鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

アウトソーシングには限界がある

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、効率化を目的として、従業員の数を最小限にとどめ、多くの業務をアウトソーシングしようとする経営者もいますが、そういう会社では、企業理念に近づいてきたという達成感を感じる従業員の数も少なくなり、人材が育たないというリスクがあるので、極端なアウトソーシングは避ける方がよいということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、会社は企業理念のもとに従業員が集まっているので、従業員にとって企業理念実現に向けて進行していることへの実感が一番のエネルギーになることから、経営者は従業員に対して、どうなれば企業理念に近づいているのかをあらかじめ定義し示すことで、従業員はその定義を達成しながら満足度を高めて行くということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、会社の業務をアウトソーシングすることには限界があるということについて述べておられます。「世の中には、組織を大きくすることをせず、『すべてアウトソーシングでまかなえる』、『全員が業務委託でいいじゃないか』と語る人がいます。その考え方も、一理あるでしよう。少ない人数だけで回していくことを最初から決めているからです。

ただ、その手段を選んだ瞬問に、『進行感は得られない』というデメリットがあることを知らないかもしれません。一緒に働いている人が成長しようが、停滞しようが、まったく関係のない間柄です。それに、リスクもあります。相手に依存すると、『いざ、いいなくなったとき」に、一気に仕事がストップします。相手にとっても『選ぶ権利』があります。

契約が切れれば、それでおしまい。短期的にはリスクの最小化に見えますが、長期的にはリスクが隠れているのも事実です。アウトソーシングや業務委託だと、『同じ仲間』という意識が芽生えません。そういう仕組みではないからです。上司部下の関係ではありませル。『育てる』、『育つ』という目的が発生しないのです。『安く早く、それでいて正確にやってくれればいい』という、損得の関係です。それだけでは、『ここで働き続けたい』という感覚にまで達しません」(262ページ)

現在は、アウトソーシングがとても多く活用されています。例えば、2003年に東京都武蔵野市に設立され、東京証券取引所グロース市場に上場している、家電製品製造業のバルミューダは、いわゆるファブレス企業といわれる工場を持たない製造業です。すなわち、会社自体は製品の設計だけを行い、実際の製造はアウトソーシングしています。ちなみに、同社の2023年12月期の同社の総資産は約78億円ですが、このうち固定生産は約9億円しかありません。

これとは逆に、例えば、香川県三豊市にある、菓子製造業のエフディアイは、OEM(相手先ブランド製造)を主力事業としています。すなわち、同社の販売先が企画した製品の製造をすることを主力事業としており、他社からのアウトソーシングを受けることを専門としているということです。

では、安藤さんは、バルミューダのような会社や、エフディアイに製品を発注するような会社は好ましくないと指摘しておられるのでしょうか?私は、安藤さんは、そこまで否定していないと思います。バルミューダの例で言えば、同社は製品を開発するノウハウが長けているわけですから、むしろ、アウトソーシングを活用するメリットがあります。しかし、自社に強みがない状態で製品の製造をアウトソーシングしても、何のメリットもないでしょう。

むしろ、発注先にイニシアティブを握られてしまいます。ですから、自社の強みが得られるまでは、商品開発や販売先開拓など、事業活動の中核的な部分は、外注せず、ノウハウを蓄積しなければならないということは言及するまでもありません。繰り返しになりますが、会社の規模を最小化しようする考え方は間違いではありませんが、自社の中核的な強みが確立するまでは、アウトソーシングを活用しようとすることは避ける方が無難と言えるでしょう。

2025/1/13 No.2952

 

