[要旨]
経営コンサルタントの岩田松雄さんは、ビジネススクールなどで、わかったような、わからないような、定義がはっきりしない抽象的な言葉である、「ビッグワード」は使わないようお伝えしているそうです。なぜなら、定義が不明確であれば、当然、聞き手には話し手の伝えたいことが伝わらず、時間や労力が無駄になるからです。
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今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、相手に指示を出しても、相手が動かなかったら、それは「伝えた」だけで、「伝わっていない」ことと同じことであることから、きちんと相手が理解できる形でこちらの意図を伝え、行動を促し、実行されているかを確認して、きちんとフォローし、その案件が完了しなければ、経営者の方は、役割を果たしたとは言えないということを説明しました。
これに続いて、岩田さんは、「ビッグワード」は使わない方が良いということについて述べておられます。「私は、ビジネススクールの授業や企業研修などで、『ビッグワードを使わないように』と、よく言っています。ビッグワードとは、わかったような、わからないような定義がはっきりしない抽象的な言葉のことです。もし、そういった言葉を使うなら、定義をはっきりしてから使うべきです。例えば、『グローバル人材』。ある政府系の教育機関に、『グローバル人材』についての講演を依頼されました。そこで、『グローバル人材とは、どういう意味ですか?』と確認すると、『よくわかりません』という回答でした。定義もはっきりしないことについて、講演することはできません。
英語ができる人なのか、国際的に活躍する人のことなのか、『グローバル人材を目指せ!』と言われても、どんな人になればいいのか、よくわかりません。ちなみに、私のグローバル人材の定義は、『良き日本人であること』です。もっと身近な例で言うと、『赤』といっても、サンタクロースの服、郵便局のポスト、リンゴの色など、いろいろな『赤』があります。『郵便ポストの赤』と、具体的な言葉を示せば、相手との認識がブレることなく、同じ色をイメージできます。一番良いのは、『○○番の赤』というカラーコードを伝えるのが確かです。これがプロの仕事のやり方です」(231ページ)
岩田さんがご指摘しておられるように、言葉の定義が不明確なまま使われているということは、珍しくありません。ビジネスから離れたところで、雑談をしているのであれば、それほど言葉の定義を明確にする必要はありませんが、ビジネスの場で定義が不明確な言葉を使うことは、意味がないばかりか、時間を浪費するだけになると思います。なぜなら、言葉の定義が不明確であったり、話す側と聞く側で言葉の定義が異なっていると、話し手の意図が正確に聞き手に伝わらないからです。
とはいえ、『ビッグワード』が使われるときは、多くの場合、単に、雰囲気だけを伝えようとしていることが多いと思います。岩田さんのご経験にもあるように、「グローバル人材」の定義が明確にせず、岩田さんにグローバル人材について講演を依頼してきた人は、あまり深く考えていなかったのだと思います。でも、それは、裏を返せば、岩田さんに何か講演をしてもらうこと目的になっていて、講演を聴いた人に何かを伝えたいという観点では、真剣に考えられていなかったということでしょう。それでは、講演の開催にかかる費用や、参加者の時間は無駄になってしまいます。そういう無駄こそ、極力、排除しなければならないでしょう。
2024/4/24 No.2688