鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

鳴かずんばそれもまたよしほととぎす

[要旨]

松江市にある島根電工の社長の荒木恭司さんは、すべての従業員が優等生である必要はないと考えているそうです。それは、望ましい会社とは、いろんな人がいて、いろいろな仕事があって、それぞれが持ち味に合った仕事をして、バランスをとっていく会社であり、社長の仕事は、従業員の可能性を引き出して、会社にくるのが楽しくてたまらないという環境やしかけをつくることだと考えているからだそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒木さんは、従業員と下請会社などの満足を実現することを通して、顧客満足を実現する、すなわち、「社員が1番、お客さまは3番」という考え方が、真に顧客満足を実現する方法と考え、これにより業績を高めているということについて説明しました。これに続いて、荒木さんは、従業員の適正配置が重要であると述べておられます。

「『社員が一番大切』、そう言うと、『それじゃ、使い物にならない社員が入ってきたらどうするんだ』ときかれることがあります。そんなとき、私はいつもほととぎすの俳句を例に出すようにしています。織田信長は、『鳴かぬなら 殺してしまえ ほととぎす』と詠みました。鳴かせてみせたのは豊臣秀吉、鳴くまで待ったのは徳川家康です。しかし、私はほととぎすが鳴かなくても、それでいいと思っています。人にはそれぞれ持ち味があります。中には、鳴かないほととぎすもいる。それもその人の人生です。いいではありませんか。

『鳴かずんば それもまたよし ほととぎす』と詠んだのは松下幸之助です。(中略)彼は“鳴かないほととぎす”も“鳴くほととぎす”も、ともに企業にとって必要だということをわかっていたのです。今、島根電工グループには550人の社員がいます。全員が全員、優等生であるわけはありません。一生懸命頑張っても、“鳴かないほととぎす”はいます。それでもいいのです。全員が管理職になって、全員が役員になって、全員が社長になれるわけではありません。

そんな風に、みんなが上をめざしたら、会社がぐちゃぐちゃになってしまうではありませんか。いろんな人がいて、いろいろな仕事があって、それぞれが持ち味に合った仕事をして、バランスをとっていく。それが活力ある組織のあり方です。(中略)そして、社長である私の仕事というのは、社員の可能性を引き出して、会社にくるのが楽しくてたまらない、そういう環境やしかけをつくることだと思っています」(128ページ)

会社経営者の方の多くは、自社の従業員は“鳴くほととぎす(優秀な従業員)”であって欲しいと考えていると思います。そして、もし、“鳴かないほととぎす(あまり優秀でない従業員)”がいた場合は、社内教育を受けたり、仕事の経験を積んだりして、“鳴くほととぎす”になって欲しいと考えていると思います。私も、基本的には、そう考えるべきであると思いますが、現実には、鳴くほととぎすはあまり多くないし、鳴かないほととぎすから鳴くほととぎすになる例もそれほど多くないのではないかと考えています。

そういった現実を踏まえ、荒木さんは、松下幸之助のように、鳴かないほととぎすも会社には必要だと考えているのだと思います。ここで、鳴かないほととぎすが、なぜ、会社に必要なのかというと、別の例で言えば、野球チームの全員が、4番打者のような強打者ばかりをそろえたら、よい成績をあげることができるかというと、必ずしもそうとは限らないということです。

出塁率が高い打者、出塁した打者を進塁させるための犠打の上手い打者、出塁したら速く本塁に戻って来ることができる足の速い打者など、それぞれの特徴をもった打者がバランスよくそろっているチームの方が、よい成績をあげるでしょう。すなわち、鳴くほととぎすは鳴くことで会社に貢献していますが、鳴かないほととぎすは鳴くこと以外で会社に貢献していると考えることが妥当だと思います。そして、経営者は、そういったバランスのよい組織をつくる役割を担っていると思います。

また、中小企業でありがちなのですが、鳴くほととぎすかどうかといのは、経営者の価値観に左右されやすいと思います。例えば、営業畑の経営者は、営業活動が得意な従業員を評価しますし、技術畑の経営者は技術に詳しい従業員を評価します。そういった価値観が強い人が経営者のいる会社は、組織全体のバランスが不安定であり、業績にもよくない影響を与えるでしょう。繰り返しになりますが、業績を高めるためには、鳴くほととぎすを増やすことではなく、鳴くほととぎすと鳴かないほととぎすのそれぞれの特性を活かすことができるための、バランスのよい組織をつくることが大切です。

