鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

経営とは雨の夜に飛行機を操縦すること

[要旨]

岩田松雄さんによれば、経営というのは、雨が降っている真夜中に飛行機を操縦しているようなものなので、飛行機が墜落しないよう、正しく「計器」を見ることができるようにしておかなければならないということです。具体的には、経理規定の作成、適切な会計システムの導入、会計取引を入力したりそれを加工できる人材の育成や配置などを行わなければなりません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、会社のミッションを浸透させるには、ミッションと人事評価をつなげることが必要ということを説明しました。これに続いて、岩田さんは、VUCAの時代だからこそ、会計情報が重要であるということについて、説明しておられます。

「経営というのは、雨が降っている真夜中に飛行機を操縦しているようなものです。真っ暗な中、一寸先は闇なのです。VUCAの時代と言われ、世の中の変化を見通すのはそれくらい難しく、この先どうなっていくかは、誰にもわからないものです。パイロットとして頼りにできるのは、目の前にたくさん並んでいる計器です。できるだけ正確に素早く、計器からいろいろな情報を読み取れることが大切です。今、機体がどれくらいの高度まで上昇しているのか、どのくらいのスピードで飛んでいるか、さらには、どれくらいの向かい風や追い風が吹いているのか、雷の様子はどうか、あと燃料はどれだけ残っているのか……。

目的地に向かって、計器を注意深く見ながら、今までの経験と地図を頼りに操縦していくのが経営なのです。衝突のリスクを下げるために、もうちょっと高度を上げてみようか、目標の到着時間を見据えてスピードを上げてみようか、ちょっと地上の様子を見るために低空飛行してみようかなどという判断も、『計器の正しい表示』があってこそ、可能になるのです」(90ページ)

適切な経営判断を行うためには、経営者は迅速に会計データを取得することが大切ということは、以前から指摘されていることです。そして、岩田さんは、さらに、VUCAの時代だからこそ、会計データを見ることが重要と述べておられます。さらに、このことは多くの方が認識していることであるにもかかわらず、会計データの迅速な取得ができる体制を整えてから、起業をする会社は少ないようです。

私も、実際に、このような例を見ていますが、起業してから業績がなかなか軌道に乗らないときに、銀行から融資の支援を受けたいと考えているにもかかわらず、大雑把な会計データしか取得することができないために、ポテンシャルがどれくらいあるかを示すことができず、支援を受けられないということは珍しくありません。

こうなってしまうのは、起業する経営者の方は、自社の事業は高い確率で成功すると考えてしまっているため、会計データを取得する体制の整備は、ほとんど行っていないからのようです。しかし、岩田さんも述べておられるように、年を追って経営環境は不透明さを増しているわけですから、「計器」を見ることができるようにしていなければ、目的地に到達することはできなくなっていると考えることが妥当でしょう。

繰り返しになりますが、これから起業するというのは、雨の日に夜間飛行をすることと同じという前提で、適切に「計器」を備え付けなければなりません。具体的には、中小会計指針、または、中小会計要領に基づいた経理規定の作成、税務申告だけでなく、経営者に有用な会計データも提供できる会計システムの導入、会計データの入力や加工などができる人材の育成と配置などです。起業のときに、そこまで行う余裕がないと感じる方もいると思いますが、これをしなければ、雨が降っている真夜中を、計器なしに飛行機を飛ばすことになるのです。

2023/5/30 No.2358