鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

在庫を減らすと問題点がみえてくる

[要旨]

岩田松雄さんは、トヨタ生産方式について、在庫量を川の水位に例えて説明しています。すなわち、同社では、あえて水位を下げることで、川の底の方にある問題点を露わにさせ、それを解決していくことで、効率的な経営を実現させているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、岩田さんがザ・ボディショップの社長時代、かき入れ時の日曜の午後に、同社の店長が営業会議の資料作成をしていたことに対し、それは、顧客を見ずに本社を見る行為であったことから、それは改善すべきことであるということについて説明しました。これに続いて、岩田さんは、トヨタ生産方式の優れた点についてご説明しておられます。

「これは、20代に読んだ、トヨタ生産方式の本に書かれていたことです。(中略)川が流れていて、水の中にはたくさんの問題が潜んでいる。川の水位が在庫です。在庫がたくさんあれば、問題は表に出てくることはありません。しかし、在庫という川の水位を下げることによって、少しずつ問題は露わになってくる。問題が出てきて初めて、解決に向かえる。在庫を少なくする効能がここにあります。問題のフィードバックを得られやすくなるのです。実際に、こうやってトヨタは在庫を減らし、問題点を露わにし、一つひとつをつぶしていったのだと思います。

だからこそ、あれだけの強い企業が出来上がったのです。ある意味、在庫に限らず、現場に緊張感を与え、問題点を『見える化』することは、とても大切です。しかし、その問題を起こした人を決して責めてはいけません。トヨタでは、工場ラインの作業者の方にも、ラインを止める権限を与えていると聞きます。ラインを1分間止めると、何百万円の損失が出るとも言われています。それでも問題点を顕在化させて、『改善』していこうとう経営哲学です」(236ページ)

トヨタが、在庫量を最小限にすることで、効率的な経営を実践していることは広く知られています。しかし、それはある面では、リスクの高い手法でもあります。すなわち、在庫量を最小限にしていることは、裏を返せば、部品を納品している工場が災害などで生産を停止してしまうと、直ちにトヨタ自体の生産も止まってしまうということでもあり、実際にそのようなことが何度も起きています。そこで、一般的な会社では、事業活動が停止することを避ける目的で、在庫量に余裕を持たせるという判断が行われているわけです。

しかし、トヨタは、事業活動が停止するリスクが高まる手法を敢えて選び、それでも事業が停止しないような工夫を重ねることで、ライバルとの競争力を高めているということなのでしょう。以前の記事でも、トヨタの生産計画のブレが、日産と比較して小さいということを述べましたが、それは、そのトヨタの果敢な取り組みの現れのひとつなのでしょう。トヨタは収益力が高いということは、誰も疑うことはしないと思いますが、そのような強い会社になったのは、「川の水位を下げる」という、果敢なチャレンジ精神の裏付けがあるからということが、岩田さんの説明で、よく理解できます。

2023/6/16 No.2375