2024/3/5 No.2638

 

社員が1番、お客さまは3番

[要旨]

松江市にある島根電工の社長の荒木恭司さんは、従業員と下請会社などの満足を実現することを通して、顧客満足を実現する、すなわち、「社員が1番、お客さまは3番」という考え方が、真に顧客満足を実現する方法と考え、これにより業績を高めているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒木さんは、管理職は営業マンを育てる役割があり、さらに、社長は、営業マンを育てる管理職を育てる役割があると考えており、こうした考えに基づいて人材育成をしてきた結果、同社の業績は向上してきたということを説明しました。これに続いて、荒木さんは、島根電工グループの特色について、「社員を大切にすること」ということについて述べておられます。

「島根電工グループの特色をひとつだけあげろ、と言われたら、私は、迷わず、『社員を大切にすること』と言うでしょう。以前は、『顧客第一主義』を掲げていたのですが、お客さま第一で制度や仕組みをつくっていくと、どうしても、社員に無理がかかってしまいます。そこで、島根電工グループでは、(1)社員とその家族が1番、(2)関係する会社(卸会社・メーカー・下請会社)の社員とその家族が2番、(3)お客さまが3番、(4)地域が4番、(5)株主が5番、の順にしています。

すると、お客さまの中には、『おまえは社員が大事で、お客さまは3番か』と文句を言ってくる人もいます。確かに、お客さまは大事です。でも、お客さまを第一の優先順位にすると、会社がおかしくなってしまうのです。(中略)最近は、競争が厳しくなってきたので、設備工事の会社でも、『24時間対応』を売りにするところがあります。そんなことをしたら、社員がかわいそうです。24時間、お酒が飲めないではありませんか。1番大切なのは、社員とその家族。

なぜ、家族まで含めるのかというと、家族は会社にとって、1番大切な社員を支えてくれる存在だからです。次に大切なのは、卸会社・メーカー・下請会社など、関係する会社とその家族です。取引企業は、私たちと一心同体、家族同然です。(中略)そして、3番目がお客さま。順番は3番目ですが、社員を大切にして、取引先を大切にすれば、大切にされた社員と取引先はお客さまのことを大切にしますから、結局、お客さまが大切にされることになるのです」(120ページ)

荒木さんは、「社員を大切にすることによって、お客さまを大切にする」と述べておられますが、私も、その通りだと思います。しかし、実際には、「お客さま第一主義」を掲げている会社は少なくありません。その理由の1つは、「お客さま第一主義」を掲げることは、顧客からの印象がよくなるからです。もう1つは、「お客さま第一主義」を金科玉条のようにして、「お客さまのためだから…」と、無理強いをしやすくなるからです。

しかし、そのような方法では、本当のお客さま第一は実現できないでしょう。でも、荒木さんも述べておられるように、「社員を大切にすることによって、お客さまを大切にする」という考え方は、顧客満足をどのように実現するのかという道筋を明確にしています。だからこそ、より確実に顧客満足を実現できると言えます。確かに、荒木さんのように、「3番目がお客さま」というと、顧客対応の優先順位が3番目という印象を持たれてしまうかもしれません。

でも、3番目というのは、優先順位ではなく、満足をしもらう順番であり、最終的には顧客に満足してもらうということです。したがって、印象をよくするための「顧客第一主義」を掲げることは避けることが賢明であり、荒木さんのように、顧客満足を実現するために、まず、従業員満足を実現するというステップを踏むことが大切だと思います。

2024/3/4 No.2637

 

社長の役割は人を育てる人を育てること

[要旨]

松江市にある島根電工の社長の荒木恭司さんは、管理職は営業マンを育てる役割があり、さらに、社長は、営業マンを育てる管理職を育てる役割があると考えているそうです。これは、「上に立つ人間がすることは、自分がスーパーマンになることではなく、ヒットをたくさん打つ人間をつくること」と考えているからであり、実際に、こういった活動によって、同社の業績は向上しているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、島根電工は、小口の顧客を対象とするビジネスモデルで成功しましたが、荒木さんは、他社が同じことをしようとしても、島根電工のようなよい組織風土がなければ、利益を出すことはできないと考えており、事業を成功させるためには、よい組織風土が必要になるということを説明しました。これに続いて、荒木さんは、経営者は「人を育てる人」を育てる役割があるということについて述べておられます。

