鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

病院は『患者様』のために存在している

[要旨]

ドラッカーは、著書の中で、ある看護師のエピソードを紹介しており、彼女は、病院が何か新しい施策や取り組みをしようとすると、「それは、患者さんにとっていちばんよいことでしょうか?」と質問したそうですが、これによって、彼女の同僚に、病院のMVVを意識させていたそうです。その結果、その病院は、MVVに基づいた運営を続けることができたそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、経営者は、ビジョンを明確化することで、現実的で、信憑性があり、魅力的な未来を、従業員にはっきりと伝え、今よりもよい状態がイメージできるようにしなければなりませんが、そのために、早い段階で、いわゆる「クイックヒット」や「アーリーウィン」と言われる、何かしらの目に見える成果を示すことが効果的であるということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、会社の役員、従業員は、MVVを常に意識することが大切であるということについて述べておられます。「ピーター・ドラッカー『経営者の条件』で紹介されていた、ある病院の看護師のエピソードが、私は大好きです。その人は、病院につとめている、普通の看護師なのですが、病院が何か新しい施策や取り組みをしようとすると、必ず、こう、質問したそうです。『それは、患者さんにとっていちばんよいことでしょうか?』

彼女は、看護師長でもリーダーでもなく、責任ある立場なわけではありません。でも、必ずそう問いかけ、そのひと言で議論が再び活発になるというのです。そして、彼女が退職した後も、『彼女だったら、なんと言うだろうか』と、彼女の問いを常に思い起こさせ、『患者さんにとって最善であるか』と、皆が考えるようになったそうです。その看護師の去った後も、ずっと影響を与え続けたのです。

彼女は、まさしく病院のMVV(特にミッション)を彼女なりに表現したのです。私は、彼女はその病院の『良心』であったと思います。何のために病院は存在しているのか?決して医師のためでもなく、金儲けのためでもなく、点数制度のために存在しているのでもありません。『患者様』のために存在しているのです。日本の医療機関を見ていると、多くの医師たち(特に年配の開業医)が忘れてしまっていることだと感じます」(181ページ)

私は、このエピソードを読んだとき、稲盛和夫さんが、第二電電(現在のKDDI)を起業ようとしたとき、「動機善なりや、私心なかりしか」と自分自身に問いて、その上で、新電電は日本の通信料を安くして、多くの人が助かるものであり、私心はないと確信して起業したと、本に書いておられたことを思い出しました。すなわち、ドラッカーや稲盛さんのように、ミッションを貫くことが大切ということは、普遍的なことなのだと思います。ところが、この「ミッション」は、誤解されやすいと、私は考えています。

例えば、看護師の例では、「患者にとってよいことか」と問うたり、稲盛さんは「動機が善か」と問うたりしていることから、道徳的な価値観を持たなければならないと理解している方が多いのではないかと思います。そして、そのような方たちは、「中小企業のような弱い会社が、道徳的な価値判断で仕事をしていては、なかなか稼げるようにはならない」と考えてしまうのではないかと思います。確かに、患者のためになることや、動機が善であることは、道徳的に良いことです。

しかし、ビジネス的な視点からも、そのような事業は、多くの潜在的需要があると考えられます。逆に、患者のためにならないことや、動機が善でないことは、需要も少なかったり、また、顧客からあまり支持されない事業になると考えられます。そして、現在は、我田引水的なビジネスは、現在は、ますます顧客から支持されにくくなりつつあります。だから、患者のためになる医療、動機が善であるビジネスは、多くの顧客に支持されて発展していくと言えます。

稲盛さんも、「動機が善であり、私心がなければ結果は問う必要はありません、必ず成功するのです」と述べておられます。繰り返しになりますが、道徳的な価値基準と、ビジネスの価値基準は相反するものではありません。むしろ、道徳的な価値基準に合致するビジネスこそ、需要があるのであり、そのようなビジネスは、道徳的でもありますが、ビジネスでも成功するでしょう。だからこそ、事業活動において、ミッションは常に意識しなければならないと言えます。

2024/4/20 No.2684

 

クイックヒットとアーリーウィン

[要旨]

