鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

内部通報制度と経営者の倫理感

[要旨]

2022年6月に施行予定の、改正公益通報者保護法では、通報を処理する従事者に罰則付きの守秘義務を課すことになりますが、それだけでは、完全に内部通報が機能することになるとは限らないので、内部通報は事業活動を健全化するものと考え、経営者が強い倫理観を持って、制度の維持に注力する必要があります。


[本文]

日本経済新聞の報道によれば、「消費者庁は、2022年6月までに施行が予定されている改正公益通報者保護法施行に関し、8月中にも企業向けの指針を公表する」ようです。具体的な内容は、「不正の早期発見につながる通報を促すため、従業員が300人を超える企業に、通報窓口の設置を義務づけるほか、通報を処理する『従事者』に、罰則付きの守秘義務を課す」ことになるようです。

同紙も、「多くの検査員は、通報すると報復されると思った」(無資格者による完成検査をしていた日産自動車)、「言うだけ無駄」(融資書類の改ざんが横行していたスルガ銀行)と記事で指摘していますが、これまでの公益通報の仕組みは機能不全に陥っていると感じられる面がありました。そういう面では、今回の、同法の改正は妥当だと思います。

しかし、私は、法律を厳しくしたから安心できるとは考えていません。「通報を処理する従事者に罰則を課す」こととしても、その従業者が上司から圧力をかけられたときに、完全に抵抗できないときもあると思います。例えば、日本郵便で、内部通報をした人の犯人探しが行われ、1人は降格され、2人が休職に追い込まれたという事件が起きたことが、今年4月に明らかになりました。

しかし、前述の、日産自動車スルガ銀行など例からも分かるように、内部通報は、会社の不正を防ぐ重要な仕組みです。もし、これが機能不全になれば、会社が社会的信用を失い、大きなダメージを受けることになります。すなわち、内部通報を機能不全にすることは、経営者にとっては、自らの首を絞めることになります。

もちろん、すべての内部通報が妥当であるとは限らず、私怨で、内部通報を悪用する例もあると思いますが、原則は、内部通報を機能させることが、事業活動を健全なもにすることであることに間違いないでしょう。そして、前述のように、その維持は、法律では限界があるわけですから、最終的には、「内部通報制度は、会社を強くするための制度」という認識のもと、経営者が、強い倫理観をもって機能の維持に注力する必要があると私は考えています。

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