鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『一人当たり利益率』なら勝負できる

[要旨]

アルミ加工メーカーのヒルトップの相談役の山本昌作さんによれば、中小企業は売上では大手に勝てませんが、一人あたり利益率なら十分勝負できるということです。事実、ヒルトップの利益率は20~25%で、大企業を大きく引き離しているそうです。そして、同社がこようになったのは、自社の存在価値を信じ続け、社員や仕組みを改善してきたからであり、中小企業だからといって、必ずしも大企業に勝つことはできないと考えるべきではないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、アルミ加工メーカーのHILLTOP株式会社の相談役の山本昌作さんのご著書、「ディズニー、NASAが認めた遊ぶ鉄工所」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、山本さんは、かつては、単純作業の多い仕事をしていましたが、その後、一念発起して、「白衣を着て働く工場」を実現しようという理想を実現しようと考えた結果、それが実現できたという経験から、理想を実現させるためには、強い意志を持つことが大切ということについて説明しました。

これに続いて、山本さんは、事業規模の小さい会社であっても、大企業に臆する必要はないということについて述べておられます。「2017年冬のボーナスの平均妥結額は『91万6,396円』、製造業の平均は『92万1,907円』です(東証一部上場、従業員500人以上、主要21業種の大手251社調査対象、集計した74社の妥結状況、経団連発表)。この数字を見たとき、町工場の経営者も社員も、『会社の規模も待遇も違うから、大企業と比較してもしょうがない』と考えてしまう。

でも、中小企業だからといって、自分たちを卑下する必要はない。大手企業に真っ向勝負を挑めばいいのです。かつてのヒルトップの社員にも、負け犬根性が染みついていました。『大手と中小は違う』と勝手に壁をつくって、勝手に卑屈になっていました。まだ油まみれになって働いていたときのことです。昼休みに、汚い工場の食堂で弁当を食ベていると、テレビのニュースで、『今年の製造業の平均賞与額は……○○万円です』と紹介されました。

すると、その場に十数人いた社員は、下を向き、目を背け、聞かなかったフリをした。勝負もしていないのに、勝手に『負けた』、『自分には関係ない』と、いたたまれない気持ちになったのでしょう。それを見て、私は悔しくて、何としても負け犬根性を払拭したかった。『なんで見いひんのや。中小企業だからって、下を向く必要はない。おまえらはヤンキー・暴走族かもしらんけど、能力では大企業の社員にも負けてない! 大企業のヤツらはみんな同じで、金太郎飴みたいじゃないか。

“あいつら、金太郎飴のくせに、どうしてオレらよりもポーナスがいいんだ!”と、怒ったらええやんか!』中小企業にとって一番の処方箋、それは、自分の存在価値を信じ続けることです。売上では大手に勝てない。けれど、『一人あたり利益率』なら十分勝負できる。通常、この業界の利益率は平均3~5%、高くて8%ですが、ヒルトップの利益率は『20~25%』。大企業を大きく引き離しています。

ヒルトップの企業規模を考えると、京都府内の売上高ランキングに入ることはありません。でも、仮に『一人あたり利益率ランキング』があったら上位を狙えます。『小さい会社にも価値がある。その価値は、大企業以上。アルミ加工の分野では絶対にどこにも負けない……』そう言い続けた結果、社員が変わり、仕事のしくみが変わり、利益率が変わり、『油まみれの町工場』は『夢工場』に変わったのです」(66ページ)

中小企業庁が公表している、2016年版中小企業白書概要によれば、労働生産性(従業員一人あたり付加価値額)で、大企業の平均を上回る中小企業は、製造業で約10%、非製造業で約30%あるそうです。多くの大企業は、経営資源の量や質において中小企業よりも優位であることに間違いはありませんが、中小企業だからといって必ずしも大企業に劣るわけではないということも事実です。

では、どのような中小企業が収益力が高いのかというと、「経営者が(1)ビジョンを明示し、(2)従業員の声を聞きながら、(3)人材育成、(4)業務プロセスの高度化などを行うことにより、さらに生産性の向上につなげているという共通点があった」ということです。もちろん、中小企業が大企業平均を上回る労働生産性を実現することは、頭で考えるほど容易ではないし、一朝一夕に実現することも難しいでしょう。