経営者は、ビジョンを明確化することで、現実的で、信憑性があり、魅力的な未来を、従業員にはっきりと伝え、今よりもよい状態がイメージできるようにしなければなりませんが、そのために、早い段階で、いわゆる「クイックヒット」や「アーリーウィン」と言われる、何かしらの目に見える成果を示すことが効果的です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、MVV経営の大前提は、事業活動が継続することであり、したがって、利益を獲得することは、目的ではなく、事業活動を継続するための手段であると考えられるため、ドラッカーの最小利益という考え方に基づき、会社の成長のために、将来に対して適切な投資や資源配分を行うことが大切ということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、ビジョンを達成させるために、クイックヒットを活用するとよいと述べておられます。「リーダーがビジョンを語ることは、今、起きていることに注意を払い、その中から組織の未来にとって重要なものを見つけ、新しい方向を定め、全員の関心をそこに集中させることです。大切なのは、組織にとって現実的で、信憑性があり、魅力的な未来をはっきりと伝えて、今よりもよい状態がイメージできることです。リーダーは、ビジョンによって、組織の現在と未来を繋ぐ重要な橋をかけるのです。ビジョンを示し、その現実に参加し、自分たちが価値ある活動に参加していると思ってもらうことが何よりも大切です。

そのため、早い段階で、何かしらの目に見える成果が必要です。いわゆる『クイックヒット』や『アーリーウィン』と言われるものです。そのことによって、ビジョンの達成に半信半疑だった人々が、一人、また一人と、ビジョンの達成を信じるようになり、改革が弾み車のようにお進んでいくのです。それによって、一気に組織変革が進むのです。(中略)(かつて、岩田さんが社長を務めたことのある会社の事例では)ザボディショップでは、『ボディバター』、スターバックスでは『ワンモアコーヒー』が、変革の起爆剤となりました」(162ページ)

これまで、私は、ミッションの効果が現れるまでには時間を要すると述べてきましたが、そのことにより、モチベーションを高めることができないなど、一緒に仕事をする従業員の方たちから協力を得られにくいという面があります。そこで、岩田さんが述べておられるようなクイックヒットを活用することで、モチベーションを高めたり、信頼を得たりすることも必要になると思います。岩田さんの事例では、ザ・ボディショップの商品の保湿剤のボディバターは、かつては、冬季だけしか売れないと考えられていたのですが、岩田さんが売上推移を分析したところ、夏季の需要もあると判断し、夏季も販売を続けたところ、順調に売れ続けたことから、従業員たちは自社の商品に対する自信を深めたというものです。

スターバックスのワンモアコーヒーは、スターバックスのコンセプトで割引券を発行することはなじまないことから、コーヒーを購入したレシートを再び店に持ってきた顧客に対し、コーヒーを値引きして販売することにしたのですが、ワンモアコーヒーの申し出をしてきた顧客に対し、従業員の方が会話のきっかけをつかむことができるようになり、より関係が深まったというものです。繰り返しになりますが、MVVに基づく経営は、直ちに効果を実感できないものですので、岩田さんのように、クイックヒットを実践することも必要になるということです。もちろん、クイックヒットは最終目的ではなく、通過点に過ぎないので、クイックヒットに成功したとしても、引き続き、MVVが定着するよう、経営者の方の働きかけは続けなければなりません。

2024/4/19 No.2683

 

会社を継続させるため利益は最小にする

[要旨]

MVV経営の大前提は、事業活動が継続することであり、したがって、利益を獲得することは、目的ではなく、事業活動を継続するための手段であると言えます。そこで、ドラッカーの最小利益という考え方に基づき、会社の成長のために、将来に対して適切な投資や資源配分を行うことが大切です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、岩田松雄さんがスターバックスの社長時代に、店舗数の拡大、無償Wi-Fiの導入、コンセント数の増大、一人席の拡充など、顧客満足度を高める取り組みを行った結果、ライバル店より高価格で商品を販売することができましたが、この結果から、岩田さんは、売上はミッションの達成度とリンクしており、もし会社の売上が落ちているときは、ミッションと事業活動に齟齬があると考えるようになったそうです。

これに続いて、岩田さんは、最小利益について述べておられます。「『ミッションでは飯が食えない』、そんな声も聞いたことがあります。MVVに沿った経営が大切だと書きました。では、利益は?もちろん、大切です。企業は世の中を良くするためにあるのですから、その大前提としては、『存続する企業』があります。つまり、MVV経営の大前提は、継続する(Going Concern)ことです。つまり、利益は目的ではなく、存続するための手段なのです。では、どれくらいの利益が必要かといえば、ドラッカーの言っている『最小利益』を目指すのです。

