鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

心の豊かさを得ることが働くことの意味

[要旨]

平成建設の社長の秋元久雄さんによれば、建設業は近年は効率化を目指し分業化が進んでいますが、そのような会社は、従業員は歯車の1部として働くことになるため、新卒者からは働く場所として魅力を感じてもらえなくなる一方で、平成建設には、心の豊かさ、充実感を得なければ、働く意味はないのではないと考える秋元さんの考え方に共感し、入社してくれる若者も増えてきたということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、平成建設の社長の秋元久雄さんのご著書、「大工のすすめ-楽しく働き続ける、それが人生の成功者」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、秋元さんによれば、かつて、日本航空が経営破綻した後、リストラされた客室乗務員たちは、高い接客スキルを持っていたために、容易に再就職ができたそうですが、このようなスキルを持っている人でなければできない仕事は、人工知能に代替されることはないことから、ビジネスパーソンには、スキルを高めることが大切というこについて説明しました。

これに続いて、秋元さんは、秋元さんが経営する平成建設には、やりがいを求める若者が希望して入社してくるということについて述べておられます。「建設業界においても経済最優先の分業化が進んだ結果、ゼネコンやハウスメーカーは単純な工法に走っていった。工業化により、プレカット製品を現場に持ち込み、組み立てるだけの作業になった。プレカットというのは、前もって切るということ。本来なら大工が墨をつけて鋸(のこぎり)で切り、ノミや鉋(かんな)で削ったりしていた木材を、今はコンピューターに入力して機械が事前に切ったものを現場に持ち込んで組み立てるだけなので、効率的に住宅ができてしまう。

組み立て時の卸も機械で打ち込むので難しい技術は一切必要ない。住宅ローンが簡単に組めるようになり、多くの人たちが家を建てられるようになった。そうなればどれだけ数がつくれるかが勝負となる。建設業界ではスビード化、効率化が最優先の課題となり、必然的に大工や職人の腕が落ち、衰退していくというわけである。つまり、こうして大工や職人が、作業員化してしまったのだ。これでは大工や職人は育たないどころか減少するばかりで、建設業はやりがいのない、魅力のない仕事になってしまうのは必定である。

これは建築業界に限らないと思うけど、大工や職人のように人間が知恵を絞り、工夫してものをつくることは、先に書いたスキルに結びつき、ひいては人生を豊かにする。確かに生きていくには経済は大切だが、同時に心の豊かさ、充実感を得なければ、働く意味はないのではないだろうか。そういう精神をもとに、私は平成建設を立ち上げたとも言えるのだ。最近ではこうした私の考え方に共感し、入社してくれる若者も増えてきた。大工になりたい7割の学生が、ビンポイントで『平成建設で働きたい』と志望してくれている。

しかも東大や京大、大学院卒といった、昔では大工になるなど考えられなかった高学歴層の、優秀な人材が続々と入社している。そもそも本当にその仕事がやりたいのなら、いい親方につきたいといったように、企業規模の大小より、質を求めるはずだ。私なら、車を本当につくりたいのなら、大衆車を量産している会社ではなく、ポルシェのような会社に行くだろう。平成建設に就職するということはやりがいのある質を求めるということであり、同時に高度なスキルを身につけたいという挑戦、気概でもある。

そして高度なスキルによって高額な報酬、働きがい、誇りをも得ることができる。平成建設はスキルを身につけた、優れた職人集団である。ここで言う職人とはプロフェッショナルを指す。職人、プロフェッショナルというのは、一つの仕事を自分の力でちゃんと完結させられる人のことだと思う。仕事をする人はすベからく職人、プロフェッショナルであるべきだと私は考えるが、その象徴的存在としての平成建設という会社があるのだと思う」(30ページ)

東京都台東区には、飲食業に関する道具を扱う卸売業が集積している「かっぱ橋道具街」がありますが、そこに調理用具を販売している、飯田屋(運営会社は株式会社飯田)があります。NTTドコモソリューションズの記事によれば、同社6代目社長の飯田結太さんのもと、飯田屋は11年間で売上高を6倍に伸ばしたそうです。これが実現できた主な要因は、従業員が顧客の望むものを一緒になって探す姿勢を徹底したことにあるようです。

かつて、飯田社長は、従業員に厳しいノルマを課していましたが、あるとき従業員の半数が集団辞職したことをきっかけに、自身の考え方を改めました。すなわち、ノルマを完全に廃止し、顧客に寄り添う「喜ばせ業」へと役割を転換した結果、飯田屋は顧客から「ここに来れば何とかしてくれる」と頼られる駆け込み寺のような存在になったようです。当然、こうした接客を行うためには、従業員自身のスキル向上が不可欠であることから、同社では大幅な権限委譲を行っています。

