[要旨]
北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、WEBマーケティング業界では、ほとんどの情報がデータ化されているため、従業員が日常的に触れる大半の情報は形式知であることから、暗黙知に慣れておらず、理解が苦手な人も多いので、木下さんは、共通言語化によって、暗黙知を形式知化して伝えるようにした結果、社内の知識レベルが一気に向上したそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の、木下勝寿さんのご著書、「チームX-ストーリーで学ぶ1年で業績を13倍にしたチームのつくり方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんによれば、本来7割の段階までの裹づけを取るサポート的存在であるベき数字が、あたかも10割まで判断できる万能な判断基準かのように考えてしまうことを数字万能病といい、このようにならないためにも、数字は有能だが万能ではないと考え、仮説と違う結果が出た場合は数字自体を疑う能力が求められているということについて説明しました。
これに続いて、木下さんは、暗黙知を共通言語によって形式知にすることで、会社内の知識レベルが向上したということについて述べておられます。「『暗黙知』とは、個人の経験やカンに基づいたノウハウやスキルだ。社内でもなかなか言語化されず、共有できない職人技の知識や情報である。一方、『形式知』とは、数値、文章、図解により、誰が見ても同じ認識ができるマニュアル化された知識・情報だ。
WEBマーケティングの世界では、ほとんどの情報がデータ化されているため、日常的に触れる大半の情報は形式知だ。そのため、この業界の人は『暗黙知』に慣れておらず、暗黙知の理解が苦手な人も多い。形式知をベースにしていると、わかりやすく現場で使える情報がとんどんインプットされるので、新人でも一気にベテランに追いつける。
しかし、そこからの差別化やスキルアップは、暗黙知による微妙な違いをマスターしていかなければならない。だが、形式知偏重の成功体験を積んだ人はなかなかこれができない。WEBマーケティング業界全体のスキルが低迷している背景には、この部分も大きい。形式知だけで生きてきた人は、暗黙知の存在すら知らない。こちらから暗黙知を伝えようとしても、すぐに粗い形式知に置き換えて理解してしまう。すると微妙なニュアンスがそがれ、正確に伝わりにくくなるのだ。
試行錯誤の末、私は『暗黙知を暗黙知として伝える』のではなく、『暗黙知を形式知化』して伝える方法を編み出した。それが『共通言語化』だったのだ。多くの人が理解できない暗黙知を『共通言語化』して形式知化すると、社内の知識レベルが一気に上がる。共通言語化がうまくいくと、組織のスキルアップにつながる。これは大げさではない。当社では、特に『エモーションリレー』、『フィールド情報』という共通言語化により、劇的にクリエイティプディレクションチームのスキルアップが図れた」(303ページ)
「暗黙知」ということばは、ハンガリーの化学者のマイケル・ポランニーが、1967年に出版した「暗黙知の次元」で知られるようになったようです。このポランニーの指す暗黙知とは、自転車の乗り方のように、言葉で説明することが難しい知識のようです。その後、日本の経営学者の野中幾次郎が、1996年に出版した「知識創造企業」で提唱したナレッジ・マネジメントで、暗黙知という言葉が再定義されました。
そして、野中博士の指す暗黙知ですが、やや複雑な考え方であり、短い文章で説明することは困難であることから、ここでは、木下さんがご説明しておられるように、組織内に蓄えられた非言語のノウハウやコツと理解していただき、もし、もっと深く学びたいという方は、野中博士のご著書をお読みいただきたいと思います。話を本題に戻すと、木下さんが実践したように、暗黙知を形式知にする、すなわち、言語化されていないノウハウを言語化することによって、会社内にノウハウが共有されるので、事業活動が効率的になったり、従業員のスキルが向上するということは、容易に理解できると思います。
しかし、多くの中小企業では、経営者は会社内の情報を比較的多く持っていることかあら、情報が少ない部下たちのために、暗黙知を形式知にすることの優先委は低い、または、必要性を感じないようです。しかし、経営者が困っていないから暗黙知を形式知にしないでよいと考えず、事業活動の効率性を高めたり、従業員のスキルを高めたりするために、暗黙知を形式知にすることに積極的に取り組むことが望ましいと、私は考えています。
2025/6/24 No.3114