鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

会計を理解せずに真の経営者になれない

[要旨]

稲盛和夫さんは、経営者にとって、会計は重要だと説いておられます。それは、経営者は飛行機の機長のような役割を担っており、事業を適切に運営するためには、機長がコックピットに示される数値を読み取り、飛行機を安定させるように、経営者も会計データで事業の状況を適切に把握し、適切な改善策を実践する必要があるからです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「稲盛和夫の実学-経営と会計」を読んで、私が気づいたことについて述べます。(ご参考→  )前回、「値決めは経営」について説明しましたが、それに続いて、稲盛さんは、「経営者は、会計がわからなければ、真の経営者になれない」と述べておられます。

「もし、経営を飛行機の操縦に例えるならば、会計データは、経営のコックピットにある計器盤にあらわれる数字に相当する。計器は経営者たる機長に、刻々と変わる機体の高度、姿勢、方向を、正確、かつ、即時に示すことができなくてはならない。そのような計器盤がなければ、今、どこを飛んでいるのかわからないわけだから、まともな操縦などできるはずがない。だから、会計というものは、経営の結果を後から追いかけるためだけのものであってはならない。

いかに正確な決算処理がなされたとしても、遅すぎては何の手も打てなくなる。会計データは、現在の経営状態を、シンプルに、また、リアルタイムで伝えるものでなければ、経営者にとっては、何の意味もないのである。その証拠に、急速に発展している中小企業が、突然、経営破綻を起こすことがある。会社の実態を即座に伝える会計システムが整備されておらず、ドンブリ勘定となっているための経営判断を誤り、最終的に資金繰に行き詰ってしまうのである」(36ページ)

稲盛さんは、この本を書いてから約11年後の2010年に、奇しくも日本航空の経営再建に携わる訳ですが、飛行機の操縦の経験がない稲盛さんであっても、航空会社の「操縦」は極めて卓越していたということだと思います。また、会計データは経営者にとって経営判断に不可欠なものであるということは、これも、多くの経営者の方が理解することだと思うのですが、会計データを活用する会社は、実態として、あまり多くないようです。

その理由として考えられることは、稲盛さんがご指摘しておられるように、「会社の実態を即座に伝える会計システムが整備されておらず、ドンブリ勘定となっているため」なのだと思います。会計システムが整備されていない中小企業は、私もたくさん見ていますが、そうなってしまう原因は、経営者の方が会社を設立するとき、事業だけに関心が高く、会計システムについてはあまり関心がないということが原因だと思います。さらに指摘すれば、経理規定も作成されていないことが多く、その結果、会計記録が不正確になってしまうということも珍しくありません。

これについて、どうすればよいのかというと、つまるところ、稲盛さんのご指摘しておられるとおり、「経営者は、会計がわからなければ、真の経営者になれない」ということを、経営者の方が認識するしかないのだと思います。会社を設立して事業を起こそうとする方の多くは、自分の身に付けている技能などを活用して事業を営もうとしているわけですが、その事業に関する会計データを集めることをしなかったり、集めたとしても、それを読み取ることができなければ、事業活動を競争力の高いものとすることができないということは言うまでもありません。

これについては、繰り返しになりますが、会社の経営者は、飛行機の機長の役割を担う立場にあるということを、理解する必要があるのだと思います。さらに、もうひとつ付言すると、稲盛さんは、「会計というものは、経営の結果を後から追いかけるためだけのものであってはならない」とご指摘しておられます。これは、経営者は、事業の成果を示す財務会計だけでなく、将来に対して行なう経営判断のためのデータを提供する、管理会計を活用する必要があるということだと思います。

2022/12/7 No.2184