鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

経営者は役割を遂行するために演じる

[要旨]

経営コンサルタントの遠藤功さんによれば、日本でパワハラがなくならない理由は、経営者がマネジメントに関して学んでいないからだと指摘しています。そこで、自分自身の実体験だけを根拠に、『素』のまま部下をマネジメントしようとしてしまうようです。一方、マネジメント教育が進んでいる米国では、経営者やリーダーは、その「役割」を遂行するために、「演じる」ことを学ぶそうです。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、組織風土が劣化する過程で、組織内のコミュニケーションが不足するが、それは、経営者が、「コミュニケーションとは、『伝える』ではなく、『伝わる』ことである」と認識できないでいるからであり、それを防ぐためにも、経営者はコミュニケーションの確保に注力しなければならないということについて説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、組織風土が劣化する原因について、コミュニケーションの不足の他に、パワハラを挙げておられます。しかし、日本では、パワハラがなかなか減らないとご指摘しておられます。「なぜ、日本企業からパワハラは根絶されないのか?そのひとつの理由は、組織マネジメントに携わるリーダーたちが、何の勉強もせず、合理的、科学的な組織マネジメントができないからである。自分自身の実体験だけを根拠に、『素』のまま部下をマネジメントしようとする。自分は怒鳴られて育ったのだからと、当然のように部下を怒鳴りつけ、平気で人の心を傷つける。

マネジメント教育が進んでいる米国では、経営者やリーダーは、その『役割』を遂行するために、『演じる』ことを学ぶ。『リーダーらしい態度とは何か』、『部下を鼓舞するコミュニケーションはどのように行うべきか』などを、組織行動論や組織心理学をもとに、体系的に学ぶ。上の立場に立つ人ほど、自分自身を捨て、リーダーとして組織を最適化するために演じなくてはならない。パワハラ研修などでお茶を濁すのではなく、合理的な組織マネジメントができるリーダー教育こそが求められているのだ。風土劣化の最大の原因は、社長をはじめとする経営幹部の不用意な言動にあると言っても過言ではない。経営者が襟を正し、自らを変える努力をしなければ、ほかの施策をいくら講じようと成果は上がらない」(86ページ)

かつての日本の会社では、従業員が論功行賞で出世し、管理職にることは珍しくありませんが、管理職になれば、当然に部下をマネジメントする役割を求められます。しかし、論功行賞だけで管理職に昇進した従業員は、マネジメントについて学ぶ機会もなく、また、マネジメントされた経験もないことから、遠藤さんも述べておられるように、「自分は怒鳴られて育ったのだからと、当然のように部下を怒鳴りつけ、平気で人の心を傷つける」しかできなくなってしまうのでしょう。本旨からそれますが、日本では、ビジネスパーソンが、せっかく起業したにもかかわらず、その後、事業がうまく行かなくなるという例が、しばしば、見られます。

私は、これも、事業そのものについては専門性を持っているものの、マネジメントについては勉強せずに、起業してしまうことが原因ではないかと分析しています。話しを戻すと、遠藤さんは、「マネジメント教育が進んでいる米国では、経営者やリーダーは、その『役割』を遂行するために、『演じる』ことを学ぶ」と述べておられます。すなわち、マネジメントを担うことになれば、その役割を演じなければならないくらい、行動も変えなければならないということです。したがって、これから経営者やマネージャーに就こうとする人は、マネジメントを学ぶことは当然ですが、それだけでなく、その役割を「演じる」必要もあるということを、深く認識しなければならないと、私は考えています。

2023/9/23 No.2474