その象徴となるのが「160時間ルール」と「2万回ルール」です。160時間ルールは、1人の従業員が1人の顧客のために、1か月で最大160時間まで時間を使ってよいというものです。1日の勤務時間を8時間、1か月の勤務日数を20日間と換算すれば、実質的に1か月間の全労働時間を、他の通常業務をせずに、たった1人の顧客のために費やしてよいという驚きのルールです。

また、2万回ルールは、わからないことがあれば、以前にきいたことでも、何度でも上司にきいてよいというものです。これは、従業員が理解できないのは、説明する側に責任があるという考えに基づいています。すなわち、社内でうまく説明できていないことは、当然、顧客にもうまく説明できないということになるので、従業員が顧客へ上手に説明できるようにするために、まず、上司が上手に説明する必要があるという考えによるルールです。

さらに、全従業員には予算権限(役職者は年間2,000万円、正社員は500万円、パート・アルバイトは300万円)が与えられています。これは、顧客を喜ばせるためのアイデアや仕入れに、自らの裁量で自由に使うことができる権限です。もちろん、こういった制度をつくるだけでは業績は伸びませんが、まず、制度を整えなければ、従業員の方たちのモラルもスキルも高くなりません。そして、こうした制度の整備を通した改善活動によって、前述したように、売上が伸びただけでなく、7年間、離職者がいなかったそうです。

秋元さんの会社も、分業化された事業の1つの歯車として働くことでは働き甲斐を感じない人が、平成建設でスキルを高めたいと考えて、就職する人が集まり、そういった意欲的な従業員が競争力の高い製品を生み出すのでしょう。飯田屋も、離職者が0ということからも想像できますが、従業員の方が働き甲斐を持って働いているから、飯田屋を頼る顧客が増え、業績を高めたと考えられます。大手の会社は、分業化で競争力を高めていますが、中小企業では、平成建設や飯田屋のような会社づくりが、業績を高めるための参考例になると、私は考えています。

2026/7/19 No.3504

 

スキルを高めることで人生が豊かになる

[要旨]

平成建設の社長の秋元久雄さんによれば、かつて、日本航空が経営破綻した後、リストラされた客室乗務員たちは、高い接客スキルを持っていたために、容易に再就職ができたそうですが、このようなスキルを持っている人でなければできない仕事は、人工知能に代替されることはないことから、ビジネスパーソンには、充実した人生を過ごすためにも、スキルを高めることを薦めるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、平成建設の社長の秋元久雄さんのご著書、「大工のすすめ-楽しく働き続ける、それが人生の成功者」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、秋元さんによれば、会社の経営では、常に10年、20年先を見据えて、じっくりと土台を固めていかなくてはならないことから、同社では時間をかけて大工や職人を教育しており、そのことによって仕事の品質が高まり、顧客からの信頼を得ることができるようになって事業を成功させてきたということについて説明しました。

これに続いて、秋元さんは、事業の効率化を図るために人工知能が活用されるようになってきているが、高いスキルを持っている人は、その影響を受けないということについて述べておられます。「かつてJAL(日本航空)が実質的に倒産した際、リストラざれた客室乗務員たちは路頭に迷うどころか、高級ホテルをはじめ引く手数多(あまた)で、再就職するのにまったく困ることはなかったという。なぜなら彼女、彼らのサービスにおけるスキルは、超がつくほどの一流のホテルやレストランでも十分に通用するからだ。語学に長け、作法、マナーも完璧だ。もちろん給料もほとんど変わらないでいける。

コロナにおいても航空事業が立ち行かなくなった時、様々な大手サービス業に客室乗務員たちが派遣されたが、各方面で活躍したことは記憶に新しい。彼ら彼女たちの仕事はアイコンタクトだけですベてがわかって仕事ができるような、AIや口ポットにはとてもできない高度な気配り、目配りなのだ。(中略)お客さまとの簡単な応対や単純作業などはAIに取って代わられつつある。今後はさらに拍車がかかり、人々の手から労働が奪われていくことになるに違いない。体験によって蓄積された記憶力も必要ない、帳簿をつける能力もほとんどいらないという仕事は、今後AIが担っていくのは想像に難くない。

少子高齡化による人手不足、コロナ禍における非接触の生活はさらにAI化に拍車をかけるだろう。(中略)だからぜひ、若い人たちにはスキルを身につけてほしい。スキルさえあれば、健康ならいつまででも、どこででも働いて食ベていける。しかも好きな仕事で、望まれて働くわけだから、こんなに楽しいことはない。スキルは自らの人生を豊かにし、人々を幸せにすると言い切ってもいい」(26ページ)

