鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

成長できていることを実感してもらう

[要旨]

岩田松雄さんが、ザ・ボディショップの社長時代、研修やトレーニングプログラムを充実させました。そのことによって、接客や業務のレベルが上がり、顧客満足度や生産性が向上しただけでなく、従業員が成長できていると実感することにつながり、離職率が下がりました。その結果、業績の向上が待遇の改善になるという好循環が実現しました。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、会社では不祥事が起きることは避けることはできないものの、その度に、性悪説に基づいて防止策を講じることで、会社と従業員との間の信頼関係が損なわれてしまうので、基本的には性善説で事業に臨むことが重要ということについて説明しました。これに続いて、岩田さんは、よりよいサービスのために社員教育を充実させることは、社員も満足することになり、好循環を生むことになるということをご説明しておられます。

「(岩田さんが社長時代に)ザ・ボディショップの再成長のために、研修やテレーニングプログラムを充実させていきました。もちろん、接客や業務のレベルが上がり、顧客満足度や生産性が向上し、企業にとって、大きなプラスになるからです。しかし、一方で、トレーニングの目的は、それだけではありません。従業員の皆さんが、その企業にとどまりたいと思うかどうかは、『自分がその企業で成長できているか』を実感できるかが、極めて大きな要因になるからです。

私が、ザ・ボディショップの社長になったとき、離職率は20数%まで上がっていました。(同社の創業者の)アニータの理念に共鳴したけれど、会社の現実とのギャップや、待遇の改善が行われていなかったことなど、いくつかの原因はあったと思います。業績の悪化によって、トレーニングの費用が削減されていたのも原因の一つだと思います。もちろん、給料や待遇は、働く上で大切な要素です。しかし、それらが最低限満たされれば、仕事を通じて自分が成長できているかどうか、自己実現できているかが、とても大切になります。

スターバックスのお店での給料は、必ずしも良いとは思いません。他社から店長に引き抜きの声もかかります。それでも、ほとんどの人が辞めないのは、お店の雰囲気と研修やトレーニングが充実していたからだと思います。成長できている実感が持てるから、パートナーたちが定着しています。人が定着して離職率が低いから、また、教育投資ができる。企業への満足度や愛社精神も上がる。本人のスキルも上がって業績にも結びつき、待遇が改善される、離職率は下がる、さらに教育投資ができる……。こうしていい循環がぐるぐる回り出すのです」(230ページ)

この岩田さんのご説明は、「動機付け-衛星理論」の実例だと思います。給料を引き上げたり、職場環境を改善したりすることは、従業員の不満を減らすことはできますが、それだけでは、満足してもらうことはできません。そこで、従業員が成長できる職場であると感じてもらうことによって、満足してもらう必要があります。とはいえ、不満足の要因を減らすことは比較的容易であるものの、満足の要因を増やすことはなかなか難しいようです。ザ・ボディショップ(だけではありませんが)の例では、研修やトレーニングプログラムを充実させていますが、同社でさえ、業績が低迷するとそれへの費用を削減しています。

中小企業であれば、給与の引き上げも難しい中で、人材育成への費用支出はさらに難しいと考える経営者の方も多いのではないかと思います。私も、できれば、研修やトレーニングの充実が望ましいと思いますが、費用の捻出が難しい場合は、ジョブディスクリプション(職務記述書)の活用をお薦めします。ジョブディスクリプションは、本来は、ジョブ型雇用の人材の評価のために活用されていますが、中小企業では、事業年度の初めに、従業員個人の年間目標などを、上司との間で話し合って決めてもらい、6か月後、または、1年後にどれだけ達成したかを確認するという程度のことでも効果があると、私は考えています。

それだけで効果があるのか疑問を感じる経営者の方もいると思いますが、目標が達成されたかどうかだけでなく、上司と話し合いを行い、自分の成長を確認し、それを上司に認めてもらうということだけでも、従業員の方の満足度は高まります。これは、経営者の方にとっては、負担が増えると感じるかもしれませんが、こういった活動を通して、従業員の満足度が高まり、それが業績によい影響を与えることになれば、決して大きな労力になるとは言えないと思います。むしろ、離職率も下がり、経営者の負担や人材採用に関する費用も減少していくのではないでしょうか?

2023/6/14 No.2373