鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

流通業は粗利率が重要

[要旨]

稲盛和夫さんは、流通業の商品の価格は、粗利率が30%以上となるようにすることが重要と考えているそうです。それは、販売費及び一般管理費比率が約20%であるため、税引前利益を10%にするには、粗利率は30%以上にする必要があるからだそうです。しかし、このことをよく認識せず、粗利率が20%未満の価格で商品を販売する経営者もいることから、注意が必要ということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィー」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、稲盛さんによれば、京セラでは、原価+利益=売値という、原価主義は採らないことにしており、その理由は、売値を原価+利益より高くしたとしても、顧客がそれを喜んで購入する価格、すなわち、市場が認める価値で販売することが妥当と言えるからとということを説明しました。これに続いて、稲盛さんは、流通業の会社が値決めをする場合、商品の粗利を適切に確保することが大切だと述べておられます。

「ある品物を仕入れて売る場合、同じ品物なら、同業他社より少しでも安くしなければ売れませんから、定価から5~10%くらい引いて売ろうと考えます。ところが、そうやって売った場合、粗利はいったいいくら残るのか、また、最低でもどのくらいの粗利が要るのか、ということを考えなければなりません。例えば、100円で商品を仕入れてきたとします。他社は、それを130円で売っている。ならば、うちは10円安くして、120円で売ろう、いや、115円ならもっと売れるかもしれないという具合に値決めを行う経営者の方がいます。

確かに、その値段なら、売れはするけれども、経営はうまくいかずに火の車になる。これは、経営者に、『どのくらいの粗利があれば会社を回していけるのか』という知識が欠けているのです。同業他社よりも安ければ売れる、それだけの感覚で値決めを行って失敗しているわけです。(中略)小売業では、一般に、粗利は30%なければ駄目だと言われているそうです。ですから、カメラや電化製品などの安売り店でも、商品を売値の30%引きの値段で仕入れていると思います。

つまり、広告宣伝費、販管費金利負担、人件費等々、すべての経費を考えれば、売上の20%くらいの経費はかかってしまう、ならば、10%弱の税引前利益を確保するには、30%の粗利がどうしても要る、こういうことを、みんな、知っているわけです。ところが、素人経営者だと、『仕入れて売るだけなら、20%も粗利があれば結構』と言ってみたり、また、そこへ、5%の値引きをして売って、結局、15%の粗利しか取れず、『こんなにがんばったのにうまくいかない』と、汲々としている。それは、値決めが間違っているのです。どのくらいマージンが要るのかが分かっていなかった結果なのです」(465ページ)

この、稲盛さんの、「10%弱の税引前利益を確保するには、30%の粗利がどうしても要る」というご指摘は、ほとんどの方がご理解されると思います。ところが、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、これも稲盛さんがご指摘しておられるように、粗利が20%以下になる価格で商品を販売している会社は少なくないと感じています。その要因として、私が考えているものは、経営者の方は、商品が売れないと不安になるので、粗利が減ってでも販売しようとする心理が働いているのだと考えています。冷静に考えれば、稲盛さんのご指摘の通り、粗利が20%を下回れば赤字になるので、粗利が20%未満で商品を販売すればするほど赤字を増やしてしまいます。

でも、商品が売れないと、不安を感じるため、粗利が20%未満の価格でも販売をしてしまうのだと思います。実を言うと、私も、フリーランスとして開業したころは、開業したのに受注がないことに不安を感じ、2時間で2万円のセミナー講師を受注したことがあります。でも、後になってみれば、これは完全に赤字です。また、私にセミナーを斡旋した会社も、開業して間もないコンサルタントは、講師謝金が少なくても受注するという傾向を知っていたようで、あえて私のような新米コンサルタントに発注していたと思われます。それが分かってから、私は、不採算の仕事は受注しないようにしています。

話しを戻して、粗利が20%未満でも販売してしまうことが起きる理由は、その会社の経営者は、自社の損益計算書が頭に入っていないからだと、私は考えています。例えば、A社の粗利益率(売上総利益率)は20%、販売費及び一般管理費比率は25%であるとします。このA社の場合、粗利率30%の価格で商品を販売していれば、営業利益率は5%(=粗利益率30-販売費及び一般管理費比率25%)となります。しかし、粗利率20%の価格で商品を販売していれば、営業利益率は▲5%(=粗利益率20-販売費及び一般管理費比率25%)となり、すなわち、営業赤字を計上することになります。

これは単純な加減算でわかることなのですが、意外と自社の損益計算書を頭に入れている経営者は少なくなく、これも稲盛さんがご指摘しておられるように、「仕入れて売るだけなら、20%も粗利があれば結構」と安易に考えて、利益が得られない価格で販売してしまうようです。もちろん、経営者の方が、自社の損益計算書を頭にいれているだけでは、解決になりませんが、少なくとも、利益率の低い価格では販売を躊躇したり、どうしても価格を下げなければならないと判断するのであれば、販売費及び一般管理費を見直すなどの、より進んだ行動につながるでしょう。

私は、日頃から、会社経営において管理活動は重要とお伝えしていますが、それは、何らかの改善活動をする前に、管理活動が行われていなければ、どんな改善活動が適切なのかを、判断することができないからです。でも、管理活動を行う経営者は意外と少なく、成行的な活動に終始して、非効率な経営をしている会社は少なくないようです。

2023/11/15 No.2527