鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『武器オリエンテッド』は避けるべき

[要旨]

DXの導入は、当初は自動化や省力化などから始まることが多いですが、そこから、さらに顧客に付加価値を提供できなければ、DX導入の効果は半減します。しかし、システム会社などからの提案を安易に受けて、DX導入を目的化してしまう、すなわち、「武器オリエンテッド」になってしまえば、その意味はなくなってしまいます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、冨山和彦さんと望月愛子さんのご著書、「IGPI流DXのリアル・ノウハウ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、DXとは、「人間の生活のあらゆる側面において、デジタルテクノロジーにより、あるいはその影響によってもたらされる変化のことだと理解できる」と定義されており、デジタルで変わっていくことが広くDXと言えますが、この定義でDXを理解していない方も少なくないことから、注意が必要ということについて説明しました。

これに続いて、冨山さんは、DXツールを導入すれば目的が達成されるわけではないということについて述べておられます。「昨今、いわゆる『DXツール』の広告や宣伝を見ない日はない。『業務改善ツール』、『データ解析ツール』、『経理自動化ソフト』といった、日々の業務に紐づくものから、『データ統合プラットフォーム』といったすごそうだが、何だかよくわからないものまで、様々な情報が私たちのまわりには溢れている。

ただ、ここで考えてもらいたいのは、技術やツールだけがあれば、DXは実現できるのだろうか、ということだ。もちろん、最初の取りかかりは、いわゆる『業務改善ツール』、『データ解析ツール』などを導入することで始められるかもしれない。ただ、それを『使ってみる』というだけでなく、『最適』に活用して、気持ちよく働くという形に進化させていくためには、不要な業務をやめることも含めて、業務のやり方自体を見直していかないことには、例えば、ペーパーレスやリモートワーク一つをとっても、目指すべき姿の実現にはたどり着かない。

現状をデジタル化して終了ではなく、より良いペーパーレスなり、リモートワークなりを、私たちは実現していく必要があるし、実現することが自らのメリットともなるはずである。また、業務改善やデータ解析の結果として、より良い付加価値を顧客に提供できなければ、これまたDXの効果は半減である。少なくとも、システム会社やコンサルティング会社が、武器商人の顔で売り歩く武器(ツール)を買えば、DXが実現する、ということではないのは明らかだ。

彼らは『とりあえずのシステムを導入してみましょう』、『このシステムを入れれば安心です』、『ツールの数はとにかくたくさんあったほうがいいです』、『大人数で取り組まないと乗り遅れます』などと説いているが、自ら使いこなせる、かつ、使う場所に適した武器でなければ、買った意味はまったくない。もちろん、武器商人からのアドバイスは有用なことも多いが、勧められた武器を購入してから、『さて、どこで使おうか』と考えるという、謎の『武器オリエンテッド』になることだけは、くれぐれも避けるべきである」(29ページ)

情報機器やシステムを、単なる省力化の目的で導入するのであれば、ほぼ、それを導入するだけで目的は達成されます。しかし、真の意味でDXに対応した事業の改善を行うのであれば、経営環境分析経営資源の調達、経営戦略の策定から実施しなければなりません。本旨からずれますが、DXを導入しても効果が得られないなどといった、DXに否定的な考えを持っている経営者の方は、きちんとした準備をせずにDXを導入し、失敗した経験を持っているからではないかと思います。

要は、DXの導入の難易度が高いから否定的なのであり、それはDXそのものに対する批判にはあたらないと思います。話をもどすと、冨山さんもご指摘しておられるように、「武器オリエンテッド」に陥る、すなわち、DXを導入することが目的化してしまうと、それは時間と資金と労力の無駄になってしまいます。では、どうすればよいのかというと、「武器商人」に属さずに独立している、情報技術に詳しい経営コンサルタント中小企業診断士・ITコーディネータ)に助言を得ながら、DXを導入していくことです。

もちろん、「武器商人」自身も、経営戦略を提案できる人材は必要と考えているようですが、そういった人材を育成する余力があまりないのが実態のようです。もし、「武器商人」に、経営戦略策定から関与してもらえるようであれば、それを依頼する方がよいと思いますが、そうでなければ、費用はかかりますが、前述の独立したコンサルタントにも支援を依頼するとよいと思います。また、この、「武器オリエンテッド」は、DXに限らないことだと思います。よく、「●●戦略」で売上が増えるというようなことを触れ回るコンサルタントを見かけます。

そのような方の提案する戦略が、まったく効果がないとは思いませんが、いわゆる「万能薬」的な戦略は、効果も限定的となるでしょう。なぜなら、経営環境(外部環境と内部環境)や事業の内容が同じ会社は、ほとんど存在しないわけですから、それぞれの会社で効果を発揮する経営戦略も異なります。ただ、経営者の方としては、「すぐに効果が得られる戦略を導入したい」と考えると思いますが、それは、長期的に見て、あまり賢明な対応であるとは言えないと思います。

2024/5/6 No.2700