鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

営業部署は本社ではなく顧客を見るべき

[要旨]

ザ・ボディショップでは、月曜日の営業会議の資料を作成するために、各店舗の店長が、日曜日の午後に、接客よりも資料作成を優先していたことがあったそうです。これに対し、岩田松雄さんは、かき入れ時は店長は接客を優先すべきと考え、改善を要請したそうです。このように、事業活動においては、管理活動よりも顧客に対する活動を優先することが重要です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、会社で研修やトレーニングプログラムを充実させると、接客や業務のレベルが上がり、顧客満足度や生産性が向上するだけでなく、従業員が成長できていると実感し、離職率が下がる結果、業績の向上が待遇の改善になるという好循環が実現するということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、業績の報告を惰性で行わせてはいけないということについて説明しておられます。岩田さんが、ザ・ボディショップの社長時代、毎週、月曜日の朝礼後に、営業会議が開かれていたのですが、日曜日の夜10時にならないと全店の数字が集まらないため、営業部長は半徹夜で営業会議の資料をまとめて、フラフラになりながら業績報告をしていたそうです。そこで、岩田さんは、営業会議の開催日を火曜日に変更したそうです。ところが、営業会議の資料に関する問題は、それだけではなかったようです。

「さらに、突っ込んで話を聞いてみると、前日の日曜日、営業会議の資料作りのために、各店舗の店長に、週報を日曜日の夕方までに、本社へ提出させていたのでした。そのため、店長が、なんと、日曜日の午後から、ずっと、バックルームに籠って、レポートを書いているというのです。店長さんたちは、接客はプロでも、文章や資料作りは得意な人ばかりではありませんので、当然、時間もかかります。ザ・ボディショップのような小売業では、週末や祝日では、平日の2倍以上の売り上げが上がります。

その日曜日の午後という、『かき入れ』時に、店長がバックルームで、本社の月曜の会議のためのレポート作りをしていたのです。店長は、そのお店で、一番接客がうまく、売り上げを作る人です。明らかに、これはおかしいし、本末転倒です。(中略)こんなおかしなことが、何の疑問も持たれずに続けられていたのは、営業部署全体が、お客様を見ないで本社を見ていたからです。(中略)誰を見て仕事をすべきか、本当のお客様は誰なのか、いつも、皆に意識してもらようにしなければなりません」(233ページ)

以前の記事でも述べた通り。岩田さんは、適切な経営判断を行うためには、会計データは重要と考えておられます。その一方で、岩田さんは、今回は、店長は資料作りより接客を優先しなければならないと述べておられます。これは、経営者や従業員は、事業活動において、部分最適ではなく、全体最適の観点から活動しなければならないということでしょう。岩田さんは、営業会議の資料作成よりも、かき入れ時に、店長は、接客を優先することが、全体最適であると判断したのでしょう。

ちなみに、私が事業改善のお手伝いをしたことのある、ある飲食業を営む会社では、毎月、月末日に、実地棚卸を行っていました。私は、実地棚卸は大切であるものの、毎月行う必要があるのか疑問を感じたため、(1)実地棚卸は3か月ごとに実施すること、(2)実地棚卸の対象は棚卸資産に限定し、貯蔵品は決算時に必要となるときに実施することを、経理部門と顧問税理士に提案しました。

その結果、私の提案は、受け入れられ、事業の現場での負担が軽減しました。その会社では、恐らく、顧問税理士が、正確な経理事務が行われるよう、毎月の実地棚卸を実践するよう指導したのだと思いますが、その判断は、結果として、経理部門の部分最適の観点で行われたのでしょう。そこで、経営者や、外部コンサルタントなどの、事業全体を俯瞰できる立場の人が、適宜、経理事務の妥当性を検証することは、事業の改善に高い効果があると、私は考えています。

2023/6/15 No.2374