鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

中小企業こそDXのインパクトが大きい

[要旨]

中小企業の中には、DXは必要ないと考えている経営者の方も少なくないようですが、むしろ、DXが遅れているという状況は、改善の余地が大きかったり、競合を出し抜くチャンスがあるということでもあるため、積極的にDXを取り入れることが望ましいと言えます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、冨山和彦さんと望月愛子さんのご著書、「IGPI流DXのリアル・ノウハウ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、DXとは、デジタルを活用した既存事業の磨き込みによってリソースを捻出し、それを使って新たなチャレンジをすることだそうであり、その新たなチャレンジのうち、いくつかが実を結び、やがて既存領域となっていき、さらにその既存領域でDXを推し進めるというループを回すことが、安定的な事業の発展につながるということについて説明しました。

これに続いて、冨山さんは、規模が小さい会社であっても、DXを導入すべきと述べておられます。「『わが社は小さいから』、『わが社はそもそもデジタル化がまったく進んでいないから』という理由で、DXにしり込みする企業も見られる。だが、それらもまた、DXをやらない言い訳にはならない。もちろん、規模や業種が違えば、解決できる課題の大きさや範囲が異なるのは当然だ。しかし、規模が大きい会社にはデジタルが必須で、規模が小さければアナログでいいというものではないし、業種として遅れているから関係ないというものでもない。

むしろ、DXが遅れているという状況は、改善の余地が大きかったり、競合を出し抜くチャンスがあるということでもある。経済産業省中小企業庁のHPには、DXに取り組む中小企業の事例が紹介されているが、そのうちの一つに、従業員数30数名の今野製作所の事例がある。この会社はジャッキと呼ばれる油圧機器製品の製造や板金加工などを手掛けているが、リーマンショック後の受注の落ち込みをカバーするため、顧客ニーズにカスタマイズした受注計画生産に力を入れることにした。

しかし、こうした特注品は、手間も工数もかかり、かつ、東京、大阪、福島に拠点が分かれていることもあり、設計部門やベテランに仕事が集中したり、細かな情報伝達がしにくくなったりという問題を抱えていた。その結果、『売上はさほど伸びないのに、皆で残業している』という状況に陥ってしまっていたという。そこで、業務の見える化を推進し、ITを用いた情報の共有化を図ったところ、大幅な業務効率化が実現、特注品の売上が4倍以上になったにもかかわらず、同数の社員でしっかりと業務が回せるようになったという。

この事例からも、規模の小さな会社だからこそ、経営へのインパクトが大きいことがおわかりいただけるだろう。(中略)もちろん、企業規模の大小や業種を問わず、明確な理由を持って、『DXをやらない』と決めるという判断も否定しない。(中略)しかし、大半は、『やったことがないことは、怖いし、面倒くさいから、やりたくない』ということではないだろうか。むしろ、遅れているのであれば、投げ出すのではなく、誰よりも真剣に考えるのが筋である」(61ページ)

今野製作所の事例では、情報技術により業務の可視化を実施した結果、従業員を増やすことなく、特注品の売上を4倍にしたということですが、ほとんどの経営者の方は、本当にそれが実現するのであれば、自社でも情報化武装をしたいと考えるのではないでしょうか?私は、同社の事例は例外ではなく、例えば、埼玉県入間郡にある産業廃棄物処理会社の石坂産業(年商約70億円、従業員数約200名)でも、2011年に1億円の情報化投資をして、社内業務を可視化したところ、従来はベテラン社員でなければできなかった業務を、経験の浅い社員もできるようになったと、同社社長が著書に書いています。

すなわち、情報化武装は、ギャンブル的な要素はなく、むしろ、自社の競争力を維持したり、高めたりするためには避けることができないと、私は考えています。しかも、最近は人手不足が進んでいることから、情報化武装による合理化は、ますます必要性が高まっていると言えます。そして、冨山さんも、「規模の小さな会社だからこそ、(情報化武装は)経営へのインパクトが大きい」と述べておられるように、中小企業だからこそ導入する効果が高いと言えます。

さらに、私は、かつては、中小企業は、大企業と同じ土俵に上がることができないこともありましたが、現在は、情報化武装によって、中小企業、特に、地方都市の中小企業も、大企業と同じ土俵に上がることができるようになってきていると考えています。冨山さんは、「DXをやらない」という判断も否定しないと述べておられますが、私は、そのような判断をすることは、実際は極めて例外的だと思います。

現在は、情報化武装を避けることはできません。DXという言葉を見ると、身構えてしまう経営者の方も少なくないと思いますが、そのような方は、ITコーディネータなどの中小企業を専門に情報化武装の支援をしている外部専門家の助力を得ながら、まず、小さな課題を解決するところから、少しずつ情報化武装を進めていくことを、お薦めします。

2024/5/8 No.2702