では、その最小利益とは?お客様に価値に見合った適正な価格で商品を提供し、従業員に適正な給料を払い、取引先から適正な価格で商品を購入し、適正な税金を納め、最後に株主に適正に配当して、残った利益が最小利益です。企業の成長のために、将来に対して適切な投資ができる適正な内部留保も必要です。社会の公器として、いわゆるステークホルダーと(将来も)適正に付き合っていくための利益です。ミッションと株価、短期と長期など、一見矛盾することに『折り合いをつける』ことが経営者の仕事です」(150ページ)

岩田さんが言及しておられる「最小利益」は、ドラッカーが、彼の著書、「チェンジ・リーダーの条件」の中で述べている、「必要最小限の利益」のことのようです。この必要最小限の利益は、正確さを犠牲にして、分かりやすく説明すると、顧客、仕入先、従業員などのステークホルダーに対し、将来、自社が得られる利益を最大化するために必要な費用を支払い、現在、自社に残る利益は最低限にするべきという考え方のようです。

すなわち、現在の利益の最大化のために、現在の支出を減らすことは、短期的視点による活動であることに対し、将来の利益の最大化のために現在の支出を増やすことは、長期的視点による活動であり、ドラッカーは、後者の考え方が望ましいと考えているということです。ところで、私は、「折り合いをつける」という言葉にも注目しました。というのは、事業活動は、ドラッカーも述べているように、長期的な視点に基づく活動が望ましいと考えられがちです。

しかし、将来のために、現在の支出を増やすと、利益が減るので、株主の受け取る配当も減ることになります。したがって、長期的視点による活動は、株主からは、歓迎されない面もあります。そこで、私は、将来の利益のために費用を支出するだけでなく、ある程度は、現在の利益を確保する必要もあると、考えています。そして、株主だけでなく、株主以外のステークホルダーも同様に、お互いに利害が対立する関係にあります。そこで、経営者は、ステークホルダー間の利害を調整し、折り合いをつける役割があると、岩田さんはご指摘しておられます。

繰り返しになりますが、何れかのステークホルダーの満足の度合いを高めると、他のステークホルダーの満足の度合いが低くなります。これは、すべてのステークホルダーが、同時に、100%の満足を得ることができないということです。そこで、各ステークホルダーが100%の満足を得られなくても、継続して協力を得られるよう、資源の配分や費用の支出などの折り合いを、各ステークホルダーに対して行なうことが、経営者に求められます。この折り合いをうまく行うことができないと、事業活動に支障がでるため、経営者の調整能力も業績に反映されるということになります。経営者というと、リーダーシップを発揮する役割があると考えられがちですが、調整能力も重要な役割ということができます。

2024/4/18 No.2682

 

売上はミッションの達成度とリンクする

[要旨]

岩田松雄さんがスターバックスの社長時代に、店舗数の拡大、無償Wi-Fiの導入、コンセント数の増大、一人席の拡充など、顧客満足度を高める取り組みを行った結果、ライバル店より高価格で商品を販売することができました。この結果から、岩田さんは、売上はミッションの達成度とリンクしており、もし会社の売上が落ちているときは、ミッションと事業活動に齟齬があると考えるようになったそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、会社でミッションを掲げることによって、(1)想定外の事象に対して、原理原則で判断できるようになる、(2)従業員の価値観を揃えることができるようになる、(3)ミッションに共鳴する人を集めることができる、(4)従業員に仕事の意義を感じさせることができるなど、大きな効果を得ることができるということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、売上とはミッションの達成度であるということについて述べておられます。「スターバックスの社長をしている時に、スターバックスのミッション(『人々の心を豊かで活力あるものにするために』)は、本当に心から素晴らしいミッションだと思っていました。では、このミッションを、より達成するには、どうしたら良いのかを考えました。それは、『より多くの人の心を、より豊かにすることができたら、よりミッションが達成できるのではないか』と考えました。(中略)

お店をどんどん増やせば、トータルのお客様の数は増えます。しかし、採用や教育が間に合わず、お客様へのサービスが落ち、お客様に不快感を感じさせてしまったら、むしろ、ミッションに反する方向になってしまいます。(中略)急成長しているベンチャー企業などでありがちな事例です。最近で言えば、立ち食いのステーキチェーン店が、まさしくそうでした。肉も満足に切れない人が、お店に立っていました。人の成長(教育)が間に合わないのです。

