鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

病院は『患者様』のために存在している

[要旨]

ドラッカーは、著書の中で、ある看護師のエピソードを紹介しており、彼女は、病院が何か新しい施策や取り組みをしようとすると、「それは、患者さんにとっていちばんよいことでしょうか?」と質問したそうですが、これによって、彼女の同僚に、病院のMVVを意識させていたそうです。その結果、その病院は、MVVに基づいた運営を続けることができたそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、経営者は、ビジョンを明確化することで、現実的で、信憑性があり、魅力的な未来を、従業員にはっきりと伝え、今よりもよい状態がイメージできるようにしなければなりませんが、そのために、早い段階で、いわゆる「クイックヒット」や「アーリーウィン」と言われる、何かしらの目に見える成果を示すことが効果的であるということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、会社の役員、従業員は、MVVを常に意識することが大切であるということについて述べておられます。「ピーター・ドラッカー『経営者の条件』で紹介されていた、ある病院の看護師のエピソードが、私は大好きです。その人は、病院につとめている、普通の看護師なのですが、病院が何か新しい施策や取り組みをしようとすると、必ず、こう、質問したそうです。『それは、患者さんにとっていちばんよいことでしょうか?』

彼女は、看護師長でもリーダーでもなく、責任ある立場なわけではありません。でも、必ずそう問いかけ、そのひと言で議論が再び活発になるというのです。そして、彼女が退職した後も、『彼女だったら、なんと言うだろうか』と、彼女の問いを常に思い起こさせ、『患者さんにとって最善であるか』と、皆が考えるようになったそうです。その看護師の去った後も、ずっと影響を与え続けたのです。

彼女は、まさしく病院のMVV(特にミッション)を彼女なりに表現したのです。私は、彼女はその病院の『良心』であったと思います。何のために病院は存在しているのか?決して医師のためでもなく、金儲けのためでもなく、点数制度のために存在しているのでもありません。『患者様』のために存在しているのです。日本の医療機関を見ていると、多くの医師たち(特に年配の開業医)が忘れてしまっていることだと感じます」(181ページ)

私は、このエピソードを読んだとき、稲盛和夫さんが、第二電電(現在のKDDI)を起業ようとしたとき、「動機善なりや、私心なかりしか」と自分自身に問いて、その上で、新電電は日本の通信料を安くして、多くの人が助かるものであり、私心はないと確信して起業したと、本に書いておられたことを思い出しました。すなわち、ドラッカーや稲盛さんのように、ミッションを貫くことが大切ということは、普遍的なことなのだと思います。ところが、この「ミッション」は、誤解されやすいと、私は考えています。

例えば、看護師の例では、「患者にとってよいことか」と問うたり、稲盛さんは「動機が善か」と問うたりしていることから、道徳的な価値観を持たなければならないと理解している方が多いのではないかと思います。そして、そのような方たちは、「中小企業のような弱い会社が、道徳的な価値判断で仕事をしていては、なかなか稼げるようにはならない」と考えてしまうのではないかと思います。確かに、患者のためになることや、動機が善であることは、道徳的に良いことです。

しかし、ビジネス的な視点からも、そのような事業は、多くの潜在的需要があると考えられます。逆に、患者のためにならないことや、動機が善でないことは、需要も少なかったり、また、顧客からあまり支持されない事業になると考えられます。そして、現在は、我田引水的なビジネスは、現在は、ますます顧客から支持されにくくなりつつあります。だから、患者のためになる医療、動機が善であるビジネスは、多くの顧客に支持されて発展していくと言えます。

稲盛さんも、「動機が善であり、私心がなければ結果は問う必要はありません、必ず成功するのです」と述べておられます。繰り返しになりますが、道徳的な価値基準と、ビジネスの価値基準は相反するものではありません。むしろ、道徳的な価値基準に合致するビジネスこそ、需要があるのであり、そのようなビジネスは、道徳的でもありますが、ビジネスでも成功するでしょう。だからこそ、事業活動において、ミッションは常に意識しなければならないと言えます。

2024/4/20 No.2684