鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

経理は単なる会計係ではなく経営管理

[要旨]

パナソニック創業者の松下幸之助さんは、「経理というものは、単に、会社の会計係ではなく、企業経営全体の羅針盤の役割を果たす、いわゆる、経営管理、経営経理でなければならない」と考え、経理を重視した結果、業績を安定的に発展させることができたと考えることができます。


[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、経営者の方は、事業活動で、利益を得るための活動を行いますが、時には、経営者の方が利益を得ようとして行った活動が、結果として、赤字になることもあるので、適宜、会計データを照会しながら、事業活動が利益をもたらしているかどうかを確かめていくことが大切ということを説明しました。

これに続いて、安本さんは、松下電器産業(現パナソニック)を創業した松下幸之助さんは、経理を大切にしてきたから発展したと述べておられます。「1935年(昭和10年)に松下電器は株式会社になりましたが、その当時のことを、創業者の松下幸之助さんは『松下経理大学の本』の序文に書いています。少し要約してみます。創業当時から、店(会社のこと)の会計は、家計とはまったく別にして、月々決算を行い、その結果を毎月社員に報告していました。

いわゆる、『ガラス張り経営』を実践していたけれども、株式会社にになったのを機に、経理の制度をそれに相応しいものに変えたいと思いました。ちょうどそのころ、朝日乾電池という会社と合併したことが縁で、当社に入社していた、高橋荒太郎さんに、経理の責任者になってもらいました。その時、松下さんは、高橋さんと、部下の樋野さんに、こう伝えたそうです。『経理というものは、単に、会社の会計係ではなく、企業経営全体の羅針盤の役割を果たす、いわゆる、経営管理、経営経理でなければならない』

松下さんの要請を受けて、高橋さんと樋野さんが中心になり、その後の松下電器発展の礎を築いた経理社員1,500人(著作出版当時)を育て上げたのです。この経理社員たちは、本部にいるのは100人ほどで、ほかは全部、各事業部や関連会社などの現場に配属・出向していて、『経理の乱れは経営の乱れ』にならないように、現場で目を光らせているそうです。事業成長の支えになる管理部門は、守りを強くすれば、攻めも強くなります。特に、経理を大切にしてきたからこそ、パナソニックの今日の発展があったといっても過言ではないと思います。松下さんが『経営の神様』なら、高橋さんは『経理経営管理の神様』と言えるかもしれません」(29ページ)

松下さんのお話のように、「経理というものは、単に、会社の会計係ではなく、企業経営全体の羅針盤の役割を果たす、いわゆる、経営管理、経営経理でなければならない」という考え方は、広く知られていると思います。しかし、特に、中小企業では、「単に、会社の会計係」としか位置づけられていない会社が多いと思います。これは、中小企業経営者が、会計を苦手としていたり、関心がなかったりというだけでないでしょう。すなわち、会計取引の記録は、直接的に利益につながらないと考えられており、そのようなことに費用をかけることは非効率であると認識されているからだと思います。

しかし、松下さんは、会計データは、船の羅針盤のようなものであり、正確、かつ、効率的な事業活動には欠かせないと考えているわけです。そして、そのような方針で事業に臨んでいった結果、パナソニックのような発展を遂げたわけです。そして、このような管理活動を重視する考え方で、私が思い出すのは、小倉昌男さんの、「自動車は、ブレーキを踏めば、いつでも止めることができるとわかっているから、スピードを出すことができるのであって、ブレーキのない車には、誰も怖くて乗れないだろう」という言葉です。すなわち、会社が事業活動に全力を出すことができるのは、もし、危険な状態になったときにブレーキをかけてもらえるからということです。

役職員が、懸命に仕事をしたにもかかわらず、それが、利益が出ない活動であり、会社が倒産してしまいそうになったら、その前に、管理部門から、それを修正しなければならないことを知らせてしてくれるということが分かってなければ、全力を出して仕事をしようという意欲は湧かないでしょう。このように、管理部門は、コストがかかるための活動をしているのではなく、事業活動が全力を出せるような活動をしているのであり、経営者の方は、きちんとした管理体制を整えることが、事業を安定的に発展させることにつながると認識することが大切です。

2024/1/3 No.2576