企業理念実現への実感がエネルギーに

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、会社は企業理念のもとに従業員が集まっているので、従業員にとって企業理念実現に向けて進行していることへの実感が一番のエネルギーになることから、経営者は従業員に対して、どうなれば企業理念に近づいているのかをあらかじめ定義し示すことで、従業員はその定義を達成しながら満足度を高めて行くということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、大企業にいると、自分が与えられる影響の小ささに不満を感じ辞める人が多いそうですが、そのような人が会社を移っても、また、同じ課題に遭遇することになるので、組織と個人の関係は切り離すことはできず、組織のために活躍する人が素購らしいと考えるべきであるということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、経営者は従業員に対して、会社が成長することを喜びに感じるような環境を整えなければならないということについて述べておられます。「私たちは、会社そのものが社会から必要とされることによって、その会社の一員であることを誇りに思います。個人の中に、『この会社に居続けないと、損な気分になる』という気持ちが芽生えるからです。

その会社の売上が伸びたり、会社のことがメディアに取り上げられたりし、社会的評価があがることでも、『進行感』は発生します。その中でも、会社が企業理念の実現に近づいていく実感が得られることによる『進行感』がもっとも大切です。本来、会社は『企業理念』の旗印のもとに人が集まっているので、組織で働く人にとって、企業理念実現に向けて『進行』していることへの実感が、一番のエネルギーになるのです。経営者は社員に対して、『どうなれば企業理念に近づいているのか』をあらかじめ定義し、示す必要があります。

そして、その定義を達成していくことで、企業理念の実現に向けての『進行感』を組織全員で共有していくのです。会社は、目的や目標に向けて進んでいく存在です。企業理念にどんどん近づいていく。そうやって全体が前に進んでいくことで発生するのが、『進行感』です。組織で働く人はみな、この進行感を感じてほしいと思っています。組織全体が前へ前へと動いていく感覚です。それにより、組織の一員であることに『誇り』を持つことができます。それが、『この会社にいること』の利益なのです。

目先のボーナスや社員旅行などでは味わえません。進行感ががあることにより、社員は『辞める理由』がなくなります。人の価値観観は多様です。たくさんのポーナスを求めていない人もいれば、社員旅行がまったく嬉しくない人もいます。わかりやすいメリットを提示してしまうと、『別に、それを求めていないから』と、言い訳の材料を与えることになります。しかし、進行感は違います。人間であれば、誰もが喜ぶ最大のメリットだからです。

そうは言っても、口先では、『組織の成長なんて嬉しくない』と言うかもしれません。ただ、本心は別です。人の上に立つ人であれば、その軸がブレないようにしてください。『組織が成長して嬉しくない人はいない』そう信じるようにするのです。もちろん、組織が大きくなることにより、わかりやすく給料やボーナスは増えます。組織の利益が個人に還元できることも忘れてはいけません。ただ、そこが目的ではない。本質的ではないということです」(259ページ)

安藤さんは、「従業員が組織の一員であることに誇りを持つことができるようになれば、会社を辞める理由がなくなる」とご説明しておられますが、これは、多くの研究科によって様々な説明が行われています。そのひとつは、米国の心理学者、ハーズバーグの提唱した、「衛生要因・動機付け要因」です。この理論は、従業員は、給料を増やすこと(衛生要因)で不満がなくなるが、それだけでは満足するには至らず、仕事の達成感を感じたり上司からの承認を受けたり(動機付け要因)しなければ、満足しないというものです。

別のものとしては、これも有名なマズローの欲求5段階説で、人間の欲求は、生理的欲求→安全欲求→社会的欲求→承認欲求→自己実現の欲求と、階層化した欲求があるというものです。すなわち、会社に属すること(社会的欲求)よりも、自分が働いた結果が、会社の業績の向上によって社会的な評価を受ける(自己実現の欲求)ことの方が、より大きな満足感となるということです。

ですから、経営者は、例えば、KGIやKPIを設定し、従業員の働きがどれくらいの成果となって現れているかを迅速に伝えるといった仕組みを整備することが求められています。ちなみに、スターバックスコーヒージャパンの元CEOの岩田松雄さんは、同社のCEO時代に、次のように考えていたと、岩田さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」で述べておられます。

