[要旨]
岩田松雄さんが社長を務めていた会社では、迅速な月次決算の提出とともに、年間の見通しも求めていました。こうすることで、計画と実績の乖離を分析し、その差を埋めるための活動も行われることになり、VUCAの時代にあっても、より確実な成長をすることができるようになります。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、月次決算を迅速に行うことは、的確な経営判断を行うためには欠かすことができないので、新商品開発や営業活動などの直接的に収益に結びつく活動と同様に、会計取引の迅速なデータ収集活動も収益に結び付く活動と位置付けて取り組むことが求められるということについて説明しました。
これに続いて、岩田さんは、年間の見通しを立てることも重要ということをご説明しておられます。「(続いて)迅速な月次決算の速報とともに、月次で年間の着地見通しも出すように、(各事業部門に)お願いしました。一般的に、期首に年間の予算を立て、普通経営会議などで、毎月、予算と実績の差異分析をして行きます。それと同時に、残りの月の数字も見直してもらいます。予算・実績・見通しの3つを報告してもらうのです。
各部門予算を立てた時とは、日々、状況は変化します。思ったより新製品が好調であるとか、出店時期がずれそうなどと、期首に予想できなかったことが起こります。あるいは、単に、月ズレが起こり、今月のマイナス分は翌月に取り返せることもあります。(私は)経営者として、年間の売り上げや利益を、親会社や株主にコミットしています。今のままでいけば、年間の売り上げ、利益はどのくらいになるのか、それを常にチェックする必要があります。
見通しの精度そのもについては、そんなに気にしていませんでした。(中略)ただ、常に先を予測する癖をつけてもらいたかったのです。実際、予測精度を上げるためには、しっかり、現場の最新の情報を捉え、ポジティブ要因とネガティブ要因の両方を意識し、計画を着実に実行しなければなりません。つまり、それは、マネジメント力そのものを上げていくことにほかなりません。だから、『予測力こそが企業の経営力だ』と、私は思っています」(92ページ)
岩田さんは、「予測力が経営力」という表現をしていますが、私は、それは、計画を達成するための活動のことを指しているのだと思います。すなわち、PDCAそのものが「経営」だと思います。岩田さんは、直接は言及していませんが、迅速に過去の実績を把握し、それと計画との差異分析を行い、それを基に年間見通しを立てれば、自ずと差異を埋めるための活動が行われることになるでしょう。
これに対し、VUCAの時代は見通しが困難なのだから、事業計画を立てることは、あまり意味はないと考える経営者の方もいるようです。しかし、そのような成行的な活動では、ますます、成長から遠ざかってしまいまうでしょう。VUCAの時代だからこそ、成長を見込んだ事業計画を立て、それを実践する中で迅速な業況の把握を行い、乖離が生じたら素早く対策を考案し、それを実践していくことの方が、VUCAの時代に適した活動です。そして、そういった計画的な活動を実行する能力こそが経営力だと言えるでしょう。
2023/6/1 No.2360