[要旨]
経営コンサルタントの國貞克則さんのかつての顧問先の電子機器販売会社では、製品毎、顧客企業毎、営業拠点毎、営業担当者毎のデータなどを取得していました。その結果、ある、営業担当者の営業成績が上昇すると、次は、その担当者の所属する拠点の営業成績が上昇するという動きがわかるなど、現場の状況を把握することができました。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの國貞克則さんのご著書、「財務3表一体理解法『管理会計』編」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、財務会計に基づいて作成される貸借対照表や損益計算書は、会社の過去の営業成績を株主などに説明する目的で作成される一方、管理会計で作成される資料は、経営者が会社を存続させることを目的に、適切な判断を行うために利用するものであるということについて説明しました。
これに続いて、國貞さんは、國貞さんのかつての顧問先の会社で、どのように管理会計が活用されていたのかということについて述べておられます。「私の顧問先に、電子機器の販売会社(以降、A社と呼ぶことにします)がありました。従業員約150名、全国に約10か所の営業拠点を持っていました。製品の製造は、A社の親会社が担っていました。A社が販売する電子機器は、現地での取り付けが必要な製品で、A社が製品を、直接、最終顧客に販売するのではなく、最終販売店に製品を販売するという、BtoBのビジネスを行っていました。
A社では、全社の売上と利益が、製品別、顧客企業別、営業拠点別に整理され、それらの数字が、一人ひとりの営業担当者に紐付けられていました。そして、これらの製品毎、顧客企業毎、営業拠点毎、営業担当者毎のデータの比較分析を時系列分析を行っていました。そうすると、いろいろなことが見えてきます。例えば、ある時から、ある営業担当者の売上と利益が急に増え、その後、しばらく経ってから、その営業担当者が所属する営業拠点の売上と利益が伸びていくとか、ある時からある顧客企業で、特定の製品の売上と利益が減っていくといったことです。
これらのことから考えられることは、ある営業担当者が効果的な販売方法を開発し、その成功事例がその営業担当者がいる営業拠点に共有されたのではないかとか、ある顧客企業では、製品の販売方針が、ある時点から変わったのではないかとったことです。変化や違いの裏には、必ず、何かの原因があります。変化や違いから、その原因をつきとめ、それを事業経営に活かすことができるのです。
ただ、会計数字の何をどのようい分解し、分析してけばいいかは、企業によってさまざまです。例えば、素材メーカーや部品メーカーでは、販売先がほぼ固定化していて、販売価格も長期契約で、比較的長期間変化しないという場合が少なくありません。このような場合、これらの会社が利益を生み出すカギになるのは、製造部門です。つまり、製造コストを圧縮し続けることが会社の利益アップにつながるのです。ですから、これらの会社が分析すべき重要な数値は、製造に関わるものになります」(20ページ)
この國貞さんがご紹介した管理会計の活用事例は、オーソドックスな事例で、誰でもご理解いただける内容ですし、経営者の方が、会計をどのように活用すべきかも、よくわかるものと思います。ところが、私がこれまで多くの中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、意外にも、会計を活用する経営者の方はあまり多くないということです。
例えば、ある会社の経営者の方は、事業を軌道に乗せようとして、たくさんの商品を販売しようとします。そして、商品が売れれば、経営者の方は安心します。しかし、商品を販売するために、値引きをしてしまいます。その結果、決算を迎えてみて、会社は赤字になっていることに気づく、というような感じです。部外者から見れば、「赤字にならないように、きちんと、収益管理をすればいいのでは?」と思うところなのですが、経営者の方とすれば、商品が売れさえすればよいとだけ考えてしまうようです。
でも、このことは、國貞さんのご紹介した会社の事例のように、製品毎、顧客毎、営業拠点毎、営業担当者毎などのデータを活用すれば、赤字になることを防ぐ可能性が高くなるということです。これを言い換えれば、商品を改善したり、や販売方法の工夫をしたりしなくても、会計データを管理することで赤字を防ぐことも可能になるということです。もちろん、商品の改善や販売方法の改善もあわせて行う方がよいですが、管理会計の活用をすれば、それらとの相乗効果も期待できると、私は考えています。したがって、会計が苦手と感じている経営者の方は、ぜひ、管理会計の活用もご検討いただきたいと思っています。
2024/5/1 No.2695