鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

DXとは『デジタルで変わる』こと

[要旨]

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、「人間の生活のあらゆる側面において、デジタルテクノロジーにより、あるいはその影響によってもたらされる変化のことだと理解できる」と定義されており、デジタルで変わっていくことが広くDXと言えます。現在は、必ずしもこの定義に厳格に従う必要はないと思われますが、専門用語を正しく理解するところから、正しい経営判断ができるようになっていくと言えるでしょう。


[本文]

経営共創基盤(IGPI)グループ会長の冨山和彦さんと、同社取締役の望月愛子さんのご著書、「IGPI流DXのリアル・ノウハウ」を拝読しました。冨山さんは、まず、DXとは何かということについて述べておられます。「『デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が、今や毎日のように見かける一種の『バズワード』となっていることは冒頭で述べた通りだが、DXとはそもそも何なのだろうか。

こうしたバズワードは、必ずしも最近生まれた言葉でないことも多いが、DXもその概念の提唱は15年以上も前の2004年にさかのぼり、当時、スウェーデンウメオ大学に在籍していた、エリック・ストルターマン氏が、論文の中で、“デジタルトランスフォーメーションとは、人間の生活のあらゆる側面において、デジタルテクノロジーにより、あるいはその影響によってもたらされる変化のことだと理解できる”と定義したことに始まる。最初の定義に厳密である必要はまったくないが、要は、デジタルで変わっていくことが広くDXと言えよう。『デジタル』で『変わる』がキーワードである。

ちなみに、一般的に『DX』として取り上げられることが多いのは、アナログなデータをデジタル化するといった基本的なことから、AIやIoTの導入、あるいはブロックチェーンやVR(仮想現実)・AR(拡張現実)の活用、はたまた自動運転や遠隔操作まで様々なものがあるが、どれもひと言でいえば、『デジタルで変わる』という言葉に集約される。DXが、新たなバズワードとして登場頻度を上げてきたのは、2019年あたりであるが、こうしたバズワードは、いつの時代にも必ず存在する。

少し前で言えば、AIやIoTはバズワードの代表格であった。AIは2021年の今もなお、そして今後も永久に発展していくものであるし、IoTについても、5Gの登場など通信環境の真かとも相まって、人間を介さない情報交換や相互制御の仕組みは確実に進みつつある。情報技術そのものであるITや、技術を使って人とインターネット、あるいは人同士がつながるICTを、うっかりIoTと言ってしまっているような少し前の時代からは、明らかに状況が異なってきている。

それにもかかわらずなのか、それだからなのかはわからないが、AIやIoTといったワードが、大企業各社の資料に便利な『ふりかけ』としてのみ登場する機会は激減している。それに代わる新たなふりかけになっているのがDXであるが、DXは技術でも仕組みでもなく、『デジタルで変わる』ことのすべてを広く指す。よって、DXの及ぶ範囲はAIやIoTよりも広く、AIの活用やIoTの仕組みを実現することもDXの一環である」(24ページ)

情報技術が日進月歩で変化する現在は、新しい概念が次々と登場し、それにともなって、新しい言葉が登場します。したがって、ビジネスパーソンが、それらを、逐次、理解することは、たいへんであると、私も考えています。しかし、「意味が不明確な専門用語」、すなわち、バズワードを、曖昧なままにしておくことは、あまり賢明ではないと、私は考えています。このように言っては恐縮ですが、DXのことを、かつての情報技術と同じ意味で理解し、単に、ITをDXと言い換えて使っているビジネスパーソンの方も少なくないのではないでしょうか?

とはいえ、そうなってしまう理由のひとつには、冨山さんもご指摘しておられるように、大企業の資料の『ふりかけ』として、DXが多様されていることも、そうなってしまう一因だと思います。しかし、“デキる”ビジネスパーソンは、『ふりかけ』に惑わされない人だと思います。もし、きちんと理解しないまま、バズワードを多用するようなことがあれば、その人は、中身のともなわない空回りの活動しかしていないことになりかねません。

さらに、私は、バズワードを多用することよりも、もっと注意しなければならないことがあると考えています。情報技術については、単に省力化のためのツールであったり、システムを導入するだけで業績が改善すると考えている経営者の方も少なくないと、私は感じています。しかし、現在は、第4次産業革命が進行しており、情報技術が経営戦略の中心に据えられています。

例えば、アマゾンはその代表例であり、最近では、民泊やシェアリングサービスなども広まっています。このような変化の中で、バズワードによって情報技術に関する知識を曖昧なままにしていれば、適切な経営判断や経営環境への対応ができなくなってしまいます。そこで、これからの経営者の方は、「ふりかけ」のバズワードに惑わされず、情報技術に関する専門用語を正しく理解し、それが自社の経営にどう影響を与えるのか、これからの事業活動にどのように活用できるのかを考えていくことが欠かせないと、私は考えています。

2024/5/5 No.2699