「私は、社内で何度もナンバー1になったことがある、バリバリの営業畑の人間ですが、管理職になってからは、私が率先して仕事をとってくることはありません。誰かがスーパーマンである必要はないと思っているからです。スーパーマンのように、ものすごい営業マンがいても、その人が辞めてしまたら、会社は傾いてしまいます。上に立つ人間がすることは、自分がスーパーマンになることではなく、ヒットをたくさん打つ人間をつくることです。そして、社長である私の仕事は、『ヒットをたくさん打つ人間をつくる』監督をつくることです。そうすれば、仕事は向こうからどんどんやってきます。

たった130万人しかいない所得最下位エリアの島根県鳥取県で、155億の工事がやってくるのです。では、『ヒットをたくさん打つ人間』とはどんな社員でしょうか。それは決して、お客さまからお金をたくさんむしりとってくる社員ではありません。お客さまを感動させられる社員です。どうやったら、そんな社員をつくれるか。お客さまを感動させるためには、まず、社員を感動させなければいけません。社員自身が感動しなくて、感動させることはできないからです。

私は、社員全員に、リッツ・カールトンの本を読んでもらう『感動研修』を行っています。(中略)そして、休日を利用して、『感動研修』を行っています。午前中は、私が本の解説をします。午後は、社員たちが自身がどうすればお客さまを感動させることができるのかについて話し合います。(中略)全社員が同じ本を読んで、同じように感動すると、会社は格段に動かしやすくなります。同じ本を共通のベースにして、『感動』というテーマで取り組むので、課題が共有しやすいからです」(54ページ)

荒木さんは、管理職は部下を育て、経営者は管理職を育てる役割があると述べておられますが、これについては意見が分かれると思います。経営環境が厳しい中にあっては、幹部や経営者が契約をしなければならない場面があるのに、経営者や管理職が人材育成に注力することは、業績を下げる要因になると考える方もいると思います。私も、かつて、経営者や管理職も、営業活動が必要と考えていました。

でも、荒木さんが述べておられるように、「スーパーマンのように、ものすごい営業マンがいても、その人が辞めてしまたら、会社は傾いてしまう」、すなわち、営業活動が属人的になりすぎてしまうと、組織的な活動はできなくなってしまいます。現実には、顧客の中には、部長や社長と商談したいという要望を持つ人もいると思います。でも、そのような事情がない限り、私は、原則的に営業担当者に営業活動を任せ、幹部や経営者は、部下を育てることに軸足を置くことが望ましいと考えています。しかし、そうはいっても、幹部や経営者が営業活動を行う会社の方が多いのが現実ではないでしょうか。

その理由として考えられることは、1つは、経営者自身が、人材育成よりも、営業活動をしたい、自分が「スーパーマン」的な存在でありたいと考えているからだと思います。もうひとつは、部下の育成は必要と感じているし、実際に育成もするけれど、軸足は営業活動であり、その合間に部下育成をすればよいと考えているからだと思います。でも、荒木さんは、「管理職になってからは、私が率先して仕事をとってくることはありません」と述べておられるように、部下育成に軸足を置いています。

これは、事業活動は組織的活動であり、仕事が属人的になれば、組織的活動の意義が薄れると、荒木さんが考えているのだと思います。確かに、営業スキルの高い経営者が営業活動をすることで、大きな仕事を受注できると思います。でも、営業スキルの高い経営者が、その経営者のスキルの半分だけでも習得した部下を何人も育てる方が、効率的な営業活動ができると思います。そして、スーパー営業マンが数名いる会社よりも、スーパーとは言えなくても優秀な営業マンがたくさんいる会社の方が、業績は高くなることは間違いないのではないでしょうか。

2024/3/3 No.2636

 

仕組は真似できても風土は真似できない

[要旨]

