鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

管理はカネを生まないがカネがかかる?

[要旨]

公認会計士の安本隆晴さんは、「管理はカネを生まないが、カネがかかる」と考えている社長は経営者失格と考えているそうです。経営のかじ取りの「かじ」や羅針盤、あるいは業績等の生産性を測る役目をするのが管理部門なので、例えば、「正確・迅速な月次決算と本決算」は、経営にとって最も重要な仕事の1つと言えるということです。


[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、経営計画は、自社が目指す10年後の姿を逆算し、現在、どういう活動をすべきかを明確にする役割があり、これを着実に実践していくことで、目指す会社に近づくことが可能になり、また、計画と実践した結果に差異が発生したときは、どこをどのように修正すればよいかということを示すモノサシの役割もあるということを説明しました。

これに続いて、安本さんは、管理部門の重要性について述べておられます。「統計を取ったわけではないので、不正確ですが、経験的に言って、会社の社長は技術畑か営業・現業畑の人が多いものです。歴代サラリーマン社長が長く続いている上場会社は別にすると、管理畑出身の社長は非常に少ないと思います。技術・営業・現業畑出身の社長は、自分の出身畑の人材を大切に扱い、概して管理部門を大事にしない傾向にあるようです。『管理部門の人間は、売上・利益を上げるわけではないので、最小限の人数で足りる』と断言する社長がいるのも、そのためかもしれません。

でも、過去の偉大な名経営者のそばには、必ず管理部門を統括する経営参謀がいました。先述した松下幸之助さんには、高橋荒太郎さん、本田宗一郎さんには藤沢武夫さんのようにです。どのような組織にもリーダー役とマネージャー役が必要なのと同じように、そのコンビは会社にもなくてはならないのです。『管理はカネを生まないが、カネがかかる』と考えている社長がいたら、明らかに経営者失格です。

経営のかじ取りの『かじ』や羅針盤、あるいは業績等の生産性を測る役目をするのが管理部門なので、例えば、『正確・迅速な月次決算と本決算』は、経営にとって、最も重要な仕事の1つと言えます。経営の実績数字を見ながら、常にどういう戦術をとっていくべきかを考える部署である管理部門こそ、『経営の本質』を見抜くことができる部署であると同時に、販売、生産、購買などの、現場をよく知る会計思考ができる人材を張りつけるべきだと思います。

どんなに優秀な経営者でも、常に最適な判断や意思決定をしているわけではありません。経営者も感情のある人間ですから、体調や機嫌が悪かったり、気分が落ち込むときがあります。そんな時こそ、『異見』を言える経営参謀が必要なのです。最近、管理部門のトップはCFO(財務担当責任者)と称されることが多くなり、単なる金庫番ではなく、経営者の経営参謀となるべき人というイメージが一般化されてきました。管理部門は、会社全体の司令塔と認知されるようになってきたとも言えます」(73ページ)

安本さんが述べておられる、「『管理はカネを生まないが、カネがかかる』と考えている社長がいたら、明らかに経営者失格」という考え方は、これまで、多くの経営者に方が耳にしていると思います。しかし、昨年は、日本を代表する大きな会社が、何社も不祥事を起こしていたことが明るみになりました。そのような不祥事を起こした会社は、想像ですが、社内には社長を始めとして「管理はカネを生まないが、カネがかかる」と考える幹部たちが多く、管理部門よりも大きなイニシアティブを持って、管理部門を押し切ってしまってきたのではないかと思います。とはいえ、私は、利益を優先したいと考える経営者の方の気持ちも理解できなくはありません。

上場会社の例で言えば、最近は、アクティビスト(物言う株主)のイニシアティブが大きくなってきており、業績が悪化すると、株主総会などで厳しく追及されるからです。でも、見かけ上の業績を維持するために不祥事を起こしてしまえば、さらに業績を下げてしまいます。意味合いとしては異なりますが、先日、日本航空が衝突事故を起こした結果、約150億円の営業損失が計上されると見込まれると報道されました。しかし、同社に対しては、乗客367人全員を18分で脱出させたことへの称賛が大きく、評価は高まっています。

これは、「90秒ルール」に基づく避難訓練を、年に1回、実施していたことが奏功したと報道されています。このような訓練は、「カネを生まない」活動ですが、もし、このような訓練を会社がなおざりにしていた結果、事故が起きた時に犠牲者を出してしまっていたら、さらに業績を下げてしまうことになっていたことでしょう。このように、最近は、製品・商品そのものの評価よりも、それを製造・販売している会社に対するレピュテーション(風評)の方が重要な要素になりつつあります。このような観点からは、管理部門の重要性は、近年は、ますます高まりつつあると、私は考えています。

2024/1/8 No.2581