鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

現場が忙しくても赤字になることがある

[要旨]

経営者の方は、事業活動で、利益を得るための活動を行います。ところが、時には、経営者の方が利益を得ようとして行った活動が、結果として、赤字になることもあります。そこで、適宜、会計データを照会しながら、事業活動が利益をもたらしているかどうかを確かめていくことが大切です。


[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安本さんは、小倉昌男さんが提唱している全員経営、すなわち、経営の目的や目標を明確にした上で、仕事のやり方を細かく規定せずに、社員に任せ、自分の仕事を責任をもって遂行してもらうことに、会計思考を組み合わせた、「全員会計思考経営」を実践できれば、その会社は優良企業になることができるということを説明しました。

これに続いて、安本さんは、事業活動の結果は、必ずしも直ちに決算書に現れないこともあるということを述べておられます。「経営者が顧客を創り出す、あるいはニーズを探り出す方法を考え、実行すると、その都度お金が動き、それらの総合的な結果は、すべて決算書(会計数字)となって表れます。(中略)ただし、実行の結果がすべて完璧に表示されるかと言うと、そうでもないときがあるので厄介です。例えば、酒販店で、こんな事例がありました。

昨年度は5,000万円の売上高があり、当期利益は100万円でしたが、今年度は4,500万円の売上となり、当期利益は▲200万円の減収減益でした。しかし、今年度は、昨年度より総売上本数は多いし、顧客への配達回数は1割以上も多い。実感として、店員は相当頑張って客先に配達していたのです。いったい何が起きたのでしょうか?実は、売れた商品の内容を前期と比較すると、ビールの売上本数が減り、ビールよりも単価と粗利率が低い発泡酒やミネラルウォーターの本数が増えていたのです。

店員の努力の成果が赤字では困ります。粗利率の高い得意先だけに絞る(規模を縮小する)とか、商品単価や品揃えの見直しをする、あるいは、利益率の低い業務用の配達を止めて、ワインや日本酒の特選売場をつくる(投資する)など、抜本的な改革が必要だと思います。経営の実行結果は、すぐに会計数字に表れるものもあるし、表れないものもあります。したがって、今述べた総売上本数とか、配達回数のように、いろんな観点から数字をつかまえて分析し、まずは、経営の実態を把握することが大事です」(26ページ)

安本さんが挙げられた事例は、事業活動の現場は忙しく活動していても、財務面からみると、忙しさは必ずしも利益に結びついているとは限らないということです。そこで、現場の肌感覚だけでなく、会計上も利益が得られているかどうかを、適時、確認することが重要と言うことです。これについては、多くの方が容易に理解されると思います。

ところが、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、経営者の方に、「事業活動の現場では忙しいと感じておられるかもしれませんが、会計上は赤字になっている」と伝えても、実際に、改善のための活動を実践しようとする例は、あまり多くありませんでした。その理由はひとつだけではないと思いますが、最大の理由は、会計を起点に考える、すなわち、利益を出すためにはどうすればよいのかという考え方から事業活動を考えることはしたくないからなのではないかと思います。

でも、事業活動は利益を得ることが目的のはずなので、会計を起点に事業活動を考えることは当然のはずです。ところが、会計が苦手な経営者は、そういう考え方をすることを、潜在意識で避けようとしてしまうのではないかと思います。確かに、かつては、まじめにこつこつ仕事に取り組んでいれば、赤字にはならないという時代がありました。でも、現在は、適切なマネジメントができなければ、競争に勝つことができない時代です。そこで、会計が苦手な経営者の方は、それを克服することから始めなければならないと言えるでしょう。

2024/1/2 No.2575