「『どんな会社を作りたいか』と問われると、私は、『もし、社員が、3億円の宝くじに当たったとしても、勤め続けたいと思ってくれる会社』と答えます。3億円を手にした人に、金銭的な意味で、働く理由はほとんどないでしょう。それでも、現在の勤務先で働き続けたいと思うか、私は、経営者として、そんなNPOのような企業を作りたいと思っていました。例えば、店舗スタッフにとって、スターバックスは、決して給料が高いというわけではありません。他に、もっと高い給料の会社はあります。

さらに、スターバックスで、店長まで経験していれば、他社から引く手あまたです。しかし、そう簡単には、パートナーの皆さんは、辞めようとしません。それは、スターバックスが大好きだからです。ミッションに共鳴した仲間と働くのが楽しくてしょうがないのです。お金以上に、はるかに大切なものがあるのです。スターバックスで働くこと自体が報酬になっているのです」(42ページ)

実際、みなさんも、スターバックスを利用したときに、同社の従業員の方たちは生き生きと働いていると感じることがあるのではないでしょうか?それは、給料などの物理的な欲求だけで働いているからではないということが要因となっていることは明らかです。もちろん、一朝一夕で同社のような職場をつくることはできませんが、そのような会社を目指さなければならないということを安藤さんも岩田さんも考えているのだと思います。

2025/1/12 No.2951

 

組織のために活躍する人が素購らしい

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、大企業にいると、自分が与えられる影響の小ささに不満を感じ辞める人、すなわち、「あなたがいないと困る」と言って欲しいという欲望を持っている人が多いそうですが、そのような人が会社を移っても、また、同じ課題に遭遇することになるということです。すなわち、組織と個人の関係は切り離すことはできず、お互いに協調し合う関係であり、組織のために活躍する人が素購らしいと考えるべきであるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、アイデアや商品が素晴らしいと、ある程度の事業化は可能ですが、環境は常に変化するため、組織によって新たなアイデアが生み出され、それを迅速に収益化するという必要性が生じる段階が必ず訪れますが、それはその必要性が生じてから組織体制を整えても間に合わないので、起業する段階から体制整備を行うことが求められるということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、組織に属している人は、組織のために活動するべきであるということについて述べておられます。「大企業では、より大きなやりがいを感じられるはずです。しかし、いま、大企業にいることで自分が与えられる影響の小ささに不満を感じ、辞める人が多いそうです。その葛藤は、本書で何度も述ベてきた『属人化』の話と同じでしょう。『あなたがいないと困る』と言ってほしい、その欲望です。本書の冒頭に、この言葉は麻薬と書きました。

というのも、仮に大企業を辞めたとしましょう。次のキャリアでは、ベンチャー企業や小さな組織に入ると思います。そこで、働くことにやりがいを感じます。会社はどんどん成長していきます。いずれ自分の役職があがったり、さらに会社が大きくなったりすると、また同じ壁にぶつかります。そして、また物足りなくなるのです。次から次へと、ベンチャー企業を渡り歩く人がいます。新規事業を立ち上げて、軌道に乗りそうなところで、また別に移る。刺激を求めているのかもしれませんし、それを専門職としているのであれば、それでも構わないでしょう。

しかし、だからといって、腰を据えて1つの組織を大きくしていくマネジメントを軽視しないでほしいのです。『組織』の中に『個人』がいます。この関係性は、切っても切れません。『組織』と『個人』が、横並びになっているわけではありません。そこが勘違いのもとです。私は、キャリアを重ねていく上で、『帰属意識』は必要だと考えています。合理的にも、感情的にも、どちらの面でもメリットがあります。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言われますが、ビジネス上の付き合いは、本当に切れやすいものです。

