[要旨]
稲盛和夫さんは、京セラを立ち上げてから、「売上を極大に、経費を極小に」という方針で事業活動に臨んでいきましたが、その後、時間当たり採算制度、すなわち、1人1時間当たりの付加価値額を重要な指標として管理するようにしたそうです。このことによって、各従業員は自身の給料以上の付加価値を生み出しているかを意識するようになり、また、売上規模が拡大しても、税引前利益率を維持することができるようになったそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィー」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、稲盛さんは、京セラを立ち上げたものの、当初は、経理のことはあまり理解できなかったので、「経営というのは、売上を大きくして、使う経費を少なくする、その差がもうけ」と単純化して理解し、活動をその2点に絞って実践し、創業以来、税引前利益率を10%以上に維持してきたということを説明しました。これに続いて、稲盛さんは、「売上を極大に、経費を極小に」という考え方から、アメーバ経営というシステムのコンセプトが芽生えたということについてご説明しておられます。
「『売上を極大に、経費を極小に』という経営を続けながら、会社をつくって数年経ったころ、『時間当たり採算制度』という考え方、つまり、『アメーバ経営』という経営管理システムのコンセプトが芽生えました。売上から原材料などの諸経費を引いた残りが、いわゆる付加価値です。その付加価値を、残業代なども含めた社員の全労働時間で割ると、1時間当たり、いくらの付加価値をつくり上げたのかがわかります。京セラでは、これを、『時間当たり』と呼び、その数字を指標として経営を行なうのが、アメーバ経営のシステムです。
全従業員の平均給与を働く時間で割れば、1時間当たりの平均給与が出ます。その1時間当たりの給与、例えば、それを1,000円とするなら、社員が1時間に1,000円の給与をもらって働き、いくらの付加価値を生み出しているのかを見る。つまり、自分の労働を通じて、いくらの付加価値をつくり出すことができるかということを考えるのです。その付加価値が高いほど、会社により多くの貢献をしているということになります。もし、給料と同じ価値しか生み出していないとなると、プラスマイナスゼロで、会社には役立っていないことになるわけです。
企業として社会的な貢献をしたり、または株主に配当などで報いていこうと思えば、従業員は会社が払う人件費よりもはるかに高い価値を生み出していかなければなりません。アメーバ経営は、『1時間当たりいくらの付加価値を生んでいるか』ということによって、それを見ていくわけです。ですから、京セラでは、『私の部署は、これだけもうかった』というような言い方をしないで、『私の部署は、1時間当たり、何千円の付加価値を生んだ』と表現しています。これが『時間当たり』という言葉になって定着し、その時間当たりをベースとして、アメーバ経営は構築されてきたのです」(482ページ)
「時間当たり採算制度」が、なぜ「アメーバ経営」なのかという疑問をお持ちになる方もいると思いますが、それは別の機会に説明したいと思います。話しを戻すと、京セラが高い税引前利益率を維持することができたのは、この「時間当たり採算」を意識してきたからだと思います。というのは、会社の業績は、利益額がどれくらいかで評価する方は多いと思います。
しかし、利益額が増えたとしても、売上の増加率よりも利益の増加率が低い場合、時間当たり採算は悪化したことになります。そこで、稲盛さんは、会社全体としての利益額は増加したとしても、1人が生み出す付加価値が増えなければ、評価できないと考え、1人1時間当たりの付加価値を重視したのでしょう。この、1人1時間当たりの付加価値額を増やすことに注力していれば、売上規模が増加しても、税引前利益率も維持されるということは、ある意味、当然です。
ただ、稲盛さんが1人1時間あたりの付加価値額にこだわったのは、「売上を極大に、経費を極小に」という活動を、各従業員やアメーバ(小集団)が意識して行うことを狙ったのではないかと思います。したがって、京セラの税引前利益率の高さは、各従業員やアメーバが、「売上を極大に、経費を極小に」という方針に基づく活動を積み上げた結果だと言えるでしょう。このことは、会社の方針を、漠然と全体に伝えるよりも、各々の従業員が実践すべきことであると伝えることによって、より着実に遂行されるということでもあると思います。
2023/11/19 No.2531