[要旨]
経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、能力がなくても、法務局に登記すれば、誰でも「社長」になることができる一方、「経営者」はきちんとしたマネジメントスキルを備えた人であり、そのためのスキルを学び、身につけなければなりません。したがって、単に、登記上の社長のままであれば、運転免許証を持たないドライバーが運転する自動車のようにしか、会社を経営できないことになるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、もし、融資額が仕入代金の金額以内に収まっていれば、正常に事業を継続できますが、それを上回っている場合は、赤字による資金不足が発生しているため、赤字を改善するための対策を直ちに講じる必要があるということについて説明しました。
これに続いて、板坂さんは、「社長」と「経営者」は異なるということについて述べておられます。「今の世の中、なんでも揃っている。店頭もネット上も使える物や便利な便利なサービスで溢れかえっている。こんな社会で商売を続ける以上、アホ社長のままでは戦えない。アホは淘汰され、頭を使った会社だけが生き残るからだ。あなたは、『社長』と『経営者』の違いがわかるだろうか?社長とは、仕事ができなくても、登記簿上、会社の長となっている人だ。
経営者は読んで字のことく、会社を経営する人だ。『社長』と『経営者』は似ているようで、まったく違う。一般の人からすると、世の社長は、みんな数字が読めて、ある程度の経営のセンスもあって、従業員を引っ張る魅力もあって、税金はきちんと納めて、誰に後ろ指さされることもなく、生きているというイメージがあるかもしれない。だが、それは大きな勘違いだ。社長には金さえ積めば、誰でもなれる。法務局にいき、1円でも積めば、株式会社の社長だ。
免許もなければ、審査もない。あなたも高校に入るとき、大学に入るとき、受験勉強をしただろう。ところが、社長になるためのテストは何もない。運転免許証もないまま、クルマのハンドルを握っているようなもの。夜の繁華街、で呼び込みのおっさんが、『よ、社長、遊んでいかない?』と言うときの『社長』と、中小零細弱小家業の『社長』に、大した違いはないのだ」(83ページ)
私は、「経営者」の役割を十分に果たしている中小企業の「社長」をたくさん見てきていますが、一方で、経営者の役割を果たしていない、肩書だけの社長も少なくないと思っています。板坂さんは、「社長になるためのテストは何もない」とおっしゃっておられますが、実際にテストがあるかどうかは別として、「社長」にどのような能力が必要かということは、それほど知られていないと、私も考えています。経営者のための能力として、多くの方が、人間力やリーダーシップなどが必要と考えいると思います。
しかし、そういった能力は必要であるものの、それだけでは不十分です。そして、私は、「経営」という言葉が何を指すのかが、あまり理解されていないということが、最大の問題だと考えています。本当は、もう少し複雑なのですが、仮に、経営者の役割はマネジメントということとすると、起業する人の多くは、自分はマネジメントできる能力があると考えて起業したり、または、マネジメントに関心がないまま起業したりしている方が多いと、私は感じています。
もちろん、起業してからその能力の必要性に気づき、それを学び始めるということも可能です。しかし、経営環境の変化が激しい時代は、起業前から経営者の資質を身に着けるようにしておく方が起業後に有利です。また、現在は、事業そのものの知識やスキルも大切ですが、競争力を高めるための要因は、マネジメントのスキルに比重が移りつつあります。最近は、プロ経営者が増加しているということは、その表れのひとつと言えるでしょう。
したがって、もし、現在、自分はマネジメントに関して自信がない、または、関心がないという経営者の方は、「経営者」になるためにどのようなことをすればよいのかということに目を向け、軸足を移していくということが必要でしょう。そうでなければ、「運転免許証」を持たないドライバーが自動車を運転するような経営を続けることになるでしょう。
2024/5/15 No.2709