だからこそ、『同じ会社にいる』、『同じ集団にいる』ということの価値は上がります。あまりに個人の力か注目されすぎました。1人で何でもできるように思いすぎています。集団への貢献より、個人の利益が優先されています。チームが優勝するより、自分のホームラン数が多い姿に惹かれるのでしょうか。個人プレーがよしとされる。それにより、全体が負けることが起こっています。しかし、いかなるときも、チームのために活躍する姿のほうが素購らしい」(254ページ)

安藤さんがご指摘しておられる、「『あなたがいないと困る』と言ってほしいという欲望」は、ほとんどの人がお持ちだと思います。その結果、これも安藤さんがご指摘しておられるように、ベンチャー企業を渡り歩き、物足りなさを感じる人もいるのでしょう。でも、そういう人なら、まだ、ベンチャー企業を大きくしているわけですから、ある面で能力のある人なのだと思います。

中には、実際には、あまり会社には貢献していなにもかかわらず、組織に所属しているからこそ部下や取引先が尊重してくれているだけなのに、「自分は有能な人材だ」と思い込んでいる、いわゆる「働かないおじさん」のような人もいるでしょう。でも、もし、本当に自分が有能なのであれば、自分ひとりで事業活動をするべきではないかと思います。もちろん、芸術家や作家のような、個人の能力が評価されている人たちは、まさしく個人の能力で勝負しています。でも、ここで論じたいのは、一般的な事業活動であり、それは個人でできないこともありませんが、事業規模は極めて限られるでしょう。

これについて、安藤さんは、野球チームを例に出していますが、個人の成績を優先してホームランばかり狙う選手より、チームの成績を優先してチーム内での自分の役割に徹する人が評価されることは、ほとんどの方が理解されるでしょう。このような組織活動の効果については、作家の岩崎夏海さんの大ヒット小説、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読むと、より理解が深まると思います。

この小説は、多くの方がご存じのように、東京都立程久保高校の野球部の女子マネージャーが、ドラッカーの理論に基づいてチームを改善していく物語です。具体的には、選手としての才能が高いことからキャプテンを務めていた選手からキャプテンの役割を外し、プレーに専念させることで、より実力を発揮させることができるようにしています。その一方で、補欠選手でありながら、ムードメーカーの選手をキャプテンに就かせることにより、チームの雰囲気を改善し、前向きに試合に臨めるようにしたことも、成績の向上につながっています。

確かに、個人はある面で自分を犠牲にして組織に貢献しなければなりませんが、それと同時に、組織に帰属しているからこそ自分の実力を発揮できる場所を得ることができます。それにも関わらず、「自分がいるからこのチーム(会社)はよい成績(業績)を得ている」と考えることは、誤りと言えます。とはいえ、人はどうしても慢心してしまいます。でも、個人と組織は対立する関係ではなく協力する関係にあると考えるべきです。そうすることが、個人にとっても、組織にとっても、最大の成果を得ることにつながあるということを、組織に加わっている人は認識すべきでしょう。

2025/1/11 No.2950

 

1人の才能で属人化された組織はリスク

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、アイデアや商品が素晴らしいと、ある程度の事業化は可能ですが、環境は常に変化するため、組織によって新たなアイデアが生み出され、それを迅速に収益化するという段階が必ず訪れるということです。ただ、それはその必要性が生じてから組織体制を整えても間に合わないので、起業する段階から体制整備を行うことが求められるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、「トップダウン」にネガティブなイメージを持っている人は少なくないものの、意思決定はトップダウンで行われ、情報提供はボトムアップで行われることは組織の原則で、両者は表裏一体であるということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、アイデアだけで起業すると、組織が属人化することになり、事業活動が安定しないリスクが高くなるということについて述べておられます。「アイデアや商品が素晴らしいと、そのカだけで、ある程度の事業化は可能です。1人の優れたデザイナーや映画監督がいることによつて、うまくいく組織がありますよね。ただ、環境の変化は起こります。『ヒットが出なくなる』、『アイデアが枯渇する』、そうなった後に、組織のカが発揮されます。