しかし、「自社は中小企業だから…」と考えて、大企業に勝つことはできないと考えることも誤りだと思います。むしろ、最近は、情報技術の進展によって大企業と中小企業の「経営力」の格差は縮小していると、私は考えています。したがって、山本さんも述べておられるように、「中小企業だからって下を向く必要はない」のです。

2025/1/23 No.2962

 

目標や夢を持つことで道が開ける

[要旨]

アルミ加工メーカーのヒルトップの相談役の山本昌作さんは、かつては、単純作業の多い仕事をしていましたが、その後、一念発起して、「白衣を着て働く工場」を実現しようという理想を実現しようと考えた結果、それが実現できたということです。よく、自分の会社は下請けから脱することは難しいと、自分で天井を決めている経営者がいますが、そのように考えている限り、下請けを抜け出すことはできないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、アルミ加工メーカーのHILLTOP株式会社の相談役の山本昌作さんのご著書、「ディズニー、NASAが認めた遊ぶ鉄工所」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、山本さんによれば、多くの会社は自社の事業領域を限定してしまいがちですが、自社の事業領域の周辺にビジネスチャンスが隠れていることがあるので、自社の事業領域にこだわらず、柔軟に事業領域を広げることが大切だということについて説明しました。

これに続いて、山本さんは、自分の理想を実現しよとするときは、想いの強さが鍵になるということについて述べておられます。「ヒルトップの工場見学を終えた同業者のA社長から、自嘲ぎみにこんなことを言われたことがあります。『立派な本社ビルと、“ヒルトップ・システム”(同社独自の生産管理システム)があれば、そりゃあ、多品種・単品・24時間無人加工だって実現できますよね。やりたいこともできるでしょう。うちのように社員が10人しかいない小さな会社には、どだい無理な話です』この社長は、大きな勘違いをしています。

本社ビルと『ヒルトップ・システム』があるから、『脱量産・脱下請・脱肉体労働』を実現できたのではありません。順番が『逆』。『夢工場をつくるぞ!』、『白衣を着て働く工場にしてみせるぞ!』と夢を持ち続けたからこそ、本社ビルと『ヒルトップ・システム』を完成できたのです。この社長と私に違いがあるとしたら、それは『想いの強さ』だけかもしれません。A社長がいつまでも下請から脱却できないのは、『しょせん下請の町工場は、油まみれになって機械を動かすしかない』と自分の天井を決めているからです。

『無理だ』と思っている限り、絶対に『無理』。『無理だ』と思うと視野が狭くなり、新たな可能性やビジネスチャンスに気づけなくなる。しかし私には、『無理だ』という概念がありません。人は、目標や夢を持つことで道が開けていきます。私たちの夢は、『丘の上』に立つこと。大企業が富士山なら、うちは丘。ヒルトップという社名には、『アルミ加工の分野で頂点を目指す、絶対にどこにも負けない』という強い想いが込められています」(61ページ)

山本さんが述べておられる「想いの強さ」ですが、これについては多くの経営者の方も同様のことを述べておられます。例えば、かつて、京セラを創業して間もない頃の稲盛和夫さんは、松下幸之助さんの講演を聴きにいったとき、松下さんが「景気がよくて経営に余裕のある時に、景気が悪くなった時に備えて、経営資源を蓄えておくというダム式経営を実践することが大切だ」と述べたそうです。

これに対し、ある経営者から、「どうすればダムをつくれるのか、その方法を教えて欲しい」と質問があったそうです。そこで、松下さんは、「それは自分にもわからないけれど、ダムをつくろうと思うことが大切だ」と回答したそうです。この松下さんの回答に対し、多くの経営者は松下さんの回答に落胆したそうですが、稲盛さんは頭に衝撃が走り、「目標を達成しようという強い志が大切なのだ」と考えたそうです。

そして、山本さんや松下さんが述べておられる「強い意志が大切」ということは、繰り返しになりますが、多くの成功した経営者の方が述べておられるし、また、ほとんどの方がご理解できるご指摘だと思います。ところが、強い意志を持つことは、実際にはなかなか難しいようです。そこで、私がコンサルティングを行うときには、顧問先の経営者の想いを実現するための活動を継続して実践できるよう、働きかけを行っています。

