鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『伝える』ではなく『伝わる』が重要

[要旨]

経営コンサルタントの遠藤功さんによれば、組織風土が劣化する過程で、組織内のコミュニケーションが不足するとご指摘しておられます。すなわち、多くの経営者は「コミュニケーションとは、『伝える』ではなく、『伝わる』ことである」ということを認識できないでいるからのようです。したがって、経営者の方は、コミュニケーションの重要性を深く認識し、不足することのないよう、様々な働きかけを継続して実践することが求められています。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、かつての日本の会社では、「日本的経営の三種の神器」があったことから、組織のモチベーションが保たれ、会社が成長しましたが、かえってそのことが、日本の会社の経営者にマネジメントスキルを身につけることの必要性を感じさせなくなり、そのような「素人」の経営者が組織風土を劣化させ、業績に悪影響をもたらすことになったということについて説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、組織風土が劣化する過程において、組織内のコミュニケーションが不足するということを述べておられます。「組織風土が劣化する過程においては、組織内のコミュニケーションが決定的に不足する。上からは指示や命令といった、上意下達のコミュニケーションだけが行われ、下からは何も言えなくなる。確認したいことがあっても、ものが言えない空気が漂っているので、下は右往左往し、疑心暗鬼が生まれる。

コミュニケーション不足が原因で、上が求めていたように物事が進まなければ、上から叱責され、ますます何も言えなくなってしまう。まさに、『組織的コミュニケーション障害』が発生しているのだ。(中略)上の人間は、下に伝わっていないのに、伝えたつもりでいる。そして、下は伝わっていないのに、それを言えないし、言わない。そんな状況を放置しておいて、意思疎通ができるはずもない。コミュニケーションとは、『伝える』ではなく、『伝わる』であることを理解しなければ、組織風土の劣化は止められない」(81ページ)

組織論研究の第一人者のバーナードが、「組織の3要素は、コミュニケーション、貢献意欲、共通目的」と述べています。したがって、「コミュニケーションが不足すれば、組織風土が劣化する」という遠藤さんのご指摘は、正にその通りです。しかし、多くの経営者は、「コミュニケーションとは、『伝える』ではなく、『伝わる』ことである」とだけ考えてしまうのでしょう。会社内でのコミュニケーションが不足する理由は、このような経営者の方の認識不足だけとは限らないと思いますが、その大きな部分を占めているということに間違いはないと思います。では、どうすればコミュニケーション不足を避けることができるのかというと、それは頭の中で考えるほど容易ではないということも事実だと思います。

ただ、例を挙げると、中小企業ながらも、高い技術力によって、世界的な企業となっている、東京都立川市メトロールでは、1人の社員が年間を通じて全社員と1時間ずつ雑談をするという対話研修を行っています。このような働きかけと業績との間に直接的な因果関係はありませんが、コミュニケーション不足を解消することに大きく資する対応だと思います。もちろん、一朝一夕でコミュニケーション不足が解消されるわけではありませんが、このような、一見すると、遠回りのような対応が、現在は強く求められていると、私は考えています。

2023/9/22 No.2473