うまくいかなくなったときに、いかに組織によってアイデア出しがなされ、実現までスビードを保ち、失敗を改善していくか。そのフェーズが必ずおとずれます。しかし、私は、そうなってからでは遅いと考えています。1人の才能によって、属人化された組織は、リスクです。早いうちに『仕組み化』によって組織をつくり上げておかないと、最終的に『倒産』という形で責任を負ってしまいます。個人のカで、行けるとこまで行ける。でもやがて頭打ちになる。その事実に、人の上に立つ人は、いち早く気づき、手を打つベきなのです」(232ページ)

私がこれまで起業のお手伝いをしてきた方の多くは、「事業を成功させるためのよいアイデアがある」という方や、「自分は競争力の高い優れた技術を持っている」という方がほとんどでした。これらは、起業するための動機ととして最もポピュラーであり、また、妥当な考え方だと思います。ただし、このようなきっかけで起業したときは、気を付けるべき点があると、安藤さんと同様に私は考えています。

というのは、よいアイデアがあったとしても、それを事業化したときに必ずしも成功するとは限らないということです。また、成功したとしても、そのアイデアに基づく事業が、いつまでも競争力が高い状態が続くとは限りません。そこで、うまく行かなかったときに備えることが欠かせません。これについても安藤さんがご指摘しておられるように、迅速に新しいアイデアを出す仕組みをつくっておくということです。

これについては、ほとんどの方に容易に理解していただけることなのですが、起業するときはどうしてもバイアスがかかり、自分のアイデアは必ず成功すると思ってしまうようで、失敗する可能性があるという前提での対策はあまりとられていないようです。また、仮に、経営者の方がそれに気づいていたとしても、起業までの準備期間や起業した直後の「離陸期間」は、多くの業務をこなさなければならないので、「仕組み」をつくるまでの余裕がないと考えている方も多いようです。

しかし、せっかく起業するのであれば、冷静に考えていただき、成功する確率をより高くするために、余裕をもったスケジュールで、「仕組みづくり」をすることが望ましいと言えます。繰り返しになりますが、事業活動は組織的な活動ですので、1人のアイデアだけで成功すると考えてしまうことは事業が不安定になるリスクが高くなるため、仕組みづくりもあわせて行うことが大切と言えます。

2025/1/10 No.2949

 

トップダウンとボトムアップは表裏一体

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、「トップダウン」にネガティブなイメージを持っている人は少なくないものの、意思決定はトップダウンで行われ、情報提供はボトムアップで行われることは組織の原則で、両者は表裏一体であるということです。そして、その裏付けとして、意思決定を行う立場の人はその地位に応じた責任を負うことになりますが、意思決定をしておきながら責任を負わない人もいることから、トップダウンにネガティブなイメージを持たれることが起きると考えられます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、企業理念のない会社も存在することがありますが、そのような会社は、社長が従業員に対して、「利益が出れば何をしてもいい」としか伝えないので、ゴールが見えないまま事業活動を続けることになり、いつかつまづくことになるということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、組織運営にはトップダウンの側面とボトムアップの側面があるということについて述べておられます。「たとえば、私たちの会社では、現時点で35,000社以上のクライアントがいます。そうすると、そのクライアント数を目当てに、次のような依頼がきます。『その35,000社に、ウチの法人向けの新サービスを販売しませんか?契約が成立すれば、売上の20%を御社に還元します』このような依頼です。

これを受けると、たしかに一定の売上につながります。しかし、企業理念と照らし合わせると、『識学を1日でも早く世に広める』という、本来の会社の目的に近づくわけではありません。だから、『それはやりません』という判断が下せます。どんな会社を目指すのか、どんな組織になりたいのかは、そうした判断につながってくるのです。その責任を、人の上に立つ人は求められます。そして、現場の社員やスタッフは、そこに従わなくてはいけません。

