鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

組織バス1台説

[要旨]

公認会計士の安本隆晴さんによれば、会社が成長するにつれて、従業員数も増加していきますが、それぞれの規模にそれぞれの課題が発生するので、経営者は、単に、売上の増加だけに注力するのではなく、組織体制の適正化に、より、注力する必要があるそうです。また、管理部門の従業員の適切な割合についても、人数だけにとらわれることなく、適切な業務分担の観点からも検討することが重要ということです。


[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安本さんは、「管理はカネを生まないが、カネがかかる」と考えている社長は経営者失格と考えており、また、経営のかじ取りの「かじ」や羅針盤、あるいは業績等の生産性を測る役目をするのが管理部門なので、例えば、「正確・迅速な月次決算と本決算」は、経営にとって最も重要な仕事の1つと言えると考えているということを説明しました。

これに続いて、安本さんは、管理部門の人数は、どれくれいが適切なのかについて述べておられます。「会社は、成長するにつれて規模が拡大し、社員数が増えます。では、1つの事業でどの程度の規模が最適なのでしょうか。業種や業態によっても違うでしょうが、1人から始めた事業が、5人、10人、30人、50人、100人、300人と増えていく度に、必ず、成長の壁にぶち当たり、いろんな経営課題を抱えます。会社員とのコミュニケーションのとり方も変化して行かざるを得ません。

リーダーや各社員の能力によっても、最適規模は左右されます。『組織バス1台説』(バスに乗れる人員50~60人程度が最適)という実感から生まれた説もありますが、普遍性はないかもしれません。景気、天気、消費者の趣味・嗜好、原材料の需給状況など、企業環境は常に変化するので、一概には言えませんし、最適規模だったと思った瞬間に、在庫が増え過ぎたとか、逆に、仕入れが少なすぎたとか、労働生産性が落ちたなど、どこかで経営のバランスが崩れているでしょうから、社員数から見た最適規模など、存在しないのかもしれません。

そのことと同じように、全従業員に占める管理部門の人数比は、どのくらいが適切かという疑問に回答するのは難しいです。ただし、例えば、全社員が20人という小規模会社でも、経理・財務・給与の担当者2~3人は、必ず必要ですから、少人数ほど、その比率は高いと思います。結局、問題なのは、単なる管理部門の人数比率ではなくて、その人たちに、どのような仕事をやってもらうかです。経営者や、営業・技術・現業部門をサポートするのに、必要不可欠な仕事を、どのように組み立てて実行するかがキーポイントなのです」(75ページ)

この安本さんのご指摘から、私が感じることは、事業規模を拡大しようと考えている経営者の方は、単に、売上を増やせばよいと考えるのではなく、あわせて、組織体制も整えなければならないということです。1年間の売上高が、1億円、5億円、10億円の会社では、それぞれ、体制も異なってきます。したがって、事業規模を拡大しようとするのであれば、経営者の方は、売上を増やすことよりも、組織体制を整えることの方に注力する必要があると思います。仮に、受注を増やすことができても、それをさばくことができる体制が整っていなければ、その受注にきちんと応じることができなくなる可能性が高くなります。

次に、経営者の方は、現業部門と管理部門の役割分担に注意する必要があるということです。役職員数が10人程度の会社であれば、それほど問題は表面化しないのですが、20人以上になって来ると、セクショナリズムの弊害が表面化してきます。その代表的な事例は、私が経験的に感じるものは、売掛金の回収です。売掛金の回収が遅れた時、それを誰が督促したり、回収しにいったりするのかという問題は、中小企業では、現業部門と管理部門で押し付け合いになりやすい業務のひとつです。

これについては、どちらが担当するのかという明確な基準はありませんが、問題なのは、誰が行うのかを明確にしておくことが重用ということです。従業員数が少ない会社では、現業部門が売掛金の督促や回収をすることが妥当と思われますが、従業員数が多くなってきたら、売掛金の管理の専任者や、回収の専任者を置くことが妥当になるかもしれません。要は、従業員数によって、適切な役割分担も変わってくるので、経営者の方は、そのような体制の妥当性を検討することが大切ということです。

2024/1/9 No.2582