鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

機械の購入代金は耐用年数で費用化

[要旨]

会社が機械を購入した時、その購入代金をすべて購入した会計年度の費用としてしまうと、その機械で生産した製品の原価を正しく測定することはできません。そこで、機械を使用できる期間に応じて、機械の購入代金を費用として計上すること、すなわち、減価償却を行うことの方が妥当と言えます。


[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、在庫を大幅に削減しようと考えたら、単に、月末や決算期末だけ少なくすればよいということでは足らず、製造工程の原材料投入時点から、最終製品が出来上がり、出荷する時点まで、すべての工程で、根本的な合理化や効率化を推し進め、リードタイムを短縮する努力が必要になるということを説明しました。

これに続いて、安本さんは、減価償却について述べておられます。「今、あなたが、10年間の使用に耐えられる製麺設備を1,000万円で買い、麺を作って売る事業を始めるとしましょう初年度の売上が2,000万円、原材料費600万円、労務費(製造業の人件費のこと)800万円、諸経費300万円と仮定したときに、製造設備の1,000万円を初年度だけですべて費用として計上してしまうと、700万円の赤字になります。この損益構造のままだと、2年目以降は、設備に関する費用負担はゼロとなり、設備を取り替える10年後までは、毎年300万円の利益がでることになります。

これでよいでしょうか?何かおかしいですね。この設備は10年間使えるのですが、1,000万円を10で割って、1年に100万円ずつ減価償却費として計上した方が、実体と合っています。費用は設備の使用期間に『対応して』徐々に発生すると考えた方が自然です。設備費の負担額を使用期間に分けるという考え方です。つまり、減価償却とは、売上・利益を上げるために、事業目的で購入した固定資産の金額を、使用に耐えられる年数(耐用年数と呼びます)にわたって、その期間に対応する『費用』として、1年ずつ割り振る作業のことなのです。

減価償却費のことを、『現金支出の伴わない費用』などとおかしな表現をするのも、『買った』ときにはお金が出て行きますが、その翌年から何回(何年度)かに分けて『費用』として帳簿に記入するときにはお金が出て行っているわけではない、という意味なのです。固定資産であれば、建物、構築物、機械、器具備品、車両運搬具などの有形固定資産、特許権、商標権、ソフトウェアなどの無形固定資産、変わったところでは動植物まで減価償却の対象です。土地は、時間とともに一定割合で減価するわけではないので、償却しないことになっています」

今回は、減価償却の基本的な説明で、この内容についてはすでにご存知の方も多いと思いますが、復習の意味で引用しました。この減価償却制度については、次回以降、もう少し詳しい説明をしていく予定ですが、長所と短所の両方があります。すなわち、短所に焦点を当てれば、減価償却に基づく財務管理には限界があると感じることになりますが、一方で、それには長所もあり、その内容は、安本さんがご説明している通りです。具体的には、製麺機に関する実際に起きた取引は、購入したときに1,000万円の現金の支払いがあっただけであり、これは、現金という資産が1,000万円減少し、機械という資産が1,000万円増加しただけのことです。

そこに、減価償却という考え方を取り入れれば、生産活動の期間に対応して、機械の価値を減少させ、その減少分を費用として計上することになります。このことは、麺を製造するために要した費用を、より的確に把握できるようになります。一方で、機械の価値は、毎年、規則的に100万円ずつ減少するのかという疑問を持つ方もいると思います。現実的には、一旦、使用した機械は、購入後1年以内であっても、市場価格は500万円くらいであり、3年経てば、売れないどころか、処分費用がかかってしまうということになるかもしれません。

そういう面から見れば、減価償却制度に基づく資産の価値の計測は不正確ということになります。でも、その機械で製造する製品の原価を計算するという観点に立てば、減価償却制度の方が妥当と言えます。そこで、なぜ減価償却制度があるのかという考え方に立てば、この制度の有用性を理解できると思います。すなわち、会計制度は必ずしも万能ではないのですが、その制度の背景を理解するようにすることで、もっとその価値を理解できるようになると、私は考えています。

2024/1/14 No.2587