[要旨]
経営者は、ビジョンを明確化することで、現実的で、信憑性があり、魅力的な未来を、従業員にはっきりと伝え、今よりもよい状態がイメージできるようにしなければなりませんが、そのために、早い段階で、いわゆる「クイックヒット」や「アーリーウィン」と言われる、何かしらの目に見える成果を示すことが効果的です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、MVV経営の大前提は、事業活動が継続することであり、したがって、利益を獲得することは、目的ではなく、事業活動を継続するための手段であると考えられるため、ドラッカーの最小利益という考え方に基づき、会社の成長のために、将来に対して適切な投資や資源配分を行うことが大切ということについて説明しました。
これに続いて、岩田さんは、ビジョンを達成させるために、クイックヒットを活用するとよいと述べておられます。「リーダーがビジョンを語ることは、今、起きていることに注意を払い、その中から組織の未来にとって重要なものを見つけ、新しい方向を定め、全員の関心をそこに集中させることです。大切なのは、組織にとって現実的で、信憑性があり、魅力的な未来をはっきりと伝えて、今よりもよい状態がイメージできることです。リーダーは、ビジョンによって、組織の現在と未来を繋ぐ重要な橋をかけるのです。ビジョンを示し、その現実に参加し、自分たちが価値ある活動に参加していると思ってもらうことが何よりも大切です。
そのため、早い段階で、何かしらの目に見える成果が必要です。いわゆる『クイックヒット』や『アーリーウィン』と言われるものです。そのことによって、ビジョンの達成に半信半疑だった人々が、一人、また一人と、ビジョンの達成を信じるようになり、改革が弾み車のようにお進んでいくのです。それによって、一気に組織変革が進むのです。(中略)(かつて、岩田さんが社長を務めたことのある会社の事例では)ザボディショップでは、『ボディバター』、スターバックスでは『ワンモアコーヒー』が、変革の起爆剤となりました」(162ページ)
これまで、私は、ミッションの効果が現れるまでには時間を要すると述べてきましたが、そのことにより、モチベーションを高めることができないなど、一緒に仕事をする従業員の方たちから協力を得られにくいという面があります。そこで、岩田さんが述べておられるようなクイックヒットを活用することで、モチベーションを高めたり、信頼を得たりすることも必要になると思います。岩田さんの事例では、ザ・ボディショップの商品の保湿剤のボディバターは、かつては、冬季だけしか売れないと考えられていたのですが、岩田さんが売上推移を分析したところ、夏季の需要もあると判断し、夏季も販売を続けたところ、順調に売れ続けたことから、従業員たちは自社の商品に対する自信を深めたというものです。
スターバックスのワンモアコーヒーは、スターバックスのコンセプトで割引券を発行することはなじまないことから、コーヒーを購入したレシートを再び店に持ってきた顧客に対し、コーヒーを値引きして販売することにしたのですが、ワンモアコーヒーの申し出をしてきた顧客に対し、従業員の方が会話のきっかけをつかむことができるようになり、より関係が深まったというものです。繰り返しになりますが、MVVに基づく経営は、直ちに効果を実感できないものですので、岩田さんのように、クイックヒットを実践することも必要になるということです。もちろん、クイックヒットは最終目的ではなく、通過点に過ぎないので、クイックヒットに成功したとしても、引き続き、MVVが定着するよう、経営者の方の働きかけは続けなければなりません。
2024/4/19 No.2683