鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

会計思考がなければ強い会社にならない

[要旨]

ファーストリテイリングの柳井さんは、かつて、あまり会計思考を持っていなかったそうです。しかし、公認会計士の安本さんと会ってから、その重要性を理解し、会計に精通した方を会社のナンバー2として選任し、重用した結果、同社は発展していったそうです。


[本文]

公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読みました。安本さんは、ご著書の中で、経営者が「会計思考」を持たなければ、強い会社をつくれないと述べておられます。「僕がかつて税務顧問をしていた中小企業経営者の多く、そして、上場準備や経営相談に来られた経営者の多くは、会計思考が十分とは言えませんでした。というより、自分の守備範囲である営業畑か技術畑など以外には、ほとんど無関心で、会計思考をしていない方が多かったです。経営者自らが経理や財務の重要性をよく分かっていないので、社内に経理・財務専門の担当者がいないのです。

月次決算は、ほとんど税理士の先生任せになっています。ユニクロの柳井さんと知り合った当初も、それに近い状態でした。幸い、柳井さんは大変な勉強家・読書家であったし、会計思考や経理・財務の重要性を理解し、すぐさま経理・財務マンを募集してくれました。また、僕の経営コンサルティングの窓口担当者として取り組んでくれた社員の菅さんは、もともと会計思考を持った方で、柳井さんは、早い段階で菅さんを取締役として選任し、ナンバー2の専務として重用しました。

会計思考と言っても、難しくありません。(中略)基本的には、『自社の儲けの構造=損益構造』と、『現金収支の構造=キャッシュフロー構造』がどうなっているかを知り、その両者をどのようにプラスにし、金額を増やしていくかを考えて実行することです。思考のペースを会計数字に求めるのです。それに加えて、例えば外食産業であれば、店舗別の損益計算書を前年同月と比較して売上高や営業利益が、どう増減したのか、従業員1人当たりの売上高はどのように変わったのか、あるいは店舗面積1坪当たりの毎月の売上高の変化を調べるのです。

たったこれだけでも、いろんなことが分かり、異常な変化があればすぐに手を打つことができます。さらに、月別・店舗別の予算を立てておき、これと実績値を比較すれば、もっといろんなことが見えてきます。経営者だけでなく、各店舗の店長にも、月次決算書の見方を教えれば、店舗運営が、より計画的・科学的になり、どういう手を打てばどの数字が動くかが、理解できるようになります。そのためには、月次決算をできるだけ正確に、しかも迅速に作ることが必要です」(16ページ)

私も、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から、安本さんと同じように、「(社長は)自分の守備範囲である営業畑か技術畑など以外には、ほとんど無関心で、会計思考をしていない方が多い」というご指摘には、心あたりがあります。とはいえ、私は、安本さんのように、「会計思考がなければ強い会社はつくることはできません」と、クライアントに伝えることができず、やきもきすることが多かったです。というのも、やはり、起業しようとする方は、「自分の腕は確かだから、会社がもうかることに間違いはない」という自信があり、事業活動に注力してさえいれば、もうけは自ずとついてくると考えているからのようです。

私も、これまで、経営者の方が会計にあまり詳しくないものの、すばらしい技術を持っているために、業績は黒字を続けているという会社を見て来たことがあります。しかし、そのような会社は、割合としては少数です。また、そういう会社も、安本さんが述べておられるような会計データの活用をしていれば、もっともうけが増えたのではないかと思います。したがって、会計思考は、直接、利益を得る活動ではありませんが、最短で、効率よく利益を得るためのツールであると、経営者の方が認識することは、重用だと思います。

とはいえ、ファーストリテイリングの柳井さんでさえ、最初は会計思考を持っていなかったといのは、私も意外です。そこで、現在、経営者の方が、会計思考を持っていないからといって、直ちに問題だということにはならないと思います。少し時間はかかるかもしれませんが、経営者の方が会計について関心をもち、また、社内で会計データを迅速に集計できる体制を整えることで、ファーストリテイリングを始めとした、会計思考によって発展した会社の仲間入りができるものと、私は考えています。

2023/12/28 No.2570