鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

全員経営+会計思考=全員会計思考経営

[要旨]

公認会計士の安本隆晴さんは、小倉昌男さんが提唱している全員経営、すなわち、経営の目的や目標を明確にした上で、仕事のやり方を細かく規定せずに、社員に任せ、自分の仕事を責任をもって遂行してもらうことに、会計思考を組み合わせた、「全員会計思考経営」を実践できれば、その会社は優良企業になると考えているそうです。


[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安本さんによれば、ビジネスの基本は、PDCAをうまく回すことであり、そのためには会計思考が重要になりますが、この会計思考とは、競争に勝つために利益を生み出し、お金を残すために会計数字を使って思考する方法であるということを説明しました。これに続いて、安本さんは、会計思考を全員経営に組み合わせると、会社が最強の組織になるということを述べておられます。

「社員全員が、経営者のような感覚を持って仕事ができれば、なおさらです。それを実現するには、強力なリーダーシップと社員全員の多大な努力が必要ですが、ここまでくれば全員経営と呼べます。『全員経営』と言えば、有名なのは、宅急便の生みの親である小倉昌男ヤマト運輸(現ヤマトホールディングス)元会長の名著、『経営学』による定義です。『全員経営とは、経営の目的や目標を明確にした上で、仕事のやり方を細かく規定せずに、社員に任せ、自分の仕事を責任をもって遂行してもらうことである』

全社員の隅々まで、分担された役割ごとの権限が委譲されていて、各人の自由裁量の幅が大きい。その代わり、責任も重い。そんな会社なら、全社員に成長意欲と能力があり、同時にしっかりした教育制度さえあれば、すぐにでも超優良企業になれます。さらに、僕は、この『全員経営』に『会計思考』という言葉を添えて造語し、全社員が経営者のような感覚と経理的なセンス(会計思考)を身に付けた『全員会計思考経営』を提唱したいと思います。ここまでくれば、最強軍団、鬼に金棒、怖いものなしです」(24ページ)

現在はVUCAの時代であり、そのような外部環境に適している組織は、すべての従業員が経営者の感覚で自律的に活動している組織です。そういった面からは、「全員経営」が実践されている会社は、強い会社となることは間違いありません。そして、安本さんは、これに会計思考を組み合わせると最強組織になると述べておられますが、私も、ほぼ、その通りだと思います。「ほぼ」というのは、私は、全員経営が実践されるには、すべての従業員が会計リテラシーを備えていることが前提になるので、「全員経営」と「会計思考」は組み合わせるものではなく、「全員経営」を実践するには「会計思考」を持つことが前提になっていると考えています。

しかし、これは、結果として、安本先生の考え方と同じです。とはいえ、全員経営が実践できるようになるまでに、組織の習熟度を高めることは、一朝一夕ではできないことも現実です。ですから、経営者が競争力を高めるためにすべきことは、事業活動そのものに注力するよりも、組織づくりに注力することと言えます。とはいえ、会社として事業活動はしないわけには行きませんから、事業活動を通して組織を強くしていく役割と考えるとよいのではないかと思います。繰り返しになりますが、現在の経営者の方の役割は、リーダーとして従業員を牽引していくというよりも、競争力の高い組織を涵養していくことに移りつつあると言えるということです。

2024/1/1 No.2574