松江市にある島根電工の社長の荒木恭司さんは、小口の顧客を対象とするビジネスモデルで成功しました。しかし、荒木さんは、他社が同じことをしようとしても、島根電工のようなよい組織風土がなければ、利益を出すことはできないと考えているそうです。すなわち、事業を成功させるためには、ビジネスモデルだけでなく、よい組織風土が必要になるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒木さんは、部下たちに対して、顧客を自分の大切な人と同じように接するよう指導しているそうですが、その理由は、顧客の95%は、不満を感じても口にせず、次からは、黙って他の会社に仕事を依頼してしまうので、そのようなことになってしまうことを防ぐために、丁寧に接することが求められるからということについて説明しました。

これに続いて、荒木さんは、顧客に満足してもらう要素として、会社の風土が重要であるということについて述べておられます。「小口のお客さまと対象とする、『おたすけ隊』のおビジネスモデルは成功を納めました。でも、『このやり方はもうかる』と、仕組みだけを導入しても、決して私たちのように、利益を出すことはできないでしょう。

仕組みをつくり、組織をつくり、制度をつくっても、結果は出てきません。何が違うのか。文化です。風土といってもいいでしょう。そういうものをつくらないと、形だけ真似しても、『仏つくって魂入れず』で、お客さまを引きつけることはできません。お客さまに、直接、接するのは社員です。その社員が自らの意志で、進んでお客さまが喜んでいただこうとする文化をつくらなければいけません。その文化は、一朝一夕でつくられるものではありません。

上司や先輩から伝わる目に見えない教え、職場全体を包む雰囲気、何をもってよしとし、何をもって否とするかという社内の常識。そのほか知らず知らずのうちに身についてしまう立ち居振る舞いや言葉づかいなど、すべてが会社の文化となり、風土となって、無意識のうちに影響を与えます。会社で働く人間は、好むと好まざるにかかわらず、その空気に染まっていきます。だからこそ、どんな文化を持つかが重要になってくるのです。島根電工グループが、お客さまに期待を超える感動を提供できるとしたら、その要因は、制度や仕組みにあるのではなく、感動を喜びとする社員たちがいる会社の風土にあります」(52ページ)

荒木さんが、「お客さまに、直接、接するのは社員」であり、「その社員が自らの意志で、進んでお客さまが喜んでいただこうとする文化をつくらなければいけない」という考え方は、ほとんどの方がご理解されると思います。ところで、荒木さんがご指摘するように、顧客の満足を得るために、まず、組織風土など、会社の内部環境への働きかけを行うことを、インターナルマーケティングといいます。

ちなみに、インターナルマーケティングは、サービス業のマーケティングのひとつで、その他に、会社と顧客との関係を強化する、エクスターナルマーケティングと、従業員と顧客の関係を強化する、インタラクティブマーケティングがあります。話しを戻すと、島根電工は、建設業からサービス業にドメインチェンジをしていることから、サービス業のマーケティングを実践していることは適切と言えます。しかしながら、これも荒木さんがご指摘しておられるとおり、よい組織風土をつくることは、一朝一夕に実現しませんし、また、そうとうの労力が必要です。

そこで、価格での競争をしようとしたり、部下に対して過酷なノルマを課したりしようとする経営者が少なくないのでしょう。でも、それらはその場しのぎの方法でしかなく、長続きしないでしょう。結局のところ、サービス業として商品の品質を高めるには、インターナルマーケティングを実践することは避けられません。そして、繰り返しになりますが、よい組織風土をつくることは、経営者として難易度の高い課題であることも確かです。しかし、それは、裏を返せば、経営者の能力が発揮でき、ライバルと大きく差をつけることができるということでもあると、私は考えています。

2024/3/2 No.2635

 

お客さまとは恋人のように接する

[要旨]

松江市にある島根電工の社長の荒木恭司さんは、部下たちに対して、顧客を自分の大切な人と同じように接するよう指導しているそうです。なぜなら、顧客の95%は、不満を感じても口にせず、次からは、黙って他の会社に仕事を依頼してしまうので、そのようなことになってしまうことを防ぐために、丁寧に接することが求められるからだそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、島根電工では、現場100箇所、感動100箇所」というスローガンを掲げていますが、これは、「100の現場があれば、100の感動が生まれるように」という意味であり、それを実践するために、お客さまと向き合って、心から信頼される人間になるよう、誠意を尽くすという経営者の意思が社内に浸透しているということについて書きました。