後になってから、『だから、あのとき、会社は新サービスを導入しなかったのか』と遅れて腹落ちするはずです。企業理念に反発する理由のひとつに、『トップダウンはよくない』という勘違いがあります。『あなたの会社は、トップダウンか、ボトムアップか』という質問がよく聞かれます。しかし、この質問自体が根本的に間違っていることが、本書を読んでいただいたら、理解できるでしょう。意思決定は、上から下におこなわれます。ただし、下から上に情報をあげることは正しい。これがマネジメントの真理です。

要するに、トップダウンの側面もボトムアップの側面もあるということです。1枚の紙に表裏があるように、会話には話すことと聞くことがあるように、トップダウンとボトムアッアは、つねに表裏一体です。ただし、ボトムアップによって集まった情報に基づいで、意思決定をするのは、人の上に立つ人です。そして、その決定は絶対です。なぜなら、責任を負っているからです。責任がない人が、決定したり、判断したりすることは、物理的にできないのです。ここまで読んできたあなたになら、その理由は明確でしょう」(226ページ)

安田さんがご指摘しておられるように、「トップダウン」という言葉にネガティブなイメージを持っている方は少なくないと私も感じています。恐らく、トップダウンには、ワンマン経営者が独善的に意思決定をして、それを部下に従わせるというイメージがあるからでしょう。事実、そのような経営者もいるでしょう。しかし、日本の中小企業、いわゆる、オーナー会社でトップダウンでない会社はほとんどないでしょう。オーナー会社では、会社のほとんどのことを、オーナーである社長が決めています。

ただ、ワンマン経営者から理不尽な指示を強引に押し付けることがあると、「この会社はトップダウンだから仕方がない」と渋々承服することになるので、トップダウンにネガティブなイメージを持ってしまうのでしょう。しかし、トップダウンには、安藤さんも「責任を負っているから」とご指摘しておられるように、権限の重さがともなっているわけですから、極めて合理的です。とはいえ、安藤さんもこのような当然のことをあえて本に書いているということは、実際には、トップにいる人が責任を果たしていなかったり、または、判断しなかったりしている経営者(または、管理職)が少なくないということなのでしょう。

2025/1/9 No.2948

 

理念があるから『一貫性』が生まれる

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、企業理念のない会社も存在することがありますが、そのような会社は、社長が従業員に対して、「利益が出れば何をしてもいい」としか伝えないので、ゴールが見えないまま事業活動を続けることになり、いつかつまづくことになるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、1人の人が1つの業務を長く担当することは専門性が高まったり、関係する人たちとの人間関係が深まったりするなどのメリットがありますが、一方で、属人化が進み、既得権益が発生するというデメリットがあり、長期的に見ればそのデメリットが大きくなることから、経営者の方は定期的な人事異動を行うなど、属人化が進まないような働きかけを行うことが望まれるということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、企業理念の大切さについて述べておられます。「ここまで、企業理念について述べてきました。どんな会社にもそれがあると言いました。ただ、じつは理念のない組織もあります。(中略)それは、『お金になるから起業する』という人がいるからです。社会に対して、何をやりたいかはわからない。ただ、お金はたくさんほしい。そういう組織です。

社員に向けても、『利益が出れば何をしてもいい』、『お金儲けが最大の目的だ』ということしか伝えられない。こういう組織でも、一時的にうまくいってしまいます。トップにカリスマ性があり、その求心力によって、お金儲けへ工ネルギーが向いてしまうからです。しかし、必ずどこかでつまずきます。社会に対して果たすべき目的がないと、会社は続かないようになっています。もちろん、利益は大事です。

しかし、それは、あくまで企業理念を実現する上で、組織を存続させるために必要なものです。ただ利益を追いかけ続けるのは、魂の抜けたゾンビのような状態です。どこに向かえばいいか、ゴールを見失い、たださまよっているようなものです。私たちの会社であれば、『1日でも早く識学を広める』という企業理念に基づいでいます。その理念が、経営者の『判断軸』になります。企業理念に近づくことは、よい。企業理念から遠ざかることは、ダメ。その一貫性を生み出します。

