鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

コオウンド経営

[要旨]

良品計画は、2021年に打ち出した中長期計画の中で、コオウンド経営の実践を掲げました。コオウンドとは、「社員が所有する会社」という意味ですが、社員が大株主となることで、「自分たちの会社」という意識が高まり、社員一人ひとりがオーナーシップを発揮するようになることが期待されています。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、日本でパワハラがなくならない理由は、経営者がマネジメントに関して学んでいないから、すなわち、自分自身の実体験だけを根拠に、『素』のまま部下をマネジメントしようとしてしまうからであり、一方、マネジメント教育が進んでいる米国では、経営者やリーダーは、その「役割」を遂行するために、「演じる」ことを学んでいるということを説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、組織風土を改善している会社の事例として、良品計画の事例を紹介しています。「良品計画は、『感じ良い暮らしと社会』の実現を企業理念として掲げ、国内外で1,000を超える『無印良品』、『MUJI』の店舗を運営している。2021年に、新たな中長期計画を打ち出し、2030年に、売上高3兆円、営業利益4,500億円、店舗数2,500店舗などのアグレッシブな目標を掲げた。その中のひとつの柱として掲げたのが、『コオウンド経営の実践』である。

『コオウンド』(co-owned)という言葉は耳慣れない人も多いと思うが、わかりやすくいえば、『社員が所有する会社』という意味である。社員が大株主となることで、『自分たちの会社』という意識が高まり、社員一人ひとりがオーナーシップを発揮するようになることが期待されている。(中略)社員は『従業員』であり『経営者』であり『株主』であるという、3つの役割を担うことになる。(中略)従来のような『会社VS社員』という構図ではなく、『会社=社員』という『新しい共同体』を目指しているのである」(89ページ)

かつての日本の株式会社は、法律上は株主で構成される株主総会が最高意思決定機関でした。でも、実際には、従業員が多くの意思決定に関わり、また、経営者も従業員から昇格する例がほとんどでした。そのため、株主総会は、従業員から昇格した経営者の提案した方針を、ただ後から追認するというだけの、形式的な機関に過ぎませんでした。その一方で、従業員は会社に雇われているというよりも、自分が支えているという自負もある、すなわち、帰属意識が強かったため、それが会社の業績を支えていたという面もありました。

ところが、バブル崩壊後は、年功序列や終身雇用といった、従業員の帰属意識を維持する仕組みが崩れてきたため、それが、遠藤さんの指摘するような、組織風土も崩れる要因になっているのだと思います。しかし、コオウンド経営では、従業員が株主でもあるため、実際に事業に関わっている従業員が、株主として意思決定に関わることができるので、従業員の帰属意識が高まる仕組みだと思います。とはいえ、私は、コオウンド経営の仕組みを採り入れれば、組織風土に関する課題がすべて解決するとは考えていませんが、組織風土を維持することに大きく資することに間違いはないでしょう。

2023/9/24 No.2475