これに続いて、荒木さんは、お客さまのことを、自分の恋人や兄弟のように思って接することが重要ということについて述べておられます。「アメリカの市場調査の大手、ギャラップ社の調査によると、飲食店に対するクレームの多くは、価格や食事のまずいうまいではなく、店のサービスに対するものだそうです。私もよく牛丼店に入りますが、吉野家であっても、松屋であっても、すき家であっても、味はだいたい一緒に感じます。店の雰囲気や価格も似たようなものです。

どこで食べても一緒なのに、『俺はあの店に行く』と決めているのは、やはり、店員のサービスが違うからでしょう。さらに、ギャラップ社によると、クレームがあっても、95%は何も言わずに黙って去るそうです。(中略)例えば、私たちがレストランに入ったとします。そこに頭にくるウェーターがいたら、その場で文句をいうのは5%ですから、ほとんどの人は黙っています。でも、二度とそのレストランには行きません。

行かないだけならいいのですが、たいたい1人が20人に、『あの店はやめた方がいいそうだ』と言うでしょう。それを聞いた人が、また10人に、『あの店はやめた方がいいそうだ』と言うでしょう。実際にこれくらいの割合で広がっていくそうです。これは恐ろしいことです。ねずみ算式に悪いうわさが広がってしまいます。私たちの会社に、直接、文句を言ってくれるお客さまはいいのですが、黙って去っていく95%が怖い存在です。

『この会社には二度と頼まない』と思われないためには、お客さまと、直接、接する社員のサービスが、一番重要なのです。では、どんなサービスが必要なのか。私は、社員たちに、『お客さまを自分の恋人と思え、兄弟と思え』と話しています。もし、自分たちの恋人や兄弟が、『電気がつかないから来て欲しい』、『水道の水がボタボタ落ちて止まらない』、『トイレの水があふれた』と言ってきたら、どうするでしょうか。何をおいても、すぐに飛んでいくのではないでしょうか。

そして、『大丈夫だった?』、『もう心配ないよ』、『すぐ直してあげるからね』と優しい言葉をかけるでしょう。お客さまも同じです。お客さまのことを自分の恋人や兄弟だと思えば、自然と優しい振舞や言葉かけができるでしょう。自分の大切な人と同じように、お客さまに接して欲しい。そうすれば、親身で心のこもった丁寧なサービスができます」(30ページ)

荒木さんがご指摘しておられるように、顧客に対しては丁寧な応対をしなければならないということは、ほとんどの方がご理解されると思います。ところで、荒木さんは、部下たちに対し、「自分の大切な人と同じように、お客さまに接して欲しい、そうすれば、親身で心のこもった丁寧なサービスができます」と述べておられますが、これは完全にサービス業の考え方です。

とはいえ、島根電工は、ドメインチェンジにより、建設業ではなくサービス業として事業活動を行うことにしたわけですから、当然、サービス業のマーケティング手法をとり入れなければなりません。本旨から少しそれますが、荒木さんが、部下に対して、顧客へは自分の大切な人と同じように接しなさいと指示をする場合、今度は、経営者も、部下たちを顧客と同様に接しなければなりません。これは、サービス業のマーケティングの中の、インターナルマーケティングと言います。

すなわち、従業員が顧客に対して親身に接するようにするためには、口頭で指示するだけでは足らず、経営者も従業員を大切にしなければならないということを忘れてはなりません。話しを戻すと、島根電工は、建設業からサービス業にドメインチェンジをしたわけですが、島根電工に限らず、これからの建設業(だけではありませんが)は工事がきちんとできて当たり前であり、本業での差別化を行いにくくなっています。差別化を図るとすれば、従業員がどれだけ顧客を満足させることができるか、期待以上の価値を実現できるかという部分しか残っていません。

したがって、島根電工では積極的にドメインチェンジをしましたが、他の建設会社も意図しなくてもサービス業の考え方を取りいれなくてはならなくなっていくでしょう。だからこそ、いま、なかなか業績が上向かずに苦心している会社は、積極的にドメインチェンジを行い、また、従業員の満足度を高めることを通して、顧客満足度も高めるという、インターナルマーケティングの手法を採り入れることが求められていると、私は考えています。

2024/3/1 No.2634

 

現場100箇所、感動100箇所

[要旨]