その方法はひとつだけではありませんが、私は、まず、5年後の会社の状態をイメージしてもらいます。そして、それを達成するための道筋を、1年ごとに明確にしてらいます。さらに、現在から1年後の状態にするための道筋を、12か月分、明確にしてもらいます。さらに、現在から1か月後の状態にするために、今週、今日、何をするかを明確にしてもらいます。これは目標の細分化という手法です。繰り返しになりますが、目標の細分化だけが目標を達成する手法ではありません。

でも、成行的に日々を過ごすよりも、細分化した目標を目指して活動していく方が、確実に理想に近づくことは間違いないと言えるでしょう。実のところ、このような私の提案を否定的に捉える経営者の方は少なくありません、というよりも、そういう経営者の方の方が多いと、私は感じています。もちろん、生まれながらに優れた才能を持っているために、若くして成功している経営者はたくさんいます。そのような経営者は、私が提案するような地味な活動は不要です。

ただ、そういう才能の溢れる経営者は、数は少なくありませんが、割合としては極めて低い存在です。世の中は、圧倒的に「普通の人」(私自身も含まれます)ばかりです。でも、普通の人でも強い志を持てば、才能のある成功者に近づくことができるでしょう。逆に、どんくさい方法はばかばかしいと考えている方が、もし、普通の人だったら、その人はいつまでも普通の人のままになることは言うまでもありません。

2025/1/22 No.2961

 

悪球を打つと本塁打になることもある

[要旨]

アルミ加工メーカーのヒルトップの相談役の山本昌作さんによれば、多くの会社は自社の事業領域を限定してしまいがちだそうですが、自社の事業領域の周辺にビジネスチャンスが隠れていることがあるので、自社の事業領域にこだわらず、柔軟に事業領域を広げることが大切だということです。


[本文]

京都府宇治市にあるアルミ加工メーカーのHILLTOP株式会社の副社長(出版当時、現在は相談役)、山本昌作さんのご著書、「ディズニー、NASAが認めた遊ぶ鉄工所」を拝読しました。山本さんは、同書で、自社の得意とする分野から少し外れたところに、成功する事業分野があるということについて述べておられます。「自分のストライクゾーン(得意分野)にきた仕事をしていれば、それなりの結果は得られます。

けれど、それ以上の結果も、それ以上の楽しさも得ることはできません。『自分たちの技術はこの範囲にしかない』、『自分たちの得意分野はこれだ』と決めつけていると、目の前にあるチャンスを逃してしまいます。なぜなら、チャンスは、『ストライクゾーンから少し外れたボールゾーン』にあるからです。ヒルトッフでは、あえてストライクゾーン(業務範囲、作業範囲)を決めていません。

中小企業の多くは、『これはうちでやる仕事だけど、それはうちの仕事ではない』、『これはできるけれど、これはできない』と勝手にストライクゾーンを決めています。しかもそのストライクゾーンが針の穴ほど小さい。ストライクゾーンを決めてしまうと、『振ったら当たる仕事』、『自分たちにできる仕事』しかやらなくなります。しかし、常にボールがストライクゾーンにくるとは限らないのですから、『打てる、打できない』で仕事を選択してはダメです。ストライクゾーンから外れていでも、『面白そう』なら、とリあえずパットを振ってみる。

悪球に手を出すと空振りするかもしれない。しかし、場外ホームランになることもある。ヒルトップがロボット、医療、パイオ、宇宙といった先端産業で成果を挙げることができたのは、『直接的な利益につながらない仕事』、『やったことのない仕事』でも、見逃さずにフルスイングした結果です。人間の機能は、単機能ではありません。『この会社の、この仕事をするには、このスキルが必要』としても、それに特化しすぎて、それ以外の機能を封印するのはもったいない。

人間には、何でもできる高いボテンシャルが備わっているのですから、それを発揮できる環境を整えるのが企業側の責任です。ヒルトップの社員食堂は、自主運営ではありません。外部の食堂業者(株式会社都給食)に委託しています。新社屋を建設するとき、社員はまだ6人でした。でも私は、『100人以上の社員が一度に利用できる社員食堂』をつくろうとした。社員食堂こそが、社員を活性化し、会社を大きく変えると確信していたからです。

