鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

常に原価を意識しなければならない

[要旨]

稲盛和夫さんは、経営者は、常に原価意識をもって事業活動に臨まなければならないと述べておられます。これは、いろいろな場面で、その一瞬一瞬で原価意識を持って物事を考えることができるか、それとも、ただ漠然と見ているだけなのかによって、経営には大きな違いが出てくるという考えによるものです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィ」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、稲盛さんは、目標を達成するためには、すべての役員や従業員が、目標を共有し、それを頭の中に入れて、日々、活動することが大切であるということを説明しました。これに続いて、稲盛さんは、経営者は常に採算意識を持つことが大切であると述べておられます。

「『日々採算を高めていこう』と、私は幹部社員はもちろんのこと、全社員に強く訴え続けてきました。この『採算意識』とは、『原価意識』ということです。つまり、仕事をする以上は、すべてに対し、原価意識を持って仕事をしなさいと、言っているわけです。『採算を合わせる』といえば、即、『利益を得る』という意味にとられがちですが、そうではありません。それは、常に『原価を考える』ということであって、このことが採算を向上させる鍵になるのです。

仕事をしていく中で、コスト、つまり、原価はどうなっているのかを考えずに、経営がうまくいくということはないのです。例えば、ホテルのレストランで食事をしているとしましょう。レストランの中は、閑散としていて、何人ものウェイトレス、ウェイターが、手持ちぶたさにそこかしこに立っている。見渡せば、数少ないお客様は、1,000円から1,500円のカレーライス程度のものを食べているようだ。私など、そういうときは、いつも従業員の人件費、レストランの1日の売上などを、パッパッと頭の中で計算して、『ああ、これじゃ採算は合わないな』などと考えてしまいます。

自分が手がけている仕事はもとより、いろいろな場面で、その一瞬一瞬で原価意識を持って、物事を考えることができるか、それとも、ただ漠然と見ているだけなのか、それによって、経営には大きな違いが出てきます。経営者たるもの、日常を、ただ漠然と過ごしているようではいけません。いつなんどきでも、原価を意識していなければならないのです」(528ページ)

私は、この稲盛さんの考え方は、すべての場合に当てはまるとは限らないと考えています。例えば、化粧品製造業、美容業、やアパレルなど、粗利益率が高い業種では、原価管理の重要性はあまり高くないと、私は考えています。しかし、多くの事業では、稲盛さんのご指摘しておられるような、原価意識を持つことは、重要性が高いと言えます。とはいえ、「経営者は、常に原価を意識しなければならない」という考え方は当たり前と考える方も多いと思います。

ところが、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、原価を意識している経営者はそれほど多くないようです。それは、原価を意識しないというよりも、会計のしくみを、あまり理解していないことから、結果として、どんぶり勘定になってしまっているということが実態のようです。これは、稲盛さんも述べておられましたたが、会社の事業活動の結果として、税引前利益10%は確保しなければ、あまり意味はないわけですが、原価を意識していない経営者は、製品を買ってもらうことを最優先し、不採算の取引をしてしまいがちです。

確かに、現在は、価格競争は避けることができないことも多いと思いますが、もし、経営者の方が、会計に詳しく、高い原価意識を持っていれば、不用意に不採算の取引をしてしまったり、もし、価格競争を避けることができないのであれば、なるべく採算をえるための工夫などをしたりするということはできると思います。すなわち、競争が激しい時代だからこそ、より、原価管理が重要であり、そこで、経営者の方も、「数字」に強くなる必要性は高まっていると言えるでしょう。

2023/11/25 No.2537