鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

入るを量って出ずるを制する

[要旨]

稲盛和夫さんは、京セラを立ち上げたものの、当初は、経理のことはあまり理解できなかったそうです。そこで、「経営というのは、売上を大きくして、使う経費を少なくする、その差がもうけ」と単純化し、その2点に絞って実践し、創業以来、税引前利益率を10%以上に維持してきたそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィー」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、稲盛さんは、京セラを立ち上げたころから、「新しい技術開発を行うのが技術屋の仕事ではなく、どうやって生産コストを下げるかを考えることこそ、技術屋の仕事だ」と、従業員の方に伝えてきたそうですが、これは、「象牙の塔にこもったような仕事」だけをしていると、適切な値決めをすることができなくなり、事業がうまくいかなるからと考えていたからということを説明しました。

これに続いて、稲盛さんは、京セラが売上が7,000億円になった一方で、税引前利益率が十数パーセントを維持できている要因についてご説明しておられます。「私が会社をつくって、最初に遭遇した問題は、『経理には、損益計算書貸借対照表というものがあって、経営者は、それを理解しなければいけない』ということでした。(中略)経理の人から、いろいろと説明を受けるのですが、損益計算書を読むことすら非常に難しいことのように思えました。

そこで、私は、経営というものを難しく考えるのではなく、たとえ難しいことでも、なるべく単純に理解しようと考えました。そして、経理の人と、『経営というのは、売上を大きくして、使う経費を少なくする、その差がもうけ、ということでいいんですね』『早く言えば、そうです』(中略)というようなやりとりをしていました。これが、私の経営の原点であり、今でも経営の大原則となっているわけです。創業して初年度の売り上げは、2,600万円で、税引前利益が300万円ほどでした。

初年度から1割以上の税引前利益が出たわけですが、その後も税引前利益率はどんどん増えて、最高で40%程度までいったこともありました。(中略)創業40年にして、売上は、連結ベースで7,000億円を超え、その売上規模で、税引前利益率が十数パーセントというのは、企業としては恐らく希有なことだろうと思います。売上が何千億円にもなると、数パーセントの利益が出ればいいほうだというのが普通でしょう。

この高収益を続けてこられたのも、『売上を極大に、経費を極小に』という考え方でやってきたからなのです。経理に暗かったものですから、単純に理解するしかなかった、このことがかえっていい結果を生み、初年度から10%を超える利益を出すことができたわけです。その後も売上はできるだけ増やし、経費はなるべく少なくするという考え方を貫いてきたおかげで、高収益を維持することができました」(480ページ)

稲盛さんは、京セラが高収益の会社になった理由について、「売上を極大に、経費を極小にという考え方でやってきたから」とご説明しておられます。しかし、京セラ以外の会社も、京セラと同様に考えて事業活動をしていると思いますので、この言葉を文字通りに理解することは適切ではないと思います。では、どのように理解すればよいのかというと、稲盛さんは、「値決めは経営」について、利益を最大化するための製品の値決めや、それを実現するための活動を、経営者が責任をもって実践することと、ご説明しておられます。

したがって、「売上を極大に、経費を極小に」という考え方は、「値決めは経営」を言い換えたものだと思います。そして、利益を最大化するための活動について、売上を極大にすることと、経費を極小にすることの、2つに絞り込むことで実現しようということなのでしょう。さらに、その結果が、税引前利益率が10%を上回るものにしなければ、事業を続けることができないと考えてきた点が、他社との違いなのだと思います。

ですから、私は、稲盛さんのいう「値決めは経営」は、「税引前利益率10%以上を実現するための値決めを、経営者が責任をもって実践すること」という意味であり、それを実現する方法は、売上を極大にすることと、経費を極小にすることの、2つに絞り込んで行うべきであるということを指しているのだと思います。そして、この稲盛さんの考え方は、確かに単純なのですが、それを実践することは、決して容易ではないということも事実だと思います。ただ、複雑なことではなく、単純なことを実践することが求められていると考えることの方が、実践することを躊躇することなく、とにかく実践してみようという気持ちになりやすいのではないかと思います。

2023/11/18 No.2530