社員食堂の運営を、私の大学の後輩である都給食の西島週三社長に託そうと考えました。西島社長に『たったの36人なんだけど、社員食堂をやってくれ』と頼んだところ、彼は首を横に振ってこう反論されました。『36人では少なすぎます。200人くらいの規模でないと、採算が取れない。それにうちは給食業者です。社員食堂はやったことがない』頭にきた私が、『おまえ、今までいろいろと相談に乗ってやったのに、オレに恩はないのか』と詰め寄ると、『先輩にはものすごく恩があるんやけど、この人数では絶対に無理です』と頑なに断ってきました。

私も負けずに反論しました。『おまえ、いつかは社員食堂の市場に出たいと言うてたやないか。よく考えてみろ。社員食堂の運営をしたことがないおまえに、いきなり大口の取引がくると思うか?オレは思わない。だったら、たった36人やけど、まずはヒルトップで結果を出せばいい。そして、その実績を売り込めばいい。ダムウェーター(荷物を運搬するための小型エレベータ)でもなんでも、必要な設備は全部こちらで用意する。だから安心して、力をふるってほしい』私に押し切られる形で、西島社長は、渋々引き受けることになりました。

その後、都給食は中小企業に特化した『社員食堂ビジネス』で大きく成長しています。当初、西島社長は、『給食事業者の競争相手は同じ業界にいる』と考えていました。しかし、給食薬者のライバルは、給食業者だけではない。ファストフードであり、コビニエンスストアであり、ケータリングカー(移動阪売車)です。同業者を相手に、今までと同じ戦い方をしても、企業の成長は見込めません。だとすれば、時代の変化に合わせて、目線を変え、やり方を変え、新しいビジネスモデルを構築する必要があるのです」(56ページ)

多くの中小企業では、自社がどういう事業をするかということは、自社が得意な分野としていると思います。それは、自社の得意分野が最も競争力が高いと考えるからであり、ある意味、当然のことです。しかし、自社の得意とする分野が、必ずしも需要があるとは限りません。このことは、裏を返せば、自社が得意としていない事業分野であっても、ライバルがいないブルーオーシャンの市場で事業を展開すれば、独り勝ちできるわけです。

例えば、ワークマンの専務取締役の土屋哲雄さんは、市場セグメントの分析をした結果、アウトドア製品は大手企業が多く参入していたものの、低価格製品はどの会社も参入していなかったことがわかり、同社は「ワークマンプラス」という新しい店舗で低価格アウトドア製品に参入し、成功を収めています。とはいえ、現実にはブルーオーシャンは簡単に見つけることはできません。ですから、山本さんが「ストライクゾーンから少し外れたボールゾーン」を常に意識しておくことが、大切なのだと思います。

2025/1/21 No.2960

 

現場からの不平不満をどう活かすのか?

[要旨]

ビジネスコーチの、秋山ジョー賢司さんによれば、社長が部下に会社の問題点を指摘してもらうと、それを同僚や上司への個人批判として受け止められがちですが、そうではなく、部下がそう感じることが現場で起きていて、何らかの改善にあたらなければならないと考えることが大切だということです。これを行わないと、事業の成果を達成することよりも、会社内で波風を立てないことが優先されてしまい、円滑な事業活動の妨げとなっているものがいつまでも取り払われなくなり、競争力がそがれてしまうということです。


[本文]

ビジネスコーチの、秋山ジョー賢司さんのポッドキャスト番組を聴きました。秋山さんによれば、社長が部下に対して、会社の問題点をあげてもらって、それを会社内の共通認識として解決にあたろうとしても、社長は、部下からの問題点を、部下個人の不平不満と捉えてしまいがちであるので、部下から問題点をあげてもらう前に、部下からの指摘は、部下が現場で何かを感じているものがあると認識する必要があるということです。私自身もそうですが、人は、自分にとって不都合なことがあると、それは自分以外の誰かに原因があると考えがちです。

それと同時に、自分が仕事上の問題をつくっている場合であっても、それに気づかないということがほどんどだと思います。そこで、社長が部下に対して会社の問題点と感じることををあげてもらうと、部下は、同僚や上司に対して改善して欲しいと感じていることをあげてしまうのは、ある意味、仕方がないことなのかもしれません。そして、他人の問題点を指摘した部下も、同僚や上司から見れば改善して欲しいところがあるので、社長は、その部下に対して「自分を棚に上げている」と感じてしまうのだと思います。

