鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

仕組は真似できても風土は真似できない

[要旨]

松江市にある島根電工の社長の荒木恭司さんは、小口の顧客を対象とするビジネスモデルで成功しました。しかし、荒木さんは、他社が同じことをしようとしても、島根電工のようなよい組織風土がなければ、利益を出すことはできないと考えているそうです。すなわち、事業を成功させるためには、ビジネスモデルだけでなく、よい組織風土が必要になるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒木さんは、部下たちに対して、顧客を自分の大切な人と同じように接するよう指導しているそうですが、その理由は、顧客の95%は、不満を感じても口にせず、次からは、黙って他の会社に仕事を依頼してしまうので、そのようなことになってしまうことを防ぐために、丁寧に接することが求められるからということについて説明しました。

これに続いて、荒木さんは、顧客に満足してもらう要素として、会社の風土が重要であるということについて述べておられます。「小口のお客さまと対象とする、『おたすけ隊』のおビジネスモデルは成功を納めました。でも、『このやり方はもうかる』と、仕組みだけを導入しても、決して私たちのように、利益を出すことはできないでしょう。

仕組みをつくり、組織をつくり、制度をつくっても、結果は出てきません。何が違うのか。文化です。風土といってもいいでしょう。そういうものをつくらないと、形だけ真似しても、『仏つくって魂入れず』で、お客さまを引きつけることはできません。お客さまに、直接、接するのは社員です。その社員が自らの意志で、進んでお客さまが喜んでいただこうとする文化をつくらなければいけません。その文化は、一朝一夕でつくられるものではありません。

上司や先輩から伝わる目に見えない教え、職場全体を包む雰囲気、何をもってよしとし、何をもって否とするかという社内の常識。そのほか知らず知らずのうちに身についてしまう立ち居振る舞いや言葉づかいなど、すべてが会社の文化となり、風土となって、無意識のうちに影響を与えます。会社で働く人間は、好むと好まざるにかかわらず、その空気に染まっていきます。だからこそ、どんな文化を持つかが重要になってくるのです。島根電工グループが、お客さまに期待を超える感動を提供できるとしたら、その要因は、制度や仕組みにあるのではなく、感動を喜びとする社員たちがいる会社の風土にあります」(52ページ)

荒木さんが、「お客さまに、直接、接するのは社員」であり、「その社員が自らの意志で、進んでお客さまが喜んでいただこうとする文化をつくらなければいけない」という考え方は、ほとんどの方がご理解されると思います。ところで、荒木さんがご指摘するように、顧客の満足を得るために、まず、組織風土など、会社の内部環境への働きかけを行うことを、インターナルマーケティングといいます。

ちなみに、インターナルマーケティングは、サービス業のマーケティングのひとつで、その他に、会社と顧客との関係を強化する、エクスターナルマーケティングと、従業員と顧客の関係を強化する、インタラクティブマーケティングがあります。話しを戻すと、島根電工は、建設業からサービス業にドメインチェンジをしていることから、サービス業のマーケティングを実践していることは適切と言えます。しかしながら、これも荒木さんがご指摘しておられるとおり、よい組織風土をつくることは、一朝一夕に実現しませんし、また、そうとうの労力が必要です。

そこで、価格での競争をしようとしたり、部下に対して過酷なノルマを課したりしようとする経営者が少なくないのでしょう。でも、それらはその場しのぎの方法でしかなく、長続きしないでしょう。結局のところ、サービス業として商品の品質を高めるには、インターナルマーケティングを実践することは避けられません。そして、繰り返しになりますが、よい組織風土をつくることは、経営者として難易度の高い課題であることも確かです。しかし、それは、裏を返せば、経営者の能力が発揮でき、ライバルと大きく差をつけることができるということでもあると、私は考えています。

2024/3/2 No.2635