[要旨]
CSR(企業の社会的責任)は、利益を得る活動のほかに、さらに、会社が果たさなければならないものと考えている経営者が少なくありませんが、現在は、CSRを実践しなければ、利益を得ることができない時代になっています。したがって、利益を得る活動と、CSRを果たすことは、同じ活動と考えなければなりません。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、岩田さんがスターバックスのCEOのときは、従業員の方にとって、スターバックスで働くこと自体が報酬になるような会社を目指していたということについて説明しました。これに関し、岩田さんは、企業の社会的責任について説明しておられます。
「ザ・ボディショップの社長時代、こんなことがありました。日本を代表する企業の経営者が集まるセミナーで、講演させてもらったときのことです。講演のテーマは、『CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)』でした。ザ・ボディショップは、創業者のアニータ・ロディックが、化粧品事業を通じて、社会変革を目指し、そのコンセプトが社会に受け容れられ、急成長した世界的な企業です。(中略)
社員は、皆、アニータの大ファンでした。そうした企業姿勢に共感し、支持をしてくれるお客様が全世界に増え、ザ・ボディショップは急成長を遂げて、代表的なグローバルブランドになって行ったのでした。いち主婦のアニータが、化粧品事業を通じて、世の中を変えて行ったこと、ザ・ボディショップの企業活動そのものが、社会貢献であり、決して利益や株価を追っているのではないということについて語りました。ところが、講演後、いきなり、日本を代表する大企業のCSR担当副社長から、質問が飛んできました。
『今、岩田さんが話されたことは、全部、建前でしょう?(中略)企業は利益を出すことが最大の目的ですよね』とおっしゃったのです。私は、『いえいえ、今お話したように、我々、ザ・ボディショップは、社会変革を目指しています。その考え方が、お客様に受け入れられて、世界中で愛されているブランドになっているのです』と答えるのが、精一杯でした」(43ページ)
このCSRは、確かに、誤解している経営者は少なくないと思います。まず、誤解のひとつは、事業活動では、利益を得るほかに、さらに、CSRも果たさなければならないと考える方が多いということです。しかし、利益を得る活動とCSRは、別の活動ではなく、現在は、CSRを果たさなければ、利益を得ることはできなくなっています。これは、逆に言えば、CSRを果たすことによって、利益を得ることもできるということです。
私は、現在は、CSRという言葉があるものの、この考え方は、古く江戸時代から日本に伝わる、「売り手よし、買い手よし、世間よし」、すなわち「三方よし」という考え方と、ほぼ同じだと考えています。したがって、今、改めてCSRを強く意識するまでもなく、きちんと事業活動に臨んでいれさえすれば、それは、CSRを実践していることになると私は考えています。もうひとつの誤解は、CSRのために、何か高尚な経営理念を持たなければならないと考えている経営者の方もいるということです。
例えば、「社会の役に立つ事業をしたい」と考えている方は少なくありません。でも、「社会の役に立たない事業」というものはあるのでしょうか?私は、事業活動すべてが社会の役にたつものだと考えています。もし、そうでなければ、利益を得ることはできません。もちろん、「自分さえよければそれでいい」というような、独り善がりの考えで事業に臨んでいれば、事業は、早晩、行き詰まるでしょう。でも、顧客のため、そして、従業員とその家族のためと考えながら事業に臨んでいれば、多くの利害関係者から支持され、利益も自ずとついてくるでしょう。
岩田さんがスターバックスのCEOとして、スターバックスで働くこと自体が報酬になるような会社を目指したことは、従業員の満足度を高め、そのことによって利益を得ることを目指した活動と言えるでしょう。繰り返しになりますが、利益を得る活動と、CSRを果たすことは、同じことであり、利益を得なければ、それは、CSRを果たしていないということと考えるべきだと、私は考えています。
2023/5/27 No.2355