鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

月次決算は締日から10日以内につくる

[要旨]

稲盛和夫さんは、京セラを立ち上げたときから、翌月10日までに月次決算を作成し、事業活動の改善に活用することで、会社を拡大してきたそうです。この活動は、40年後に会社の売上高が7,000億円になっても継続している大切な活動であると、稲盛さんは考えているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィ」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、京セラの経費の極小化を進めるための手法として、経費の項目を細かく分けて管理するため、例えば、かつては、電気代は、工場全体でしか把握で来ませんでしたが、原材料部門、成形部門、焼成部門などに電気メーターを取り付けて、部門ごとに把握できるようにし、正確、かつ、具体的な改善策を打ち出すことができるようにしたということを説明しました。

これに続いて、稲盛さんは、京セラでは、翌月10日までに月次決算書を完成せることで、迅速、かつ、適切な管理を行ってきたということを説明しておられます。「前月の経営資料を見て、それをもとに、今月の経営をしていくためには、売上も、経費も、月末できっちりと締め、実績結果は、少なくとも翌月に入ってから1週間以内には出せるようにしたいものです。いくら遅くなっても、せいぜい、10日以内のことでしょう。仮に、前月の結果が出るのに、10日かかるとすると、先月はこうだったから、今月はこういう手を打たなければならないと思っても、アクションをとるのに10日も遅れてしまうことになります。

そうならないためにも、毎日切っておられるはずの売上伝票を、1か月ごとに集計できるようにしておくことです。社内に経理部門を持っておられない場合でも、経理事務所と、『この月次決算は、何日までに仕上げてほしい』という取り決めをした上で、売上伝票を1か月分、まとめて持っていくようにすれば済みます。これは、発生する経費、人件費、また、口座振替で引き落とされるものも含めて、それを全部計上して経理事務所に渡せば、すぐに集計してくれます。

そういう準備をしておけば、少なくとも10日以内には、間違いのない月次決算が出てくるはずです。ところが、以前は、塾生の企業でも、10日以内に月次決算が出てこないところがほとんどでした。(注:『塾生』とは、盛和塾の塾生のことと思われます)それは、翌月の経営に、その資料を活用するということが有効だとわかっていても、それをすぐに作成するのはたいへんな労力を要するという理由からだと思いますが、京セラは、設立以来、ずっと、その姿勢を貫いてきました。

会社をつくってから今日まで40年間、年間7,000億円という売上規模になっても、それをきっちりと守れるシステムがあるのです。実際に、現在でも、京セラでは、前月の決算書を使って、今月の経営を進めるというやり方を行っています。前月の損益計算書を見ると、『先月は、ここで経費がグッと増えている、そのためにこんなに利益が減った』ということが、一目でわかるので、今月は、この経費を節約すればいい、というように、収益率を改善するための手を、すぐに打つことができるからです」(491ページ)

翌月10日までに月次決算書をつくるという管理方法については、もう、説明する必要はないと思います。何より、稲盛さんが実践して京セラの事業を拡大してきたわけですから、間違いはないでしょう。さらに、会社によっては負担を感じる場合もあるかもしれませんが、会計取引はどの会社でも行っているわけですから、10日間で1か月分を集計することは、難易度が高いものではありません。

それでも、月次決算を事業の改善に活用していない会社が多いというのは、月次決算を10日間で作成することが大変というよりも、月次決算を見て改善策を考え、それを直ちに実践するという、管理活動に関心がない経営者が多いからではないかと、私は感じています。これをありていに述べれば、日々、改善に努めながら事業活動に臨むのではなく、成行的にきままに活動したいと考えているからとも言えます。繰り返しになりますが、月次決算を10日間で作成するということは、単なる作業に過ぎません。したがって、それを実践するかどうかというのは、経営者の能力の問題ではなく、事業活動に臨む経営者の姿勢の問題なのではないかと、私は考えています。

2023/11/21 No.2533