私たちが福島ファイヤーボンズというパスケットボールチームをグループ会社で運営していることも、M&Aの仲介事業に参入したことも、『1日でも早く識学を広める』という理念に基づいた意思決定です。この軸がなければ、『利益を求めて何をっててもいい集団』になり果ててしまいます。モラルがなくなり、『どんなに反社会的でも、売れればいい、儲かればいい』となってしまう企業は、ここがプレているのです」(223ページ)

私が、これまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた中で、中小企業経営者の方から、「理念で飯は食べられない」という主旨のことを言われたことがあります。確かに、企業理念を策定し、会社内に掲げても、そのことだけで利益を得ることはできません。そうであれば、とにかく売上を増やして利益を得ることの方が得策と考えることは、ある意味、自然なのかもしれません。

ところが、そう考える経営者は、ひとつ見落としていることがあると思います。それは、とにかくもうかればいいと考えるのであれば、「会社」という組織をつくる必要があるのでしょうか?私が、ある会社の従業員であったとして、もし、社長から、「とにかく売上を増やしてこい」としか言われなかったら、会社に勤めることはせず、フリーランスとして活動して、自分で得た利益をすべて自分のものにします。

こうなってしまうのは、そのような会社には、組織の3要素のうちのひとつの共通目的がないということです。共通目的は企業理念などで示されるものですが、社長が「とにかく売れ」としか言わない会社は、企業理念もなく、組織としての目的が示されていないということです。会社の事業活動は組織的活動によって維持されるわけですが、組織の3要素が欠けていれば、安藤さんも「必ずどこかでつまずきます」とご指摘しておられるように、組織は維持できなくなります。

では、なぜ、経営者の中には企業理念をつくらない人がいるのでしょうか?それは、そのような経営者は、マネジメントの経験が浅く、マネジメントスキルを十分に備えないまま起業したことがひとつの要因だと思います。これは当然のことですが、事業活動は組織活動なのですから、マネジメントスキルを持たずに経営者になってしまえば、企業理念を示すこともせず、早晩、事業は行き詰ることになります。

2025/1/8 No.2947

 

1つの業務しかしていない人はリスク

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、1人の人が1つの業務を長く担当することは専門性が高まったり、関係する人たちとの人間関係が深まったりするなどのメリットがありますが、一方で、属人化が進み、既得権益が発生するというデメリットがあります。そして、長期的に見れば、属人化によるデメリットが大きくなることから、経営者の方には、定期的な人事異動を行うことが求められます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、従業員への評価は会社からのメッセージであり、明らかな基準で給料に差を設けることで、評価されなかった人はそのことを正しく認識し、危機感が芽生え、その後、必死で頑張るようになり、その人自身も成長し、また、会社の業績も伸びることにつながるということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、属人化を防ぐために人事異動を行うことは有効であるということについて述べておられます。「繰り返し伝えている『属人化』を防ぐためにも、『人事異動』は有効です。識学では、原則的に『3年に一度の人事異動』をおこなうようにしています。それは、どんなに仕組み化によって考え方を切り替えていても、同じ部署で同じ業務を続けていると、『属人化』が生まれてしまうからです。

1つの業務に慣れてくると、できるだけ頑張らずに作業をこなすようになります。複数の部署があるならば、人事異動が効果的です。もし、営業職で多くを占める会社であれば、そういう人事はできないかもしれません。その場合では、配置換えや担当変えをおこないます。『扱う商品やサービス内容を変える』、『エリアや担当者を変える』など、新しく頭を切り替えるような変化を加えます。

