鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ガラス張り経営は経営者の勇気を強める

[要旨]

京セラでは、財務情報を社内で公開し、経営者が利益を独占していないこと、経営者が交際費を使って公私混同をしていないことが分かるようにしています。こうすることで、経営者は後ろめたさはなくなり、勇気をもって経営にあたることができるようになり、リーダーシップが高まります。


[本文]

京セラ創業者の稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィー」を拝読しました。同書で、稲盛さんは、京セラを「ガラス張りで経営する」ことにした理由について述べておられます。「私が、『ガラス張りで経営する』ということを始めたのには、理由があります。それは、会社の内容を全員に公開して、自分たちのアメーバ(会社の中の独立採算で運営する小集団)の利益はいくらで、その内容はどうなっているのかを、知ってもらうためです。

そのために、1時間当たりどれだけの付加価値を生んだかという指数、つまり、『時間当たり』という数字を社内で公開しています。なぜなら、とかく従業員は、『経営者はわらわれ従業員をこき使って、何かいい目を見ているのではないか、また、利益を独り占めしているのではないか』というふうに思いがちですから、そのような偏見を取り除きたかったのです。当社では、交際費も予算で認められているわけではなく、どうしても交際費が必要なときは、その都度申請をしなければなりません。社長といえども、こういう所用で接待費が要るので、稟議書をで認めて欲しい、という稟議申請が必要です。

交際費そのものも一円単位まで開示し、会社は非常に透明な状態で経営されています。えてして経営者には、交際費など、本当は少しくらい自由になった方が経営もしやすい、という思いがあります。しかし、そういう思いが少しでもあると、経営者としての迫力がなくなるのです。つまり、従業員に対する後ろめたさというものが、自分の心の中に少しでもあるために、迫力がなくなります。経営には、リーダーが持つリーダーシップが非常に大事ですが、そのためには、リーダー自身に、『自分はいつも公明正大だ』と言えるだけの迫力が要ります。

『会社は、インチキなこと、不正なことはしていません。私も、決まった給料で生活しています』と言い切れるところに迫力は生じるし、その公明正大さが、経営者自身を強め、経営者としての勇気をわき立たせるのです。私は、勇気のない経営者が、一番つまらないと思います。その勇気のもとは、『いかに公明正大な仕事をしているか』ということです。一般的には、経営者として自由になるお金が少しくらいあってもいいではないか、また、自分は経営のためにこれだけ苦労しているのだから、少しはいい目にあってもいいではないかと、ついつい、思いがちです。しかし、私は、それで失う勇気、迫力に比べれば、後ろめたさがなく、従業員をグイグイと引っ張っていく迫力、自信、勇気といったものを持つ方が、はるかに得策だと思います」(430ページ)

稲盛さんは、利益を経営者が独占していないこと、交際費などで公私混同をしていないことを実践し、それをガラス張り経営によって社内に周知することで、経営者のリーダーシップが強まるとご指摘しておられます。これについて、私は、中小企業は、できるだけ稲盛さんのご指摘のようにすることを目指すことが望ましいと考えています。ただ、同族会社(≒オーナー会社)の場合、現実的には、100%、社内の情報を従業員に公開することは難しいところもあるので、必ずしも、稲盛さんのいう通りにすべきとは考えていません。ただ、従業員の方から、経営者が公私混同していると思われないように工夫することは望ましいことに変わりはありません。

そして、このような姿勢は、銀行からも評価されます。それは、感覚的に理解していただけると思いますが、銀行が評価するポイントは、透明性が高いことよりも、社内の財務情報が迅速に把握できる体制になっていることでしょう。そして、多くの中小企業では、透明性が高くないというよりも、財務情報を迅速に把握できる仕組みを構築していないため、結果として、財務情報が不透明になるのだと思います。したがって、社内の財務情報の迅速な把握は、自社の事業改善のための情報を得たり、銀行からの評価を高めたりするだけでなく、従業員からの信頼を得、士気を向上させるためにも重要と言えます。

2023/11/8 No.2520