[要旨]
岩田松雄さんによれば、会社のミッションを浸透させるには、ミッションと人事評価をつなげることが必要ということです。例えば、誰を偉くするかしないかということは、経営者が従業員に対して発する最大のメッセージになります。もし、ミッションと異なる行動をしている人が評価されると、従業員は不満を感じ、また、ミッションに従った行動をしようとしなくなってしまいます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、スターバックスでは、経営者がミッションを明確にしているため、「コーヒーを通じて、人々に潤いと活力を提供する」という意識も持って従業員の方たちが働いているので、他のコーヒー店と接客が大きく違っているということを説明しました。
これに続いて、岩田さんは、会社内にミッションを浸透させる方法についてご説明しておられます。「ミッションを浸透させるために重要なことがあります。それは『ミッション』と『人事(評価)』をつなげることです。会社が社員に対して発する最大のメッセージは人事です。つまり、『誰を偉くするか、しないか』です。究極は、次の社長に誰を選ぶかということです。サラリーマンが居酒屋で話す内容の8割は人事の話です。『A部長は飛ばされた』とか、『B役員はきっと次期社長だ』とか、そういった人事の話をしています。
それだけ、皆の関心が高いのです。『やはりあの人が偉くなった』と納得できる人事をすれば、社員は安心して働くことができます。逆に、『なんであんなヤツが偉くなったのか』と不満が出るような人事をすれば、社員は不信に思います。例えば、会社の行動指針に、『和を持って尊し』と言っているのに、仲間の足を引っ張って数字を上げる人や、『お客様を大切に』と言っているのに、お客様を騙して実績を上げる人がいます。
このような人を偉くしたりすると、結局、なんだかんだ言っても数字を上げるヤツが偉くなるのだというメッセージになってしまいます。人事評価の中に、会社のミッションや行動指針の達成度を加味する必要があるのです。売り上げとか利益とかの定量的な数字は評価しやすいですが、会社のミッションや価値観のような定性的な評価をするためには、普段から上司が部下の言動に注意を払っておかなくてはなりません。当然、部下につけた定性評価に対して、説明責任が発生するからです」(59ページ)
この、岩田さんの言う、「ミッションと人事評価をつなげる」という施策は、多くの人が理解できるものの、中小企業では、あまり実践されていないようです。その理由はひとつだけではありませんが、最大の理由は、経営者にとって多くの労力がかかるからだと思います。その労力は、ひとつは評価制度をつくるための労力と、もうひとつは評価結果に対する説明責任を果たす労力があると思います。そして、さらには、人事評価にいくら労力をかけても、従業員の全員が納得できる評価は実現すること困難なのだから、労力をかけること自体にあまり意義を感じないという方もいるでしょう。
それでも、私は、「ミッションと人事評価をつなげる」ための活動は避けてはいけないと思っています。逆に、それをしなければ、定着率が低くなり、従業員数を維持するために、もっと多くの労力がかかるでしょう。また、人事の透明性を図る努力をしなければ、優秀な従業員が他社に移ってしまう可能性も高くなります。もちろん、私は、「ミッションと人事評価をつなげる」ための活動の実践は、経営者の方にとって、とてもたいへんなことだと思っています。でも、こういった、実践が難しい活動をしなければ、ライバルとの差をつけることが、いつまでたってもできるようにならないと思います。
2023/5/29 No.2357