そこで、社長が部下に対して問題点をあげてもらうときは、そうなってしまうことをあらかじめ想定した上で依頼しなければならないと、秋山さんはご指摘しておられるのだと思います。これに対して、秋山さんは、部下が問題点を指摘したことに対して、「他人の批判をするのはおかしい」と受け止めるのではなく、「部下が問題点と感じているのは、事業現場でどういうことが起きているからなのか」を考えるようにしなければならないということです。

なぜならば、部下が問題と感じることが現場で起きているという事実を認識しないままでいると、成果を達成することよりも、会社内に波風が立たないことを、組織内で無意識に優先してしまうようになるからだそうです。これについては、多くの方が心当たりがあるのではないかと思います。私も心当たりがあります。やはり、会社内で問題があると感じていても、それを指摘すると個人批判をしていると受け止められることを恐れて、見て見ぬふりをするということは、しばしば、起きていると思います。

例えば、歴史の古い会社には、既得権益の「聖域」があり、社長でさえなかなか口出しできないということがあるのは、その一例だと思います。でも、そういった、波風を立てないことによって改善が遅れ、業績が下がってしまったという会社は少なくありません。したがって、経営者にとってはとてもつらい役割になると思いますが、部下から問題点を指摘してもらい、それを改善につなげるという活動を地道に行っていくことは、極めて重要であるということを、秋山さんのお話をきいて改めて感じました。

2025/1/20 No.2959

 

融資は受けない方がよいのか(3)

[要旨]

資金不足の要因は、主に、収支ずれと不採算取引の2つがあります。前者は、通常の事業活動で自ずと解消しますが、後者は、取引条件などを改善しなければ、いつまでも解消しません。そこで、毎月、資金管理と収益管理を行っていれば、事業活動を安定化させることができるので、融資を受けることへの懸念もなくなっていくでしょう。


[本文]

今回は、前回の、「融資は受けた方がよいか」という質問への回答の続きを説明します。前回は、融資を受けることに消極的な経営者は、リスクを大きくしないようにしたいと考えていることがその要因のひとつのようですが、そもそも、ビジネスはリスクに挑む活動でもあることから、リスクマネジメントについてしっかりと学び、果敢にビジネスに挑むことが望ましいということについて説明しました。では、なぜ、ビジネスに挑もうとしていながら、一方で、融資を受けることには消極的な経営者がいるのかというと、私は、そのような経営者は、会計に関する知識があまり多くないからではないかと思っています。

これは、当たり前すぎる理由と言える理由だと思います。したがって、融資に否定的な経営者の方は、初歩的な知識を身に付けるだけでも、融資を肯定的に考えることができるようになると思います。では、会計についてどのような知識が必要になるのかというと、これはあまりにも膨大な量になるので、今回は、資金分足に関する原因について説明したいと思います。事業活動で資金不足が起きる要因は、大きく2つあります。そのひとつは、資金収支のずれによるもので、もうひとつは、不採算取引によるものです。

まず、資金収支のずれとは、売上代金の回収よりも、仕入代金の支払いや経費の支払いを先に行わなければならないときに起きるものです。例えば、商品を販売し、その代金は翌々月末日に受け取るという条件で取引をしている会社が、一方で、商品の仕入代金は仕入れた月の翌月という場合、売上代金の受け取りより前に、仕入代金を支払わなければならないので、資金不足が起きてしまいます。ただし、このような資金不足は、売上代金の受け取りによって、短期間で解消が見込まれます。

次に、不採算取引による資金不足は、例えば、他社との競合が激しいために、販売価格が仕入価格より低い条件でなければ販売できない場合、または、販売価格が仕入価格とほぼ変わらず、経費を転嫁できない場合などに起きます。これは、受け取る金額が支払う金額より少ないので、当然に起きる資金不足ですが、将来、利益が得られるまで解消しません。繰り返しになりますが、収支ずれによる資金不足は、自ずと解消するのに対し、不採算取引による資金不足は、放置しておいても解消しません。