ビジネスコーチの秋山ジョー賢司さんは、7月17日に配信したポッドキャスト番組で、次のように述べておられます。すなわち、秋山さんのクライアントで、ある調査会社の社長が、部下たちの動きが悪く、もっと能力の高い従業員を採用する必要があるかもしれないと感じていた。しかし、その社長は、古参の専務とは、仕事のやり方で意見が一致するが、部下たちにはそれがなぜわからないのかを考えているうちに、仕事のやり方はマニュアル化していたものの、言語化が難しいノウハウなどは部下たちに伝えていないことに気づき、これからは、そういったノウハウを伝えて行かなければならないと感じたというものです。

こういった無形のノウハウは、会社の貸借対照表には資産として計上されていないものの、実際には、事業の競争力を高める大切なものだということは、広く知られています。ところが、秋山さんのクライアントのように、実は、活用できていない会社も少なくないのではないかと思います。

秋元さんも、日本航空の客室乗務員だった人たちは転職に困ることはなかったと述べておられますが、彼女たちのスキルは容易には真似できないものであることが、その要因と言えます。そして、それは、そういう人材を育てることができる日本航空の組織風土が、同社の競争力を高めているということでもあると言えます。一方で、これは私がこれまで何度かお伝えしてきていることですが、従業員の方のスキルを高めることは一朝一夕ではできないこと、そして、どのような人材育成が、どのように収益獲得に結びついているのかを把握することも難しいという面があります。

こういった難しさが、経営者の方に人材育成を躊躇させる要因になっていると思いますが、秋元さんも、ルーチンワークは人工知能が代替する時代になってきているとご指摘しておられるように、現在は、従業員の方のスキル以外には、他者と差をつける要素がなくなりつつあります。したがって、容易ではない課題ではあるものの、経営者の方が自社の競争力を高めようとするには、従業員の方の育成に注力することは避けられないと認識しなければなりません。

2026/7/18 No.3503

 

力のある人間が努力をすると鬼に金棒

[要旨]

平成建設の社長の秋元久雄さんによれば、経営とは常に10年、20年先を見据えて、じっくりと土台を固めていかなくてはならず、同社では時間をかけて大工や職人を教育していることから、仕事の品質が高まり、顧客からの信頼を得ることができ、こうして事業を成功させてきたということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、平成建設の社長の秋元久雄さんのご著書、「大工のすすめ-楽しく働き続ける、それが人生の成功者」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、秋元さんによれば、かつての大量生産大量消費の時代は、大企業が高い競争力を発揮していたものの、現在は、経営環境の変化が激しいので、大企業はそれに適応しにくくなり、危険が大きいと考えれるということについて説明しました。

これに続いて、秋元さんは、会社経営は長期的視点に立つことが大切ということについて述べておられます。「効率化もそうだが、スピード化も今のビジネス界では重要視され、良しとされているけど、本当にそうなのかと言いたくなる。急成長した会社が急降下した姿を私はいくつも見てきてそう感じる。スピードアップして品質を保てればいいけど、結果的に期日を急がされるあまりに不祥事を起こしたり、偽装したり、欠陥品を出したりする。

車でもスピードを出しすぎると事故を起こすのは子どもでもわかることだ。その危険性をバブル崩壊で私たちは経験しているはずなのに、どうも最近の日本人は目先の利益を焦って追求するあまり、過去の失敗を忘れてしまうようだ。バプル崩壊後、下落して底値になった土地を買い、開発・分譲して急成長した不動産デベロッパーはいくつもあった。一躍『時の人』、『成功者』と称されマスコミに取り上げられる経営者もたくさんいた。

当時は大企業がリストラと称して土地をたくさん手放したので、安く仕入れることができた。銀行やファンドもお金を貸してくれ、ゼネコンも支払いを待ってくれたので、資金力がなくても右肩上がりの成長ができたというカラクリだった。ところがそうやって成り上がった会社は次々に倒産したのだ。資材の値上がりで建築コストが上がり、買い手がつかなくなったところに、銀行やファンドが資金を回収し始めて資金が一気にショートしてしまった。

結局、地に足のついていない、土台のない会社は、何か問題が起きれば耐え切れずにすぐに倒れてしまう。急成長する会社は安定とはほど遠いと実感したものだった。経営とは常に10年、20年先を見据えて、じっくりと土台を固めていかなくてはいけない。経営者は長期的視野に立って目標を達成するために、今年は何をすベきか、来年は何をすベきかを決める。そうすることでどんな問題が起きようとも揺るぎない基礎ができるはずだ。

