鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

お金を借りないといけない理由を考える

[要旨]

経営コンサルタントの板坂裕治郎さんは、融資を受けなければならない理由を考えることが大切だと述べておられます。もし、融資額が仕入代金の金額以内に収まっていれば、正常に事業を継続できますが、それを上回っている場合は、赤字による資金不足が発生しているため、赤字を改善するための対策を直ちに講じる必要があります。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、板坂さんによれば、仲間内で目立ちたい、あいつはすごいと思われたいという欲求で商売に臨んでいる経営者は、図らずも事業が躓いたとき、社員も、愛想のよかった金融機関の担当者も、仲間だと思っていた社長たちも、すぐに離れていく、すなわち、見栄ベース、金ベースで築いた人脈は一気に崩れるので、注意が必要ということについて説明しました。

これに続いて、板坂さんは、銀行からお金を借りる理由について考えることが大切だということについて、述べておられます。「金融機関の貸し渋りがニュースになったとき、世間の風潮は、『お金を貸さなくなった金融機関が悪い』という方向に流れた。世の中小零細弱小家業の社長さんの多くも同じ感覚で、『貸し渋りがきつい』、『景気のいいときは、“借りろ、借りろ”と言って、こっちが厳しいときには、“貸せん”と言う』とボヤいていた。でも、私が思うに、お金を借りずに経営していくことを考えるのに、貸し渋りはちょうどいい機会だったはずだ。金を借りないとやっていけない経営をしているから、借りられないとなると悩んでします。

けれど、原点に戻って、『なんで金を借りんといけんのか?』を考えてみる。ある事業を始めるとき、どうしてもその商品を仕入れないと、商売の土俵に上がれないから、仕入れの資金のために、金融機関からお金を借りる。目当ての商品を買って、そこにレバレッジをかけ、借りたお金以上の儲けにするのが理想だ。簡単に言えば、1,000万円で借りて仕入れた商品に、自社のエッセンスを注入して、1,500万円で販売する。借りた1,000万円を返済して、500万円儲けた。実は、その500万円を元手に売り買いすれば、借金せずに商売が回り始める。単純に考えれば、これが商いの基本だ」(57ページ)

板坂さんが例に挙げておられる商いの基本は、銀行から借りた1,000万円で商品を仕入れ、それを1,500万円で販売すれば、500万円が手元に残るということですが、この単純なモデルはほとんどの方がご理解されると思います。ところで、会社にお金が不足する理由は、大きく分けて2つあるのですが、私がこれまで中小企業経営者の方とお会いして感じることは、この2つの理由を理解していない方は、意外と少なくありません。では、その理由とはどういうものかというと、1つ目は、商品を仕入れるための資金不足です。

これは、単純な例で示せば、例えば、商品の売上代金が翌々月に回収予定である一方で、仕入代金は翌月に支払う必要があるようなとき、1か月間のずれがあって仕入代金が不足するような場合です。2つ目は、赤字のよる資金不足です。例えば、1か月の商品仕入が1,000万円であり、給与や家賃などの固定的な費用が300万円である一方で、売上が1,200万円しかないとき、100万円の資金不足が発生します。この2つの理由は、それぞれは難しくなく、多くの方が容易に理解できると思いますが、問題なのは、資金具足が起きているとき、それがどちらの理由によるものか、少し会計に詳しくないと、わかりにくいという面があります。

また、資金不足は、同時に2つの理由によって発生することもあり、その場合、それぞれの理由で、それぞれがどれくらいの不足額が発生しているのかを把握することは、やや難しいと言えるでしょう。ところが、もっと問題なのは、本当は、赤字が理由で資金不足が発生しているにもかかわらず、それを仕入資金が足りないからと考え、赤字の状態を放置してしまうことです。私が銀行に勤務しているとき、「仕入資金が足りないから融資をしてほしい」という理由で融資の申し込みをたくさん受けていましたが、本当は赤字で資金不足になっているという例は少なくありませんでした。

しかし、繰り返しになりますが、赤字による資金不足を銀行からの融資で補填してしまうと、事業活動は継続できてしまうため、経営者の方は、根本的な課題である、赤字の解消になかなか着手しようとしなくなります。その結果、業績はますます悪化し、銀行は融資に消極的になります。したがって、融資額(設備投資のための融資を除く)は、仕入額以内に収まっているかを常に把握し、もし、それを超える金額の融資を受けているときは、直ちに、利益を得られるようにするための対策をとることが大切です。

2024/5/14 No.2708