鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

在庫削減は全社的な経営革新運動

[要旨]

公認会計士の安本隆晴さんは、在庫を大幅に削減しようと考えたら、単に、月末や決算期末だけ少なくすればよいということでは足らず、製造工程の原材料投入時点から、最終製品が出来上がり、出荷する時点まで、すべての工程で、根本的な合理化や効率化を推し進め、リードタイムを短縮する努力が必要になると考えているそうです。


[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、滞留在庫を作らず、在庫切れも起こさないようにすることは簡単なことではありませんが、至難の業でもないので、在庫が発生している、それぞれの過程で数字化して、その数字の変化を観察し、素早く行動を起こすことは容易に実践することができ、効果も得られるということを説明しました。

これに続いて、安本さんは、無在庫物流について述べておられます。「在庫を大幅に削減しようと考えたら、単に、月末や決算期末だけ少なくしようとしても、意味がありません。製品在庫の場合は、製造工程の原材料投入時点から、最終製品が出来上がり、出荷する時点まで、すべての工程で、根本的な合理化や効率化を推し進め、リードタイムを短縮する努力が必要になります。出荷後の流通在庫も削減しなくてはなりません。

このような取り組みは、経営トップが主導して、全社的な経営革新運動として行うべきもので、その過程の中で、イノベーションの芽が大きく育ってくるのです。また、流通在庫の削減は、販売会社や、商社・問屋の協力を得なければできません。(中略)回転寿司『スシロー』をチェーン展開している、あきんどスシローは、2011年に業界シェア20%に達し、売上高トップに躍り出ました。寿司ネタの質の高さが強みで、スシローの原価率は約50%と、他社よりも高いです。驚くべきことに、2004年には、業界の常識を覆して、セントラルキッチンと廃止しています。

仕入れた鮮魚は、各店舗でカットし、シャリも各店舗で炊いています。パート社員数は、他者より多く、人件費率も高いのですが、高い原価率の裏側には、経営工学を活かし、食材の廃棄ロスを最小限に食い止めるための、『回転すし総合管理システム』という仕組みがありました。レーンに流すネタの店内の状況を予測し、ネタの仕込み過ぎや、寿司の廃棄ロス削減などにつなげているそうです(『日経ビジネス』2011年12月12日号)。来店客の観察と、板場の作業プロセス分析を連動させた、科学的なアプローチの素晴らしい結果だと思います」

会社の競争力を高めようとする時は、従来は、商品そのものの品質を高めることが、主な方法でした。しかし、スシローの場合、需要予測システムの導入により、廃棄ロスを減らすなどして、商品の原価率を高めても利益を得られる仕組みを構築したことが、競争力を高めています。従来は、いわゆる「在庫管理」は、売上や利益を得るための活動ではないと考えられていた分野ですが、現在は、このようなプロセスの革新が競争力を高め、利益を生み出す直接的な活動になっています。

したがって、これまでご説明してきたように、プロセスの管理、すなわち、会計データを読み取って活用することは、利益を生み出す根源的な活動になっています。これも繰り返しになりますが、ファーストリテイリングも、SPA(製造小売)を実践するようになってから、業績を拡大してきました。そして、現在は、同社に限らずアパレル業はSPAが標準となっています。このようなことから、現在は、経営者の方が管理能力を持たないこと、すなわち、数字を読めないことは、土俵に上がることさえできない時代になっているといえるのではないでしょうか?

2024/1/13 No.2586