鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

毎日数字を見るとアイディアが浮かぶ

[要旨]

岩田松雄さんは、ザ・ボディショップの社長時代、毎日、すべての店舗の売上をチェックしていました。その結果、会社の全体も把握できるようになっただけでなく、果敢な経営判断を行うことができたり、斬新なアイディアを生み出すことができるようになりました。このように、日々の数字の把握をすることは、経営者の役割を果たすために欠かすことはできません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、トヨタのように、生産計画の精度が高い会社は、在庫コストを最小限にして業績を高めていることからもわかる通り、業績の予測の精度を高めることは優良企業になるための条件になっているということについて説明しました。これに続いて、岩田さんは、会計データを毎日見ていたことで、ヒット商品を生むことができたということを説明しておられます。

というのは、岩田さんが、ザ・ボディショップの社長時代に、冬にしか売れないと考えられていた保湿剤のボディバターを、冬以外の季節でも販売するよう指示した結果、ヒット商品になったというご経験があります。そして、そのような、従来の常識を破る決断ができた理由について、次のように述べておられます。「ザ・ボディショップの社長時代、私は全百数十店舗のすべての売り上げ数字を、毎日、確認していたのです。全店の数字が、ほぼ頭に入っていました。(これが実践できたのは)各店舗の売り上げ、昨年対比、客単価、夜10時か11時には、自動的に数字が上がるシステムのおかげです。

その数字を自宅でも見られるようにして、全店の数字を見ていました。お店の売り上げ状況を確認することが日課になり、それが楽しみでもありました。前夜に見ることができなかった時は、起きると真っ先にパソコンを立ち上げて、『昨日はどうだったかな』とのぞき込みます。そして、数字を見ながら店長さんの顔を思い浮かべ、『昨日は頑張ったんだ!』、『数字が苦戦して、(店長の)彼女は落ち込んでないかな?』と、数字と対話していました。毎日、数字を眺めていると、いろいろなことが見えてきます。

売り上げが右肩上がりで伸ばしていく店がある一方、『ちょっとおかしいな』と思える動きを見せるお店もありました。路面店とモール内のショップでは、天候が大きく影響することもわかりました。もちろん、結果を出しているみせは、店長さんに、直接、お祝いのメールを打つようにしました。ちょっとおかしいと思うお店については、営業の担当者に理由を調べてもらうようにしました。毎日、数字を追いかけていたからこそ、ちょっとした変化を見逃さず、全体像も見えていました。ここから、戦略のいろいろなアイディアが湧いてきたのです」(113ページ)

岩田さんの言う、「毎日、数字を追いかけていたからこそ、ちょっとした変化を見逃さず、全体像も見えていた」、「ここからいろいろなアイディアが湧いてきた」といこご指摘は、極めて当然ということは、ほとんどの方が理解できると思います。そして、岩田さんは、直接は言及していませんが、毎日、売上などを確認できていたことで、リスクのある経営判断も、果敢に行うことができたのではないでしょうか?

ところが、「事業は数字だけではない」という理由を口にして、自社の事業の状況を把握することや、把握するための体制づくりを怠る経営者は少なくありません。もちろん、事業の評価は数字だけで行われるべきものではありませんが、事業の評価の大部分は数字で行われます。さらに、正確な数字なしには、岩田さんのように、経営の舵取りも、正確な経営判断も、斬新なアイディアを生み出すこともできません。それでは経営者としての役割を果たすことができないと、私は考えています。

2023/6/3 No.2362