鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

悪い報告に『ありがとう』と言える上司

[要旨]

一般的に、組織は悪いニュースを隠ぺいするためなら、時には社会倫理さえ犯す危険性が報告されています。しかし、本物のリーダーは、どんなに耳が痛いことでも、貴重な真実を話してくれる人物を歓迎します。そこで、リーダーは、意識的に声を上げることが、とても大切であることを、組織に徹底すべきであり、何でも言える風通しの良い組織を作っていくことが求められます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、岩田さんは、ビジネススクールなどで、わかったような、わからないような、定義がはっきりしない抽象的な言葉である、「ビッグワード」は使わないようお伝えしておられ、その理由は、定義が不明確であれば、当然、聞き手には話し手の伝えたいことが伝わらず、時間や労力が無駄になるからであるということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、風通しのよい組織作りが大切ということについて述べておられます。「1986年1月28日、スペースシャトルのチャレンジャー号が打ち上げ直後に爆発し、乗組員全員が死亡しました。これは、アメリカ史上、最悪の宇宙開発事故となりました。実は、この事故は、避けることができた、人為的ミスです。打ち上げの前日に、部品を納入している会社の技術者が、チャレンジャー号のOリングに、重大な欠陥があることを上司に報告していました。しかし、その警告が無視され、打ち上げは決行されました。その技術者は、勇気ある行動を取りましたが、それは、キャリアの終わりを意味しました。退職後、彼は、内部告発や倫理問題に関する講演で生計を立てているそうです。

どんなに立派な行為でも、異論を唱える人間が組織に受け入れられることは希です。(特に悪い)真実を上層部に伝えてくれる部下ほど、組織にとって価値ある者はいません。トヨタでは、部下から悪い報告が上がってきたら、真っ先に『ありがとう』と上司は答えるそうです。一般的に、組織は悪いニュースを隠ぺいするためなら、時には社会倫理さえ犯す危険性が報告されています。少し前に頻発した自動車業界や電機業界の不正検査は、その顕著な例です。これに対して、本物のリーダーは、どんなに耳が痛いことでも、貴重な真実を話してくれる人物を歓迎します。

無批判に追従する取り巻きほど、リーダーを堕落させる者はありません。反対派の指摘は、常に正しいわけではありませんが、リーダーに自分自身を見直し、これまでの過程を点検し、弱点を発見する機会を与えてくれます。よいアイディアは批判されることで、さらに磨かれます。上司に真実を伝えることは、勇気が必要なだけでなく、ネガティブな反応を受け取ることさえあるかもしれません。そのため、リーダーは、意識的に声を上げることが、とても大切であることを、組織に徹底すべきです。何でも言える風通しの良い組織を作っていくことが求められます」(236ページ)

誰でも、悪いニュースはありがたいということはご理解されると思います。また、後になってから不祥事が明らかになるよりも、事前に明らかになる方が、会社が受ける損害は小さいということも、間違いありません。しかし、岩田さんもご指摘しておられるように、最近は、自動車業界や電機業界をはじめとした不祥事が、事後的に明らかになる例が多発しています。このことは、経営者が、よほど注力しなければ、悪いニュースは経営者に届かないと考えなければならないと考えるべきだと思います。なお、不祥事には、いくつかの種類があると思います。

1つ目は、目標やノルマが課題で、達成できていないのに、達成できたと報告したり、または、顧客をあざむくなどして、見せかけの数値を計上したりするものです。2つ目は、故意ではないものの、何らかのトラブルが発生したときに、それを、個人、または、部署で秘匿したり、もみ消したりするものです。3つ目は、従業員が個人的な利益を得ようとして、不正を行い、それを秘匿するものです。1つ目のような例は、経営者の責任が重く、2つ目や3つ目は、経営者の責任が比較的軽いと言えます。しかし、経営者の責任が重くても軽くても、経営者は、会社で起きたことの責任から逃れることはできません。仮に、悪意のある従業員が不祥事を起こしても、経営者は早期にそれを明るみにしなければなりません。

それは、道義的な側面もありますが、会社の損害を最小限にするためです。もし、経営者が、悪いニュースを得るために努力しなかったり、消極的であったりするとすれば、それは、経営者が、会社よりも、自分の評価を優先しているということになるでしょう。経営コンサルタント一倉定さんの有名な言葉に、「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任である」というものがありますが、これからの経営者は、いかにして、悪いニュースを迅速に把握できるようにするかが、会社を発展させる鍵になってきていると思います。

2024/4/25 No.2689