鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

バックヤードのデジタル化て利益を出す

[要旨]

変圧器メーカーのNISSYOの社長の久保寛一さんは、今後、デジタル化の波に乗れない中小企業は淘汰されていくと考え、バックヤードは、できるだけIT化して、効率化を図っているそうです。これにより、デジタル化によって生まれた時間を、顧客の新規開拓や社員教育などに充てれば、投資額を上回る業績を上げることが可能であり、すなわち、同社は、バックヤードのデジタル化によって利益を出していると考えているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、NISSYOの社長、久保寛一さんのご著書、「ありえない! 町工場-20年で売上10倍! 見学希望者殺到!」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、NISSYOでは、環境整備委員会、新卒採用委員会、DX委員会などの7つの全社横断的な組織をつくり、これらのいずれかの委員会にすべての従業員を所属させ、間接部門の活動を行っていますが、こうすることで、縦割りだけでは部分最適に陥りがちな状況を是正し、全体最適の視点を持ってもらう機会を設けることになり、組織をより強くすることができるようになったということについて説明しました。

これに続いて、久保さんは、今後、中小企業はデジタル化の波に乗ることは避けられないと述べておられます。「『日経BP総合研究所』は、デジタル化の必要性を認めながらも、一方で、『多彩なデータを利用しながら、製造業のしくみを進化させるIT基盤を導入するための必要な資金や人材を、中小企業はなかなか確保できない現状がある』と述べています。(中略)『今後、デジタル化の波に乗れない中小企業(製造業)は淘汰されていく』と、私は考えています。

当社では、数年前からデジタル化を促進し、時代の変化に対応してきました。『お客様と接する場面(コミュニケーション)はアナログで、バックヤードはデジタルで』が、基本方針です。お客様へのセールスや社員教育は、アナログで手間をかけた方が、会社は強くなります。一方で、バックヤードは、できるだけIT化して、効率化を図っています。デジタル化は、DX委員会が中心となり、社内展開しています。

すべての巻線機には、AI開発に広く使われている、『パイソン(Python)』でプログラミングされた、世界的に有名な小さなマイクロコンピュータ『ラズパイ(Raspery Pi)』が搭載され、iPadをつかってデータをリアルタイムに処理しています。デジタル化には、大きなコストがかかります。しかし、デジタル化によって生まれた時間を、お客様の新規開拓や社員教育などに充てれば、投資額を上回る業績を上げることが可能です。つまり、バックヤードのデジタル化によって利益を出しているのです」

久保さんがご指摘しているように、「デジタル化の波に乗れない中小企業は淘汰されていく」という考え方については、ほとんどの方が理解されると思います。かつては、情報技術は、効率化、省力化が主な目的でした。しかし、情報技術が進展してきた現在は、情報技術は、事業の支援ツールという役割から、それなしには競争できない、武器の役割を担うようになっています。すなわち、現在は、中小企業であっても、情報技術を使いこなすことができなければ、「土俵」にあがることができない状況にあると言えます。

しかし、その一方で、中小企業が情報化武装することは、メリットもあります。というのは、情報技術という武器は、大企業も使う武器であり、中小企業がそれを使うということは、大企業と同じ「土俵」で戦えるということも言えます。かつては、中小企業が大企業と同じ土俵にあがることは難しかったわけですが、現在は、その差も縮まっているということです。だからこそ、情報技術を使いこなす能力、すなわち、ITリテラシーを高めていくことは、中小企業であっても、大企業であっても、変わりなく重要です。

2024/2/18 No.2622