鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

優良企業は未来をコントロールできる

[要旨]

岩田松雄さんが、日産に勤務していたとき、自動車部品会社の経営者の方から、日産の3か月先の部品の発注予測は200~300%ずれる一方、トヨタは20~30%しかずれないということを教えてもらったそうです。そして、トヨタのように予測精度が高ければ、コストを少なくすることができるので、優良企業は予測精度も高いということを実感したそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、迅速な月次決算の作成とともに、年間の見通しも行うことで、計画と実績の乖離を分析し、その差を埋めるための活動も行われることになり、VUCAの時代にあっても、より確実な成長をすることができるようになるということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、よいマネジメントが実践できている会社は、予測精度が高いということについてご説明しておられます。「私は、これまで、取引先も含めて、たくさんの企業を見てきましたが、いいマネジメントができている企業は、予測精度が高いという共通項があると感じています。今日、明日のことしかわからないという企業に、やはり、エクセレントカンパニーはない。

予測力の高い企業は、先々まで見据えたいろいろな取り組みができているのです。場合によっては、未来そのものをコントロールしてしまうぐらいの力を持っています。将来を見通す一番良い方法は、自分自身で未来を作ってしまうことです。もう30年近く前になりますが、私が日産に勤めていたとき、自動車部品会社の経営者から、『日産さんは、3か月先の部品の発注予測が200~300%ずれるのに、トヨタさんは20~30%の範囲内のズレで収まる』と言われたことがあります。

これだけ予測数値の精度に差があると、安全在庫の持ち方に、とても大きな差が出てしまいます。もちろん、トヨタの方が少なくて済み、それは、当然、コストにも跳ね返ってきてしまいます。トヨタは自社の販売最前線の情報を製造現場まで迅速に届け、かつ、場合によっては、販売力によって、その計画台数に合わせて売り込んでしまうのだと思います。予測能力は、企業の実力を判断する、とても有力な指標です」(94ページ)

トヨタの強みは、製品である自動車の性能だけでなく、カンバン方式で在庫量を最小限にしているからであるということは有名です。したがって、同社の生産計画の精度が高いというのは、カンバン方式の副産物とも言えるでしょう。そして、もちろん、将来の予測力が高ければ、業績もよくなるということも、言及するまでもありません。会社の事例が変わりますが、三重県伊勢市にある、土産物店等を営む、の有限会社ゑびやでは、需要予測システムを開発し、それを活用した結果、売上を4倍に増やし、従業員の平均給与も5万円増やしただけでなく、有給休暇消化率も80%に上昇するという大変革を実現しています。

このように、VUCAの時代だからこそ、将来の見通しの精度が高いことそのものが、会社の強みになるわけです。そして、繰り返しになりますが、見通しを高めるためには、会社のさまざまな会計データを取得できなければなりません。これについては、労力が大きいと感じる中小企業経営者の方も多いと思いますが、それによって得られる効果は、前述のように、労力以上に大きいものとなります。

2023/6/2 No.2361