[要旨]
売掛金は回収もれが起きないよう、常に注意しなければなりませんが、貸倒が発生した後の「後始末」よりも、貸倒が発生する前に手を打つ「前始末」、すなわち、「リスクを防止するために先に手を打つ」ことが効果があります。そして、この前始末は、顧客に商品を販売している営業担当者が行うことが適切です。
[本文]
今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、会社が機械を購入した時、その購入代金をすべて購入した会計年度の費用としてしまうと、その機械で生産した製品の原価を正しく測定することはできないので、機械を使用できる期間に応じて、機械の購入代金を費用として計上すること、すなわち、減価償却を行うことが妥当と言えるということについて説明しました。
これに続いて、安本さんは、売掛金の管理についてご説明しておられます。「決算書、特に貸借対照表の科目の中で、現金預金、在庫(棚卸資産)と並んで重要なのは、売掛金、受取手形などの『売掛債権』です。現金で回収されるまでは、未回収の債権なので、長期滞留するほど、金利分だけで損をしていることになります。キャッシュフロー構造から見たら、『回収はできるだけ早く、支払いはできるだけ遅く』が大原則です。
では、『あなたの会社で売掛債権の管理をしているのはどの部門ですか?』と尋ねたら、どんな答えが返ってくるでしょうか。『経理・財務部門です』という答えが多そうですね。実は、これではいけないのです。経理・財務部門では、貸し倒れした『後始末』はできますが、貸し倒れる前に何とか手を打つ『前始末』はできないからです。
前始末とは、『予測して動く』とか、『リスクを防止するために先に手を打つ』程度の意味ですが、ビジネス実務実務では、非常に重要な概念です。前始末はそんなに金がかかりませんが、後始末の方は、関わる人と時間が多い分だけカネが圧倒的にかかります。売掛債権だけを専任管理する部門があれば話は別ですが、売掛債権に対して前始末ができるのは営業担当者しかありえません。自分が責任を持って得意先の与信をして、売りを立てたのですから、回収し終わるまで自分で責任を持つべきです」(128ページ)
宮本さんのいう「前始末」は、具体的にどのようなことをするのかは、私は分からないのですが、営業担当の人が売掛金の回収に意識をしてもらうことは大切だと思います。とはいえ、今まで、売掛金について管理をしたことがないという人にとっては、急に回収まで責任を持ってもらうということになると、面倒と感じることになるかもしれません。でも、売掛金が回収できなくなってから、慌てて右往左往するよりも、普段から用心しておくことの方が、労力を減らすことになります。
少なくとも、経理部門で、1か月ごとに、顧客別の売掛金残高の一覧表を作成し、営業部門に知らせるということをするとよいでしょう。もし、急に、売掛金が増えたりした顧客があれば、問題はないか、調査をするだけでも、貸倒を防ぐことにつながると思います。また、売掛金の未回収が発生したときも、すぐに経理部門から営業部門に通知する仕組みも作っておくとよいでしょう。会社の中で、顧客のことを分かっている人は営業担当者なので、その人が調査することで、未回収になった事情を最も迅速に把握することができるでしょう。
2024/1/15 No.2588