したがって、不採算取引はいち早く早く発見し、何らかの対処をしなければ、その資金不足はどんどん大きくなってしまいます。そして、この2つの資金不足の要因は容易に理解できるものですが、会計があまり得意でない経営者の方は、資金不足が起きていることは把握できても、その原因が何なのかが分からないということが多いようです。その理由についてもさまざまですが、最も大きな理由は、毎月、利益額や、収支ずれを確認していないということが挙げられます。

例えば、毎月、利益額を確認していない会社では、経営者の方が、頻繁に受注が来るので利益が得られていると考えていたところ、決算書が作成されてから、実は、自社が赤字になっていたことがわかったということは珍しくありません。その結果、銀行から追加の融資を渋られ、資金繰りが行き詰まって倒産し、経営者が自己破産せざるを得なくなるという場合も出てきます。そこで、経営者の方が、もし、毎月、利益額の管理をしていれば、事業を継続させることは容易になり、融資の返済ができなくなるということは起きないと、私は考えています。

このような資金管理は、慣れないうちは労力がかかると感じるかもしれませんが、経営者にとっては必須の役割と言えます。そして、繰り返しになりますが、このような管理を行っていれば、「融資を受けることは避けた方がよい」という否定的な考え方はしなくなるのではないかと思います。ところで、近年、キャッシュフローを管理することが大切と強調する専門家が増えていると私は感じています。

とはいえ、キャッシュフローは事業活動を継続させる必須の要素であって、それは、「ガソリンがなければ自動車は走らない」と言われているのと同じであると私は考えていますが、なぜ、改めて協調しているのか、理由がよくわかりません。最近は、Amazonなどが、キャッシュコンバージョンサイクルといった指標でキャッシュフローの効率化に取り組んでいることが注目されていますが、このような取組は中小企業にはあまり向いていないと、私は、考えています。

もちろん、繰り返しになりますが、事業活動を安定させるためにはキャッシュフロー管理(資金管理)は欠かせませんが、それは、決してキャッシュフローだけを管理すればよいということではありません。もし、キャッシュフローだけを管理していれば、前述したように、不採算の取引があることを見逃してしまう可能性もあり、それでは資金不足が長期間解消しない要因になってしまいます。

したがって、事業を継続させるためには、資金不足を発生させないことと、赤字を発生させないことの2つがポイントになります。そして、当初の質問への最終的な回答ですが、融資を受けることそのものはリスクが高まることではなく、資金管理と利益管理を行うことが事業を継続させるために重要であり、この管理ができれば、融資を受けることの懸念は解消できるということが、私からの回答ということです。

2025/1/19 No.2958

 

融資は受けない方がよいのか(2)

[要旨]

融資を受けることに消極的な経営者は、リスクを大きくしないようにしたいと考えていることがその要因のひとつのようですが、そもそも、ビジネスはリスクに挑む活動でもあることから、リスクに及び腰である姿勢は、経営者にはあまり向いていないと、私は考えています。もちろん、リスクに対処する能力は欠かせないので、リスクマネジメントについてしっかりと学び、果敢にビジネスに臨むことの方が、結果として事業を成功させることができると、私は考えています。


[本文]

今回は、前回の、「融資は受けた方がよいか」という質問への回答の続きを説明します。前回は、融資を受けていない会社が黒字の場合、融資を受けることによって、その黒字額を増やすことができますが、逆に、赤字の会社が融資を受けることによって、その赤字額を増やすことになる、すなわち、財務レバレッジ効果が得られるということについて説明しました。

これに対して、「融資が赤字の原因ではないことはわかったが、それでも、業況が悪化したとき、融資を受けていると、財務レバレッジ効果によって赤字額が大きくなってしまうので、融資は受けない方がよいと思う」と考える経営者の方もいると思います。私は、融資の財務レバレッジ効果に関して経営者の方がどう判断するかは、その方が決めることであり、赤字になったときのことを考えて融資は避けたいと判断することも選択肢のひとつだと思います。

その一方で、事業活動は、そもそも、リスクとの闘いという面もあるので、事業活動に臨みながらも、リスクを大きくしないために融資を避けるという考え方は、経営者としては向いていないのではないかと感じます。もちろん、どのような会社であっても、リスクの顕在化を抑えるための対応は必要なので、リスクマネジメントを学んだり、経営品質を高めたりすることは必要です。

