないということです。したがって、これから経営者やマネージャーに就こうとする人は、マネジメントを学ぶことは当然ですが、それだけでなく、その役割を「演じる」必要もあるということを、深く認識しなければならないと、私は考えています。

2023/9/23 No.2474

 

『伝える』ではなく『伝わる』が重要

[要旨]

経営コンサルタントの遠藤功さんによれば、組織風土が劣化する過程で、組織内のコミュニケーションが不足するとご指摘しておられます。すなわち、多くの経営者は「コミュニケーションとは、『伝える』ではなく、『伝わる』ことである」ということを認識できないでいるからのようです。したがって、経営者の方は、コミュニケーションの重要性を深く認識し、不足することのないよう、様々な働きかけを継続して実践することが求められています。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、かつての日本の会社では、「日本的経営の三種の神器」があったことから、組織のモチベーションが保たれ、会社が成長しましたが、かえってそのことが、日本の会社の経営者にマネジメントスキルを身につけることの必要性を感じさせなくなり、そのような「素人」の経営者が組織風土を劣化させ、業績に悪影響をもたらすことになったということについて説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、組織風土が劣化する過程において、組織内のコミュニケーションが不足するということを述べておられます。「組織風土が劣化する過程においては、組織内のコミュニケーションが決定的に不足する。上からは指示や命令といった、上意下達のコミュニケーションだけが行われ、下からは何も言えなくなる。確認したいことがあっても、ものが言えない空気が漂っているので、下は右往左往し、疑心暗鬼が生まれる。

コミュニケーション不足が原因で、上が求めていたように物事が進まなければ、上から叱責され、ますます何も言えなくなってしまう。まさに、『組織的コミュニケーション障害』が発生しているのだ。(中略)上の人間は、下に伝わっていないのに、伝えたつもりでいる。そして、下は伝わっていないのに、それを言えないし、言わない。そんな状況を放置しておいて、意思疎通ができるはずもない。コミュニケーションとは、『伝える』ではなく、『伝わる』であることを理解しなければ、組織風土の劣化は止められない」(81ページ)

組織論研究の第一人者のバーナードが、「組織の3要素は、コミュニケーション、貢献意欲、共通目的」と述べています。したがって、「コミュニケーションが不足すれば、組織風土が劣化する」という遠藤さんのご指摘は、正にその通りです。しかし、多くの経営者は、「コミュニケーションとは、『伝える』ではなく、『伝わる』ことである」とだけ考えてしまうのでしょう。会社内でのコミュニケーションが不足する理由は、このような経営者の方の認識不足だけとは限らないと思いますが、その大きな部分を占めているということに間違いはないと思います。では、どうすればコミュニケーション不足を避けることができるのかというと、それは頭の中で考えるほど容易ではないということも事実だと思います。

ただ、例を挙げると、中小企業ながらも、高い技術力によって、世界的な企業となっている、東京都立川市メトロールでは、1人の社員が年間を通じて全社員と1時間ずつ雑談をするという対話研修を行っています。このような働きかけと業績との間に直接的な因果関係はありませんが、コミュニケーション不足を解消することに大きく資する対応だと思います。もちろん、一朝一夕でコミュニケーション不足が解消されるわけではありませんが、このような、一見すると、遠回りのような対応が、現在は強く求められていると、私は考えています。

2023/9/22 No.2473

 

よい組織風土は所与のものではない

[要旨]

かつての日本の会社では、「日本的経営の三種の神器」があったことから、組織のモチベーションが保たれ、会社が成長しました。すなわち、三種の神器がうまく機能しているときは、組織風土は大きな問題とはなりませんでした。しかし、かえってそのことが、日本の会社の経営者にマネジメントスキルを身につけることの必要性を感じさせなくなり、「素人」の経営者が組織風土を劣化させ、業績に悪影響をもたらすことになりました。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、長い間、終身雇用、年功序列などが続いてきた日本の会社では、自分では何もせず、他者の企画を批判・批評しているだけだったり、自分が決定しなければならない問題を部下に押しつけたりしている、すなわち、周りの人の努力にフリーライドする人が増え、「弛んだ共同体」の状態になっているので、これを打開するためにも、経営者の方は、組織マネジメントを学び、組織の活性化により注力していく必要があるということを説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、フリーライドをするような従業員を排除するためにも、経営者の方は、良い組織風土の醸成をする努力が求められるということについて述べておられます。「日本における伝統的大企業の多くは、年功序列、終身雇用、企業別組合という、いわゆる『三種の神器』をベースにした、いわゆる日本的経営によって、高度成長期に発展し、企業としての基盤を固めた。『大家族主義的』な考え方を重視し、ひとつの同質的な共同体を形成することによって、組織のモチベーションを保ち、会社の成長へとつなげてきた。それがうまく機能しているときは、組織風土は大きな問題とはならなかった。同質性、同一性が色濃く出た集団主義的、全体主義的組織マネジメントの下で、社員たちは懸命に働いた。少なくとも、昭和の時代まではそれが機能した。

しかし、時代が変わり、組織マネジメントの考え方や方法論は大きく変わっている。悪平等を排し、多様性を尊び、透明性の高い組織マネジメントを志向しなければ、組織の風土をよくすることはできない。『社員にやる気があるのは当たり前』、『社員は一生懸命働くのが当然』、『社員は上司に従順』、『社員は不正などしない』とする旧来の考え方は、通用しないばかりか、組織風土を劣化させ、会社の競争力を根っこから削いでしまう原因にもなりかねない。にもかかわらず、組織マネジメントの『素人』が社長や幹部に就き、自己流で脈略のないまま不合理な経営をしている会社が実に多い。そんな会社が、『良い組織風土』を手に入れられるはずもない」(72ページ)

この遠藤さんの指摘も、前回の記事の主旨と同様になりますが、現在は、経営者の方のマネジメントスキルが低いままでは、自社の事業の競争力を高めることができないということです。さらに、遠藤さんは、別のところで、「よい組織風土は、所与のものであるという前提は崩れた」とも述べておられます。これは、かつて、「日本的経営の三種の神器」があったことが、経営者にマネジメントスキルがなくても、自社をうまく経営できるようにしてしまい、そして、その後もマネジメントスキルの重要性を認識する人を減らしてしまったという、望ましくない結果をもたらしてしまったということだと思います。とはいえ、過去のことを悔やんでも何も改善しません。

私は、21世紀はマネジメントの世紀だと思っていますが、マネジメントスキルがなければ、会社の事業を発展させることができないという認識を、多くの経営者の方に持っていただきたいと考えています。そして、難しい病気を治すスキルを持った人が医者であり、複雑な税金の申告をするスキルを持った人が税理士であるのと同様に、厳しい経営環境にあっても事業を改善させることができるような優れた「マネジメント(経営)スキル」を持った人でなければ「経営」者は務めることができないと、多くの人が認識する時代が、1日でも早く到来して欲しいと、私は考えています。

2023/9/21 No.2472