松江市にある島根電工では、現場100箇所、感動100箇所」というスローガンを掲げています。これは、「100の現場があれば、100の感動が生まれるように」という意味であり、それを実践するために、お客さまと向き合って、心から信頼される人間になるよう、誠意を尽くすという経営者の意思が社内に浸透しているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒木さんは、リッツカールトンホテルでは、顧客を満足させるだけでは足らず、顧客さえ気づかないニーズをつかんで提供することで感動を生み出すことを目指しているという事例を参考に、自社でも顧客を感動させることをスローガンにし、それを実践する組織である「おたすけ隊」をつくったということについて説明しました。

これに続いて、荒木さんは、感動を生み出すための組織である「おたすけ隊」が顧客を感動させることで、価格に関係なく、自社を選んでくれるようになると考えているということについて述べておられます。「あるとき、本社に、お客さまから電話がかかってきました。『おたすけ隊』で訪問した、ある家庭のご主人からです。何でも、うちの若い社員が、暑い中、外で作業をしていたので、『ひと休みして、冷たいお茶でもどうだ』と、声をかけたのだそうです。

すると、その社員は汗をふきふきお礼を言いながら、『少しでも早く取り付けた方がお客さまが助かると思うので、お気持ちだけいただきます』と、そのまま作業を続けたといいます。『今どきの若いものは遊んでばかりで、ろくな奴はいないと思っていましたが、お宅の社員のような真面目な青年もいるんですね』と、感心したようにご主人は話してくれました。そのことだけを伝えたくて、わざわざ電話をくれたそうです。こんな社員がいれば、お客さまは間違いなく、次からも当社に工事の依頼をしてくれるでしょう。感動すれば、お客さまは値段に関係なく、島根電工グループを選んでくれるに違いありません。

島根電工グループには、『現場100箇所、感動100箇所』という言葉があります。100の現場があれば、100の感動が生まれるように。そのために、お客さまと向き合って、心から信頼される人間になるよう、誠意を尽くす。島根電工グループは、常にそんな社員を育てようとしています。価格を下げても、サービスが悪ければ、お客さまはついてきません。期待を超える感動を生み出すサービスが提供できるかどうか、すべてはそこにかかっているのです」(27ページ)

顧客の感動を生み出すことは、自社の競争力が高めることになるということは、前回説明したとおりです。では、どのように感動を生み出すのかというと、島根電工では、「現場100箇所、感動100箇所」というスローガンを掲げているわけですが、私は、このスローガンが鍵になっていると考えています。島根電工では、電気設備工事業からサービス業へドメインチェンジを行い、さらに、顧客が気づいているニーズではなく、気づいていないニーズを提供し、感動を生み出そうとしているわけですが、一方で、「業種」としては建設業のままです。

従業員の方も、「自社は、建設業ではなくサービス業である」と、顕在意識の部分では分かっていても、業種が建設業であるわけですから、日頃から強く意識していなければ、サービス業として活動することは難しいと思います。そこで、「現場100箇所、感動100箇所」というスローガンを掲げることで、従業員の方が工事現場に行った時に、「自分はサービス業の会社の従業員として、これからお客さまに感動してもらえるように仕事をしよう」という気持ちを高めやすくなるのではないかと思います。

また、こういったスローガンは、経営者の意思の表れでもあります。もし、単に、「これから、わが社は、サービス業として、お客さまの感動を生み出そう」と呼びかけただけであれば、従業員の方は、経営者が本当にそう思っているのかどうか、真意を計りかねることになるかもしれません。ですから、スローガンを明示することは、経営者の方の意思の強さを示すことでもあり、このような、方針の伝え方の工夫は、組織的な活動を行う上では、とても重要です。

2024/2/29 No.2633

 

顧客さえ気づかないニーズを提供する

[要旨]

松江市にある島根電工の社長を務める荒木恭司さんは、リッツカールトンホテルでは、顧客を満足させるだけでは足らず、顧客さえ気づかないニーズをつかんで提供することで感動を生み出すことを目指しているという事例を参考に、自社でも顧客を感動させることをスローガンにし、それを実践する組織である「おたすけ隊」をつくったそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒木さんが、スカンジナビア航空が、運輸業からサービス業にドメインチェンジを行なった事例を参考に、自社もドメインチェンジを行う必要があると考え、また、これにより、設備工事の需要がなくなっても、快適な環境を提供するサービス業として生き残りができると考えているということについて説明しました。

