[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、効率化を目的として、従業員の数を最小限にとどめ、多くの業務をアウトソーシングしようとする経営者もいますが、そういう会社では、企業理念に近づいてきたという達成感を感じる従業員の数も少なくなり、人材が育たないというリスクがあるので、極端なアウトソーシングは避ける方がよいということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、会社は企業理念のもとに従業員が集まっているので、従業員にとって企業理念実現に向けて進行していることへの実感が一番のエネルギーになることから、経営者は従業員に対して、どうなれば企業理念に近づいているのかをあらかじめ定義し示すことで、従業員はその定義を達成しながら満足度を高めて行くということについて説明しました。
これに続いて、安藤さんは、会社の業務をアウトソーシングすることには限界があるということについて述べておられます。「世の中には、組織を大きくすることをせず、『すべてアウトソーシングでまかなえる』、『全員が業務委託でいいじゃないか』と語る人がいます。その考え方も、一理あるでしよう。少ない人数だけで回していくことを最初から決めているからです。
ただ、その手段を選んだ瞬問に、『進行感は得られない』というデメリットがあることを知らないかもしれません。一緒に働いている人が成長しようが、停滞しようが、まったく関係のない間柄です。それに、リスクもあります。相手に依存すると、『いざ、いいなくなったとき」に、一気に仕事がストップします。相手にとっても『選ぶ権利』があります。
契約が切れれば、それでおしまい。短期的にはリスクの最小化に見えますが、長期的にはリスクが隠れているのも事実です。アウトソーシングや業務委託だと、『同じ仲間』という意識が芽生えません。そういう仕組みではないからです。上司部下の関係ではありませル。『育てる』、『育つ』という目的が発生しないのです。『安く早く、それでいて正確にやってくれればいい』という、損得の関係です。それだけでは、『ここで働き続けたい』という感覚にまで達しません」(262ページ)
現在は、アウトソーシングがとても多く活用されています。例えば、2003年に東京都武蔵野市に設立され、東京証券取引所グロース市場に上場している、家電製品製造業のバルミューダは、いわゆるファブレス企業といわれる工場を持たない製造業です。すなわち、会社自体は製品の設計だけを行い、実際の製造はアウトソーシングしています。ちなみに、同社の2023年12月期の同社の総資産は約78億円ですが、このうち固定生産は約9億円しかありません。
これとは逆に、例えば、香川県三豊市にある、菓子製造業のエフディアイは、OEM(相手先ブランド製造)を主力事業としています。すなわち、同社の販売先が企画した製品の製造をすることを主力事業としており、他社からのアウトソーシングを受けることを専門としているということです。
では、安藤さんは、バルミューダのような会社や、エフディアイに製品を発注するような会社は好ましくないと指摘しておられるのでしょうか?私は、安藤さんは、そこまで否定していないと思います。バルミューダの例で言えば、同社は製品を開発するノウハウが長けているわけですから、むしろ、アウトソーシングを活用するメリットがあります。しかし、自社に強みがない状態で製品の製造をアウトソーシングしても、何のメリットもないでしょう。
むしろ、発注先にイニシアティブを握られてしまいます。ですから、自社の強みが得られるまでは、商品開発や販売先開拓など、事業活動の中核的な部分は、外注せず、ノウハウを蓄積しなければならないということは言及するまでもありません。繰り返しになりますが、会社の規模を最小化しようする考え方は間違いではありませんが、自社の中核的な強みが確立するまでは、アウトソーシングを活用しようとすることは避ける方が無難と言えるでしょう。
2025/1/13 No.2952