平成建設では時間をかけて大工や職人を教育している。それどころか、最高の大工になろうと思えば死ぬまで勉強しなければならない。そうしなければ満足のいく仕事ができないからである。無理にスピードを上げて習得すれば品質が落ちるのは必至だ。ふつうの若い人はみんなカメよりウサギになろうとする。だが不思議なもので、優秀な大工の素質を持った若い人ほどコツコツと地道な努力を続けるのだ。

力のある人間が努力をするのだから鬼に金棒である。大工や職人の世界はスピードを競うものではなく、あくまで品質で勝負するのだ。いかにじっくりと時間をかけて腕を鍛え上げ、はるか上にある到達点を目標に頑張るかだ。それを象徴するように、平成建設では『急がば回れ』をモットーとしている。お客さまや社会からの信用を得るには、地道にコツコツと積み上げる。これまでもそうやってきて成功したが、これからもその方針には変わりはないのである」(23ページ)

秋元さんは、「経営とは常に10年、20年先を見据えて、じっくりと土台を固めていかなくてはいけない」とご指摘されていますが、この言葉自体は決して真新しいものではありません。むしろ、ほとんどのビジネスパーソンが理解していることだと思います。しかし、これも秋元さんがおっしゃっているように、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」かのように、同じ失敗を繰り返し、事業が行き詰まってしまう会社は後を絶ちません。

ただ、かつては、いわゆる「不況業種」というものが存在し、特定の業界全体が不況に陥る傾向がありました。しかし、現在は、同じ業種でありながら、業績の良い会社とそうでない会社に二極化してきています。これは、経営環境が同じであっても、経営者のスキルによって業績に差が生まれているということです。だからこそ、「経営者は長期的視野に立って目標を達成するために、今年は何をすべきか、来年は何をすべきかを決める」という言葉の重みが増すのだと思います。

それにもかかわらず、この「長期的視野に立つ経営」を実践する経営者が少ないのには、主に2つの理由があると私は考えています。1つ目は、人材育成には時間がかかるということです。ただ、これは他社も同様の課題を抱えているわけですから、秋元さんの方針のように「急がば回れ」を着実に実践し続ける会社が、最終的に勝ち残ると言えるでしょう。

2つ目は、経営者の方の「人材を育成するスキル」があまり高くないということです。あるいは、経営者自身が「人材育成は経営者の直接的な役割ではない」と考えているケースが多いのではないでしょうか。その点、秋元さんはまさに人材育成によって会社の競争力を高めてこられました。仮に、経営者が直接指導を行わないとしても、人材を経営に活かすセンスは不可欠です。ただ、秋元さんのように、深い洞察力を持ち、高いセンスやスキルを兼ね備えた経営者は、未だ少数派なのだと思います。

2026/7/17 No.3502

 

大きな会社よりも小さな会社の方が安全

[要旨]

平成建設の社長の秋元久雄さんによれば、かつての大量生産大量消費の時代は、大企業が高い競争力を発揮していたものの、現在は、経営環境の変化が激しいので、大企業はそれに適応しにくくなり、危険が大きいと考えれるということです。そこで、大きな会社で働くよりも、規模は小さくても経営環境に適応できる会社で働くことの方が賢明だということです。


[本文]

平成建設の社長の秋元久雄さんのご著書、「大工のすすめ-楽しく働き続ける、それが人生の成功者」を拝読しました。秋元さんは、1948年、静岡県伊豆市修善寺生まれで、静岡県立韮山高校卒業後、自衛隊体育学校に入学し、ウエイトリフティング選手としてオリンピック出場を目指していたそうです。その後、大手デベロッパー、ハウスメーカー、地元ゼネコンでトップ営業マンとしてご活躍後、1989年、静岡県沼津市に株式会社平成建設を設立しました。

同社は、一流大学・大学院卒の学生を大工や職人として採用し、自社で育成することで、建築のすべての主要な工程を内製化するという業界の常識を覆す試みに挑戦し続けていることで注目されています。ご著書の中で、まず、秋元さんは、安定を求めて大企業で働こうとすると、現在は、かえって危険に陥る可能性が高くなるということについて述べておられます。

「日頃から私は、『大勢で乗る船は危険だから乗るな!』と言い続けている。どんなに大きな船でも、人数が多くなると沈んでしまう可能性がある。今の時代--コロナを経験して特に強く感じるが--大企業こそ危ないと思う。かつて景気のいい時代は、ものをつくれば売れて、稼がない社員でもそこそこの報酬をもらうことができた。でも今の状況はまったく違う。