でも、融資を受けることに消極的な考え方は、こういった対応そのものに消極的なのではないかと思います。とはいえ、起業する時点では手探りで活動をしなければならないという面があることも否めません。例えば、Amazonも、当初は、インターネットを活用して書籍の取次販売をするという、小規模な事業として起業しました。しかし、起業してからは、取次販売だけでは顧客からの評価が不十分であると考えるようになり、物流会社を買収し、迅速に商品を届ける体制を整えました。

すなわち、顧客は、商品そのものよりも、迅速に商品が届くことに価値を感じているということがわかり、積極的に投資を行うようになったわけです。この例のように、経営者が、起業後にビジネスに対する考え方を変えることは、しばしば起きていますので、融資を受けることに対する考え方も起業後に変わる可能性もあります。逆に、融資を受けないことに固執することは、ビジネスが成功することの妨げになることもあるのではないかと、私は考えています。この続きは、次回、説明します。

2025/1/18 No.2957

 

融資は受けない方がよいのか(1)

[要旨]

融資を受けていない会社が黒字の場合、融資を受けることによって、その黒字額を増やすことができますが、逆に、赤字の会社が融資を受けることによって、その赤字額を増やすことになります。このような融資の効果を財務レバレッジ効果といいます。したがって、融資を受けることで得られる効果は、業績を赤字にすることではなく、小さな黒字や赤字を、大きな黒字や赤字にすることです。


[本文]

先日、ある読者の方から、「経営者が連帯保証人になって会社が融資を受けると、もし、融資を返済できなくなったときに、経営者も自己破産しなければならなくなるので、融資を受けることはなるべく避けた方がよいのでしょうか」というご質問がありましたので、ここで私の考えについて回答します。質問者の方のような不安を感じるのは、経営環境の変化により、業績が悪化して会社が融資を返済できなくなれば、経営者もほとんどの財産を失うことになり、再び事業を起こすことが難しくなるからと考えるからだと思います。

確かに、経営者がそのような状況に陥る例はありますが、私は、その原因は融資を受けているからだとは考えていません。それを簡単な事例で説明します。ある会社(A社)が、1,000万円の資本金で事業を始めたとします。A社の事業は、1年間で50万円の利益を得ているとした場合、自己資本利益率は5%(=50万円÷1,000万円)となります。

ここで、A社が事業拡大をするために、1,000万円の融資を受けたところ、この融資資金でも同じ利益を得ることができたとすれば、A社の利益は、資本金から得られた利益50万円と、融資資金から得られた利益50万円の合わせて100万円となります。そして、融資利率が3%であるとすれば、100万円から30万円を差し引いた利益は70万円となります。(ここでは、説明を容易にするため、税金や株式配当金は考慮しないこととします)

この場合、A社の自己資本利益率は、7%(=70万円÷1,000万円)となります。すなわち、A社は融資を受けた結果、利益額が増え、資本効率も上昇しました。今度は、逆の事例を見てみます。A社の経営環境が悪化し、融資を受けない状態で30万円の赤字に陥ったとします。A社が融資を受けていない場合、自己資本利益率は▲3%(=▲30万円÷1,000万円)となります。

さらに、もし、A社が1,000万円の融資を受けていた場合、赤字額は60万円になり、さらに利息額30万円を差し引くと、最終的な赤字額は▲90万円になります。その結果、自己資本利益率は▲9%(=▲90万円÷1,000万円)となります。これらのことから分かることは、事業の収益性がよいときは、融資を受ければさらに利益率は向上します。逆に、収益率がマイナスのときは、融資を受けていると、収益率は悪化します。

すなわち、融資は、収益率のよい会社の収益率を高めており、逆に、収益率が悪い会社の収益率をさらに悪化させる効果があり、これを財務レバレッジ効果といいます。レバレッジとは梃子(てこ)のことで、小さな変化を大きな変化に増幅する機能のことを指しています。ですから、融資を受けることは、赤字を増やすことではなく、小さな黒字を大きな黒字にしたり、小さな赤字を大きな赤字にしたりしているのです。この続きは、次回、説明します。

2025/1/17 No.2956