これに続いて、荒木さんは、スカンジナビア航空の他に、リッツ・カールトンからも大きな影響を受けたと述べておられます。「私が最も感動した、リッツ・カールトンのエピソードを紹介します。それは、営繕係がとった行動と、それに対してホテルオーナーがつぶやいたひと言についての話です。ある客が、リッツのロビーに座っていました。(中略)そのロビーに脚立を持った営繕係が、蛍光灯の交換にやってきました。

すると、プールサイドから2人の子どもを連れていた若いご婦人がやってくるのが見えました。婦人は。廊下に続くドアを開けようとしたのですが、両手は荷物と子どもだちの手を握っていてふさがっています。営繕係は、すぐさま飛んで行ってドアを開け、子どもたちに、『どう?プール楽しかった?』と、優しく話しかけました。そして、彼らをエレベーターまで案内すると、ちゃんと行き先の階のボタンまで押しあげていたのです。客はたいそう感動しました。

客は戻ってきた営繕係を呼び止めて聞いてみました。『今のは君の仕事じゃないだろう?なぜ、フロントか客室係にやらせようとしなかったんだ?』と。営繕係はにっこり微笑んで、こう言いました。『私の仕事はゲストがリッツにきてよかった、と思ってお帰りいただくことです』客は、ますます感動しました。『だからリッツはリピート率が90%なんだ』と思ったそうです。後日、その客は、リッツのオーナーと会う機会がありました。早速、先日の営繕係のエピソードを伝えたそうです。

ところが、リッツのオーナーは大きなタメ息をつきながら言いました。『だから、うちはダメなんだ』と。客は思わず耳を疑いました。『うちはすごいでしょう』ではなく、『だから、うちはダメんだんだ』とはどういうことなのでしょうか。リッツのオーナーはこう言いました。『お客さまがドアのところに行く前に気がついて、ドアを開けて待っていなくてはいけないんですよ。お客さまでさえ気づかないニーズをつかんで提供しなければ、感動は起きないんです。

お客さまが“えっ、そこまでやってくれるの”と思ってしまうようなサービスでなければ、感動を生むことはできません』これがリッツのサービスの神髄です。単に、期待に応えるだけでは満足はしても感動は生まれません。『満足』と『感動』は違うのです。例えば、美味しいと評判のレストランに行って、期待通りに美味しい料理が出てきたら、どうでしょう。私たちは満足しますが、感動まではいきません。『やっぱり美味しかったね』と満足して終わりです。『期待を超える感動』が必要なのです」(22ページ)

荒木さんがご紹介しておられお話からは、いくつかの学びがあると思います。1つめは、営繕係の方は、営繕係に所属していますが、所属にこだわることなく顧客に満足してもらう役割を積極的に担おうとしていることです。2つめは、オーナーが、顧客に満足を感じてもらうだけでは足らず、「お客さまでさえ気づかないニーズをつかんで提供しなければ、感動は起きない」と、ホテルのオーナーが指摘していることです。ちなみに、荒木さんも、島根電工のスローガンを、「期待を超える感動を!」に変えたそうです。

そして、顧客に感動を与えることができるようになれば、会社の競争力が高まり、収益も増加するでしょう。しかしながら、顧客に感動してもらうだけでなく、満足を与えることも、決して容易なことではありません。だからこそ、自社が顧客に感動してもらえるようになれば、ブルーオーシャンに近い事業展開をできるようになるでしょう。実際に、島根電工では、「期待を超える感動」を生み出すために、「おたすけ隊」という組織をつくり、業績向上に成功しているようです。

したがって、自社の競争力を高めるためには、単に、ドメインチェンジだけでなく、さらに「感動」を生み出すことを目指すことが鍵になると思います。繰り返しになりますが、感動を生み出せる会社を実現することは難易度が高いことは事実ですが、価格競争の繰り広げられているレッドオーシャンから抜け出し、ブルーオーシャンで事業展開をできるようにするためにも、感動を生み出す会社を目指すことは、21世紀の会社らしい経営戦略ではないでしょうか?

2024/2/28 No.2632