大企業は肥大化しすぎて、成長する余地もなくなってきた。伸び代がゼ口に近くなり、ましてや不祥事を起こし、コロナ禍のような予期しない事態に巻き込まれてしまえばどうなるか。やがては抱え込みすぎた社員を食ベさせることができなくなる。兵糧が尽き、事業規模の縮小、報酬のカット、リストラの嵐が巻き起こることになる。我が身にそうした災難が降りかかってから『しまった!』と思っても、その時はもう遅い。

やり直しのきく年齡ならまだしも、中高年ともなれば途方に暮れるしかないかもしれない。これでは楽しい人生を送るどころではなくなってしまう。それを思えば、中小企業は少数精鋭であるからこそ、長期戦になっても知恵を出し合い工夫して絆を強めて危機を乗り越えていける。小回りもきくので大胆な方針転換も可能だし、少人数だから大きく利益を出さなくても食べていける。

だから、『あの船は大きいから安全だ』、『みんなが乗っているから大丈夫だろう』といった考えは捨てるべきだ。タイタニック号のような巨大な船でも、船長が判断を誤り、構造的にも欠陥があれば沈没してしまうのである。大きいから安全だなんてことはまるでない。むしろ小さくても丈夫で高性能な船に乗ったほうが絶対にいい」(19ページ)

よく大企業はタイタニック号に例えられます。小回りの利く小型船なら流氷を避けて沈没を免れたはずであり、それと同様に小回りの利かない大企業も危険だ、という論理です。大企業にそうした側面があることは、私も事実だと考えています。大きな組織よりも小さな組織の方が、従業員全員の意識や行動を変えやすいのは確かだからです。そのため、経営環境の変化に対しても、中小企業の方が柔軟に対応できると考えられてきました。

しかし21世紀に入り、その前提は変わりつつあります。現在はVUCAの時代と言われているように、経営環境の変化が激しいことは誰もが理解しています。そのため大企業も、環境変化に適応できる組織づくりに注力するようになりました。その代表例が「人的資本への投資」です。

一方で、中小企業でありながら、かつてのトップダウン型経営を続けている会社も少なくありません。そうした会社では経営者が「裸の王様」になりがちです。前方に「流氷(事業リスク)」が見えていても、部下が経営者に伝えない(部下が経営者に伝えようとしても伝わらない)ため、そのまま流氷に衝突して沈没(事業停止)に追い込まれるリスクを孕んでいます。

したがって、現在は単に組織の大小ではなく、「環境の変化に迅速に適応できる組織構造になっているか」が問われているのです。もちろん、前述したように、組織が小さい方が足並みを揃えやすいということに変わりはありません。しかし、最近では、大企業の方が危機感を持って変化に適応する組織づくりに注力しています。むしろ、現在は、中小企業よりも大企業の方が変化に適応できる組織になっているかもしれないということに注意しなければならないでしょう。

2026/7/16 No.3501

 

全東信の粉飾と多額の負債に関する疑問

[要旨]

6日に破産したクレジットカード決済代行会社の全東信は、60の金融機関から1,000億円を超える融資を受けていました。融資をしていた金融機関は、この大部分を回収できないと思われますが、金額などから勘案して、業績や融資姿勢への影響は小さいと思われます。また、同社は20年以上前から粉飾をしていたこと、負債が多額になったことは不自然であることなどから、融資をしてきた金融機関の姿勢にも問題があると考えられます。


[本文]

クレジットカード決済代行会社の全東信が、7月6日に破産しました。同社は、クレジットカード加盟店に対して、短期間で売上金を立替て入金するサービスを行っていましたが、同社が破産したことにより、約2万店の加盟店に売上金が入金されておらず、その額は約53億円と報道されています。また、全東信以外のクレジットカード決済代行会社の加盟店になっていない事業社は、クレジットカードが利用できなくっているという支障も起きているようです。

そこで、政府は、日本政策金融公庫や民間金融機関による支援策を行ってます。日本政策金融公庫では、セーフティネット貸付の要件(最近3か月の売上高が前年同期または前々年同期に比べて5%以上減少等)を緩和し、全東信の破産手続開始により今後の影響が懸念される中小企業に支援対象を拡大しています。セーフティネット貸付の限度額は、国民生活事業は7,200万円、基準金利は3.35%です。