実際、感動を与えられる人数を増やすには、店舗を増やせば確実に客数は増えます。日本中の人がスターバックスの開店を待っていました。そのため、『全県制覇』をひとつの方針として推し進めました。時には、『投資収益率』の目標水準を満たしていなくても、出店を推進しました。スターバックスを待っている人は多くおられる。投資収益率より大切なことがあると思いました。一方、感動をより深くするには、店舗のサービスを充実させることが必要です。『感動の深さ』は、お客様の満足度と置き換えても良いでしょう。

ですから、店舗数の拡大のみならず、無償Wi-Fiの導入、コンセント数の増大、一人席の拡充など、『心に活力を与える』ための、さまざまなアイディアを実現させました。スターバックスの商品が他社のコーヒーチェーンより多少割高で買っていただいているのは、他社よりも感動が大きいからだと思います。つまり、『感動の深さ=単価』なのです。(中略)ですから、もし売上が落ちているなら、何か間違っているのです。(中略)つまり、売上は、ミッションの達成度とリンクしているのです」(147ページ)

岩田さんは、「売上はミッションの達成度とリンクしている」とご指摘しておられますが、これは、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、現実には、ミッションを浸透させたり、感動を深めたりするための活動は、あまり行われていないように、私は感じています。その理由のひとつは、ステーキ店を例に出して岩田さんもご指摘しておられるように、感動を与えるためには人材教育が必要であり、それには時間がかかるからです。

もうひとつは、ミッションと売上の因果関係は見えにくいからです。なぜ因果関係が見えにくいのかというと、感動を深める活動を実践しても、それが結果として現れるまで時間を要するからです。そこで、多くの会社では、すぐに売上につながる、価格競争などに注力してしまうのでしょう。しかし、それでは、競争に優位に立つことのできる期間はあまり長くないし、体力もすぐに消耗してしまいます。そこで、結局は、時間と労力を要しても、ミッションを浸透させ、感動を深めることしか、競争に勝つ方法はないのだと思います。

2024/4/17 No.2681

 

ミッションによって意義を感じてもらう

[要旨]

会社でミッションを掲げることによって、(1)想定外の事象に対して、原理原則で判断できるようになる、(2)従業員の価値観を揃えることができるようになる、(3)ミッションに共鳴する人を集めることができる、(4)従業員に仕事の意義を感じさせることができるなど、大きな効果を得ることができます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、リーダーが、組織のミッション、ビジョン、バリュー(行動指針)、すなわち、MVVを明確にし、メンバーの様々な意思決定の拠り所とすることで、リーダーに、都度、伺いを立てることなく、自発的に活動できるようになり、このことによって、ティール組織、すなわち、フラットな自走式組織形態に近づいていくことが可能になるということを説明しました。

これに続いて、岩田さんは、ミッションの重要性について述べておられます。「ミッションの大切さについては、主に、次の4つが挙げられます。(1)社会は常に変化しており、『想定外』の連続です。すべてのケースを事前に想定して、マニュアルを作成することは、到底不可能です。『想定外』の時には、原理原則であるミッションに戻って、確認し、判断することができます。判断を迷った時に、いちいち、社長にまで確認するようなことはできません。

その時に、個々人が、MVVに従って判断すれば良いのです。ミッションを実現する手段が、戦略や戦術で、これは、環境の変化に合わせてどんどん変えていくべきものです。ミッションも、20年、30年という単位では、変わって良いと思っています。(中略)(2)企業は組織に集まる人達は、それぞれ、違った価値観を持っています。そんな人達を、同じ方向に向かわせるには、目印となる明確なゴール・旗印・北極星が必要になります。

例えば、会社として、『お客様が第一』としているのに、お客様より金儲けを優先する人がいては困ります。ただ、この価値観の共有というのは、その人がその組織のメンバーである時だけ良いのです。就業時間内においては、その組織のMVVに従ってもらわなくてはならないのです。もちろん、アフターファイブは、それぞれの価値観に従って行動してもらえば良いのです。プライベートの個人の価値観まで強要すれば、それは新興宗教になってしまいます。

(3)ミッションを高く掲げることによって、それに共鳴する人たちが集まりやすくなります。もちろん、理念教育、ミッション教育は必要ですが、あまりに価値観の違った人が組織に入ってくると、会社も本人も不幸になってしまいます。例えば、人のために何かしてあげたいと思わない人は、サービス業に向いていないでしょう。『この旗の下に集まれ』というのがミッションです。(中略)