放っておくと、同じ得意先へのルーティン作業だけで目標をクリアし続けられるようになってしまいます。その状態は、『属人化』の一歩手前です。そのタイミングに人事異動などをおこなうことで、また一から試行錯誤する状態にリセットができます。リセットといっても、前の業務スキルを引き継いでいるわけですから、さらに大きな視野で次の業務に当たることができます。そうやって、1つ1つの壁を越えていくことで、より大きな視点を獲得していく人が『出世』をします。

これがもし、1つの部署しか経験していない人が叩き上げで出世したら、どんなことが起こるでしょう。たとえば、営業だけをやってきた叩き上げの人が、営業部長になるとします。そして、その営業部長が自分で稼ぐようになります。いつまでもプレーヤーの動きを統けて、『自分のやり方』を全員に押し付けて、画一化します。さらに、それに対して何も言わない人だけを過大評価し、副部長や課長に昇進させます。上司・部下の関係性でも、『既得権益』は生まれるのです。

ずっと同じ上司・部下の関係が続くと、そこに『悪い権利』が出できます。簡単に言うと、『仲良くなりすぎる』ということです。『この上司についていくためだけに頑張る』という状況を生みます。この感情は(中略)『カリスマ性』と同じく、短期的にカを発揮するかもしれません。情がわくことで、やる気が出る部分はあるからです。しかし、長期的に見ると、デメリットもあります。その上司が部署異動や退職をしたときに、部下たちがそれを不満や会社への不信感に捉えてしまうのです。

個人としての成長を考えたときに、『1人でどこでも生きられるようにする』、『どんな組織でも働けて、結果が出せるようにする』ということを期待すベきです。なので、人事異動と同じく、上司・部下の組み合わせも、定期的に変える仕組みが必要です。同様の理由で、営業先のクライアント担当なども配置換えをしたほうがいいでしょう。異動したり、転勤したりすると、担当者が変わります。そうすると、お客さまのほうから、『前の担当者がよかった』、『担当者を変えるなら、御社との付き合いはなくします』というようなことを言われるかもしれません。

しかし、組織が正しく機能していれば、うまく引き継ぐことができるはずです。『誰が担当しても同じバフォーマンスを出すことができる』という仕組みをつくることができるからです。そのためには、自分の仕事をマニュアルに落とし込んだり、人に伝えられるようにしておくことが求められます。仕組みの発想があれば、担当替えのリスクも回避できるのです」(180ページ)

人事異動をしないことにはいくつかの利点があります。それは、従業員の専門化が進む、従業員同士や従業員と顧客との人間関係が深くなる、人事異動によるコストを減らすことができるというものです。その一方で、人事異動をしないことによるリスクもあり、それは安藤さんがご指摘しておられる通りです。そして、特に、中小企業では定期的な人事異動、すなわち、ジョブローテーションは避けられる傾向にあります。その理由は、従業員数にあまり余裕がなく、ジョブローテーションを行うことで生じる負担をなくしたいということのようです。

その結果、当然のことながら、会社内で不祥事が起きたり、従業員と顧客の癒着による不正が起きたりします。また、表面化しにくいものの、従業員が自分の担当する業務だけを優先するようになる、すなわち、部分最適を目指すようになり、会社全体からみた最適化を目指すという全体最適の視点を欠くことになり、事業活動の効率化が損なわれます。さらに、ジョブローテーションを行っていれば、従業員の多能化、すなわち、複数の業務の習得が進み、経営環境に合わせた柔軟な人事を行うこともできるようになります。

ただ、ここまでの論理は容易に理解できるものの、実際に定期的な人事異動を行おうとすると、やはり、負担がかかるということから、なかなか、踏み切れないという経営者の方が少なくないようです。でも、繰り返しになりますが、長期的な視点かれみれば、ジョブローテーションを避けることは、リスクが高まり、同時に、競争力を弱めることになります。したがって、経営者の方は、一見、負担となると思われるジョブローテーションを着実に実践する重要な役割を担っていると、私は考えています。

2025/1/7 No.2946