鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

組織は『言えない化』に陥るのが普通

[要旨]

赤城乳業は、『何でも自由に言える会社』を目指し、自由闊達な組織風土を醸成して業績を高めています。具体的には、(1)『言える化』を実践する『場』の設営、(2)『言える化』を加速する『仕組み』の構築を実践しています。そして、経営者は、組織というのは、『言えない化』、『言わない化』に陥るのが普通であると認識し、これらの取り組みを実践しなければ、組織の硬直化を避けられなくなります。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、良品計画がコオウンド経営、すなわち、「社員が所有する会社」とすることで、社員一人ひとりがオーナーシップを発揮することを狙っているということについて説明しました。これに続いて、遠藤さんは、赤城乳業の、「言える化」の取り組みについてご紹介しておられます。

「日本で一番売れているアイスキャンディ『ガリガリ君』で知られる赤城乳業は、20代、30代の若手社員が大活躍する会社としても有名だ。ユニークな商品開発だけでなく、営業、生産、管理部門など、あらゆる部署で若手社員がノビノビと仕事をし、成果を生み出している。その背景にあるのは、『言える化』と呼ぶ独自の組織風土である。赤城乳業は、『何でも自由に言える会社』を目指して、自由闊達な組織風土を醸成してきたのである。(中略)

組織というのは、『言えない化』、『言わない化』に陥るのが普通である。上下間や部門間の垣根やしがらみが幾重にも重なり、いつの間にか官僚化、硬直化してしまう。何か言いたいことがあっても、口をつぐむ。たとえ意見が異なっていても、上司の機嫌を損ねたり、水を差したりするようなことは一切言わない。そして、次第に組織は活力を失っていく。それが組織の摂理である。だからこそ、それに抗うように、『言える化』の土壌を育まなければならないと、赤城乳業は考えているのである。具体的には、同社は、次のような2つの工夫を行っている。

(1)『言える化』を実践する『場』の設営:『場』の設営とは、社員が自由闊達に何でも言える『場』をしつらえることである。委員会やプロジェクトが『場』であり、そのリーダーは若手が抜擢されることが多い。また、面白いアイデアを持ち、やる気のある若手社員には、思い切って仕事を任せ、自由にやらせている。『言い出しっぺ』が得をすることを見せることで、ほかの若手社員にも刺激を与えている。(2)『言える化』を加速する『仕組み』の構築:『仕組み』の構築とは、『言える化』の実践を側面からサポートし、加速させるシステムをつくり上げることである。

『何でも言え』と言っておきながら、言ったことがマイナスの評価につながるのでは、社員は何も言わない。言った者がプラスに評価される制度や、若手社員の活躍を社内で積極的に共有するなど、『言える化』をドライブする仕組みが不可欠である。こうした仕組みに加えて大事なのは、役員や管理職層が、『聴ける化』を実践することである。『言える化』は、相手の意見に耳を傾ける『聴ける化』があってこそ成立する。井上会長は、相手が誰であっても、途中で相手の言葉を遮ることをしない。そうした経営者の姿勢こそが、良質な組織風土を醸成するのである」(91ページ)

赤城乳業では、「言える化」を実践することで業績を高めることを実践しているのですが、一方で、遠藤さんは、「組織というのは、『言えない化』、『言わない化』に陥るのが普通」と述べておられます。ですから、私は、「言える化」は、業績を高めるための働きかけではなく、組織が硬直化しないための働きかけだと考えるべきだと思っています。そして、「言える化」によって組織の硬直化が進行しないため、赤城乳業は業績を高めているのでしょう。さらに、最近、起きている会社の不祥事では、経営者の方が、そろって、「現場で起きていることが伝わってこなかった」と弁明しています。

このような言葉を聞くと、私は、「大企業の経営者なのに、組織は、『言えない化』に陥るのが普通と考えていないのか、そうなることを前提に、末端の情報を集める役割が自分にあることを認識していないのか」という憤りを感じます。話しを戻すと、私は、実は、経営者の方が「言える化」や「聴ける化」を実践するためには、相当の労力が必要だと感じています。恐らく、多くの経営者の方は、「つべこべ言わず、オレの言った通りに動けばいいのだ」と、心の中で思うことがあるのではないでしょうか?

でも、その言葉を飲み込んで、部下の提案を一方的に聞いて、仮に、その内容が自分の考えと違っていてもそれに賛同し、さらに背中を押す役割を貫かなければならないのです。しかし、これこそが、経営者の真の役割であると受け止められなければ、赤城乳業のような経営は実践できないのでしょう。これについては、経営者としてはつらい面があるかもしれませんが、赤城乳業が実践して成功している以上、経営者の方が、それを受け止めるかどうかしかないのではないでしょうか?

2023/9/25 No.2476