鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ルールを決めることがリーダーの役割

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、ルールがあると窮屈さを感じると考える人がいますが、ルールがあることで、組織の構成員は具体的にどう行動すればよいのかが明確になり、ストレスを感じなくなるということです。そして、そのルールを決めることがリーダーの大切な役割であるということです。


[本文]

人材派遣会社のジェイコム(現ライクスタッフィング)の元取締役営業副本部長で、現在は株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「リーダーの仮面-『いちプレーヤー』から『マネジャー』に頭を切り替える思考法」を拝読しました。同書で、安藤さんは、まず、ルールを決めることが、リーダーの重要な役割だということを述べておられます。「『ルールを守れ』と言われると、まるで監獄にでも閉じ込められるような反応を示す人がいます。

しかし、ルールを守る側の人にとって、適切なルールがあるほうが楽なはずです。たとえば、夏休みの宿題を思い出してください。『なんでもいいから興味のあることを自由に研究して発表しましょう』『画用紙1枚に好きなものを描きましょう』このような課題を与えられたことがないでしょうか。とうでしょう。とてもストレスを感じたはずです。

では、次のような課題に変えればどうでしょう。『好きな生き物を1種類選び、研究して発表してください』『最初に画用紙の真ん中に大きな丸を描いてください、そこから連想したものを自由に描いてください』それぞれ、『生き物』、『大きな丸』というルールを追加するだけで、かなりストレスは軽減されるはずです。リーダーがやることとして、もっとも大事なのが、この『ルールを決める』ということです。いま、外で道を歩いていて、交通ルールにストレスを感じている人はいないでしょう。たくさんのルールがあるけれと、車はスムーズに走れている。逆に交通ルールがなかったら、道路事情はめちゃくちゃになってしまいます。

(このように)組織を運営する上で、必ずルールが必要になります。それを現場レベルで決めるのが、リーダーの役割です。ただ、ルールを守るとき、もしくは守らせるとき、そこに個人的な感情を加えてしまうと問題が起こります。『あの人は目標を達成しているから遅刻してもいい』『出世したから、あいさつしなくてもいい』『あいつは気に食わないから厳しく注意してもいい』『中途で入ってきた人だから、前の職場のやり方でもいい』

このように例外をつくってしまうと、チームや組織は非常に脆くなります。『急いでいるから赤信号でも走っていいと思ったんです』そんな車を1台でも許してしまうと、道路は一気に混乱します。会社も同じです。『あの人は許されているのに、なぜ自分はダメなのか』と言い出す人が現れると、組織はぐちゃぐちゃになります。そもそも、『上司』、『部下』などの役割そのものが、ルールの産物です。ルール上の関係なのですから、それを運営するのにルールが必要なのは当然のことです。

別に、上司のほうが人間的に偉いわけではありません。会社というもの自体、1人の力では達成できないような社会への大きな目的を達成するための『機能』にすぎません。ルール上の関係なのだから、ルールで運営するというのが正しいだけです。そこに感情が入り込んでしまうと、『ルール上の関係』という意識が薄れでしまいます。リーダーは、個人的な感情で動くのではなく、組織の人間として仮面をかぶり、ルールを守らせないといけないのです」(63ページ)

ルールについては、肯定的な意見と、否定的な意見があると思いますが、安藤さんが指すルールとは、「会議の5分前に集合する」、「日報は17時までに提出する」などの基本的なルールのことのようであり、このようなルールであれば、これを守るべきということについて否定的に考える人はあまりいないと思います。そして、私は、ルールそのものよりも、ルールを明文化することに重要性があると思います。というのは、会社や社会には、不文律というものがありますが、不文律を守ることで不都合なことが起きたときは、その人自身に責任があります。

一方、明文化したルールでは、そのルールを守って不都合なことが起きたときは、その人の責任ではありません。ここで、「ルールは責任逃れのためにあるのか」という批判が起きるかもしれませんが、ある意味、ルールは責任逃れのためにあると思っています。もちろん、「責任逃れ」という言葉はネガティブなイメージがありますので、これを言い換えれば、責任の所在を明らかにするためにあるということです。例えば、あるメーカーで、「15時までに受注のあった商品は、当日、出荷する」というルールがあったとします。

そして、この会社に16時に受注があり、当日中に出荷して欲しいという要望も受けたので、その依頼を断ったところ、その顧客から苦情を受けたとします。この場合、当日の出荷を断った従業員は、ルールに従ったのであり、責任はありません。でも、もし、「15時までに受注のあった商品は、当日、出荷する」というルールがなかったとき、16時の受注では当日中の出荷が間に合いそうにないと判断して断ることになるかもしれません。

その結果、苦情を受けたとき、その苦情の責任は当日中の出荷を断るという判断をした従業員が負わなければならなくなります。もちろん、15時以降の受注に対しても当日出荷をするための努力をする余地がないのかという疑問もありますが、もし、15時以降の受注に対しても当日出荷をした結果、残業をすることになってしまうと、その残業をすることになった責任も、出荷を判断した従業員が負わなければならなくなります。

ここで、どういう判断が適切かという問題もありますが、どのタイミングで当日出荷を締め切るのかが明確になっていないと、従業員の方は仕事をやりにくくなります。また、従業員によって判断が分かれることも、組織的な活動の妨げになります。もちろん、ルールがあることによる弊害はありますが、ルールがあることによる利点の方が大きいと、私は考えています。だからこそ、安藤さんは、ルールを決めることがリーダーの重要な役割であるとご指摘しておられるのでしょう。

2025/6/26 No.3116