(4)ミッションとは、通常、とても崇高なものです。それを共有していると、自分たちの仕事の意義を感じ、特別な組織に属しているという誇りにつながります。社員のモラルが高くなり、結果的に離職率が下がります。例えば、スターバックスでは、アルバイトに80時間の研修を行います。コーヒーの淹れ方や豆の種類の勉強とともに、多くの時間をミッション教育に充てています。

ほとんどのパートナーは、スターバックスのミッションに共鳴し、その実現にコミットしてくれています。一般的に、小売業は離職率が高く、40%を超えるとも言われています。しかし、スターバックスでは、よほどのことがない限り、人は辞めません。離職率が低いから、アルバイトにまで80時間の教育投資ができる。教育投資をするから、成長意欲の高い人は辞めません。辞めないから、また教育投資ができるという、良い循環が回っているのです」(135ページ)

この岩田さんのご説明は、ほとんどの方がご理解されると思いますが、私は、(4)の仕事の意義を感じさせる役割です。例えば、ドラッカーの著書、「現代の経営(上)」に登場する、3人の石工のお話は多くの方がご存知だと思います。すなわち、「何をしているのか」と聞かれた3人の石工のうち、1人目は「これで食べている」、2人目は「国で一番の仕事をしている」、3人目は「教会を建てている」と答え、ドラッカーは、3人目の男がマネジメントを理解していると述べています。

この3人目の男について、ドラッカーは、「マネジメントを理解している」と表現していますが、これは、仕事の意義を理解しているということでもあります。このことによって、日常の仕事が、単なる作業ではなく、意義の大きい仕事であると認識し、誇りを持って能動的に仕事に臨むことができるようになり、業績にも良い影響を与えることになるでしょう。そして、岩田さんご自身も実践したように、スターバックスでも、ミッションが従業員の方のモラルを高めることに役立っています。

ただし、このミッションによって従業員の方に意義を感じてもらうためには、労力と時間がかかります。特に、ミッションだけが崇高に掲げられていても、それに応じた具体的な活動が行われていないと、看板倒れになってしまいます。また、経営者の方自身も、意義を感じて仕事に臨んでいなければ、従業員の方もそれを感じることはないでしょう。すなわち、言行一致、率先垂範という、基本的なことが大切と言えると、私は考えています。

2024/4/16 No.2680

 

MVVの明確化でティール組織を目指す

[要旨]

リーダーが、組織のミッション、ビジョン、バリュー(行動指針)、すなわち、MVVを明確にし、メンバーの様々な意思決定の拠り所とすることで、リーダーに、都度、伺いを立てることなく、自発的に活動できるようになります。このことによって、ティール組織、すなわち、フラットな自走式組織形態に近づいていくことが可能になります。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、誰かの真似ではなく、自分自身の価値観や信念に根ざしたリーダーシップである、オーセンティック・リーダーシップが注目されてきており、それは、『自分らしさ』を大切にしながら、いろいろなリーダーシップを使い分ければ、そのような態度が人々から共感を得られ、よい成果につながるからということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、組織のミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Vlue=行動指針)(MVV)を明確にすることが大切ということについて述べておられます。「組織の全員が、MVVに積極的に取り組むように促すことが、リーダーの大きな役割です。MVVがトップを含めた全社員の様々な意思決定の拠り所となるべきです。(中略)

人々がMVVを実現するために、様々な障害を取り除き、会社の方針や慣行やシステムを変え、MVVに忠実に行動できるようにすることが、リーダーの役割です。そうすれば、人々は、リーダーにいちいちお伺いを立てるのではなく、自発的にMVVを拠り所として、自由に動けるようになっていきます。いわゆる、究極的にフラットな『ティール組織』(個々の社員に意思決定権があり、社員の意思によって目的の実現を図ることができる、フラットな自走式組織形態)に近づいていきます。

私は、よく、社長時代に、『社長に忠誠を尽くす必要はない。会社のミッションやバリューには忠誠を尽くして欲しい。社長の私自身が背くことがあれば、遠慮なく指摘をして欲しい』と言っていました。国単位で言えば、MVVは憲法のようなものです。国のトップである総理大臣といえども、憲法には従わないといけません。それと同じです。オーナー系企業には、それを忘れて、『俺がミッションだ』と言う人が多くいます。会社を私物化してはいけないのです。

しっかりとしたMVVがあって、組織に浸透していけば、単に、利益や株価を上げるためだけではない、偉大な組織になっていきます。素晴らしいMVVは、自分達の仕事に対する誇りと意義を喚起し、自分達が素晴らしい組織に属しているのだという自負心を生み出し、仕事に対するコミットメントが増します。MVVは、すべてを正しい方向に向かわせてくれる羅針盤となっていくのです」(127ページ)

