鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

エンパワーメントと権限委譲

[要旨]

組織を活性化する手法に、エンパワーメントと権限委譲があります。前者は、部下が自己成長し、さらに力を発揮できるような環境づくりやサポートが成功の鍵となります。一方、後者は、意思決定の迅速化や管理者不足の解消を目指します。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、部下の人事評価については、できるだけ、事実や数字で部下と議論することが大切であり、こうすることで、部下は、会社のミッションに基づいた活動ができるよう能力を高めることができるので、会社の効率的な事業活動に資することになるということを説明しました。

これに続いて、岩田さんは、エンパワーメントと権限委譲について述べておられます。「エンパワーメントは、もともと、20世紀にアメリカで起きた公民権運動や女性運動などで使用されるようになった言葉です。部下に裁量を与え、自己効力感を高めることで、自分で考え、行動する人材を育てることを目指すものです。エンパワーメントの目的は、組織のパフォーマンスを最大化することであり、部下が自己成長し、さらに力を発揮できるような環境づくりや、サポートが成功の鍵となります。

エンパワーメントは、個人やチームが自分たちの仕事に対して責任を持ち、自分たちの決定権やアクションに対して自信を持つことを意味します。この概念は、従業員のモチベーション、自己効力感、自律性を高めることに重点を置いています。エンパワーメントは、組織の文化や価値観、リーダーシップのスタイルなどによって、その程度が形成されます。エンパワーメントとは、その課題通り、人々に力を与えるのです。例えば、(岩田さんが日産に勤務していた時の)私の上司のように、『お前が失敗しても、日産は潰れないから、思いっ切りやってこい!』と。

権限委譲は、上級者やリーダーが特定のタスクや責任を、部下や他のメンバーに移譲する行為を指します。このプロセスは、タスクの完了に必要な資源や情報、そして適切な権限を持つ人に、それを与えることを含むことがあります。権限移譲の目的は、組織の効率性や柔軟性を高めること、そして、リーダーやマネージャーが、他の重要な業務に集中できるようにすることです。しかし、適切なタイミングでの報連相は、きちんと求めなくてはなりません。いわゆる『丸投げ』とは違います。

また、自分の権限以上に権限委譲してはいけません。自分が責任を取れる範囲までの権限を委譲しなくてはなりません。エンパワーメントは、従業員の自己効力感や自律性を向上させることに焦点を当てています。一方、権限委譲は、リーダーが特定のタスクや責任を部下に委譲する具体的な行為を指します。エンパワーメントは、部下が自己成長し、さらに力を発揮できるような環境づくりやサポートが成功の鍵となります。権限委譲は、意思決定の迅速化や管理者不足の解消を目指します」(312ページ)

エンパワーメントと権限委譲は、厳密には異なりますが、前者は個人に与える効果や影響に焦点を当てているものであり、後者は組織に与える効果や影響に焦点を当てているもので、根っこの部分では同じものであると、私は考えています。そして、どちらも、個人や組織によい影響を当てるので、経営者は、両者に積極的に取り組むべきものと言えます。しかし、単純に、部下の権限を拡大すればよいのかというと、必ずしもそうとは限りません。

例えば、高級ホテルのリッツカールトンの従業員は、「1日2,000ドルの決裁権」が与えられている、すなわち、エンパワーメントが行われていることで有名ですが、もし、従業員が闇雲に1日2,000ドルを使ってしまえば、ホテルは利益を得ることができなくなります。(現実には、1日2,000ドルを使ってもよいと言われていても、従業員の方たちは、それを使う機会を見つけることも難しいと思います)そこで、リッツカールトンでは、まず、クレドを制定し、そして、従業員にそれを十分に理解するための研修を受けさせてから、エンパワーメントを行っています。

こうすることで、1日2,000ドルの決裁権限が活きてくるわけです。もちろん、リッツカールトン以外の会社が、同社に倣って、従業員に1日2,000ドルの決裁権限を与えるというようなことをする必要はないと思いますが、エンパワーメントや権限委譲がうまく機能するためには、単に権限を与えるだけでは奏功しないので、きちんと従業員の育成をする必要があるということです。この育成も、一朝一夕にはできないものですが、VUCAの時代に適した組織づくりのためには、不可欠な活動であることには間違いありません。

2024/4/28 No.2692