信用保証協会でも、全東信に売掛金債権等を有していることにより資金繰りに支障が生じている中小企業をセーフティネット保証1号の対象とする見込みです。このセーフティネット保証1号は、一般の保証枠とは別枠で、無担保で8,000万円を限度に保証する制度です。もし、全東信の破産によって事業に影響を受けたという会社は、直ちに、日本政策金融公庫か、取引金融機関にご相談されることをお薦めします。

次に気になる点が、同社への銀行から融資です。朝日新聞の報道によれば、「破産申立時の負債額は約1,151億6,400万円。ほぼ金融機関からの借り入れだった。最大の債権者は近畿産業信用組合(大阪市)で、約219億円を貸し出していた」そうです。ちなみに、同社に融資をしていた金融機関は60行で、近畿産業信用組合以外の金融機関は、東京スター銀行80億円、東和銀行80億円、山口銀行74.9億円、大阪厚生信用金庫68.3億円で、これらの金融機関以外の金融機関の融資額は50億円未満だそうです。

では、全東信に融資をしていた金融機関は影響を受けるのかというと、業績に影響はあると思いますが、通常の融資については影響がないと思います。また、朝日新聞の報道によれば、同社に約219億円を融資していた近畿産業信用組合は、「9日午後、貸出金の残高は8日時点で約124億円だと発表した。担保としていた全東信の預金で貸し出し債権の一部を相殺したという。2026年度決算で124億円全額の引き当て処理を行う予定だが、純利益は前年と同水準の150億円を見込む。保有する有価証券を売却するなどして、損害をカバーするという」ことです。

同信組は、日本の信組の中で最大手のようで、同信組の2024年度のディスクロージャー誌によれば、融資額が約1.2兆円、自己資本比率が11.32%、不良債権比率が1.05%ということから、業績への影響、融資方針への影響は小さいと考えられます。そして、全東信についての疑問は、時事通信の報道によれば、20年前から粉飾をしていたということです。20年間も、60の金融機関が粉飾を見抜くことができなかったことは、金融機関にとっても大きな課題を残すことになったと思います。

さらに、全東信の負債約1,151億円はどうして発生したのかということです。全東信の事業は、売上金の立替が基本であり、通常であれば、カード会社から決済代金が回収できないということは起きません。考えられるとすれば、立替払いした加盟店が倒産し、カード会社から立替金が回収できなくなったというものですが、それだけで1,000億円を超える負債が発生するとは考えにくいです。こちらについては、徐々に明らかになるかもしれませんが、恐らく、融資をしていた金融機関は本当の理由を分かって融資していたと私は想像します。その融資をしていた銀行の姿勢についても、私は問題だと思います。

2026/7/15 No.3500

 

当事者意識の有無が業績を左右する鍵

[要旨]

公認会計士の金子智朗さんによれば、ビジネススクールで利益管理の方法について講義したとき、これを採用する会社が少ないと伝えたところ、受講者からその理由についてきかれたので、そう思うなら、自ら自社に導入してみてはどうかと返答したところ、受講者たちは黙ってしまったことがあったそうですが、会社が自分の望むようにならない要因は、自らが行動しないことが原因になっているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、金子さんによれば、2001年の春闘で、当時の日産自動車のゴーン社長は、労働組合の要求する賞与額を承諾したところ、「あと2週間話し合って、決められた回答日に回答をして欲しい」と要求をしてきたことから、ゴーン氏は呆れたことがあったそうですが、日本の会社では、形式や前例にとらわれていることによって、業績を悪化させていることがあると考えられるということです。

これに続いて、金子さんは、会社の業績を高めるには、当事者意識が大切ということについて述べておられます。「先日、私が教えるビジネス・スクールで、利益管理のある方法について講義したときのことです。その方法は非常に合理的な方法ですが、実際の会社では残念なががらほとんど採用されていないという話をしました。学生たちはその合理的な手法に大いに感銘を受けると同時に、『こんなにも合理的で納得できる方法なのに、なぜ実際に採用している会社が皆無に等しいのか?』と、半ば食いかかるように質問してきました。

そこで私は学生たちに逆に質問しました。『そこまでいい方法だと思うなら、みなさんが会社に持ち帰って、自分で導入すればいいじゃないですか』と。すると、先ほどまであれほど勢いよく質問していた学生たちが、みんな默り込んでしまったのです。『要するに、この方法を会社に導入するのは自分の仕事じやないと思ってるんじゃないの?』と言うと、みんな苦笑いしていました。

この光景こそが、その方法が合理的であるにも関わらず、実際にはほとんど採用されていない何よりの答えなのです。私は、卒業後最初に就職した会社を30歳になる直前で辞めました。そのとき、自分には2つの選択肢しかないと考えていました。会社を変えるか、さもなくば、自分が変わるか、その2つだけです。仕事をしていれば誰だって何らかの問題を感じています。何らかの問題があるとき、会社に居続けるならば、会社を変える努力をするべきです。

