[要旨]
平成建設の社長の秋元久雄さんによれば、建設業は近年は効率化を目指し分業化が進んでいますが、そのような会社は、従業員は歯車の1部として働くことになるため、新卒者からは働く場所として魅力を感じてもらえなくなる一方で、平成建設には、心の豊かさ、充実感を得なければ、働く意味はないのではないと考える秋元さんの考え方に共感し、入社してくれる若者も増えてきたということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、平成建設の社長の秋元久雄さんのご著書、「大工のすすめ-楽しく働き続ける、それが人生の成功者」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、秋元さんによれば、かつて、日本航空が経営破綻した後、リストラされた客室乗務員たちは、高い接客スキルを持っていたために、容易に再就職ができたそうですが、このようなスキルを持っている人でなければできない仕事は、人工知能に代替されることはないことから、ビジネスパーソンには、スキルを高めることが大切というこについて説明しました。
これに続いて、秋元さんは、秋元さんが経営する平成建設には、やりがいを求める若者が希望して入社してくるということについて述べておられます。「建設業界においても経済最優先の分業化が進んだ結果、ゼネコンやハウスメーカーは単純な工法に走っていった。工業化により、プレカット製品を現場に持ち込み、組み立てるだけの作業になった。プレカットというのは、前もって切るということ。本来なら大工が墨をつけて鋸(のこぎり)で切り、ノミや鉋(かんな)で削ったりしていた木材を、今はコンピューターに入力して機械が事前に切ったものを現場に持ち込んで組み立てるだけなので、効率的に住宅ができてしまう。
組み立て時の卸も機械で打ち込むので難しい技術は一切必要ない。住宅ローンが簡単に組めるようになり、多くの人たちが家を建てられるようになった。そうなればどれだけ数がつくれるかが勝負となる。建設業界ではスビード化、効率化が最優先の課題となり、必然的に大工や職人の腕が落ち、衰退していくというわけである。つまり、こうして大工や職人が、作業員化してしまったのだ。これでは大工や職人は育たないどころか減少するばかりで、建設業はやりがいのない、魅力のない仕事になってしまうのは必定である。
これは建築業界に限らないと思うけど、大工や職人のように人間が知恵を絞り、工夫してものをつくることは、先に書いたスキルに結びつき、ひいては人生を豊かにする。確かに生きていくには経済は大切だが、同時に心の豊かさ、充実感を得なければ、働く意味はないのではないだろうか。そういう精神をもとに、私は平成建設を立ち上げたとも言えるのだ。最近ではこうした私の考え方に共感し、入社してくれる若者も増えてきた。大工になりたい7割の学生が、ビンポイントで『平成建設で働きたい』と志望してくれている。
しかも東大や京大、大学院卒といった、昔では大工になるなど考えられなかった高学歴層の、優秀な人材が続々と入社している。そもそも本当にその仕事がやりたいのなら、いい親方につきたいといったように、企業規模の大小より、質を求めるはずだ。私なら、車を本当につくりたいのなら、大衆車を量産している会社ではなく、ポルシェのような会社に行くだろう。平成建設に就職するということはやりがいのある質を求めるということであり、同時に高度なスキルを身につけたいという挑戦、気概でもある。
そして高度なスキルによって高額な報酬、働きがい、誇りをも得ることができる。平成建設はスキルを身につけた、優れた職人集団である。ここで言う職人とはプロフェッショナルを指す。職人、プロフェッショナルというのは、一つの仕事を自分の力でちゃんと完結させられる人のことだと思う。仕事をする人はすベからく職人、プロフェッショナルであるべきだと私は考えるが、その象徴的存在としての平成建設という会社があるのだと思う」(30ページ)
東京都台東区には、飲食業に関する道具を扱う卸売業が集積している「かっぱ橋道具街」がありますが、そこに調理用具を販売している、飯田屋(運営会社は株式会社飯田)があります。NTTドコモソリューションズの記事によれば、同社6代目社長の飯田結太さんのもと、飯田屋は11年間で売上高を6倍に伸ばしたそうです。これが実現できた主な要因は、従業員が顧客の望むものを一緒になって探す姿勢を徹底したことにあるようです。
かつて、飯田社長は、従業員に厳しいノルマを課していましたが、あるとき従業員の半数が集団辞職したことをきっかけに、自身の考え方を改めました。すなわち、ノルマを完全に廃止し、顧客に寄り添う「喜ばせ業」へと役割を転換した結果、飯田屋は顧客から「ここに来れば何とかしてくれる」と頼られる駆け込み寺のような存在になったようです。当然、こうした接客を行うためには、従業員自身のスキル向上が不可欠であることから、同社では大幅な権限委譲を行っています。
その象徴となるのが「160時間ルール」と「2万回ルール」です。160時間ルールは、1人の従業員が1人の顧客のために、1か月で最大160時間まで時間を使ってよいというものです。1日の勤務時間を8時間、1か月の勤務日数を20日間と換算すれば、実質的に1か月間の全労働時間を、他の通常業務をせずに、たった1人の顧客のために費やしてよいという驚きのルールです。
また、2万回ルールは、わからないことがあれば、以前にきいたことでも、何度でも上司にきいてよいというものです。これは、従業員が理解できないのは、説明する側に責任があるという考えに基づいています。すなわち、社内でうまく説明できていないことは、当然、顧客にもうまく説明できないということになるので、従業員が顧客へ上手に説明できるようにするために、まず、上司が上手に説明する必要があるという考えによるルールです。
さらに、全従業員には予算権限(役職者は年間2,000万円、正社員は500万円、パート・アルバイトは300万円)が与えられています。これは、顧客を喜ばせるためのアイデアや仕入れに、自らの裁量で自由に使うことができる権限です。もちろん、こういった制度をつくるだけでは業績は伸びませんが、まず、制度を整えなければ、従業員の方たちのモラルもスキルも高くなりません。そして、こうした制度の整備を通した改善活動によって、前述したように、売上が伸びただけでなく、7年間、離職者がいなかったそうです。
秋元さんの会社も、分業化された事業の1つの歯車として働くことでは働き甲斐を感じない人が、平成建設でスキルを高めたいと考えて、就職する人が集まり、そういった意欲的な従業員が競争力の高い製品を生み出すのでしょう。飯田屋も、離職者が0ということからも想像できますが、従業員の方が働き甲斐を持って働いているから、飯田屋を頼る顧客が増え、業績を高めたと考えられます。大手の会社は、分業化で競争力を高めていますが、中小企業では、平成建設や飯田屋のような会社づくりが、業績を高めるための参考例になると、私は考えています。
2026/7/19 No.3504