ティール組織は理想的な組織ですが、だからといって、リーダーがMVVを明確にするだけでは実現することは難しいと、私は考えています。というのは、従業員の方が、MVVを理解したとしても、直ちに、自ら意思決定を行い、自律的に行動できるようにはならないからです。自ら意思決定できるようになるには、ある程度の経験や訓練が必要であり、何よりも意思決定して活動しようという意欲を持たなければなりません。特に、中小企業では、従業員の方を育成するための余力が少なく、その結果、経営者が細かいことまで指示を出したり、意思決定をしたりしなければならない状態が続いていることが現実のようです。

そのような状況は、経営者が意図していなくても、外部からは、経営者の方が「俺がミッションだ」と考えているように映る場合もあるかもしれません。とはいえ、VUCAの時代は、ティール組織が最も効率的な活動を実現することができるし、高い成果も得ることができることに間違いありません。したがって、時間と労力を要することになるとしても、経営者の方は、自社をティール組織にしていくことが、業績を高めるための鍵になると思います。

2024/4/15 No.2679

 

オーセンティック・リーダーシップ

[要旨]

誰かの真似ではなく、自分自身の価値観や信念に根ざしたリーダーシップである、オーセンティック・リーダーシップが注目されています。なぜなら、『自分らしさ』を大切にしながら、いろいろなリーダーシップを使い分ければ、そういう態度が人々から共感を得られ、よい成果につながるからです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、危機的状況や組織変革の時は、リーダーは、強いリーダーシップを発揮することが必要ですが、変革が進み、組織が自走し始めたら、強いトップダウンから、支援やコーチング的なリーダーシップスタイルに変えていくことも必要であり、このようなリーダーシップをサーバント・リーダーシップというということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、オーセンティック・リーダーシップについて述べておられます。「最近、注目されているのが、オーセンティック・リーダーシップです。誰かの真似ではなく、自分自身の価値観や信念に根ざしたリーダーシップです。そのためには、自己認識(セルフ・アウェアネス)たとても重要となります。私は、『自分らしさ』を大切にしながら、いろいろなリーダーシップを使い分ければ良いと思っています。

そういう態度が人々から共感を得られるのです。私がスターバックスの社長になって数か月ぐらいして、日本の創業者の角田雄二さんに呼ばれて、『岩田さん、一歩下がって、他の役員の意見もよく聞いてあげてください』と注意を受けました。私自身、そんなに強いリーダーシップを発揮していたとは思っていませんでしたが、他の役員からは、そう見えていたのでしょう。

その2週間後、シアトルの本社にビジネスプランの説明に行った時、創業者のハワード・シュルツに呼ばれて、『マツオ、一歩前に出て、みんなを引っ張ってくれ』と言われました。多分、アメリカから日本に来ている役員が、ハワードにそう言ったのでしょう。私は困惑してしまいました。裕二さんはいつもニコニコして腰が低く、皆を手の上でうまく回していくようなリーダーでした。ハワードは、とてもカリスマ性の強いトップダウンのリーダーです。それまで自分の中では、新米社長でのいろいろな遠慮もあり、手探りの状態でありました。

私は、その時に、自分は雄二さんにもハワードにもなれない。自分らしいやり方でやって行こうと腹を括りました。そこからワンモアコーヒーなどの施策がヒットし、V字回復していくことになりました。まさしく、これは、今、流行しつつある『オーセンティック・リーダーシップ』を目指すということです。人真似ではない自分らしいリーダーシップを発揮すれば良いのです。ですから、ある時は、『自分らしいシチュエーショナル(条件適合)・リーダーシップ』を、別の時には、『自分らしいサーバント・リーダーシップ』を発揮すれば良いのです」(112ページ)

岩田さんでさえ、どういうリーダーシップがよいのか迷うくらい、あるべきリーダーシップを論ずることは難しいと、私も考えています。その最大の要因は、リーダーシップは理論的ではなく、人間的側面が大きいということだと思います。例えば、同じ指示を出したとしても、誰がそれを出したかによって結果が異なるということもあるくらい、リーダーシップには人間的な要素が大きいと思います。だからこそ、自分らしいリーダーシップである、オーセンティック・リーダーシップが重要なのだと思います。

2024/4/14 No.2678