それができないと思うならぱ、自分自身が変わる、すなわちその会社を去るのみです。会社に居続けるくせに会社を変えようとしないのは、自分にとってはあり得ないことだと思いました。ましてや、会社を変える努力をしないどころか、文句だけを言い続けるなんて、そんなカッコ悪いことだけはできないと思いました。百歩譲って、一言も文句を言わず、默ってその会社で働き続けるならまだいいですが、問題を認識しているのに、何も言わずにおとなしくしているというのも、私には到底できない相談です。

結局、私は自分が変わることを選択しました。私は何も転職を勧めているわけでもなければ、ましてや独立を勧めているわけでもありません。それはその人の価値観に基づく『場の選択』の問題ですから、人それぞれで構いません。私がここで言いたいことは、ただ一つ。問題解決のための選択肢は、『会社を変えるか』、『自分が変わるか』の2つしかないということです。今の会社に居続けるなら、あなたが会社を変えるしかありません。その当事者意識の有無が、儲かる会社と儲からない会社を分ける最後のカギです」(234ページ)

金子さんの、「当事者意識の有無が、儲かる会社と儲からない会社を分ける最後のカギ」というご指摘は、ほとんどのビジネスパーソンの方はご理解されると思います。しかし、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、中小企業経営者の方の中にも、当事者意識が不足すると感じる人は少なからずおられました。さすがに、自社の事業改善に否定的な経営者はいませんが、口では賛同しつつも、行動が後もなわない方も多くいました。とはいえ、そのような方たちに対して、私は簡単には批判できないと思っています。

仮に、自ら事業改善のための活動に着手して、部下たちに範を垂れようとしても、部下たちがついてきてくれるかどうかは分からないし、また、部下たちが経営者と同じ価値観をもって行動してくれるようになるとしても、そうなるまでは、ある程度の時間がかかります。さらに、部下たちが経営者の姿をみて行動を変えてくれたとしても、経営環境が厳しかったり、ライバルが強力だったりすると、自社の業績が変わらない可能性もあります。

そうなると、経営者の方も、自ら行動しようという意欲が薄れてしまう気持ちも理解できなくもありません。では、どうすればよいのかというと、経営者の方には、しっかりマネジメントについて学ぶことが大切だと思っています。しかし、そのマネジメントを学ぶとは、大学院に行ってMBAを取得するというようなことではありません。稲盛和夫さんも、柳井正さんも、それぞれのご著書を読むと、経営者になってからマネジメントについて学んでおられます。

では、具体的にどのように学ぶのかというと、私は、岩崎夏海さんの小説、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読むことをお薦めします。柳井さんは、ハロルド・ジェニーンの著書、「プロフェッショナルマネジャー」から学んだと言っておられます。もちろん、本を読むだけでいいのかというと、それだけでは十分ではないですが、組織運営についてあまり学んでこなかったという方は、これらを繰り返し読むだけでも行動を変えることができるようになると思います。

なぜなら、マネジメントは有機的な組織を運営するスキルであり、事業活動どはまったく異なる論理で動くものであることから、経営者の方が積極的に行動しなければならない理由がよく理解できるからです。とはいえ、経営者の方がマネジメントを学んで行動すれば、部下の方が経営者についてくるようになったりするのかというと、これもそう単純なものではないことも事実です。ただ、マネジメントを学んでいない経営者と比較すれば、経営者の方の努力は、間違いなく業績の差となって現れる私は考えています。

その根拠ですが、これは、私の経験で感じるものであり、客観的なデータはないところは申し訳ないのですが、マネジメントを学んでいる中小企業経営者の方は少数派だからです。そのような経営者の方は、私の肌感覚では1割、高く見積もっても2割です。ですから、マネジメントを学び、その理論に基づいて経営者が経営する会社は、上位10%~20%の会社入ると、私は考えています。ただ、私がマネジメントについて学ぶことをお薦めしても、それを実践する経営者の方そのものも、少なかったことも現実です。

2026/7/14 No.3499

 

形式や前例に囚われると業績が悪化する

[要旨]

公認会計士の金子智朗さんによれば、2001年の春闘で、当時の日産自動車のゴーン社長は、労働組合の要求する賞与額を承諾したところ、「あと2週間話し合って、決められた回答日に回答をして欲しい」と要求をしてきたことから、ゴーン氏は呆れたことがあったそうですが、日本の会社では、形式や前例にとらわれていることによって、業績を悪化させていることがあると考えられるということです。


