鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

全社横断的な組織で業務改善を加速する

[要旨]

NISSYOでは、環境整備委員会、新卒採用委員会、DX委員会などの7つの全社横断的な組織をつくり、これらのいずれかの委員会にすべての従業員を所属させ、間接部門の活動を行っています。こうすることで、縦割りだけでは部分最適に陥りがちな状況を是正し、全体最適の視点を持ってもらう機会を設けることになり、組織をより強くすることができるそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、NISSYOの社長、久保寛一さんのご著書、「ありえない! 町工場-20年で売上10倍! 見学希望者殺到!」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、NISSYOでは、マニュアルを作成することで、新入社員にも質の高い製品を製造することを可能にしていますが、そのマニュアルのベースは、ベテラン社員が作成し、さらに、初心者にも理解しやすいものにするために、初心者に記載内容の見直しを担当させ、これを繰り返すことで、マニュアルが、より実践的で精度の高いものになるということを説明します。

これに続いて、久保さんは、全社横断的な組織をつくり、業務改善を加速させているということについて述べておられます。「NISSYOには、現在、7つの『委員会』が設置されています。(中略)生地は、縦糸と横糸を組み合わせて織ることで、耐久性が生まれます。私は、会社も同じだと考えています。各部署が縦糸で、部門を横断して改善を進める『委員会』が横糸です。製造部の小野優介(2018年入社)は、入社3年目の若手社員です。小野は、新卒採用委員会に所属して、採用活動の現場リーダーを担当しています。(以下、小野さんの話)

『当社には人事部や採用部がないため、有志によって構成された、新卒採用委員会が、合同説明会、学校求人、面接など、採用に関わるさまざまな業務に携わっています。私は、まだ、入社3年目ですが、若いからこそ、学生とのギャップが少なく、今の学生のトレンドを踏まえた採用活動ができています。就活に悩んでいる学生に対して、自分も文系だけど、ちゃんとやれているから、理系でなくても大丈夫だよ、NISSYOは頑張れば頑張った分だけ評価してもらえる会社だよ、タバコを吸わないだけでお金がもらえるヘンな会社だよ(笑)と、自分の体験を振り返りながら、アドバイスをしています』」

NISSYOの「委員会」は、前述の新卒採用委員会の他に、環境整備委員会、教育委員会カイゼン委員会、ベンチマーキング委員会、イベント委員会、DX委員会があるそうです。そして、久保さんが述べておられるように、直接部門の活動を縦割りで行うのと同時に、間接部門の活動を組織横断的に行うことは、会社の組織を強くすることになると、私も考えています。その理由の1つは、一般的に、組織活動は縦割りになりやすい、というよりも、組織活動は縦割りが原則なので、組織に属している人も、どうしても、自分の所属する部署を中心に考えたり、行動したりしてしまいがちです。

ところが、NISSYOの「委員会」のように、組織横断的な立場で考える機会を与えられると、縦割り的な視点以外での視点を持つことができるようになります。これは、部分最適の視点だけでなく、全体最適の視点でも考えたり、行動したりするということでしょう。この、部分最適だけでなく全体最適での考え方を持つということは、経営者でなくても、経営者に近い立場での考え方を持つことになり、従業員の自律的な活動につながると、私は考えています。

もう1つの理由は、「委員会」の活動は、前述のように、全体最適の視点を持つ機会になりますが、それは、同時に、従業員の参画意識を高める機会になります。縦割りの仕事をしていると、どうしても、上席者からの指示を受けて仕事をするだけになりがちですが、「委員会」の活動は、全体最適の視点で活動するので、自分で考え、自律的に活動し、さらに、その成果も自分で確認できることになります。

こういう活動を経験することは、従業員のモラールを高め、また、バランスのとれた人材を育成することになり、事業活動全体に好影響を与え、会社の業績も向上させることになるでしょう。ちなみに、NISSYOの「委員会」のような組織をつくることが難しい会社の場合、QCサークルや、5S活動を行うと、同様の効果を得らると思います。従業員の方に、全体最適の視点を持って欲しい、自律的な活動ができるようになって欲しいと考えている経営者の方は、ぜひ、QCサークルや、5S活動を実施してみることをお薦めします。

2024/2/17 No.2621