鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『やりたい』を『やるべき』に変換する

[要旨]

島田慎二さんは、千葉ジェッツの社長時代に、従業員の方に対し、「やりたい」と思える仕事があったら、「やるべき」に変換して考えてもらうようにしていたそうです。こうすることで、利己的な視点ではなく、利他的な視点でも考えることができる思考になっていったそうです。こうすることで、能動的に臨む仕事が増え、また、各個人の「できること」の幅が広がって行ったそうです。


[本文]

今回も、Bリーグチェアマンの島田慎二さんのご著書、「オフィスのゴミを拾わないといけない理由をあなたは部下にちゃんと説明できるか?」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、目標を達成するための事業計画は、まず、そこに至るまでの状態を、3~5年かけていくつかのステージに分け、さらに、実践すべき項目を重点的に絞り込み、徹底的に経営資源を注ぎ込むことが大切ですが、そのためには、経営者は、経営環境、労務、財務などを知り尽くし、達成できる計画とシナリオを描ける能力を持たなければならないということについて説明しました。

これに続いて、島田さんは、経営者がやることとやらないことの選択をするにあたっては、「やりたいこと」ではなく、「やるべきこと」を選ぶようにしなければならないということを説明しています。「一般的には、『やりたこと』の方が、自発的に望んでやるといった、明るいイメージになり、『やるべきこと』の方は、強制されて、止む得ずやるといった、どちらかといえば、暗く重苦しいイメージになります。

しかし、ビジネスシーンにおいては、それらの意味合いが少し違ってくるような気がしています。なぜなら、やりたい仕事をやりたいようにやっていて、人が成長できるとは思えないし、やるべき仕事をやることが、必ずしも苦痛を伴うとは思えないからです。自分の感情のおもむくままに、『やりたいこと』、つまり好きなことだけしていても、『できること』の幅はいっこうに広がりませんし、仕事を続けていて、その状態が楽しいとは、私には決して思えません。

千葉ジェッツでは、社員たちが、この『やりたい』と『やるべき』を上手に使っています。例えば、自分の仕事の中で、ふと、『あ、これやりたいな』と思ったら、いったん、『やるべき』に変換します。それでも必要だと思えたら、『今回の○○の件、□□□をすべきだと思うのですが、いかがでしょうか?」と、私に判断を仰ぎに来ます。『やりたい』を『やるべき』に置き換えると、その内容について客観的にとらえようとします。(中略)

これは、『たい』を『べき』にすることによって、思考回路が変わる効果です。『やりたい』という利己的な視点から、『やるべき』という利他的な視点に変わります。利己的とは、『自分の利益だけを追求しようとする』ことですし、利他的とは、『自分の利益を犠牲にしてでも、他人の利益を優先する』ことです。仕事でも、いったん、相手側の視点や立場に立って考えてみるというのは、とても大事なことですから、たいへん理に適っている気がします」

どんな人でも、事業活動の中では、やりたくないと感じる仕事があるでしょう。そういう仕事への臨み方について、島田さんは、利己的に考えず、利他的に考えるようになるとよいとご説明しておられます。私は、島田さんの考え方に間違いはないと思いますが、これは、部分最適ではなく、全体最適で考えることと同じだと思っています。すなわち、自分が好きな仕事だけをしていればよいのであれば、ある意味、精神的に楽ですが、組織に属する人が、個人の好き嫌いだけで判断して動いていれば、組織としてうまく機能することはないでしょう。

でも、個人が、組織がうまく機能するためには、自分はどういう仕事をすればよいのだろうと考えれば、自分が好きでない仕事にも意義を感じ、前向きに取り組めるようになるかもしれません。そして、そのような人たちが組織の構成員として活動していれば、組織はうまく機能し、組織として大きな成果が得られることから、各構成員も、自分が犠牲になった以上のメリットを得ることができるようになるでしょう。

また、これも島田さんがご指摘しておられますが、「やりたいこと」ばかりしていては「できること」の幅が広がらない、すなわち、成長しないことにもなります。しかし、前述のように、全体最適な視点で「できること」を増やしていくことで、個人としても成長が得られるわけです。そして、従業員の方たちに、こういった全体最適の考え方を持つように促すことは、経営者の大切な役割だと、私は考えています。全体最適の視点を持つ従業員が増えれば、組織も従業員も成長していきます。

2023/7/24 No.2413