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今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、金子さんによれば、従業員は、「意識を変えろ」と声掛けをするだけでは行動は変わりませんが、人は採点基準通りに行動すると言う法則があるので、業績評価指標を設定し、それに基づいて部下を評価するようにすれば、それを達成しようと行動をするので、経営者の方は、自分の意図する行動をしてもらうための業績評価指標を設定するとよいということについて説明しました。

これに続いて、金子さんは、前例や形式にとらわれている会社は、業績に悪い影響を与えるということについて述べておられます。「前例や形式ばかりにとらわれていると、意味のない行動を平気でするようになってしまいます。倒産の瀬戸際まで追いつめられた日産自動車が再建の緒に就いたばかりの2001年、春闘における会社と労働組合との交渉の場でこんなことがありました。カルロス・ゴーン氏は予定されていた交渉期間半ばにして、労働組合が要求するポーナス額を承諾しました。

ところが、交渉半ばにして会社が満額回答するというのは異例のことです。皆は驚きました。ゴーン氏にとっては、要求を承諾した理由は単純明快です。ゴーン氏にとって、労働組合側の要求は妥当に思えましたし、当時の再建計画は株主だけではなく、社員のためにもなることを知ってもらいたかったからです。ところが、労働組合のメンバーは、あと2週間ほど交渉を続けなければならないと言いました。ゴーン氏はてっきり他にもまだ要求があるのかと思い、その理由を尋ねました。

すると、返ってきた答えは、『特に要求はありませんが、あと2週間話し合って、決められた回答日まで待つのが今までの手順ですから』というものでした。この答えには、さすがにゴーン氏も呆れたそうです。妥結したならばそれ以上交渉を長引かせる理由は何もないですし、何より、日産の置かれた当時の状況を考えれば、そんな無駄なことをしている余裕はないはずです。この期に及んで、全く付加価値のない形式的な手統きに固執するのは、全く解せなかったとゴーン氏は述懐しています。

この思考パターンと行動様式に、日産が倒産の淵にまで追いつめられたすベての理由が象徴的に集約されているように思えますが、逆に、危機的状況にまでなったからこそ、顕在化して改革することもできたのです。そこまでの状況になっていない多くの会社では、このような思考パターンと行動様式は顕在化もせず、会社の利益を触んでいるかもしれません」(231ページ)

2025年12月23日のITmediaビジネスオンラインの記事に、読者からのフレックスタイム制度に関する質問と回答が載っていました。すなわち、フレックスタイム制で、コアタイムが午前11時~午後2時の会社で勤務しているが、在籍している部署では朝9時から定例会議があり、これは法律に違反していないかという質問に対し、従業員が同意すれば違法ではないが、会社は、原則として、コアタイム以外の時間帯に就業命令を出すことはできないため、定例会議への出席を義務付けることはできず、従業員が拒否しても問題ないと回答しています。

この記事は、法律上の問題についての内容ですが、経営的な観点からは、コアタイムでない時間に定例会議を開くことはセンスがないと思います。そもそも、フレックスタイムは、従業員の働き方の選択を広げ、生産性を高めてもらうことが目的なのに、朝9時に定例会議を開くことは、フレックスタイム制を形骸化させる行為です。このようなことをする幹部従業員は、かつての日産の労働組合執行部と同じく、形式を守ることを最優先し、成果を高めることに関心がないと思われても仕方ないでしょう。

ちなみに、米国のアウトドア用品メーカーのパタゴニアは、従業員に自由に働いてもらうことによって高い生産性を実現させています。同社創業者のイヴォン・シュイナードさんのご著書、「社員をサーフィンに行かせよう-パタゴニア経営のすべて」によれば、よい波が来そうな日は、従業員に仕事を中断して、サーフィンに行くことを認めているそうです。そのことが、サーブボードユーザーとしての従業員の目利き能力を高めることになり、同社が製造するサーフボードの品質を高め、業績を向上させているということです。

確かに、大量生産大量消費の時代は、会社で働く内容はルーチンワークが主要なものでしたから、定時出勤・定時退社が原則でしたが、現在のような製品の付加価値で競争力に差がつく時代は、それを高めるために適応した働き方が大切です。しかし、人は強く意識していないと、現状を維持しようとしてしまうので、気づかないうちに経営環境に適応できなくなり、業績を悪化させてしまうことになります。したがって、経営者の方は、従業員の方に対してマンネリ化を排除するための働きかけをしなければならないと、私は強く考えています。

2026/7/13 No.3498